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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第150話:邂逅と追跡と

 颯人達が化学兵器製造プラントで大暴れしている頃、バルベルデにあるとあるオペラハウスに朔也とあおいを始めとしたS.O.N.G.のスタッフが潜入していた。このオペラハウスは衛星から捕捉できず、結界の様な物で信号その他が妨害されている事が判明。それはつまり、ここにはそれ相応の何かがあると言う事に他ならない。

 それが何なのかを突き止め調査する為、颯人達が派手に暴れている裏でこうしてこっそりと潜入していたのだ。つまり、颯人達は化学兵器の製造プラントを押さえると言う役割と同時に、囮の役割も担っていたのだ。

 なおこの潜入チームには護衛も兼ねてガルドが今回は同行している。
 待機組の装者にはマリアに切歌、調の3人が居るが、彼女達は戦闘に際してLiNKERを使う必要がある。了子の手で奏用の物を彼女達に合わせた調整を施した物を渡されてはいるが、マリア達曰く以前使用していた物に比べ体に馴染み辛いとの事。戦闘に耐えられない程ではないが、無用に体に負担を掛けるのも得策ではないので彼女達は最後の手段的な扱いとなり、しかしもしもと言う事を考え制約のないガルドが護衛として同行する事になったのだ。

 周囲に見張りの類が居ない事を確認したガルドが先行してオペラハウスへと近付き、異常がない事を確認する。

〈ライト、プリーズ〉
「異常なし、か。……よし」

 魔法の光で潜入する入り口内部を照らしても、罠の類は見られない。これなら大丈夫と後ろに控えている朔也達に合図を送り、潜入チームがオペラハウスへと侵入する。

 内部は異様に静かで、人の気配が感じられない。それを不気味に感じつつガルドが先を進んでいると、ホールから人の話し声が聞こえてきた。それに気付き、ガルドは後ろの朔也達に警戒を促す。

「この先、誰か居るようだ。警戒しろ」
「分かった」
「えぇ……」

 顔に緊張を走らせる朔也に対し、あおいは拳銃を抜き安全装置を外した。後ろに続く黒服達も気を引き締めたのを確認して、ガルドは身を低くしてホールへと入る。

 広いホールの下の方、舞台のすぐ前の所には数人のスーツや軍服姿の男達の姿があった。ガルドが双眼鏡を使って彼らを観察し、その映像を朔也のもつノートパソコンへと送信する。
 すると驚いた事に、男達の内1人はこの国の大統領であった。

「あの一番前の席に座ってるの、この国の大統領だぞ」
「……話を聞く限り、亡命のフリをしてここに隠れ潜むつもりのようだな」
「衛星で探知できないこの場所なら、確かに普通に探したら見つけられないかもね」

 とは言えそれは異端技術を知らなければの話だ。それに仮に異端技術に関する知識が不十分であっても、本来ある筈の建物が衛星から見つからないと言う事がバレればそこに何かがあると気付くのにそう時間は掛からない。黒いカラスは確かに見つけ辛いが、白鳥の群れの中に居ればすぐに見つかるのだ。
 高すぎる隠蔽も時には命取りとなる。

 しかし彼らの話を聞く限りだと、ここは彼らのシェルター的な価値しかないように思える。であるならば、さっさと彼らを拘束してしまおうかとガルドが身構えたその時、ホール内に第3者の声が響き渡った。

「――――この地こそが一番安全なのだッ!」
「つまり、本当に守るべき物はここに隠されている」
「ッ、何者だッ!?」

 声のした方を見れば、ホールのサイドに存在する大きな窓に3人の女性の姿があった。1人は白髪の男装、1人はカエルのぬいぐるみを抱えた少女、そしてもう1人は豊満な肢体を薄い衣服だけで包んだ扇情的な姿の女性だ。

 ガルドは3人を即座に双眼鏡で見て、その容姿を朔也のPCに送信した。

「どうだ? あの3人の事、何か分かるか?」
「……ダメだ。この中にあるだけのデータじゃ、何も出てこない」
「今は観察するだけに留めましょう」
「それが良いな。アイツら、只者じゃなさそうだ」

 ああ言うちょっと演出っぽい登場の仕方をする輩は、相応の実力者かただの目立ちたがりの馬鹿と相場は決まっている。そしてガルドは、あの3人からただならぬ雰囲気を感じた。直感的にあの3人は前者であると感じ、この場は静観するに留め息を潜める事を選択した。

