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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第8話

 
前書き
◆今話の登場怪人

間柴健斗(ましばけんと)/Datty
 横須賀で生まれ育った元プロボクサーであり、アメリカ軍兵士を父に持つハーフの巨漢。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、Dattyと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は30歳。
 ※原案はサンシタ先生。

LEP(ロード・エグザム・プログラム)/仮面ライダーRC
 兵員輸送車に内蔵された大型のスーパーコンピューターから制御されている、有線操作式のロボット怪人。現在は徳川清山が運営する傭兵会社で運用されており、仮面ライダーRCと呼ばれる怪人として戦っている。
 ※原案は秋赤音の空先生。
 

 

 怪人達の手によって繰り広げられている、非力な愚者達に対する制裁という名の殺戮。その惨劇に悲鳴を上げる兵士達の断末魔も、徐々に少なくなって来ていた。

 ハイドラ・レディやアルコサソとの交戦を免れた兵士達も、結局は他の怪人と遭遇し、無惨な最期を遂げる運命にあるのだ。その運命から逃げられる者など、1人もいない。

「ぐぎゃ、ぁッ!」

 真紅の堅牢な装甲で全身を固めている怪人に、頭を掴まれてしまった兵士も。まるでトマトのように、ぐちゃりと頭部を握り潰されていた。

 鮮やかな蒼色のまだら模様が浮かんでいる両腕は逞しく肥大化しており、怪人の握力の凄まじさを物語っている。「仮面ライダー」を想起させる青い複眼を持つその怪人は、慄く他の兵士達にその凶眼を向けていた。

「……おいおい、張り合いがねぇなァ? そんなことじゃあ、俺の身体には傷一つ付けられねぇぜ?」

 ――Dual ability transplant test body、通称「Datty」。それが「二重能力移植試験体」という意味を持つ、この怪人の名であった。
 そのコードネームを背負う間柴健斗(ましばけんと)は、怯える兵士達を嘲笑うような声を上げている。褐色の肌と、短く刈り上げた黒髪を持つ巨漢は、その本来の姿をこの外骨格の下に隠していた。

 モンハナシャコのパンチ力とタスマニアキングクラブの握力を移植したこの怪人は、柳司郎をはじめとする怪人達の中でも屈指の格闘能力を持っている。
 当然ながら、接近を許した生身の兵士達に勝ち目などあるはずもない。

「ひ、ひぃいッ……!」
「くそッ、奴と正面から対峙するな! 遮蔽物から隙を窺えッ!」

 それでも残った兵士達は、この地獄からの生還を諦めてはいなかった。彼らは牽制射撃を続けながら、大型戦車の陰へと逃げ込んで行く。
 ケルノソウルの火炎放射によって内側から蒸し焼きにされ、今は無人となっている大型戦車。事実上の「残骸」とはいえ原型はそのままであり、装甲も健在。怪人の攻撃を凌ぐ遮蔽物としては有効と判断したのだろう。

「くっ、はははは……! それで安全な場所に逃げ込めたつもりかァ? いいぜぇ、だったら冥土の土産に面白えモン見せてやるよ」
「な、なにッ……!?」

 だが、Dattyはそんな彼らの懸命な「判断」さえ嘲笑している。彼がその肥大化した右腕を構えたのは、それから間も無くのことだった。

「そぉお……るぁあぁあッ!」

 勢いよく振り抜かれた、改造人間の剛拳。その圧倒的なパワーで繰り出されたアッパーが、大型戦車の巨大な車体を浮き上がらせてしまったのである。

 そして浮き上がった車体は、後方に向かって大きく弧を描き――転覆しようとしていた。

「せ、戦車が、浮いッ……!?」
「うぁ、ぎゃあぁああーッ!」

 あまりにも凄まじいその威力に、呆然としていた兵士達。
 彼らはその動揺故に逃げ遅れてしまい――そのまま転覆した戦車の「下敷き」にされてしまうのだった。

 ひっくり返った戦車の底から、血の池が広がっている。その様子を一瞥したDattyは、満足げに鼻を鳴らしていた。

「あー……スッとしたぜぇ。ゲス共には似合いの墓標だろう? ……なぁ? 大将」
「ひっ……!? ぎ、ぎいやぁぁあっ!」

 陽炎の中で妖しい輝きを放つ、Dattyの青い複眼。その大きな双眸は、すでに隊長格の男を捕捉していた。
 Dattyと視線が交わってしまった隊長格の男は、恥も外聞もなくこの場から逃げ去って行く。その先に居る者を知っているDattyは、敢えて追うことなく彼の背中を見送っていた。

