| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

仮面ライダーAP

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第22話


 数多の激闘によって破壊し尽くされたニューススタジオ。そこからさらに上の階にある、ガラス壁に面した廊下では――仮面ライダーオルバスとレッドホースマンによる、苛烈な剣戟が繰り広げられていた。

「……ぬぁあぁあぁあッ!」
「はぁあぁあぁあッ!」

 激しい金属音と共に、双方の雄叫びが響き渡る。どちらの装甲も傷だらけになっているが、オルバスのダメージの方が特に深いものとなっていた。
 全身から火花が散っているだけでなく、装甲ごと斬られた肉体が鮮血を噴き出しており、彼の足元では絶えず血溜まりが広がっている。レッドホースマンの方も決して無傷ではないが、オルバスの惨状は立っていること自体が奇跡と言えるほどであった。

 一見すれば互角にも見える剣戟だが、双方が負っている傷の差を見ればオルバスの劣勢は一目瞭然。レッドホースマンの紅い両手剣(バスタードソード)は、オルバスの血を吸いますます深紅に染まっている。
 このまま戦いが続けば、先に倒れるのはオルバスの方だろう。廊下に広がる血溜まりを見れば、誰もがそう確信する。

 ――だが、摩訶不思議なことに。オルバスは戦いが長引けば長引くほど、傷が増えているのにも拘らず、動きが冴えて(・・・)行っているのだ。
 対するレッドホースマンは、ダメージ量においては優位に立っているはずなのに、徐々に動きが鈍り始めている。彼自身がその奇妙な反比例を自覚した瞬間、エンジンブレードの刃が袈裟斬りの要領で、紅い怪人のボディに減り込んでしまった。

(これまで散々斬られて来たが……やっと見えて来たぜ、貴様の太刀筋ッ!)
(ダメージは確実に蓄積されているはずなのに、動きが鈍るどころかどんどん冴えて来やがる……! ジャスティアドライバーの力がそうさせているのか、あるいは……!)

 戦いの中で、オルバスが劇的な成長を遂げているのは疑いようのない事実であった。であれば一体、その原因はどこにあるのか。
 思考を巡らせるレッドホースマンは一瞬、その「力」の源泉はやはり、装甲服の「核」である変身ベルト――ジャスティアドライバーではないかと考えた。

 しかしこの直後、彼はその説が誤りであることを己の痛みで実感することになる。

「……ッ!」
「ここだぁあぁあぁッ!」

 起死回生を図り、振るわれた渾身の一閃。間一髪でそれをかわし、すれ違うようにレッドホースマンの脇下へと、オルバスの身体が滑り込んで行く。

 その勢いが生み出した「力」の流れに、己の身体と刀身の軌道を委ねたオルバスは――弧を描くように、エンジンブレードを振り抜くのだった。

 刹那。横薙ぎに振るわれた大剣の刃が、レッドホースマンの背面に沈み込み――装甲もろとも、彼の背骨を叩き斬って行く。
 その一閃が生んだ衝撃は、斬られたレッドホースマンの身体を貫通し、ガラス壁を粉砕していた。

「ぐっ、ぉ、お……!」

 背骨を斬られた上、そこから吹き込む猛風に体勢を崩されたレッドホースマンは、足元に広がる血溜まりの上をよたよたと彷徨い歩いている。
 決着の行方は、火を見るよりも明らかであった。

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 対するオルバスも、残心をとる余力もなくエンジンブレードから手を離し、片膝を着いている。止血剤による応急処置を始めてはいたが、すでに彼も意識朦朧となっていた。

 そんな彼を見遣るレッドホースマンは変身を維持する力を失い、野戦服を着た長身の美青年――戦馬聖としての姿を露わにしていた。
 素顔を晒した彼は、自身が目を掛けていたオルバスの勝利に、満足げな笑みを溢している。

