嫌われ少年は今日も妖の世で暮らす
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プロローグ
———貴方は知ってる?
この学園に伝わる"鬼神様"の噂。
昔、この国で戦争があったでしょう?
その時に"彼女"は裏切られて、殺されてしまったらしいの。
とあるタイミングで大きな怪我を負った"彼女"は、田舎の小さな村に行って、療養も兼ねて疎開してきた子供達を守っていたらしいのだけどね?
味方の兵士が、自分の命惜しさに子供達の居場所を伝えてしまったらしいの。
攻めてきた敵に対して"彼女"は戦うこともできず、そのまま……
戦場では"鬼神"と呼ばれて恐れられていたらしいのに。最期は呆気なかったみたい。
子供達もその後殺されてしまったと聞くわ。可哀想。
そんな"鬼神様"だけど……
どうやら、この学園に"出る"らしいのよ。
子供達を守れなかったことを悔いているのかしら?
代償の代わりに、なんでも願いを叶えてくれる。
そんな不思議なオマケ付きでね。
……そんなバカなことがあるか、ですって?
そう思うなら確かめてみては?
教えてあげるわ、“鬼神様”の噂。
———図書室のどこかにある隠し扉。その奥にたくさんの写真が飾られてる部屋があるの。その中に、兵隊さんの服を着た女の人が写っている写真があるから、それを探して。
見つけたら、そのすぐ側で、ある言葉を言うの。目を瞑ってね。
「『私には貴方が必要です』」
———次は、叶えてもらいたいお願い事を伝えるの。代償をとられてしまうけどね。
ああ、もう取り消しはできないわよ。
「僕を、殺してください」
———最後に、写真を刃物で刺す。
彼女の息の根を確実に止めるように。何十年も前、彼女の最期の時のように。
そうすれば“鬼神様”はやってくる———
薄暗い図書室の奥の部屋。
埃を被った額縁の前で、少年は固く目を瞑り、飾ってある写真にナイフを突き立てた。
何度も同じことを試した人がいるのか、写真とその周りの壁はボロボロだ。
少年は目を開けた。彼は目を瞑っていながらも、ちゃんと写真にナイフを刺すことができていた。
噂は完璧に再現できた。が、辺りに変化はない。
「……やっぱり、噂は嘘だったのかな」
溜息を吐いた。その時。
『なぜ、そう思う』
少年は急に聞こえてきた声に驚いて、飛び跳ねそうになった。
誰もいなかった。なんの気配もなかった。もしかして、もしかして、噂は本当で———
『君には私が視えないのか?そうだとしたら……少し残念だな』
「な……ほ、ほんとに……」
『なんだ、視えているのか。それなら、君は余程のせっかちだったみたいだな。覚えておこう』
肩の上あたりで切り揃えられた漆黒の髪。猫のような黄色く、鋭い目。軍服を纏った女———噂でいう"鬼神様"が、少し不機嫌そうな顔をして窓に腰をかけていた。
『少年が私を呼んだので間違いないな?』
呆気に取られながらも、少年は小さく頷いた。
彼は恐れた。当たり前である。目の前にいるのは死人なのだ。
本来交わることのないはずの、此岸と彼岸。今、この空間だけ、その境が歪んでいる。
"コチラ"の少年と、"アチラ"の妖が、存在している。
『名前は』
「……元宮です」
『そうか。よろしく頼む、元宮少年』
挨拶を交わし、妖はにこりと笑った。
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