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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第151話:神の再現

 
前書き
どうも、黒井です。

今回は軽い原作ブレイクがあります。 

 
 オペラハウスで3人の錬金術師と遭遇し、その撤退の最中彼女らが使役していると思しき巨大な蛇に追い詰められたガルドと朔也、あおいの3人。

 その3人の救援としてマリアと切歌、調の3人が彼女達用に調整されたLiNKERを使用してシンフォギアを纏い参戦した。

 この事は化学兵器プラントから逃げた管理者を追跡している颯人達の元へも届いた。

「化学兵器プラントは緒川さんに任せ、こちらは逃亡した管理者を追跡中……え? マリア達が?」
「「「ッ!?」」」
「何だって? 翼、マリア達がどうした?」

 弦十郎に現状の報告をしていた翼の顔色が変わった事と、彼女の口からマリアの名が出たことで何か異変が起こった事を奏達も察した。軽トラックの荷台に乗る透とクリス、響も表情を引き締める。
 因みに颯人は運転席に座り、先程のプラントで救出したステファンと言う少年を助手席に座らせナビゲーターとして同行させていた。

 翼の通信機に弦十郎からの言葉が届く。

『藤尭、友里、ガルドの救援の為、錬金術師とエンゲージ。改良型を投与して、戦闘に入っている』
「LiNKER……」
「元はアタシ用の奴をマリア達に合わせて調整した……」

 了子はシンフォギアと聖遺物、そしてLiNKERの専門家。彼女の手にかかれば、元は奏用に調整されていたLiNKERをマリア達に合わせたものにする事など造作もない。
 これが奏用の物をそのまま使用したのであれば問題だろうが、個人に合わせた再調整を施された物であればマリア達も十分に実戦に出られるコンディションを手に入れられる…………筈だった。

 しかし…………

「マリア達の話では、再調整したLiNKERも完全に馴染んでいるとは言い難いと。であれば、あまり長くは……!」
「急いで戻らなきゃッ!」
「馬鹿ッ! こっちも任務のど真ん中、仲間を信じるんだッ!」
「それに向こうにはガルドも居る。最悪の場合は逃げる事も出来るだろうから安心しろ」

 尤もそれは結界などで対策が練られていなければの話。だが奏は敢えてその可能性を理解しつつ、それを口にする事はしなかった。今必要なのはあちらを信頼する為の材料であり、不安を掻き立てる要素は必要ない。

 通信機越しに装者達の話が発令所にも届く。その話を聞いて、コンソールの前に座る了子の表情が険しくなった。

「情けない話ね。天才だ何だと言われながら、痒い所に手が届かないなんて……」

 これまでにも何度かLiNKERの改良に手を出してきた了子ではあるが、その進捗は芳しいとは言えなかった。奏は特に気にした様子がないが、マリア達はウェル博士が作り出したLiNKERと比較しあちらの方が使い勝手が良かったと評価している。その事を悔しく思いながらも、日々研究に研究を重ねているがどうしても上手くいかない。まるで見えない壁にぶつかっているかのように、LiNKERの改良が遅々として進まないのだ。
 その事を歯痒く思わずにはいられない。

 そんな了子に、弦十郎は励ます様に肩を叩いた。

「そう気に病むな。現状でも了子君のお陰で我々は戦えているんだ。完璧とは言えなくとも、君の事を力不足だ等と思う者はここには居ない」
「弦十郎君……ゴメン、ちょっとナーバスになってたみたい」
「気にするな。今は信じよう、仲間達を……」




「ガルドはともかくとして……2人共、大丈夫?」
「えぇ!」
「後は私達に……!」
「任せるデスッ!」

 ガルドと共に前に出るマリア達。3人のシンフォギア装者を、サンジェルマン達は岩場の上から見下ろす。

「出てきたか、シンフォギア」
「漸く会えたわね、パヴァリア光明結社! 今度は何を企んでいるのッ!」

 パヴァリア光明結社はフロンティア事変にてナスターシャ教授と接触を図っている。マリア達も知らぬ存在ではない、因縁の様な物があった。それもあってか、この戦いに掛ける意気込みが違う。