「は、ははっ……どうやら俺の見立て通り、『後者』だったみてぇだなぁ」
「……何の話だ」
「お前のその力がジャスティアドライバーに由来するものか、お前自身が持つ生来のものか……ってことさ」
「俺自身の力……? 何を言ってやがる。俺の力なら、光博士が作ったジャスティアドライバーのおかげに決まってるだろうが」
「ハッ、馬鹿言え。どんなに凄い代物だろうが、機械は所詮、どこまで行っても機械に過ぎねぇ。その使い手がゴミなら、どれだけ大したマシンでもレースには勝てねぇようにな」

 ジャスティアドライバーを開発した一光博士。彼女の尽力が力の源だと言い放つオルバスに対し、戦馬はオルバスの装着者である忠義・ウェルフリット自身の「成長」が、この勝負の鍵だったのだと確信していた。

 数ヶ月前に一戦交えた時とは、別人のような剣技の冴え。その鋭さを肌で体感した彼は、忠義の弛まぬ努力がジャスティアドライバーの真価を引き出したのだと理解していたのである。

「……誰の命だって、軽いもんじゃあねぇ。それでもそいつを賭けなきゃあ、成し遂げられないことがある。だからこそ、せめてそこには『意義』がなきゃあならねぇ。最後に勝つのは、その『意義』をより強く持っている奴だ。だから……お前は勝ったんだ」
「いやに……嬉しそうだな」
「……嬉しいさ。俺達が改造人間の力を世に示さなくちゃならなかったのは、それだけ人間が弱く、愚かな連中だったからだ。そんな奴らが幅を利かせる時代が、ずっと続いていたからだ」
「……」

 飄々としながらも、どこか物憂げな戦馬の表情を目にした忠義は、暫し押し黙る。
 長い年月を生きて来た始祖怪人だからこそ、必要以上に人間の醜さを見て来たのだろう。それは彼の貌を目にすれば、容易に想像出来ることであった。

 忠義自身も、守るに値するのか分からなくなるような人間達の存在を、知らないわけではない。22年しか生きていなくとも、その程度のことは分かる。
 だがそれ以上に、守らねばならない善き人々が居ることを知っている。だからこそ忠義は仮面ライダーとして、剣を取っているのだ。

「信じても……いいんだな? もう……人間は弱くも、愚かでもないのだ、と……」

 そんな彼の「勝利」を見届けた戦馬は、憑き物が落ちたような安らかな微笑を零すと。命とも言うべき紅い両手剣を手放し、ふらふらと吸い込まれるように――割れたガラス壁から、地上へと墜落して行く。

「……ッ!」

 その瞬間を目撃した忠義は、血溜まりの中で独り拳を震わせていた。この戦いを制したのは間違いなく彼であるが、彼自身は自分を勝者だとは微塵も思っていない。

「……信じていいぜ。俺も……信じてる」

 彼は仮面ライダーである前に、犯人を逮捕しなければならない、警察官なのだから。

 ◆

 オルバスとレッドホースマンの死闘が繰り広げられていた場所のすぐ近くでは、仮面ライダーΛ−ⅴとカマキリザードが雌雄を決しようとしていた。

 全システムを限界以上の出力で強制稼働させることにより、一時的に劇的なパワーアップを遂げる「オーバーロード」。
 その切り札を解き放ったΛ−ⅴは、カマキリザードの強靭な生体装甲すらも穿つほどの膂力を発揮している。そんな彼の絶大なパワーで殴り倒されたカマキリザードも、すでに満身創痍となっていた。

「……オーバーロード状態でこれほど叩きのめしたというのに、まだ動けるか。しぶとい男だ」
「生憎だが……俺は、しぶとさだけが取り柄でな。伊達にあの時代を生きてはいない」

 神風特別攻撃隊の生き残りであり、戦後も闘争に明け暮れ死刑囚にまでなり、それでもなお今日まで生き延びて来た、筋金入りの「死に損ない」。
 そのタフネスを自負するカマキリザードは、Λ−ⅴの鉄拳で全身の骨を砕かれていながら、不遜に口元を歪め、嗤っている。

