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おっちょこちょいのかよちゃん

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276 解き放たれた効力

 
前書き
《前回》
 三河口達の所に杉山が接近しているとの情報を知ったかよ子は三河口を助けに行くと決めて進路変更する。一方、かよ子達に先んじて藤木との再会に成功した笹山は藤木に元の世界に戻ろうと促すも拒否されてしまう。そして妲己が九尾の狐に変化し、遊女と衛兵達が攻撃する。姚崇と張説が応戦する。だが、劣勢となった所で笹山はフローレンスから貰ったボールペンのような道具の使用に踏み切った!! 

 
 笹山はフローレンスから託されたボールペンを使用した。緑色の光が塔のように放たれた。
「こ、これは一体・・・!?」
 その時、妲己の姿が元の人間形態に戻った。遊女や衛兵たちも能力を出せなくなる。
「妲己、戻るのだ!おそらくこれはまずい事になるぞ!!」
「は、はい!!」
 紂王や妲己の一行は慌てて馬車に戻った。
「う、あああ!!」
「笹山かず子、皆が逃げる!食い止めよ!」
「う、うん!!」
 笹山は捨て身で藤木のいる馬車へと走った。しかし、馬車は笹山にとってありえないほどの高速で進んでいき、直ぐに遠ざかって行ってしまった。
「藤木君、藤木君・・・!!」
 笹山は追いつけなかった。
(そんな、連れ帰せなかった・・・。藤木君、むしろ嫌がってた・・・)
 笹山は泣き崩れた。そんなに自分が嫌になってしまったのか。確かに自分も山田かよ子を野良犬かあ見捨てた事を咎めた一件で嫌った事を考えるとそうなるのも無理はないのかと思ってしまうのだった。
「待て、笹山かず子。まだ絶望するには早い」
「え?」
「お主のその道具を見よ」
 笹山はようすうに言われて見た。フローレンスから託され、先程使用したボールペンのような道具は一時的に変色した緑色から元の白に戻っていた。
「元の色に戻ってる・・・?」
「ああ、もしかしたらそなたと同じくあの少年を探している者達にもその道具の力を分け与えたのかもしれんぞ」
「ええ、そうだと、いいですね・・・」
 しかし、笹山はその気持ちが藤木、そして彼を捜索しているかよ子達に届くか、まだ不安だった。

 妲己の一行は慌てて屋敷へと戻る。
「くう、何なんだったのだ、あの小娘は?」
「どうやら少年の古い知り合いかもしれんな」
「杖の所有者達とは何らかの関係があるのかもしれんな」
「ああ・・・、はっ!」
 妲己は運んでいて置いていた薔薇を見た。全てが枯れてしまっていた。
(まさか、あの小娘の道具か・・!?)
 そしてもう一つ、懸念事項ができてしまった。
(この薔薇が枯れたって事は・・・!!)
「妲己、レーニンに報告すべきだ!」
「ええ!」

 藤木はりえと共に帰るが、りえは眠り出した。
(りえちゃん、ごめんよ、面倒くさい事に関わらせて。帰ったらゆっくり休もう・・・)

 りえは眠っている間の事である。
(藤木君、スケート、カッコよかったわ。また私と一緒に滑ってくれるかしら・・・。それからまたピアノを聴かせてあげよう・・・)
 そう思ったりえにどこからか声が聞こえた。
[いつまで寝てるのっ!?]
(え?)
[あれは催眠術よ!私が本当に好きなのはっ・・・!!]
(私が好きな人・・・。藤木君じゃなくてっ・・・!!)
 そして鏡に映ったかのようにもう一人の自分自身が現れた。
(杉山君・・・)
[そうっ、杉山君よっ、さっきまで藤木君のお嫁さんごっこに付き合わされてたのっ!]
(はっ・・・!!)
 そして周りが真っ黒になった。

 その一方、三河口のいる所への合流を急いでいるかよ子達は間もなく夕食どきという事も忘れていた。その時、かよ子達の所に緑色の光が見えた。
「こ、これは・・・?」
 かよ子はその時、その光が自分達のいる所とまた別の場所を結んでいる線のように見えた。
「こ、これは何だ?」
 石松はその光が気になった。
「また敵の攻撃か?」
「いや、敵の気配はしねえ。別の何かだ」
 大野は見聞の能力(ちから)を通して察した。
「山田かよ子、本部に連絡するのだ!」
「う、うん!!」
 かよ子は通信機を出した。慌てて落とすというおっちょこちょいをやってしまうも、本部に連絡を繋げた。