 そのマリアからの問いに対し、サンジェルマンは毅然とした態度で答えた。

「革命よ! 紡ぐべき人の歴史の奪還こそが、積年の本懐ッ!」

 サンジェルマンの宣言を合図に、巨大な蛇……ヨナルデパズトーリが動き出す。咆哮と共にマリア達を丸呑みにしようと大きく口を開けてきたのを、マリアが短剣で懐に入り素早く切り刻む。

 これがアルカノイズであれば容易く細切れにされていたのであろうが、あろうことか奴はまるで効いた様子を見せなかった。斬撃の威力を弾き返した様な光景に、マリアも僅かに動揺を隠せない。

「あぁっ!?」
「攻撃が効いてないデスッ!?」

 下で見ていた切歌達もその光景に驚愕するが、ヨナルデパズトーリがそのまま彼女らに襲い掛かって来たので切歌と調は朔也とあおいを抱えてその場を退避。ガルドは逆に前に出て、高出力の砲撃で迎え撃った。

「今度は足場が固いんでな……コイツでどうだ!」
〈キャモナ! シューティング! シェイクハンズ! ファイアー!〉

 炎属性の砲撃が食らい付こうと突撃してくるヨナルデパズトーリに直撃する。並大抵の敵であれば黒焦げどころか消し炭に出来るだろう一撃。しかし奴は、攻撃の軌道が逸れただけで体には傷一つ付いた様子がなかった。

「嘘だろっ!?」

 キャスターガンランスの砲撃は、ウィザーソードガンのガンモードとは比べ物にならない威力を持つ。その最大出力の砲撃を喰らっておきながら、無傷と言うのが信じられない。

 しかし彼らの抵抗はサンジェルマン達にとっても煩わしいものなのか、プレラーティがアルカノイズを追加で召喚し始めた。

「や~だ、ちょこまかしてる上に鬱陶しい!」
「だったらこれで動きを封じるワケダ」

 次々と姿を現すアルカノイズ達。ガルド達はそれを迎え撃ち、朔也とあおいを安全な場所に退避させた切歌と調の力も借りてその数を減らしていった。

「……ん!? あのデカ物は?」

 そこでガルドがある事に気付いた。巨大蛇、ヨナルデパズトーリの姿が何処にもない。あの巨体をどこに隠したのかとアルカノイズを吹き飛ばしながら周囲を見渡していると、突如マリアの足元が吹き飛びそこからヨナルデパズトーリが姿を現した。

「「「マリアッ!?」」」

 あのままではマリアが危険だと、ガルドと切歌、調の3人が大きく跳躍しマリアに食らい付こうとしているヨナルデパズトーリの顔に大技をお見舞いする。ガルドは砲撃、調は合体させたヨーヨー、そして切歌は何枚もの鎌を飛ばした。
 マリアの方も何もしない訳では無く、ギリギリで届かなかったヨナルデパズトーリの口が閉じた瞬間それを足場に大きく飛び退避。それと入れ替わる様に3人の攻撃が直撃し蛇の顔が爆炎に包まれる。

 その光景に下から見ていた朔也とあおいは勝利を確信した。

「決まった!」

 先程ガルド1人の攻撃では軌道を逸らすのが精一杯。だが逆に言えば彼1人で軌道が反らせるなら、3人の力が合わされば倒せない事は無い。そう思うのも当然であった。

「――――等と思っているワケダ」

 しかし、彼らの期待は裏切られる。煙が晴れた時、そこには全く堪えた様子もなく赤い目を彼らに向ける蛇の姿があった。

「効いてないッ!? ノイズと同じ、位相差なんとかデスかッ!」
「だとしたら、シンフォギアの攻撃で調律できたり魔法が効かないのはおかしいッ!」
「ダメージを減衰させているのなら、それを上回る一撃でッ!!」

 こちらの攻撃が効いていない事に、マリアは何らかの方法で受けるダメージを減衰させていると判断。その減衰が追い付かないレベルの攻撃をお見舞いしようと、何本もの短剣を取り出しそれを回転させ自信を中心に巨大な竜巻となって突撃した。

 刃の嵐により生み出される竜巻。連続して切り刻まれるこの攻撃なら、ダメージの減衰も間に合わないだろうと言う判断だ。

[TORNADO†IMPACT]

 ヨナルデパズトーリはマリアの生み出した竜巻を正面から受け止めようと食らい付くが、山をも削れそうな一撃を止めることは叶わず顎が外れた様に口を大きく開けながら体を弾き飛ばされる。
 そこで遂に耐久値の限界が来たかのように光に包まれるヨナルデパズトーリ。だが次の瞬間起こった事は、ガルド達の理解を超えていた。