 一見すればΛ−ⅴの優勢にも見えるこの状況だが、彼の方もオーバーロードの代償として強烈な負荷に晒されており、体力はもはや限界を超えている状態なのだ。
 次の瞬間、どちらが倒れてもおかしくない状況なのである。にも拘らず2人の強者は、その疲弊を決して表に出すことなく睨み合っていた。

「何が貴様をそうさせる。何が貴様を駆り立てる。そうまでして貴様が欲するものとは、一体何なのだ」
「欲するものなら、もう手に入っているさ」
「なに……?」
「改造人間の力を世に知らしめ、清山と柳司郎が遺した伝説をこの時代に紡ぐ。俺達はそのための『死に場所』を、この場所に見出したのだ。そしてお前達が俺達の前に現れた時点で……すでに、その望みは果たされたのだよ」

 その底なしの闘志はどこから来るのか。そんなΛ−ⅴの問いに答えたカマキリザードの言葉に、「男の娘」が眉を顰める。
 次の瞬間、今度はΛ−ⅴの方が仮面の下で笑みを溢すのだった。

「そうか。……それを聞いて安心した」
「……何が言いたい」
「この戦いで何かを勝ち取るつもりも無ければ、生き残るつもりも無い。そんな惰弱な男に負ける理由など無いからな」
「惰弱? 生身の人間風情が言うに事欠いて、改造人間であるこの俺を惰弱と言ったのか」
「その通りだ。俺達仮面ライダーは……いや、全ての人間達は……誰もが『未来』を視て生きている。勝ち取り、そして生き残るために今日を生きている。それは、かつて人間だったお前達にも在ったはずのもの……意志の力だ」

 勝利に懸ける執念。その最も肝要な原動力が欠落している者達の闘志など、恐るるに足らず。
 そう発言して憚らないΛ−ⅴは、挑発に乗って両刃を構えたカマキリザードと鋭い眼差しを交わし――同時に間合いを詰めて行く。

「……『未来』を渇望する意志の力を自ら捨てた貴様達に、俺達が負けることなど万に一つもあり得ない! これで終わりにしてくれるッ!」
「……どのような御託も『決着』の前には全て吹き飛ぶ! かつては誰もが正義と信じた大東亜戦争が、無様な結末を迎えたようにな! そんな敗北の歴史に生きて来たお前達に……何が出来るッ! 何を守れるッ!」

 互いに拳と刃を振りかぶり、双方の命を断ち切らんと全力の一閃を繰り出して行く。この意地を賭けた一騎打ちに、決着を付けるために。

 動きは僅かに、カマキリザードの方が疾い。彼の両刃は弧を描き、Λ−ⅴの首を狙う。
 その刃を両拳の甲で受け止めたΛ−ⅴは、鮮血を噴き上げながらも両刃を払い除け、自身の間合いに飛び込んで行った。

「ぬ、ぅッ……!?」
「歴史に『結末』など存在しないッ! 俺達の歴史は、この先も続いて行くッ! 『仮面ライダー』も『怪人』も要らない時代に辿り着くまで……俺達人間は、生きるッ!」

 自分達が必要とされなくなる、新時代を目指して。Λ−ⅴは剛拳を振るい、全ての力を込めた一撃でカマキリザードの鳩尾を打ち抜くのだった。

 カマキリザードの腹部を貫通し、後方に突き抜けた衝撃波が廊下の壁やガラスを粉々に破壊して行く。怪人の骨がバラバラに砕け、トカゲ型の大顎から鮮血が吐き出されたのは、その直後であった。

「ごぉ、ぁあッ……!」
「はぁっ、はぁ、はぁっ……!」

 生体装甲の防御力など容易く突破する、オーバーロードの鉄拳。
 その一撃に破られたカマキリザードは変身能力を喪失し、野戦服を纏う壮年の戦士――間霧陣の姿を露わにして行く。