 それは正しい判断だったかもしれない。大統領他バルベルデの高官達と幾つか言葉を交わした3人の女性が突然歌い出した。
 歌の存在に奇妙な馴染みを持つガルドが事の経緯を見守っていると、歌い終わりと同時に大統領達が体を掻き毟りながら光の粒子となって体を崩壊させた。

「あれは……!?」

 苦しみ、だが僅かに恍惚そうな表情を浮かべて体を崩壊させた大統領達。数秒前まで人だった粒子は男装の女性が掲げた手の中に集まり、光り輝く珠を形成した。

「七万三千七百八十八……」

 男装の女性が手の中に納まった光の珠を見つめながら膨大な数の数字を呟く。その数字が何を意味しているのか? ガルドはちょっと想像してみて、その答えに仮説を立てて嫌なものを感じそれ以上考える事を止めた。

 目の前で行われた事にガルド達が戦慄していると、3人の女性はホールの床にある隠し通路から地下へと入っていった。ガルドは目線であおいにどうするか指示を仰ぐ。正直、これはこの場に居る面子だけの手に負える域を超えているように思えたのだ。
 これ以上の深追いはリスクが高い。そう思って目線で問い掛ければ、あおいは一つ頷いて地下への隠し通路を見る。どうやらこのまま調査を続行するらしい。

――やれやれ……――

 確かにここまで来て、あの3人の目的も何も調べず引き下がるのはある意味危険だ。もし彼女らが何かとんでもない物を隠していて、それがこの国だけでなく世界の命運に左右するような何かであった場合取り返しがつかなくなる。
 その事を理解できてしまったガルドは、肩を竦めて小さく息を吐くと足音を立てないように気を付けながら先行。あおい達がそれに続いた。

「ちょっと!?」

 1人状況の危険性を一番感じていた朔也が抗議の声を上げるが、今回は護衛にガルドも居るからという事で自分を納得させその後に続く。

 隠し通路の先にあったのは倉庫のような場所であった。中には棚などに美術品や高価そうなものが詰め込まれている。どうやら隠し財宝的な物のようだ。もし国に何かあっても、この財宝を元手に再起するつもりだったのだろう。
 尤も、その当の本人が既にこの世から消えてしまった今、これら美術品がその役目を務める事は無くなってしまった訳だが。

 3人はそれら周囲の美術品等には目もくれず、奥にある布を被せられた何かに一直線に向かって行った。
 男装の女性がそれに被せられた布を取り払うと、そこにあったのは中に人型の何かが入った琥珀の様な結晶だった。あおいとガルドがその結晶の中にある人形の様な物を双眼鏡で観察する。

――あれは……何だ?――

 初めて見る筈の物なのだが、同時にどこかに既視感を覚える。あれと似た物を見たことがあるかのようだ。
 さて一体何処での話だったか……そんな事を考えていたその時、室内にけたたましいブザーの音が鳴り響いた。

「あ……!?」
「ッ! チィッ!」
〈コネクト、プリーズ〉

 音の発信源は朔也の持つノートPCだ。どうやら何時の間にか結界が切れるかして、外部との通信が復活。スキャン状態にしていた彼のノートPCが、スキャンを完了した事を報せるブザーを鳴らしてしまったようだ。

 この状況を誤魔化す事など不可能。ガルドは咄嗟に前に出ると、キャスターガンランスを取り出し3人に向けて砲撃をお見舞いした。
 同時に朔也達に後退を促す。

「下がれッ! 俺が時間を稼ぐッ!」
「ガルド、悪い……俺……!?」
「藤尭君、そう言うのは後ッ! 撤収準備ッ!」

 ガルドを殿に、急いで階段を駆け上がり外へと出る潜入チーム。

 一方3人はガルドからの砲撃を、手を翳して展開した障壁で防いでいた。幾何学模様を描きながら展開されたその障壁に、ガルドは見覚えがあった。

「その障壁、貴様ら錬金術師かッ!」
「ご名答♪ そう言うアンタは魔法使いね?」
「だったら何だ?」
「フンッ、野蛮な魔法使い風情が……調子に乗らないでほしいワケダッ!」