 本部では間もなく夕食時の為フローレンスとイマヌエルは管制室より離れていた。その時、通信機が鳴る。
「こちらフローレンス。どうしました?」
『こちら山田かよ子!フ、フローレンスさん!?今、私達の所に緑色の光が出てるんだけど、一体何が起きてるのか気になって!!』
「ああ、それはですね、その場所に藤木茂君がいます事を伝えます印なのです。その光が示します方角に藤木茂君がいますといいます事なのです」
『そ、そうなんですか。でも、私は、三河口のお兄ちゃん達が気になって・・・』
「そうでしたわね。しかし、どちらを優先しますかは貴女方次第ですよ。皆さんとよく話し合いまして決めてくださいね」
『は、はい・・・』
「後は大丈夫ですか?」
『はい、ありがとうございました!』
 通信が終了した。
「フローレンス」
「はい?」
「その緑色の光が山田かよ子君達に藤木茂君の居場所を教える事になるって事は、もしかして君が派遣させた女の子によるものじゃないのかい?それもその藤木茂君に会えたって事だろうな」
「そうですわね・・・」
 フローレンスは気になった。
(笹山かず子ちゃん、無事でいてください・・・)
 フローレンスは気になった。笹山が藤木との遭遇に成功したならば彼女も抹殺対象になる可能性は十分にあるという事を。

 紂王の屋敷に戻って来た。
「茂様、到着しました」
遊女が馬車の屋形の扉を開けた。
「あ、うん・・・」
 藤木も気付いたらいつの間にか自分も眠ってしまっていたことに気付いた。
「坊や、無事かね?」
「あ、はい」
 妲己と紂王が既に出迎えていた。
「りえちゃん、着いたよ」
「・・・」
 りえは無言で起きた。
(私は今までっ・・・)
 そして隣に藤木がいた。
(藤木君っ・・・。そうだったっ、私、藤木君のお嫁さんにさせられてたんだったわっ・・・!!)
 りえはそしてその場にいた紂王と妲己を睨む。
(確かに洗脳が解かれてしまっていたか・・・)
 妲己にはりえの表情を見るだけですぐに察する事ができた。
「身体が冷えてしまっただろう。今夜は温かい料理の予定だ。楽しみにするがよい」
「はい」
「・・・」
 藤木は朗らかに返事をしたが、りえは無言でしかめっ面だった。二人は部屋に戻る。洗脳を解かれたりえにとって藤木と共に部屋にいる時ははまた落ち着かない状態に戻った。
「りえちゃん、どうしたんだい?」
「あっ、いやっ・・・」
 りえは誤魔化そうとしたが、藤木には馬車に乗る前の時のりえと感じが異なっている事に気付いた。
(やっぱり、りえちゃん、寒いのが嫌だったのかな?)
 しかし、藤木はりえの本当の真意を見抜いていなかった。

 杉山はレーニンと共に進む。その時、トランシーバーが鳴る。
「こちらレーニンだ。どうした?」
『こちら妲己。先程見知らぬ小娘と遭遇しまして祝言の際にナポレオンから貰った薔薇がその小娘によって破壊されてしまいまして、そのせいで安藤りえが元に戻ってしまったようです』
「ナポレオンから貰った薔薇がだと?その小娘はどんな者だった?」
『あの藤木茂とは知り合いの者のようでしたが、則天武后の側近と行動を共にしていました』
「ところでその女子ってのは杖の所有者じゃねえのか?」
 杉山がレーニンに代わって出てきた。
『いいや、全く別の小娘でした。おそらく藤木茂坊との会話から以前想っていた女子(おなご)だったと思われます。しかし、その者が杖の所有者とも繋がりを持っているとなると厄介な事になります』
「そうか」
 レーニンの姿に戻った。
「構わん。見つけ次第、その小娘も危険分子として扱う。発見次第、排除するのだ」
『了解しました』
 通信が切れた。
(前に藤木が好きなってた女子って事か?となると・・・)
 杉山は記憶を探る。
(まさか、笹山も来てんのか・・・!?)
 杉山にとっても予想外の答えだった。
(だが、今は向こうの方に行かねえとな・・・)

 藤木達は夕食会とした。
「うわあ、すき焼きだ!それにおでんや魚の鍋まで!!」
 すき焼きにおでん、寄せ鍋と鍋ものでいっぱいだった。
「りえちゃんも食べようよ!」
「・・・」
 りえは無言で椅子に座った。藤木はいただきますを言った後、早速料理に手を付ける。
「うわあ、茂様、とても進んでいますね!」
「いやあ、美味しくて・・・」
「ありがとうございます」
 料理を担当した遊女が照れた。
「りえ様はお召しにならないのですか?」
「あ・・・」
 りえは箸を持った。夕食の時は進んでいった。 
 

 
後書き
次回は・・・
「吐き出された本音、そして絶望」
 かよ子の連絡を聞いた三河口は冬田に羽根を東の方向へと進めさせる。食事を終えた藤木は先程までとは異なりぎこちない態度のりえに変に思う。単に疲れているのかと思っていたのだが、りえの洗脳は既に解かれており・・・!? 
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