リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第二十楽章「何かを隠す為に絵を飾ってるのかもね」
前書き
今回の舞台になってるプービルは
下記のURLにて動画配信しております。
どうぞ宜しくお願いします。
参照URL:
https://youtu.be/KuVbddjbZS4
(グランバニア王国:城前地区・プービル)
ピエッサSIDE
『社長から仕事を依頼されたから明日の土曜日に城門前の魔道人員輸送車停で待ち合わせよ。時間は午前10:00ね!』
突如そうアイリに言われた金曜日の午後。
本日の授業は全部終わり、来るか来ないか……まぁ来ないだろうマリーちゃんを待って練習の予定がある私なのだがお構いなし。
とは言え社長からのご依頼となれば拒否など出来ず、詳しい事を聞く事も無く当日を迎える。
魔道人員輸送車停を降るとアイリは既に待っており、城の南東にある三階建てのビルに導かれた。
入り口には小さなプレートに『プービル』と書かれている。
アイリはバッグから鍵の束を取り出すと、スペードのマークがあしらわれている鍵で入り口を解錠する。
よく見ると扉の取っ手部分にもスペードのマークが描かれている。
「ここは何?」
流石に私も質問する。
反社会的な連中が根城にしてる事で微妙に知れ渡っている建物だ……何故鍵を持ってるのかは分からないが、正直入りたくない。
「プービルよ」
「凡人にも解る様に説明して。それだと私の上司の対応と同じよ」
ジャンルは違えど天才と呼ばれる者達は、他者への対応が同じになるらしい。
「アイツと一緒にしないでよ……悪かったわよ!」
効果覿面。
この国のナンバー2と同じだと比喩したのに、心底嫌そうな顔で拒絶。
そして簡潔にだが、このビルを社長が好条件で譲り受け、私的で使用してる事やアイリも自由に使って良いらしく、鍵を渡された事などを説明してくれた。
因みに、社長が不動産を譲り受けるのに支払った代償は、彼の大商人から20Gで値切り買った中古のギター1本との事だ。
当然の事ながら、まだビル内には誰も居らず、1階の事務所の様な部屋で待つ事となる。
アイリは手慣れた様子で私の分のコーヒーを入れてくれ、暫くの間2人で卒業式等の雑談で社長を待った。
20~30分程した頃に、入り口で人の入ってくる気配がしたので、社長だと思い私もアイリも立ち上がって扉の方を注視してると、少し小さめのギターケースの様な物を2つ抱えたラッセル君が入って来た。
何故に彼が? そう思っていると、後ろからは彼女さんが入ってくる。
軽く2人に挨拶すると、アイリが「荷物なら2階に運んだ方が良いわよ。どうせ使うのは2階でなんだから」と荷物が何なのか分かってる様な口調でラッセル君を促した。
その進言を聞き2人は2階へと荷物を運び込む。
その間にアイリは2人の分のコーヒーを入れに、奥の給湯室(だと思われる)に行き、支度をしている。
私だけ座っていて、ちょっと気まずいわ。
暫くすると2階から会話しながら降りてくる気配を感じる。
ちょうどアイリもコーヒーを用意し、2人が寛げる状態にした時だった。
だが入室してきたのは3人だった……
リューナさん、ラッセル君……そして社長!
気を抜いていて私もアイリもマッタリしてたから、慌てて立ち上がって社長を迎える。
更にアイリは社長の分のコーヒーを入れに給湯室へ。
小声で社長が「僕の分はいいのに……」と呟いたが、直前に2人分を入れてた為、直ぐに用意が出来てしまい爽やかに「ありがとう」と言って席に座った。
スマートでカッコイイ。
少しの間雑談する事となり、リューナさんが壁に掛かっている絵を指差し「あの絵はラッセルが描いたのかしら?」と尋ねる。
「ああ、陛……社長から『何か部屋が明るくなる絵を描いて』と依頼があって描かせてもらったんだ」
確かに結構な美人画で、何となくだけど、部屋の雰囲気を明るくしてる気がする……
でも何であの場所なのだろうか?
