仮面ライダーAP
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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第20話
「レンッ!」
「間にッ、合えぇえぇえーッ!」
コマンドバッシャーをターボに譲り渡すため、アスファルトの上に飛び出してしまったレオナ。その光景に声を上げるニッテの叫びを掻き消すように――朔夜が吼えていた。
「あうっ……!?」
偵察用オートバイ「カワサキ・KLX250」に跨り、アスファルトの上を疾走していた彼女は、地面に激突する寸前となっていたレオナの身体を間一髪のところで抱き留める。近くに放置されていた正規軍の車両を事前に発見していた彼女は、レオナを救うためにこのバイクを「拝借」していたのだ。
死を覚悟していたレオナは、自分が褐色巨乳の谷間に顔を埋めていることに気付き、バッと顔を上げる。中性的な美貌で男女問わず多くの者達を虜にして来た朔夜の怜悧な眼差しが、レオナの視線と一瞬だけ交わった。美男子のようにも見える朔夜の顔付きだが、蠱惑的な乳房の温もりと柔らかさ、そして濃厚なフェロモンの香りは、彼女が紛れもなく「女性」であることをレオナの鼻腔に教えている。
「さ、朔夜……!?」
「お前達にばかり良い格好はさせんぞ、レン! 私達は……必ず生きて帰るんだ、全員でなッ!」
「朔夜の言う通りよ……! 私達はもう、誰も死なせない! 皆も、市長も……仮面ライダーも! 誰1人……死なせるもんかぁあぁあッ!」
KLX250のハンドルを握りながら、凛々しい笑顔をレオナに向ける朔夜は、RCと輸送車目掛けて片手でS&WM500を連射していた。そんな彼女に負けじと、ニッテ達も最後の力を振り絞るかのように、全方位からの総攻撃を仕掛けて行く。
その猛攻に晒されたRCは投擲を中断し、防御体勢に移行していた。先ほど失敗した「新必殺技」を今度こそ成功させる、最後のチャンスだ。
(……このハンドルとシートに残る彼女の匂いと温もりが、俺を導いてくれる。俺にチャンスを与えてくれる。今度こそ、もう失敗はしないッ!)
破壊されたGチェイサーに代わるマシンとしてレオナから託された、真紅のコマンドバッシャー。そのハンドルを握り締めるターボは、ケージ達と深く頷き合い――再びRCの周りを走り始めて行く。
「……今だ皆! トォオッ!」
「トォウッ!」
「トォアアッ!」
「トオォオイヤッ!」
そして、彼ら全員のマシンが最高速度に到達した瞬間。両脚に集中させていたエネルギーを解き放ち、勢いよくマシンから跳び上がったライダー達は、空中で何度も身体を回転させながら飛び蹴りの体勢に移って行く。
「ライダー……!」
「……ライダー!」
「仮面ライダー! 行けぇえっ!」
男達の勇姿を仰ぐ解放戦線の女傑達は、祈りを込めて彼らの名を叫ぶのだった。そして、「仮面ライダー」の名を冠する戦士達の飛び蹴りが――4方向から同時に、RCのボディに炸裂する。
――ライダー・クアドラップル・キィイィック!
その雄叫びが重なり合い、天を衝くような轟音が鳴り響いていた。鬼気迫る修羅の形相を仮面に隠した男達の絶叫が、蹴撃のタイミングを完全に合致させている。
そんな彼らの「新必殺技」をまともに喰らったRCは、大きくよろめいて後ずさって行く。これまで、どれほどの猛攻を浴びてもビクともしなかった鉄人の牙城が、初めて揺さぶられたのだ。
最高速度に達したマシンによる助走を活かし、運動エネルギーを極限まで引き上げて繰り出すライダーキック。それを4方向から同時に命中させるこの技は、RCのような防御力に秀でた怪人を倒すために、ケージ達が秘密の特訓で編み出したものであった。
例えどれほど装甲が厚くとも、それに守られている内部機構も頑強であるとは限らない。だが、そういった弱点を抱えている怪人は、敢えて後方に吹っ飛ぶことによって衝撃を逃し、ライダーキックを凌ぎ切ることが出来る。
しかし。4方向から同時にライダーキックを叩き込めば、怪人のボディは運動エネルギーの逃げ場を失い、全ての衝撃がそのまま体内へと伝播することになる。
装甲が破れないなら、その内側を衝撃の波紋で破壊する。それが、「ライダー・クアドラップル・キック」の真価なのだ。
「グ……ォオ、ォオォォ……!」
新世代ライダー達の力を結集させた渾身のキックを浴びて、RCのボディが濁った唸り声を上げて大きくよろめいて行く中。輸送車の車内から小爆発が起こり、状況が動いたのはそれから間も無くのことだった。
