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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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七十一 正体

うみのイルカがその訃報を耳にした時、真っ先に思ったのは波風ナルのことだった。


自来也の師匠である蛙が火影邸にもたらした情報。
あの三忍のひとり──自来也の死。


『暁』との闘いで命辛々帰ってきたのはフカサクという名の蛙だけで、自来也の姿はなかった。
つまりはそういうことなのだろう。

その弟子であるナルをすぐさま気遣ったイルカは、彼女の姿を捜した。


ナルはすぐに見つけられた。夕闇に彼女の金色の髪はよく映える。
いつもまっすぐに前を向いて歩く彼女にはしては珍しく、力なく項垂れているその背中に心が締め付けられた。

五代目火影から自来也の死を聞いたらしいナルは本屋の前で立ち止まっている。
自来也の出版した本を手に取り、少し微笑んでいるように見えるその横顔が痛ましく、そして悲しげに見えた。

俯いたその後ろ姿に暫く見入っていたイルカだが、やがて意を決して手をあげる。


「よっナル。任務でも随分活躍してるみたいだな!」


わざと明るい声をあげる。イルカの声に気づいて、のろのろとナルは伏せていた顔をあげた。
いつも眩しいほどの光り輝いている青い瞳が暗く曇っているのを目の当たりにして、一瞬言葉に詰まったが、「里の皆も噂してるぞ」と言葉をなんとか紡ぐ。

「久しぶりに話でもしないか?一楽でも行くか?ラーメン!」


親指を立てるジェスチャー付きで陽気に誘う。
ナルの大好きな一楽のラーメンを引き合いに出して元気づけようとした。
ズルいとはわかっていたが、アカデミーの頃からずっとナルを見ていたイルカにとっても、今は彼女を励ます手段がこれしか思いつかなかった。


「……………やめとく」


長い沈黙の後、ナルは通り過ぎ様に断った。
いつも断ることのない彼女の力ない声に、イルカは上げていた親指をゆっくり下ろす。

まさか断られるとは思わなくて、暫しじっと佇んでいた。
ややあって肩越しに振り返って心配そうにナルの後ろ姿を見送っていたイルカは、直後、顔を堅くした。

思いもよらない人影を見つけて、眼を疑う。



堂々とし過ぎて、周りの人間は気にも留めていないようだったけれど、今朝方、火影邸で見たばかりの顔だ。

見つけ次第火影へ報告するようにと、捜し人として貼り紙がしてあった。
先日、火影と別れてから行方知らずになり、捜索願を出されている相手の顔写真。

その写真に載っている顔が堂々と歩いている。
やがて雑踏に紛れて消えてしまうその人影を、イルカは視線で追い駆けた。


周囲の人々が誰一人気づいていない様子を見て、ハッ、と我に返る。
意を決して、イルカは急ぎ足で尾行を開始した。



その顔は、ナルを大事に思う教師でもアカデミーの優しい先生でもなく、ひとりの忍びとしての顔だった。

























「手間取っているようだな」


暗闇の中。
相手の息遣いさえ聞こえそうな静けさだが、外からの絶え間ない密やかな雨音よりも、その責めるような言葉はやけに大きく響いた。

いつも潮騒のような雨音が里を包んでいる。
雨隠れの里。

その高い塔の上で、ペインのリーダーは疲れたように答えた。


「急な訪問者があってな」
「ペインは無敵…どんなことがあっても九尾は確実に手に入れる」

ペインを庇うように小南が言葉を続けたが、仮面の男は非難を止めなかった。


「しかし流石の無敵のペインも、三忍の自来也と大蛇丸には手こずるか」
「…………」

無言の肯定を返すペインに、仮面の男は続け様に忠告する。


「逃げられたのは痛手だったな。木ノ葉はすぐにでも何かしらの手を打ってくるぞ」
「その前に動く」

今度はすぐさま返事を返す。
断言するペインの背後で控えていたカブトが「しかし…」と遠慮がちに進言した。

「今のままでは人数が足りませんよ」



ペイン六道は六人揃ってペインだ。
けれど大蛇丸と自来也との激戦によってほとんどのペインを潰された。
故に、大蛇丸と自来也によって減らされたペインの補充をしなければいけない。
その点を指摘するカブトに、小南は「そうね」と同意した。