「……チッ、最後の最後まで情けねぇ野郎だ。弱い奴ってのは、これだから嫌いなんだよ」

 彼は忌々しげな声色で、隊長格の「醜態」に舌打ちしていた。その脳裏には、これまで彼が叩きのめして来た「群れるしか能のない弱者達」の醜い姿が過ぎっている。

 ――戦後、横須賀で生まれ育った間柴には父親が居なかった。進駐軍に所属していたアメリカ軍兵士であることしか分からず、彼は実の父親の顔すら知らないまま、母親と2人で生きて来た。
 貧しい暮らし、肌の色。そんな理由で迫害を受けていた彼は、母親が病死するまでひたすら喧嘩に明け暮れていた。

 そして天涯孤独となった彼はやがてボクシングの道に進み、プロボクサーとして活躍するようになったのである。
 だが、日本人初のヘビー級世界王者という快挙に届く直前――多くの対戦相手から恨みを買っていた彼は闇討ちに遭い、ボクシングが出来ない身体にされてしまったのだ。

 群れるしか能のない、醜悪な弱者達。間柴はそんな連中に、栄光の未来まで奪われたのである。そんな彼の前に現れたのが、徳川清山だったのだ。
 彼の手で改造人間として蘇った彼はもう、プロボクサーとしての表舞台に戻ることはなかったが。「醜悪な弱者達」に然るべき「報い」を受けさせた彼は、悔いることなく改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)の道に身を投じたのである。

 上等な料理、酒、女。それらを求める快楽至上主義者にとっては、人間としての尊厳など軽いものだったのである。

 どんな生き方であろうと、自分らしく最後まで生きる。それが間柴健斗の生き様であり、死に様なのだから。

 ◆

「ひぃ、ひぃっ……! どういうことなのですか、ザン大佐……! あの村ごと奴らを砲撃すれば、皆殺しに出来るのではなかったのですかっ……!」

 アッパーカットで大型戦車を転覆させた、Dattyの凄まじいパンチ力。その一撃を目の当たりにした隊長格の男は、青ざめた顔で遠くを見据え、ただひたすら走り続けていた。
 自分達に砲撃を命じた上官が、すでに柳司郎の手で討伐されていることも知らずに。彼は必死に胸元の無線機で、ザンと連絡を取ろうとしている。

 そんな中、彼の目にあるものが飛び込んで来た。身に覚えのない兵員輸送車が無造作に残置されていたのである。

「兵員輸送車……!? 無人のようだが……我が軍の車両ではないな、奴らのものか!? しめた、この輸送車を奪えば奴らの追撃からも逃れられる!」

 かつてアメリカ軍で運用されていた、M59装甲兵員輸送車。国防軍では採用されていないその車両が、柳司郎達が所有しているものであることは明白だった。
 幸いにも、この車両から人の気配は感じられない。これを奪えば、炎の海を抜けて戦場から離脱することも出来るはず。

「死んでたまるものか、死んでたまるものかッ! 私は何としても、絶対に生き延び――!?」

 隊長格の男はその可能性に賭け、藁にも縋る思いで運転席に駆け寄ろうとする。
 だが、その時――突如として車体後部のハッチが開かれ、そこから1人の怪人が現れたのだった。予期せぬところから姿を見せた伏兵に、隊長格の男は声にならない悲鳴を上げる。

 別の世界において、「仮面ライダー1号」と呼ばれている始まりの戦士。その外見に酷似しつつも、無機質な鈍色で統一されている機械的なボディ。
 その全身の各部から生えている無数のコードは、ハッチの奥に設けられている巨大なコンピューターに繋がれていた。

 そんな外観を持つ「仮面ライダーRC」は、この兵員輸送車の中から静かに外敵を待ち構えていたのだ。
 2年前、徳川清山が旧ナチスの地下基地で発掘した、「古代超文明のオーパーツ」を中枢に組み込んで開発した自律機動システム「LEP(ロード・エグザム・プログラム)」。その頭脳部に当たる大型のスーパーコンピューターが、この兵員輸送車に搭載されている。

 仮面ライダーRCは、そのLEPが自己防衛用として操作している人型の外部端末(ロボット)なのである。
 大型故にLEPのスーパーコンピューターは、輸送車に積まなければ動くことが出来ない。そしてコンピューターであるが故に、そのままでは外敵に抗する術がない。

 その問題をクリアするために生み出された鋼鉄の番人が今、隊長格の男の前に現れているのだ。

「……ヴヴ、ア、ァ……」
「ひ、ひひぃっ!? 奴らの仲間か!? ええい、そこを退けッ! 私は何としても、ここから生き延びるのだァァアッ!」

 隊長格の男は無我夢中で突撃銃を連射するが、濁った機械音声を発しているRCのボディには傷一つ付かない。
 その弾薬が尽きるや否や、副兵装(サイドアーム)自動拳銃(オートマチック)をホルスターから引き抜き発砲するも、やはり通じる気配はなかった。