 一方、Λ−ⅴもオーバーロードの反動で全システムがダウンしてしまい、明日凪風香の姿に戻されてしまうのだった。
 厳つい壮年の男と、可憐な女子高生のような容姿を持つ「男の娘」。先ほどまで死闘を繰り広げていた者同士とは思えない外見の持ち主である彼らは、同時に倒れ伏していた。

「ぐっ、ふ、ふふっ……『仮面ライダー』も『怪人』も要らない時代……か。残酷なことを言うのだな」
「……不服か」
「ふっ……いいや、そうでもない。殺しもそろそろ、飽きて来た頃だから、な……」

 あまりに長く、あまりに無情な闘争の日々。それがようやく終わる瞬間を、心のどこかで待ち侘びていた。
 それが己の敗因なのだと認めた間霧は、全てのしがらみから解放されたかのように、安らいだ笑みを溢している――。

 ◆

 時代に望まれた新世代の仮面ライダー達。時代に拒まれた旧時代の始祖怪人達。過去と未来を巡る彼らの最終決戦は、ついに終局へ向かおうとしていた。

 新世代ライダーの筆頭として屋上に辿り着いた、仮面ライダーケージ。始祖怪人の暫定リーダーとして、彼を迎え撃つエインヘリアル。双方の命と誇りを賭けた死闘も、決着の瞬間を迎えようとしていたのである。

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」
「……どうやらお互い、限界のようだな。仮面ライダー……!」
「あぁ……終わらせるぞ、始祖怪人ッ……!」

 紅い眼光を妖しく輝かせ、両手の小指から伸びるブレードを静かに構えるエインヘリアル。そんな彼と真っ向から対峙し、両拳を構えているケージ。
 これまで幾度となく拳と手刀を交えて来た彼らは、すでに満身創痍となっている。半壊しているケージの仮面と、戦闘の余波で破壊された周囲のコンクリート片が、その一騎打ちの苛烈さを物語っていた。

 一見、野戦服を纏っているだけの老兵にも見えるエインヘリアルだが、その内側は戦うためだけの戦闘マシーンと化している。
 始祖怪人達の中でも特に旧式である、「変身型」に辿り着く以前に開発されていた「常時怪人型」。後年の改造技術の礎となった「アーキタイプ」としての側面を持つ彼のボディは、最も多くの実戦を経験した身体でもあるのだ。

 人工筋肉による高出力から繰り出される剛力。硬化能力によって高い防御能力を誇る、肌色の外装甲。それら全てを常時起動させている、生粋の怪人。それがエインヘリアルという男なのだ。

「命ある限り……『仮面ライダー』は絶対に、諦めないッ……!」

 ――だが、仮面ライダーケージも負けてはいない。これまで幾度となく、彼のブレードに斬り裂かれながらも、彼はその度に立ち上がって来たのだ。

 足元に広がる凄惨な血溜まりは、彼の装甲などエインヘリアルの刃には通用していないことを意味している。
 それでも彼は臆することなく拳を振るい、最強にして最古の始祖怪人を、ここまで追い詰めたのだ。

 警察官として、仮面ライダーとして、己の職務を完遂する。その鉄血の信念に邁進する彼は、助走を付けて勢いよく地を蹴り――渾身の飛び蹴り「ジャッジメントストライク」を繰り出していた。

 ケージの全エネルギーを投入して放たれた必殺技。その全身全霊の一撃を迎え撃つには、小指のブレードだけでは威力が足りない。
 咄嗟にそう判断したエインヘリアルはケージの動きを観測しながら、体内の機械を調整して即座に自身の片脚へとエネルギーを集中させて行く。彼はこの一瞬で、初見の技であるジャッジメントストライクを己のものとしたのだ。