 そのまま光と共に消えるかと思われた時、まるで写真か映写機のフィルムを並べた様にヨナルデパズトーリの姿が幾つも並んで浮かび上がる。

「あっ!?」
「あれは……!?」

 ガルド達が見ている前で、幾つも浮かび上がったヨナルデパズトーリの姿が重なり合い元の姿へと戻ってしまった。これには彼らも言葉を失う。
 それは朔也とあおいも同様で、2人は今目にした光景が信じられず目を見開く。

「再生ッ!?」
「いや、違う……これは……!?」

 訳が分からないと言う顔をする彼らに対し、サンジェルマン達は今起こった現象にとても満足そうな顔をした。

「無かった事になるダメージ♪」
「実験は成功したワケダ」
「不可逆である筈の摂理を覆す、埒外の現象。遂に錬金術が人智の到達点、神の力を完成させたわ」

 どういう原理かは分からないが、今ハッキリしている事は現時点であの蛇を無力化する事は不可能であると言う事。これでは戦っても無駄に消耗するだけだ。

 となれば、今できる事は1つ。

「三十六計が通じない相手には……!」

 再びマリアが何本もの短剣を取り出し、それを今度はサンジェルマン達に向け投擲する。飛んでくる短剣を、カリオストロが障壁で防いだ。

 この瞬間、彼女ら3人の錬金術師は僅かながら視界を塞がれる。その隙にマリアは朔也とあおいを含めた全員をガルドの傍に引き寄せた。

「今よ! ガルドの傍にッ!」
「! そっか!」
「ガルド、行ける?」
「何とかな!」
〈テレポート、プリーズ〉

 6人を同時に転移させるのは少し疲れるが、出来ない事ではない。マリアの攻撃でサンジェルマン達が足止めをされている間に、彼はその場の仲間全員を伴って姿を消した。

 一方サンジェルマンの方は、マリアの攻撃でカリオストロが頬に傷を負っていた。

「いった~い!? 顔に傷~!? ヤダも~!?」
「逃げられたワケダが……どうする?」
「まぁ良いわ。神の力の完成は確認できた、まずはそれで十分よ」

 そう言うとサンジェルマンはヨナルデパズトーリを出現させた時の様に光の珠にして引っ込めた。ここでの彼女達の仕事は、ガルド達と戦う事ではなかった。無用な戦いなら、避けるに越した事は無い。

「追跡は無用と言うワケダ」
「それより、”ティキ”の回収を急ぎましょう」




***




 ガルド達が何とかサンジェルマン達の追跡から逃れた頃、颯人達の方はこちらはこちらで窮地に陥っていた。

 ステファンの案内で颯人達は彼の村へと向かっていた。彼曰く、軍人たちが逃げ込むならきっとそこであると。
 だがそこに辿り着いた時彼らが見たのは、アルカノイズに取り囲まれている村人と1人の少女を取り押さえて人質にしている管理者と思しき男の姿だった。

「アルカノイズッ!?」
「野郎、人質とは……!?」
「ハッ! 分かってるだろうな? おかしな真似をしたら、こいつら全員……アルカノイズで分解してやる!」

 そう言う男の手には、アルカノイズをコントロールしているのだろう機械が握られている。あれを彼が持っている限り、この場の主導権は彼にある。
 これでは手出しができない。

「要求は簡単だ……俺を見逃せッ! さもないと出なくていい犠牲者が出るぞ?」

「卑劣な……!?」
「颯人、どうする?」

 こういう時、一番頼りになるのは颯人だ。事腹の探り合い、騙眩かし合いにおいては、彼は誰よりも優れている。

 奏に問われると、颯人は右手の人差し指を立てて軽く振り、両手を頭の高さまで上げながら前へと進んだ。

「え、ちょっ!? 颯人さんッ!?」
「何してんだよペテン師ッ!」
「奏、颯人さんは……」
「落ち着け。大丈夫、颯人を信じろ」

 奏達が見守る前で、颯人はゆっくりとだが村へと入り男達の方へ近づいていく。一見無防備に近付いてくる颯人に、しかし男は警戒してアルカノイズの制御装置を見せつけるようにしながら彼に止まるよう警告する。

