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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第16話

「威勢が良いのは結構だが、身体の方は全く付いて来てねぇようだなッ! 今度こそ終わりにしてやるぜッ!」

 ――放送局入口前の庭園。黒煙と炎に彩られたその戦場の中で、ミサイルイナゴは「とどめ」のミサイル連射を発動していた。

 腹部から乱れ飛ぶ無数の弾頭が、獲物を喰らい尽くすべく満身創痍のZEGUNを襲う。
 だがZEGUNは、この土壇場でゼガンシューターを投げ捨てると――腰部から「ゼガンサーベル」という熱線刀剣(ビームサーベル)を引き抜き、ミサイルの信管だけを切り落としてしまった。

「なにッ……!?」
「……付いて来なくたっていいのさ。貴様の『データ』なら、もう十分取れているからね……!」

 これまで、被弾を覚悟でミサイルイナゴの攻撃を「観察」し続けていたZEGUNは、ようやくその弾道を完璧に見切れるだけの経験則(データ)を得たのである。
 ミサイルを無力化するための手段と、それを実行するための技術が揃った今、恐れるものは何もない。

 ZEGUNは矢継ぎ早に飛んで来るミサイルを次々と切り落としながら、傷付いた身体を引き摺るように前進し――ついに、剣が届く間合いにまで辿り着くのだった。

「はぁあぁああぁッ!」

 出力を最大限に引き上げるための専用カードを差し込み、熱線刀剣のエネルギーが最高潮に達した瞬間。
 ZEGUNはその状態から、ミサイルイナゴを斬り伏せる必殺の一閃「スラッシュサーベル」を繰り出したのだった。

「ぐぉあぁああッー!」

 超高熱の刃で袈裟斬りに斬られたミサイルイナゴは、体内に残っていた弾頭の誘爆に飲まれ――爆炎に包まれてしまう。

 その爆炎と猛煙が過ぎ去った頃には、すでにミサイルイナゴの姿はなく。そこに立っていたのは、煤塗れの野戦服を纏う橋部一雄という1人の人間であった。

「……どれだけボロボロになっても、仮面ライダーは諦めねぇってことを俺に思い知らせる。それが……この攻撃の『意味』だったってわけかい」
「残念だが……伊達や酔狂だけで命を賭けられるほど、僕は馬鹿にはなれなくてね。勝てる見込みがあるからこそ、僕はそこに賭けるのさ」
「ハッ……大したもんだぜ、お前らは、よ……!」

 ZEGUNの言葉に軽薄な笑みを浮かべた橋部は、膝から崩れ落ち、倒れ伏して行く。
 その光景が、この一騎打ちの勝敗を物語っていた。だが、それを見届ける暇もなく――全身全霊の必殺剣(スラッシュサーベル)で力を使い果たしたZEGUNも力尽き、崩れ落ちてしまうのだった。

(……兆候は僅かだったが、間違いない。すでに深手を負っている僕達以上に……彼らの動きが鈍り始めている。やはり、彼ら始祖怪人のボディはもう……)

 ――戦いの中に見出した微かな違和感に、一つの確信を覚えながら。

 ◆

 アルコサソの後頭部付近に備わっている触手と、その先端部に仕込まれた毒針。
 装甲を貫通して打ち込まれたその神経毒は、確実にEXを体内から蝕んでいた――はずなのだが。

「ん、はぁっ……! はぁ、あ、んっ……!」

 毒性怪人対策として、ライダー達が事前に注射していたワクチンが、その症状を抑え込んでいたらしい。臀部に神経毒を突き刺されていたEXは、アルコサソに対して尻を向けるように前屈みになった体勢のまま、全身を襲う痺れに苦悶の声を上げている。
 それでも――仮面の下で艶かしく頬を上気させていたEXこと美里は、両脚を震わせながらも地を強く踏み締めている。やがて彼女はアルコサソの方へと向き直り、肘と踵から伸びる強化装具の刃を構え直していた。彼女はまだ、戦うつもりなのだ。

(人間辞めてるのは、そっちの方なんじゃない……!?)