「ダメージの蓄積を確認。これ以上の戦闘続行は危険と判断。……これより、戦闘区域外へと『退却』する」
これ以上の戦闘続行は不可能と判断したのか。RCは迷うことなく、輸送車の車内へと逃げ込んで行く。
RCのボディが想定以上の「負荷」を受けた上、無防備なLEP本体にも何発かの銃弾を受けてしまったのだ。この戦いを「演習」として終わらせるためにも、ここで引くことが最良だと判断したのだろう。
ハッチを閉じた輸送車が一気にこの場から走り去ったのは、その直後だった。人工知能故に一切の躊躇がない「退却」に、この場の全員が目を剥く。
「なッ……! こ、こいつ、逃げる気かッ!」
「まっ、待ちやが、れッ……!」
ケージ達は輸送車を逃がすまいと走り出そうとするも、その思いに反して膝から崩れ落ちてしまう。黒死兵達と戦った後の連戦は、想定以上の消耗を招いていたらしい。
それでも諦めまいと、ライダー達は各々のマシンに再び乗り込もうとしたのだが――先ほどのライダーキックで力を使い果たしてしまったのか、その直前で脚がもつれている。
彼らが最後の力を振り絞って何とかハンドルを握り締めた時には、すでにRCを乗せた輸送車は捕捉出来ない距離にまで逃げおおせていた。
「この期に及んで逃げるつもり……!? 待ちなさいよ、このぉおぉッ……!」
「落ち着けニッテ、深追いは危険だ! ……奴が撤退した以上、この街にもうノバシェードは居ない。勝ったんだ……ニッテ。私達が、勝ったんだ……!」
「……くっ……!」
街を蹂躙したノバシェードの刺客。その最後の1人を取り逃してしまったことに、ニッテは激しく憤り怒号を上げる。そんな彼女を懸命に宥めているヴィクトリアも、絶え難い悔しさに唇を噛み締めていた。
彼女だけではない。ノバシェードの撃退に成功し、オーファンズヘブンの平和を取り戻したというのに――解放戦線のメンバー達は皆、どこか腑に落ちない表情を浮かべている。
「……なんとも、逃げ足の早い奴だ。初めから……この場で決着を付ける気などなかったということか」
「くそッ……! いつか必ず、ケリを付けてやるッ……!」
「あぁ……今度こそ、決着を付けねばなるまい。彼女達の無念を晴らすためにも、な」
そんな彼女達の様子を一瞥しているケージとUSAも、同じ気持ちであった。悔しさのあまり地面を殴り付けているケージの肩に手を置いているUSAも、穏やかな声色に反してその拳を震わせている。
――かくして。新世代ライダー達とニッテ達の共同戦線により、オーファンズヘブンはついにノバシェードの支配から解放されたのであった。
その報せに市長はもとより、市街に展開していた正規軍や難民キャンプの避難民達も歓声を上げ、平和の到来を噛み締めて行く。だが、その平和を賭けた戦いの渦中に居た者達は皆、物憂げな表情で空を仰いでいた。
硝煙の匂いが風に流され、戦いの嵐が過ぎ去って行く。その果てに訪れた静寂が、この戦いの終わりを穏やかに告げるのだった。
◆
オーファンズヘブンの市外を包囲していたこの国の正規軍。彼らの中でも「最強」と謳われていた大部隊は、たった1人の怪人によって壊滅的な打撃を被っていた。
約1週間に渡る戦闘で彼らを壊滅させた真紅の馬型怪人は、街を取り囲んでいた正規軍の包囲網に「大穴」を開けていたのである。それは、「学習」を終えたLEPを脱出させるための「出口」を作る攻撃であった。
その攻撃によって切り開かれた道は、オーファンズヘブンを蹂躙したノバシェードの刺客をみすみす通してしまったのである。だが、肝心のLEPがこの戦いで得たものは、結果的にはごく僅かなものであった。
――脆弱な生身の人間には、惰弱な精神しか宿らない。天地がひっくり返ろうとも、完全なるロボット兵器である仮面ライダーRCが、そんな人間に負けることなどあり得ない。
LEPはこのオーファンズヘブンでの戦闘行為を通じて、多くの戦術を「学習」したが。それらの根源にある人間の底力――「勇気」というものを理解することは、終ぞ叶わなかった。
彼は今回の事件で最も学ばなければならなかった「肝心な部分」を、故障を回避するために取り零してしまったのである。だが、彼が見落としていたのはそれだけではない。
ケージを筆頭とする4人の新世代ライダーは皆、接近戦を得意とするタイプばかりだった。
そんな彼らを真正面から圧倒し、力の限り殴り飛ばすという「成功体験」を「学習」したことで。LEPは後に、思いがけない相手に敗北を喫することになるのだ――。
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