 徐にぬいぐるみを抱えた少女……プレラーティが手を翳すと、錬金術の攻撃が飛んできた。

「くっ!?」

 飛んできた錬金術による攻撃をガルドは槍で弾く。その隙に青髪の女性……カリオストロが近くまで接近し、錬金術を乗せた拳を彼の体に叩き込んできた。

「貰いッ!」
「ぐふっ?!」

 常人のそれを遥かに超える力で殴り飛ばされ、内臓が潰れるかと思う程の激痛を感じながら壁に叩き付けられるガルド。衝撃で槍が彼の手を離れ、床に蹲る彼の前に最後の女性……サンジェルマンが近付き、冷たい目で見下ろしてきた。

「ここまでのようね。観念しなさい」
「はっ、はっ……観念したら、見逃してくれるのか?」
「それはできない相談ね」
「じゃあ、この話は無しだな」
〈ライト、プリーズ〉

 蹲りながら指輪を取り換えていたガルドが放った魔法により、束の間倉庫の中は眩い光に包まれる。目を開ける事も困難なほどの光量に、3人は堪らず顔を手で覆い視界を閉ざした。

 瞼の向こうから感じる光が消えたのを感じて目を開けば、先程までそこにいた筈のガルドの姿が無くなっている。まんまと逃げられた事に、カリオストロは獰猛な笑みを浮かべながら手に錬金術を発動させようとした。

「逃がすと思って……!」
「待ちなさい、カリオストロ」

 猛るカリオストロをサンジェルマンが宥めると、近くにある彫像へと近付いていった。

「実験には丁度いい。ついでに、大統領閣下の願いも叶えましょう」

 サンジェルマンは彫像の前に立つと、元・大統領達の体が崩壊して出来た光の粒子を集めた珠を取り出しそれを彫像に近付けた。

「生贄より抽出されたエネルギーに、荒魂の概念を付与させる」

 するとどうした事か、彼女の前にある蛇の様な彫像そっくりの蛇が光の珠から飛び出した。

 地下でそんな事が行われているとは露知らず、何とか逃げ出したガルドはダメージが残り痛む腹を押さえながらも何とかオペラハウスからの脱出に成功した。

「はぁ、はぁ……くそ!? 結構効いたな……」

 この威力は変身していてもきつかったかもしれない。そんな事を考えながら外に出ると、先に外に出ていた筈の朔也とあおいが彼に手を貸し停めておいた車まで引きずる様に連れていた。

「ガルド、大丈夫かッ!?」
「しっかり、もう大丈夫よ!」
「サクヤ、アオイ? お前ら、先に逃げたんじゃ……」
「他の人達は先に行ったわ」
「後は俺達だけだ。さぁ逃げるぞ!」

 本当は2人も先に逃げるべきだったのだが、錬金術師3人を相手にガルド1人残すのは危険すぎる。それに朔也には自分のミスで彼を危険に晒してしまったと言う負い目があったので、その罪滅ぼしの意味も込めてこうして危険を承知で残っていたのだ。

 義理堅いと言うか、ともすれば向こう見ずとも捉えられかねない2人に、しかしガルドは笑みを浮かべずにはいられなかった。

「すまない、助かった」
「礼を言うのはこっちだ。さっきは悪かった」
「謝る前にさっさと行くわよ!」

 ガルドを荷台に乗せると、あおいがエンジンキーを回してアクセルを噴かす。そして一気に車を急発進させ、そそくさとオペラハウスから逃げ出した。

「おっとと!?」

 危うく荷台から放り出されそうになったガルドだが、何とか踏ん張り離れていくオペラハウスを見た。
 先程の錬金術師たちが出てくる様子はない。追うのを諦めたのか?

 そう思った直後、突然地面が割れそこから巨大な蛇の様な物が姿を現した。そいつには体の側面に規則正しく並んだ赤い目があり、次々と開いたその目が3人の乗る車を一斉に睨んできた。

「おいおいおいおい、冗談だろっ!?」
「本部ッ! 応答してください、本部ッ!?」

 巨大な蛇が追い掛け回してくる状況に、朔也が必死に助けを求める。あれはもうガルド1人でどうにかなる様なレベルではない。

『友里さんッ!? 藤尭さんッ!? ガルドさんッ!?』
『装者は作戦行動中だッ! 死んでも振りきれッ!』
「死んだら振り切れませんッ!?」

 弦十郎からの無茶苦茶な返答に、悲鳴のような声を返す朔也。その間にも蛇は車を追跡し、その道中で周囲に破壊を齎した。

 このままではタダやられるのを待つばかりと、ガルドは激しく左右に動く荷台の上でキャスターに変身した。

「くっ、変身ッ!」
〈マイティ、プリーズ。ファイヤー、ブリザード、サンダー、グラビティ、マイティスペル!〉

 キャスターに変身したガルドは、砲撃モードにしたガンランスで追跡してくる蛇を迎撃する。車が激しく動き回るので狙いが付け辛いが、的が大きいので砲撃は幾つも命中し蛇の表皮で爆発を起こした。
 だがやはり狙いの甘さ故か、どれも有効打はおろか怯ませる事すらできない。まるで蚊に刺された程度にも感じていないと言わんばかりに突き進んでくるではないか。