 そんな彼女の、常軌を逸した尋常ならざる「執念」に、アルコサソは驚愕を露わにしている。もし今が変身前の状態だったなら、その可憐な貌を引き攣らせていたところだろう。
 精神が肉体を凌駕することなど、科学的にはあり得ない。その確信を、揺るがされているのだ。

「神経毒は間違いなく打ち込んだはずなのに……それでも動けるなんて、ボクらよりも怪物染みてるねぇ!」
「う、ぐ、ぅうぅっ! はぁ、ぁうっ……! そ……そうだとも。僕達は……人間は強いのさ。上辺だけの強さに囚われた、君達のような怪人よりも……よほどねッ!」

 臀部上方の尻尾先端に付いたラッパ状の部分。そこから放たれる音波攻撃に一度は倒れ伏し、尻を突き上げながら耳を塞いで苦悶しながらも――気力を振り絞って立ち上がったEXは、両肘の刃で斬り掛かって来た。

「甘いッ!」
「ぐぅうぅうッ……!」

 飛び道具を持たない彼女に対して有利な間合いを保つため、アルコサソはさらに音波攻撃の「ギア」を上げ――最大出力の衝撃波を放ったのだが。

「……とあぁあぁぁッ!」
「なッ……!?」

 一度吹っ飛ばされたEXは空中で後転して受身を取り、着地と同時に地を蹴って再び突っ込んで来る。回転の際に向けられた尻に気を取られる暇もなかった。
 予想外の挙動で不意を突かれたアルコサソは、咄嗟に右腕の爪で防御するも、EXの両肘による斬撃を受けた箇所に亀裂が走ってしまった。

(なんて馬鹿力ッ……!)

 これ以上、EXの攻撃を爪で受けるのは不味い。そう判断したアルコサソは即座に爪を腕部に収納し、バックルから馬上槍を引き抜こうとしたが――間に合わず、側面に飛び込んで来たEXの刃で、尻尾を根元から切り落とされてしまった。

「ぐわぁあッ!? あ、あぅうぅう〜っ……!」
「もうその技は使えないねッ……!」

 尻を押さえながら悲鳴を上げるアルコサソは俯せで顎を地に付け、ぷりんっと尻を突き上げる体勢になって尻を振り続けながら、痛みに耐えるようにぷるぷると身を震わせている。

「貰っ、たァァアッ!」
「こ、のおぉおッ!」

 そこまで接近された状態では、馬上槍で再び刺し貫くのも難しい。突き出した尻に追撃を受けそうになっていたアルコサソは、身を翻してEXの両肩を掴むと、顎部(クラッシャー)の牙を開いて彼女の頭を噛み砕こうとする。

「ぐぅッ!? う、ぅあぁあっ……!」
(このまま噛み砕いて……ッ!?)
「僕は負けない……! 君にだけは、絶対にッ!」

 だが、その牙がEXの仮面を貫通して、美里の頭に届く前に。彼女のパンチを下顎に受け、脳を揺さぶられたアルコサソは大きく体勢を崩されてしまう。

「あがぁっ……!?」

 その衝撃に仰け反りながらも、なんとかバックルから馬上槍を引き抜いたアルコサソは、追撃の刃を柄で防御しながら、後方に飛び退いて間合いを確保して行く。

 ここに来て彼は、この戦いで初めて「後退」したのである。その最大の隙を、EXが見逃すことはなかった。

 後ろに下がるという行為は、正面に対する攻撃の勢いを殺すことに繋がる。
 そこに勝機を見出したEXは、牽制のために放たれた触手を肘で斬り払いながら、アルコサソの懐に飛び込んで行く。だが、一方的に攻め立てられるだけの始祖怪人ではない。

「ボクのそばに……近寄るなァァーッ!」
「うっ、ぐ、あぁああッ!」

 馬上槍の先端から発せられる反重力光波。その妖しい輝きに飲み込まれたEXの身体が、ふわりと浮き上がって行く。
 アルコサソはそんな彼女を弄ぶかの如く、槍の先端を揺らして光波を制御し、EXの尻を持ち上げるようにその身体を何度も空中で後転させていた。