「……はぁあぁあぁあッ!」
「ぬぅあぁあぁあッ!」

 やがて、ケージの渾身の飛び蹴りが炸裂する瞬間。「剛力」と「硬化」を限界まで引き上げることで、ケージの蹴りと同等の威力を獲得したエインヘリアルの片脚が、ジャッジメントストライクを迎撃する。
 凄まじい轟音と共に激突した両者のキックは、全くの互角。それ故に、「必殺技」に相当する破壊力を持ったキックの衝撃が、双方の蹴り足に襲い掛かるのだった。

「あっ、が、あぁああ……ッ!」
「ぬぅう、おぁあぁッ……!」

 その代償は決して、軽いものではない。
 同時に倒れ込んだ2人は、悲痛な呻き声を上げてのたうち回っている。必殺級のキックが相殺された結果、その反動がそのまま彼らの片脚を潰してしまったのだ。

 ケージとエインヘリアルの片脚は曲がってはいけない方向に折れ曲がっており、誰の目にも明らかなほど、使い物にならなくなっている。どちらが生き残ろうと、もはや2度と戦える身体ではない。

「ふぅっ、ふうぅッ……! お、ぉおおッ……!」
「んぬぅうッ、ぉおあぁあぁッ……!」

 そのような状態であるにも拘らず、彼らは残った片脚を頼りに立ち上がり、へし折れた足を引き摺りながらも戦闘を続行しようとしていた。エインヘリアルは小指のブレードを展開し、ケージは拳を振り翳している。

 互いに血走った眼で相手を射抜き、刺し違えてでも仕留めるという信念を胸に、ズリズリと片脚を引き摺って行く。

「俺はッ……俺は、絶対に諦めんぞッ……! そうでなければ、俺はァッ……!」
「……」

 その中でエインヘリアルは、半壊しているケージの仮面から覗いている、鳥海穹哉の凄まじい形相を目にしていた。

(……鳥海穹哉。やはりお前は……私の全てを否定するために生まれて来たような男だな)

 彼の頭に巻かれている「赤い鉢巻」を視界に入れた老兵は、忌々しげに眉を顰めている――。

 ◆

 仮面ライダーGに敗れた後、約10年以上にも及ぶ仮死状態から目醒めた始祖怪人達。彼らは自分達の状況と世界の情勢を把握してから間も無く、劣勢に陥っていたノバシェードと合流し、組織を立て直して見せた。

 その一環として戦闘員達を鍛え上げていた彼らは訓練の成果を「テスト」するべく、新世代ライダー達の身元を調べ上げ、彼らの「家族」を狙うように命じていた。
 しかし番場総監もその可能性については想定しており、ライダー達の弱点を狙おうとした卑劣な作戦は、ほとんどが(・・・・)失敗に終わったのである。

 その中で唯一、成功してしまった(・・・・・・)ケースが――鳥海穹哉の家族であった。警視庁の監視網を潜り抜けた戦闘員が、彼の不在を狙って自宅に火を放ったのである。

 最愛の妻と小学生になったばかりの息子を喪った彼に遺されたのは、初めての運動会に挑戦した記念にと、息子が学校から貰っていた「赤い鉢巻」だけだった。
 警察官と言えども、常人の精神力ならば心を折られてもおかしくない悲劇。だが彼はそれでも、息子の形見と共に戦いを続けたのである。

 彼は誰に対しても悲しみを見せず、何事も無かったかのように振る舞い。憎しみと嘆きを押し殺し、警察官として、仮面ライダーとしての使命に邁進し続けたのだ。その仮面の下に、あるがままの涙を隠して。

 先ほどまで番場邸で催されていた彼の誕生日パーティーも、そんな彼の胸中を慮っていた忠義・ウェルフリットの呼び掛けによるものであった。
 いつ妻子の後を追ってもおかしくない状況にある彼を案じ続けていたからこそ、21人の仲間達は気を遣わせないように何も知らない振りをして、あの場所に集まっていたのだ。結果としてその呼び掛けが、この戦いにおいては図らずも功を奏していた。