 そして遂に、蛇が狙いを定めた様に鎌首をもたげて一気に車に食らいついて来た。

「ヤバい、来るぞッ!?」
「えぇぇぇぇっ!? き、軌道計算ッ! 暗算でぇぇぇっ!?」

 咄嗟にどのような軌道で蛇がくらいついてくるかを即座に計算した朔也は、警告や注意喚起無しでいきなりサイドブレーキを引いた。強引に停車した車の荷台で、体を固定しきれていなかった故にガルドがもんどりうって頭をぶつけるが、その甲斐あってか蛇は車を通り過ぎて崖の下へと落ちていった。

 その間に車は崖の側面にある道を走りその場を離れていく。

「やり過ごせた……!」
「いっつつ……やるな、サクヤ」

 痛む頭を擦りつつ、活路を開いた朔也を称賛し安堵の溜め息を吐くガルド。朔也も釣られて肩から力を抜くが、次の瞬間車の真下から飛び出した蛇に打ち上げられて車は放物線を描き地面に落下する。

「うわぁぁっ!?」
「きゃぁぁっ!?」
「くぅっ!?」
〈バインド、プリーズ〉

 車ごと地面に叩き付けられそうになった寸前で、ガルドが魔法の鎖で車を受け止め地面に激突する事は避けられた。だが今の一撃で車はスクラップと化し、もう走ることはできなくなってしまった。
 打ち上げられた衝撃で荷台から放り出されたガルドは何とか着地し、乗っていた2人も棺桶と化した車から脱出する。

 そこに何時の間にそこにいたのか、岩の上に佇むサンジェルマンからの言葉が届いた。

「あなた達で七万三千七百九十五……その命、世界革命の世界革命の礎と使わせていただきます」
「革命?」

 サンジェルマンの口にした”革命”という言葉に怪訝な顔をする朔也。銃を手に警戒するあおいと、2人を守る為立ち塞がるガルドが蛇とサンジェルマン達を見上げていると、そこに聞き慣れた声で一つの唄が聞こえてきた。

「Seilien coffin airget-lamh tron」

「歌?」
「どこから……?」

「この歌は……!」

 突如聞こえてきた歌にサンジェルマン達が首を傾げるのに対し、ガルド達は思わず笑みを浮かべた。何を隠そうこの歌はS.O.N.G.の頼れる仲間の歌であり、同時にガルドにとっては恋人の姉の物でもあるからだ。

 サンジェルマン達が歌の発生源を探して周囲を見渡していると、1台の車が蛇に向かって突っ込んだ。減速するどころか加速して蛇に激突した車は、燃料を満載していたのか大きな爆発を起こした。その爆発は蛇をも怯ませるほどである。

 そしてその爆発の直前、車から飛び降りた3つの人影がガルド達の前に降り立った。その正体はマリアに切歌、調の3人。S.O.N.G.の誇る装者、その最後の3人がここに降り立ったのである。

 マリアは肩越しに背後を振り返ると、朔也達を守るガルドに笑みを向けた。

「全く、世話の焼ける義弟ね」
「そう言ってくれるな……義姉さん」

 こちらを鼓舞するような声を掛けてくるマリアに、ガルドも負けじと言い返し3人の隣に並び立つ。

 3人の装者と1人の魔法使い。その姿を蛇と、岩場の上に立つサンジェルマン達が見下ろしていた。 
 

 
後書き
という訳で第150話でした。

昼間の戦いではお留守番だったガルドですが、今回は彼も参加しています。最初この潜入チームは透を護衛につけるつもりだったのですが、彼はクリスと共に行動してもらう為ガルドに変更となりました。
生身でサンジェルマン達3人を相手にするのは流石に酷だったので、今回はガルドも押され気味。このリベンジはその内する事になりそうです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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