「あぅっ、こ、これは……はぁぁぁうっ!?」
「もうお遊戯の時間はお終いだよ、久我峰警部……! そぉおおらっ!」

 だが、それは「お遊び」の類ではなく――回転により発生する運動エネルギーを、「衝撃力」に変えるための予備動作なのだ。
 さらにアルコサソは槍の先端を振るい、EXを振り回すように、何度も彼女の身体を空中で往復させて行く。

「……でぇえーいッ!」
「がはぁあッ……!」

 そして、槍の切っ先が勢いよく振り下ろされた瞬間。それに比例してEXの身体も地面に叩き付けられてしまうのだった。
 全身に亀裂が走った装甲服の惨状と、そこを中心に広がる地面のひび割れが、その威力を物語っている。

「ま、まだ、だァアッ!」
「……ふ、不死身なのっ!?」

 それでも、EXは立ち上がって来た。そのボディは誰の目にも明らかなほどにボロボロだというのに、彼女はそれでもアルコサソに向かって来たのである。

「くッ……! この、死に損ないがァッ!」

 反重力光波は連発出来ない。2発目は間に合わない。それでもアルコサソは怯むことなく、刺突が可能な間合いに入った瞬間、馬上槍の切っ先を突き出していた。
 その刃先を払うため、EXはそこに向けて刃の付いた踵でのローリングソバットを放つ。

「往生際が悪いなァッ……! 女らしい(・・・・)淑やかさってものがないね、君ッ!」
「……この期に及んで戦う相手に淑やかさを求めるとは、随分と女々しい(・・・・)男だなッ!」

 女のような男である「男の娘」。男のような女である「男装の麗人」。
 両者は互いに吼え、それぞれの刃をぶつけ合う。馬上槍の先端と、踵の刃を振るうローリングソバットが激突し――その両方の刀身が、粉々に砕け散る。

「やっぱり君は……!」
「どこまでもッ……!」

 ――気に食わないッ!

 そんな2人の叫びが共鳴する。だが、まだ終わりではない。

 EXはその勢いのままアルコサソの頭上に跳び上がり、スラリと伸びた長い脚を振り上げる。残されたもう片方の踵の刃を活かした、踵落としの体勢に入ったのだ。

 対するアルコサソも最後の力を振り絞り、白のマントを翻して防御姿勢に移ろうとしていた。密かに再生させた触手の毒針と、右腕から再び伸張させた爪で、起死回生のカウンターを仕掛けるために。
 そして、マントに隠されたその爪の先端部は――妖しい輝きを宿していた。

(久我峰警部、君は実に素晴らしい「素体」だ……! 君ほどの戦士なら必ず、最高の「怪人」になれるよ……!)

 アルコサソの爪は単なる武器ではなく、人間の肉体を改造する遺伝子操作ビームを発射することも可能なのだ。彼はこれまで、多くのシェード隊員達をその光線で「怪人」に仕立て上げて来たのである。

 生身の人間でありながら、始祖怪人である自分をここまで追い詰めた仮面ライダーEX――久我峰美里。
 ただでさえ強い彼女が改造人間の力を手にすれば、一体どれほどの怪物が誕生するのか。数多の改造手術に手を染めて来たアルコサソだからこそ、その可能性に興味を持たずにはいられなかったのである。

(さぁ、仕掛けておいで……! 君の刃を凌いだら、その瞬間にもう一度神経毒で動けなくしてあげる! そこから先は、公開改造ショーの始まりさ……!)