「死体を運び込まないと」
「おまえが役に立たない人間ならすぐにでもペインの仲間入りにさせるのだがな」

仮面の男がカブトを見ながら揶揄する。
冗談にしては面白くない発言に、カブトは冷や汗を掻きながら「冗談はやめてくださいよ」と穏便に微笑んだ。


「そうよ。彼は長門の身体を診てくれているの。いてくれなきゃ困るわ」

小南がカブトを庇ってくれる。長門の治療を任せられているカブトはそっと息をついた。
もしも自分が医療忍者じゃなければ、或いは長門の命の恩人でなければ、殺されて遺体にされていたのがよくわかった。

(もしや大蛇丸様はそれがわかっていて…?)



サスケには“写輪眼”がある。故に殺されることはない。
仮面の男にとっても『暁』にとっても利用価値がある。
現在長門の身体を診ているカブトも今のところ殺されることはないだろう。

しかしアマルは違う。
医療忍者はふたりもいらない。
アマルを殺して遺体にし、操り人形としてペインの仲間入りさせることなど目に見えている。


故に大蛇丸はサスケではなく、アマルを連れ去ったのだ。
医療忍者としてまだまだ未熟者だが、医療忍術の腕は相当のものだ。
ペイン六道との戦闘で負った大蛇丸と自来也の傷を治す人材としては悪くない選択である。

つまり大蛇丸は、このまま音隠れの里で置き去りにされると殺される彼女の運命を見越して、アマルを連れて行ったのだ。
大蛇丸の考えを読んで、カブトは内心舌を巻いた。




そもそも最初、カブトは長門を助けるつもりはなかった。
ナルトの指示がなければ、大蛇丸の蛇が長門を狙っているとわかっていても、すぐに助けようとしなかった。長門を噛もうとしていた蛇が猛毒の牙があると知っていたからだ。

ただでさえ術やチャクラの使い過ぎで衰弱している長門が、蛇の毒で更に弱まり、やがて死に至るとわかっていながら、ナルトのもとへ戻れるのならいっそ死んでくれたほうが良いとさえ考えていた。

しかしながらナルトに報告したところ、長門を助けろという命令が下った。
その命令に従い長門を助けたカブトは、自分の保身の為に申し出る。


「遺体のストックならあります。大蛇丸様…いえ大蛇丸のアジトでいくつか取り扱っていたものですから」

カブトはにこり、と愛想笑いをしてみせた。
自分が如何に利用価値があるかを此処で示さなければいけない。

生き残って、本当の主であるナルトのもとへ戻る為に。


「木ノ葉へ向かうのは、それからでも遅くないのでは?」


そしてナルトの指示があるまでに、ペイン六道が木ノ葉を襲撃するまでの時間稼ぎをする為に。































面識はない。

前回の木ノ葉の中忍試験の試験官だとは知っているが、それほど親しい仲でもない。
挨拶くらいはしたかもしれないが。


自分は何をしているんだろう。
何故、尾行しているのだろう。


けれど見過ごせなかった。
誰も気づいていないのなら教師である前に忍びである自分が動かないと。
なにより、本当に彼が要注意人物ならば、アカデミーの生徒に危険が及ぶかもしれない。

追い駆ける。
尾行した先は見覚えのある懐かしい場所だった。




大きな樹木に囲まれた森の奥。
小屋がある此処は、自分にとっても波風ナルにとっても大切なところだ。


初めてナルが“多重影分身”の術を披露した場所であり、初めてイルカがナルに認めてもらい、イルカもナルとまっすぐに向き合った。
そうして初めてイルカがアカデミーの卒業祝いに自分の額当てをあげた場所でもある。