 怪人達の中でも特に優れた防御力を持っているRCの装甲は、戦車の砲撃にも耐え得るのだ。歩兵の携行火器など、通じるはずがないのである。

「ダ、ダメだ……やはり銃が通じていないッ! に、逃げねば……少しでも遠くに逃げねばぁッ!」

 やがて自動拳銃の弾も尽き、隊長格の男は踵を返して真逆の方向へと逃げ出して行く。だが、RCは彼を追おうとはしなかった。

「……ん!? 奴が、追って来ない……!?」

 否、追えなかったのである。LEPを積んだ兵員輸送車から有線コードで繋がれているRCは、そのコードの長さよりも遠い場所には行けないという欠点があるのだ。

 動き自体が鈍重なこともあり、RCは隊長格の男に手を伸ばすのが精一杯となっていた。そんな彼の弱点を思わぬ場面で発見した隊長格の男は、恐怖から解放されたように頬を緩ませる。

「まさか、奴の背部に接続されているのは制御コード……なのか!? ははっ、脅かしおって! ならばコードの長さまでしか動けん木偶の坊ではないか! はははははっ!」

 有線コードの長さが移動範囲の限界であるなら、それより遠くに離れてしまえば何も出来ない。そんなRCを嘲笑う男の声が、この戦場の夜空に反響していた。

 それが致命的な「油断」であることにも、気付かないまま。

「ほう? 俺のところまで戻って来るとは、なかなか肝の据わった野郎じゃねぇか。見直したぜ」
「はっ……!?」

 気付いた時には、すでに隊長格の男は――背後に立っていたDattyに、後ろ襟を摘み上げられていたのである。

 そう、この男はRCから逃れようとするあまり、自らDattyの方に近付いてしまっていたのだ。抵抗する暇もなく宙に浮いてしまった男の脚は、地面に着くことすら叶わなくなっていた。

「うぉあぁあッ!? は、離せッ! 離さんかァァッ!」
「そう騒ぐなって、すぐに離してやるさ。……アイツの前に、な」
「ひ、ひぃぃいッ……!」
「お前のガッツを見込んで、第2ラウンドを用意してやろうってんだ。感謝しろよ?」

 必死に手足を振り、身体を揺らし、後ろ襟を摘んでいるDattyの手から逃れようとする。だが、兵士の頭を容易く握り潰し、戦車をパンチ1発でひっくり返してしまうDattyの腕力から逃れる術などない。

「や、やめろ、私の前にアイツを寄せるなぁあぁぁーッ! 離せ離せ、離してくれぇえーッ!」
「だったら勝てば良いんだよ。何としても生き延びるんだろ? せいぜい頑張りな、大将」

 少しずつ近付いて来る、「処刑」までの時間を楽しむかのように。Dattyは敢えてゆっくりと、摘み上げた男の身体をRCの前へと運んでいた。

「ヴァ、ァァア……!」
「ひっ、ひぎゃあぁあッ! や、やめろ、やめろやめろ、やめろぉおぉおぉーッ!」

 そして、Dattyが後ろ襟から指を離した途端。隊長格の男は、RCの眼前に降ろされてしまうのだった。
 RCの複眼が妖しい輝きを放ち、隊長格の男を冷酷に見据えている。その絶望的な光景が、男の正気を奪い去っていた。

「わ、私は……私は絶対に生き延びるんだァッ! ……野郎ォォオッ! ブッ殺してやァァァァアるッ!」

 改造人間に敵うはずがないという彼の理性が、生存本能に押し退けられたのか。
 男は半狂乱になりながら、胸元の鞘から引き抜いたコンバットナイフを、RCの額に突き立てていた。錯乱の末に振るわれたその刃は、RCの仮面に触れた途端、無慈悲に砕け散ってしまう。

「あ、あぁ、あぁあ……!」

 狂気に堕ちる暇すらなく、隊長格の男は最後の武器まで失ってしまったのだ。
 その光景に彼が絶望した頃には――すでに鈍色の怪人は手刀を振り上げ、「処刑」の体勢に入っていた。ナイフを失い、腰を抜かしてしまった男には、もはや抗する術はない。

 然るべき「報い」を受ける瞬間が、ついに訪れたのだ。

「ラ、イダ、ァー……チョッ、プ!」
「ひぎゃああぁあ――ぁぎゃッ!」

 RCが放つ手刀の一閃が、男の顔面を真っ二つに潰し。断末魔と共に、血飛沫が上がる。

 その鮮血が天を衝く時――この戦いもようやく、終幕を迎えるのだ。
 
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