 そして――そんな彼の存在は、エインヘリアルこと山城一の人生そのものを否定していたのである。

 76年前の太平洋戦争末期。海軍大佐として神風特別攻撃隊を指揮していた当時の彼は、かつての部下だった間霧陣少尉をはじめとする、多くの若者達を「特攻」に送り出していた。
 その中には、間霧と同世代だった彼の息子も含まれていたのである。アメリカ軍の侵攻を僅かでも食い止めるため、彼はそれが正義なのだと信じて、我が子すらも死地に追いやっていたのだ。

 戦後、彼が死に場所を求めていたのは、己の正義を否定されたことだけが理由ではない。息子を犠牲にしていながら、その「報い」を受けることなく生き残ってしまった己が、誰よりも何よりも許せなかったのだ。
 その苦悩の果てに改造手術を受け、怪人に堕ちていた彼にとって――鳥海穹哉の存在は、到底受け入れられないものであった。

 己の無力さが我が子を殺したというのに、彼は折れることも堕ちることもなく、むしろその悲しみすらも糧にして前に進もうとしている。そんな鳥海穹哉の姿は、山城一の人生そのものを否定していると言っても過言ではないだろう。

 だからこそ。そんな彼こそが、山城一という男を終わらせる「執行人」に相応しい。少なくとも山城自身は、そう考えていた。

 そして、その2人がこの戦地で巡り合った瞬間には――こうなる(・・・・)ことはもはや、運命付けられていたのかも知れない。

 ◆

 ――やがて。よたよたとふらつきながらも、互いの拳と刃が届く間合いに辿り着いた瞬間。男達は最後の力を振り絞り、吼えるのだった。

「でぇあぁあッ……!」
「ぬぉおぉあぁあッ……!」

 そして2人は、腰が入らないまま拳と刃を振り抜き――互いに空を切る。そのまま胸と胸をぶつけ合った彼らは、激しく息を荒げながら転倒し、力尽きてしまうのだった。

「か、はッ、あッ……!」
「ぐっ、はぁあ、ぁッ……!」

 数年前に仮面ライダーGとの戦いに敗れ、仮死状態に陥っていた時から。エインヘリアルをはじめとする始祖怪人達のボディは耐用年数をすでに超過しており、かつての性能(ポテンシャル)を発揮し切れないところまで「老朽化」していたのだ。
 5年前、仮面ライダーAPとの最終決戦に臨んだ羽柴柳司郎が、そうだったように。

 そして仮死状態から目覚めて間も無く、戦闘行為を再開したことで。止まっていた彼らの時計は再び動き出し――この瞬間、すでに老朽化していたボディがついに限界を迎えてしまったのである。

 改造後も生身の部分を多く残していたため、変身前の外見も年相応に老けていた羽柴柳司郎とは違い、変身前の彼らの容姿は47年前からさほど変わっていない。

 それは柳司郎と比べて、生身の部分がごく僅かしか残っていなかったためなのだが……その変化の少なさが、「衰え」に対する自覚を妨げていたのだ。
 人間ではないからこそ、己の身体に残されたダメージに対しても鈍感になってしまう。それ故に彼らの多くは、かつて仮面ライダーGに敗れた際に生まれた「古傷」も見落としていた。

 もし彼らが、全盛期の能力とボディを維持したまま現代まで生き永らえていたのであれば。新世代ライダー達には、万に一つも勝ち目など無かったのだろう。

 だが、例えばの話に意味はない。始祖怪人達の老朽化が極限の域に達したことにより、双方の力量差に揺らぎが生じた。その現実に、変わりはないのだ。

 そして、その揺らぎがこの戦いの明暗を分け、新世代ライダー達に勝利を齎したのである。

「ぐ、うッ……!」

 ケージが辛うじて上体を起こしている一方、全く起き上がれずにいるエインヘリアルの姿が、その証左となっていた――。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