懐かしさに浸ってしまっていたイルカは、ハッ、と我に返った。



尾行していた相手がじっと此方を見ている。
最初から気づいていたのか、とイルカは身構えた。
この場所へ誘導されたのだと今更理解したが、気を取り直してイルカは取り繕うようにして相手の名を呼んだ。


「ええっと…月光、ハヤテさん?」


眼の下の隈が酷い顔。生気をあまり感じられない顔がイルカを見る。

五代目火影と中忍試験で使う巻物について話してから、行方知れずになっていた相手。
火影邸で貼り紙がしてあった捜し人。


その人間の名を恐々と呼んだイルカへ、月光ハヤテは穏やかに微笑んだ。


「やあ、イルカ先生。どうしました?」

一見、何もなさそうだ。
要注意人物だとは思えないほどの落ち着いた風情で、笑っている。

だからこそ一瞬気を許してしまったイルカは「あの…綱手様が捜してますよ」と当たり障りのない言葉を掛続けた。


「そうですか」
「そうですよ」


それきり黙り込んでしまう。
火影邸へ向かおうとも、それどころか微塵もこの場から動こうとしない月光ハヤテをイルカは訝しげに見つめた。

親しい間柄ではないので、なんと声を掛けたらよいのか気まずく思いながら、けれど沈黙に耐え切れず再び促す。


「……あの、…行かないんですか?」
「行ったらバレてしまいますからね」
「…な、なにが」


しばらく睨み合うようにして、当たり障りのない押し問答を続ける。
やがて月光ハヤテは、首を傾げておかしそうに、しかしながら呆れたように肩を竦めた。


「………まだ気づかないかな?」


口調が一変する。
けれど姿かたちは月光ハヤテそのもので、イルカは益々困惑顔を浮かべた。


「この場所、懐かしいだろう?」

ハヤテは、月光ハヤテであるはずの相手はくるり、とその場で回ってみせた。
おおげさなくらいの芝居がかった身振りで。


果たして月光ハヤテという忍びは、こんな人間だったろうか。
もっと生真面目で、こんな冗談めいた行動は取らないはずだが。


「……どうして此処を知ってるんです?」
「この場所を最初に教えたのは俺だよ。当然じゃないか」


どうして月光ハヤテがこの場所を知っている?
ナルが“多重影分身”を習得した時、あの場には誰がいた?

イルカとナルと、そして……────


「つれないなぁ、イルカ先生」


“多重影分身”の術が施された巻物。
アレをナルに盗ませた疑惑を被せて、この場所でナルが里人に忌み嫌われている理由を教えた。
九尾の狐だとバラし、ナルに返り討ちにされた。


「同じアカデミーで教鞭を振るった仲だというのに」


違和感は最初からあった。
恋人である卯月夕顔と別れたという噂を聞いた。
なにより、あれだけ咳をしていたのに、今ではすっかり喘息をしなくなった。


「貴方…いや、おまえは…」


同じアカデミー教師であり、イルカの昔馴染みだった…──。






「久しぶりに会えて嬉しいぜ。イルカ」



ハヤテの顔で嗤う男の姿。
この場所をナルに教え、“封印の書”の巻物を盗ませた。



ここ数年ぱったりと消息を絶ち、見なくなった顔が月光ハヤテの顔に被って、見えた気がした。
もう眼には視えないが、イルカの瞳には確かに懐かしい姿が映っていた。







「ミズキ…」



 
 

 
後書き
フェードアウトしたと思った?残念!最初からずっっっっっっといました!
正体に気づいてくれた人には拍手喝采!!

ちなみに本物は原作通りです。
代わりにこちらのNARUTO×GS美神のクロスオーバーhttps://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~3421『同士との邂逅』では生存ルートを書いています。
クロスオーバーで生存ルートを書いた理由がこちらの小説のこの展開の為だったり…?

次回、少し過去編に触れます。やっと今までの伏線回収できる…!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
 
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