「おい止まれッ!? 聞こえなかったのか、下手な真似したらこいつらがどうなるか……!?」
「んな何度も言われなくても分かってるよ。良いから落ち着けって。大体ホールドアップしてる俺に何が出来るってんだ?」

 確かに言われる通り、颯人は手に何も持っておらず両手を頭の高さに上げている。この状態で彼に何か出来るとは思えず、管理者の男は束の間判断を迷った。
 その心の隙を颯人は見逃さない。

「今の俺に出来る事なんて、この程度だぜ?」

 そう言った次の瞬間、颯人が少し手を動かすと爆竹が弾けるような音と共にスーツの袖から紙吹雪が飛び出し管理者の男の目を引いた。
 男の目が紙吹雪に向いた事を見ると、颯人はそいつの”後ろ”に目で合図を送る。

 すると男の背後からサッカーボールが飛び、男の後頭部に直撃し人質となっている少女から手を放した。

「ぐおっ!?」

 サッカーボールを蹴ったのはここまで颯人達を案内したステファンだった。彼は隙を見て管理者の後ろに回り込んでいたのだ。颯人はそれに気付くと、彼が動きやすいよう自分に注意を向けさせたのである。

 ステファンが人質を助ける為とは言え危険な行動をした瞬間、村人の中から彼の名を呼ぶ声が響いた。

「ステファンッ!?」
「え?」

 1人の女性がステファンの名を呼ぶ。それを聞いたクリスは聞き覚えのある声に一瞬意識をそちらに持っていかれたが、ステファンが人質となっていた少女を連れて逃げたことでそんな事に構っていられなくなる。

「奏、立花ッ!」
「はい!」
「おうっ!」

 装者達は素早くシンフォギアを纏い、村人を囲んでいるアルカノイズを次々始末。

 一方頭にサッカーボールを喰らった管理者は、流石に気絶はせず痛む頭を擦りながらも自分の邪魔をしたステファンに怒りの目を向けた。

「アイツ……!?」

 ステファンに目にもの見せてやると、アルカノイズの召喚結晶を取り出す管理者。しかしそのこめかみに、ウィザーソードガンの銃口が突き付けられる。

「おっとぉ? 俺が居る事を忘れて無いかアンタ?」
「いっ!?」
「俺の要求、分かるよな?」

 ただの人間にこの距離でどうこうするのは不可能な話。もし仮にこの管理者が武術の達人であればまだ抵抗できただろうが、私腹に肥えた腹を抱えるこの男はとてもそうは見えない。
 結果、男は力無く項垂れ大人しく颯人により拘束された。

「はぁ、はぁ、はぁ……あぁっ!?」

 人質だった少女を連れて逃げる事には成功したステファンだったが、その彼の前にアルカノイズが1体姿を現す。戦いのどさくさに紛れてはぐれた個体が偶然彼の前に出てきたのだろう。せっかくここまで逃げれたと思ったのに、目の前に出てきたアルカノイズに足を止めるステファンと少女。
 しかしそれも素早く彼の前に躍り出た透により事なきを得る。透はステファンの横を通り抜けると、そのままアルカノイズを切り刻み彼らの身を守った。

 透はアルカノイズを倒すと、まだ固まっているステファンに近付き彼の頭を軽くポンポンと叩いた。人質を助ける為に勇気を振り絞った事と、子供なのに危険を冒した事への軽い叱責の為だ。
 ステファンも何となくだが手放しに褒められている訳ではない事が分かるのか、それとも子供扱いされている事が恥ずかしいのか口を尖らせて押し黙る。

 ともあれこうして化学兵器プラントに関連する騒動は幕を閉じるのだった。









 しかし……彼ら、特に透とクリスにとっての苦難は……ここから始まるのだがその事をまだ彼らは知らなかった。 
 

 
後書き
と言う訳で第151話でした。

巨大蛇ことヨナルデパズトーリ。コイツの厄介さは本作でも健在です。流石に受けたダメージを無かった事にするとなると、魔法でも一朝一夕でどうにかするのは難しいでしょうし対策を練る為の時間は必要でしょう。

一方ステファンですが、本作では颯人達も居ると言う事で足を失う事無く済みました。ただし、クリスに受難が降りかかる事に変わりはありませんが。本作でクリスにどんな受難が降りかかるかは、次回以降をお待ちください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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