直ぐ隣には大きな置き時計が配置してあって、見る位置によっては絵の邪魔になるのだけど……
「あの美女は誰なのかしら?」
彼女という立場としては描かれている美人が誰なのか気になるのだろうか?
美術について無知な私だが、マジマジと眺めてしまう。
「新たな技法の練習として、色んな美人の特徴を混ぜて描いたから、誰か特定の人物じゃないよ」
ふ~ん……そんな技法があるのね。
ラッセル君って意外と凄い画家なのね。
「因みに社長は、あの絵にお幾ら出したんですか?」
え!? 社長からお金取ったの?
無償で良いじゃない!
「ご……5万Gもくれた」
5万G!?
あの絵がそんなに高額なの!?
「婚約祝いだよ」
まぁおめでたいわ。
社長の一言に私は本心でそう思った。
だけどアイリは違う事を思ったらしく……
「アンタ彼女さんのお父上にはご挨拶したの?」
と、私達他人が訊く必要の無いであろう質問をする。
「し、した……けど、アイリーンさんはリューナの……その……お父上の事をご存じなのですか?」
いや、知るわけないでしょう。
アイリはリューナちゃんと、卒業式の打ち合わせの時に初めて会ったみたいだし。
「存じ上げてるわよ」
何で!?
「そ、それはリューナ……もしくはご本人から聞いたのですか?」
「違うわよ。リューナさんの話を聞いて思い当たる人物が居たから、それで分かったのよ」
「え、そうなの……アイリの知り合いの人だったのね!? 私は会った事あるかしら?」
世の中狭いわね。
「さぁ……私もピエが誰と知り合いなのかを完璧に把握してるワケじゃぁないから」
それもそうよね……
私とアイリの共通の知人は少ないものね。
「ぞ、存外君は性格が悪いんだな」
「あら、お褒めに与り光栄ですわ宮廷画家殿」
「褒めてはないなぁ……どちらかというと、宰相閣下と同類って意味だから」
「さ、最悪な屈辱! アンタ股間を蹴り上げるわよ!」
「まあまあ落ち着いて。性格なんて善し悪ししか無いんだから、良い性格じゃ無ければ結局は同類になるよ(笑)」
「そうですわね社長。あとは性格の悪さの度合いで差が出るだけですわ。因みに私から見たら社長も宰相閣下とは同レベルだと思いますわよ」
「な、中々言うわねリューナさん……」
「失礼アイリーンさん。私も社長の事は尊敬しておりますが、真実をねじ曲げるつもりはございませんわよ」
はて?
アイリの性格が悪いのは同意するが、今の会話でどの辺に性格の悪さが垣間見えたのだろうか?
私は不思議に思いながら皆の会話を聞きつつ、コーヒーの最後の一口を飲み干した。
「さて。ピエッサちゃんがコーヒーを飲み終えた様だし、今日の本題に入ろうか」
え、私待ちだったの!?
確かに皆は飲み終えていたわ。
「じゃぁここの後片付けは後回しにして、先刻搬入した機材がある2階へ行こう」
そう言うと社長は立ち上がり、私とアイリに視線を向け、2階へ行く様に促す。
「リューナとラッセンは如何する? 正直もう用は無いけど見ていく?」
「そうですわね。ご依頼の楽器を製作した者としましては、本職の方々の奏でる音色を聴いてみたいですわ」
「そうですね、俺も全く音を聞いた事が無いですから、是非とも聴いてみたいです」
如何やらやっぱり新しい楽器の様だ。
制作者と運搬者も聴いてみたいらしく、この後もここに残る意思を示した。
「では……」
社長は優雅な動作で私達を従えて2階へと上がる。
この建物に入るのが初めてなのだから当然だが、2階や3階が如何なっているのか判らなくて何だかワクワクするわ。
ピエッサSIDE END
後書き
ピエッサは真面目だから、
彼女視点は書きにくいです。
作者が若き日のティミーくらい真面目だったら
きっと書きやすいんだろうけどねw
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