 触手の毒針で短時間でもEXの動きを止めれば、後は遺伝子操作ビームで即座に彼女を改造することが出来る。
 例えその後、人智を超えた怪物と化した彼女に嬲り殺されるのだとしても、本望だと言える。むしろ、自分の全てを賭けて作り出す最後の怪人になるのだから、それくらいでなければ。

 ――EXの底力に魅入られたことで、そのような狂気に囚われていたアルコサソは、白マントの下で妖しく牙を研いでいる。

「はぁあぁあぁあーッ!」
「ぐが、ぁあッ……!?」

 だが、そのチャンスが彼に訪れることはなかった。

 踵落としの要領で、上段から袈裟斬りを放つ「ヘルスラッシュ」の一閃は――白のマントを貫通し、アルコサソの胸を切り裂いてしまったのである。
 カウンターを繰り出す余力など一切与えず、完膚なきまで叩きのめす一撃必殺。その一閃は、毒針も遺伝子操作ビームも出せなくなるほどの、絶大なダメージを齎したのだ。

「がっ……は、あッ……!」

 必殺の刃を受けたアルコサソは仰向けに倒れ、反撃のために蠢いていた触手も力尽きたようにしなだれて行く。すでに限界に達していた右腕の爪も、粉々に崩壊していた。

 尻をEXに向けるような姿勢でひっくり返っていた彼の両足が、一拍遅れて地面に投げ出されて行く。
 この一騎打ちを制した勝者がEXであることを、その光景が如実に語っていた。

 やがてアルコサソとしての姿を保つ力も失われ、その外骨格が崩れ落ちた頃には――アシュリー・フォールとしての「正体」が晒されていた。

「……ははっ。これが……ボクに相応しい、『末路』と『報い』ってことか……」

 変身が解け、ありのままの姿に戻されたことを悟ったアシュリーは、自分の白い手を一瞥して乾いた笑みを零す。
 そんな彼の自虐的な姿を目にしたEXは、力尽きたように膝を着きながらも、仮面の下で切なげな表情を浮かべていた。

 やがてEXのボディも限界に達したのか、その外骨格がボロボロと崩れ落ちて行く。
 装着者である久我峰美里の美貌と、汗ばんでいるスレンダーな肢体が露わにされたのは、それから間もなくのことだった。反重力光波を受けた時点で、スーツの耐久力はとうに尽きていたのだろう。

 最低限のインナーとスパッツだけに包まれた、引き締まった白い肉体。その珠のような柔肌にじっとりと滲む汗は、彼女の肢体に宿る蠱惑的な香りをむわりと漂わせていた。
 外骨格の内側で熟成されていた、芳しい戦乙女の芳香。その扇情的かつ濃厚な匂いが、彼女の肉体が感じていた極限の昂りと緊張感を物語っている。

「……不思議なものだね。ついに君を討てたというのに……期待していたほどの高揚感も無ければ、達成感も無い。在るのは……虚しさと、憐れみだけだ」
「憐れみ? ……ボクがそんなに、惨めに見えるのかい」
「あぁ……今なら分かるよ。君か……君達という存在が、いかに憐れなものだったのか」

 12年前の雪辱を果たしたことで、命を落とした同僚達の無念は確かに晴らされた。だが、その先に在ったのは深い憐れみであった。
 アシュリーの弱り切った姿が、そのような気持ちにさせているのか。憂いを帯びた貌を露わにした美里は、あれほど憎んでいたはずの宿敵を切なげに見つめている。

 ――始祖怪人達は皆、自ら志願して「怪人」になった者達であり、それ故に己が改造人間であることを誇り、生身の人間達を「弱者」と見做していた。

 それは自分達こそが「強者」であらねばならない、という強迫観念にも似た使命感に由来するものだった。人間に絶望した彼らは、その「使命」に未来への希望を委ねなければならなくなっていたのである。

 これは、人間の自由と平和を守るためだけの戦いではない。
 人間の強さを信じられなくなっていた彼らに、人間の力で勝つことにより。その使命という名の呪縛から、永遠に解放するための戦いでもあるのだ。

 敗北によって己を見失ったアシュリーの姿から、その本質を見出したからこそ。美里は憎しみに染まり切ることなく、彼を憐れむようになったのである。

 そんな彼女の表情から、その心の動きを悟っていたアシュリーは――自分に向けられた憐憫の想いを感じ取り、打ちひしがれた表情で夜空を仰ぐ。

「本当に……気に食わないよ、君は」

 出て来た言葉は、これまで通りの憎まれ口。だが、その表情は――ほんの僅か、救われているようにも見えていた。
 
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