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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第1話

 
前書き
◆今話の登場怪人

羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)/羽々斬(ハバキリ)
 汚職に塗れていた当時の上層部に愛想を尽かし、1年前に警視庁を退職した元警察官の改造人間。現在は徳川清山(とくがわせいざん)が運営する傭兵会社に所属しており、羽々斬と呼ばれる怪人に変身する。当時の年齢は26歳。
 

 

 ――これは「仮面ライダー」と「怪人」に纏わる運命を巡る、「最初」で「最期」の物語。

 ◆

 20世紀後半――その当時、世界は今以上に混沌を極めていた。

 第2次世界大戦の爪痕を癒す間も無く、東西冷戦を契機とする数多の紛争が世界各地で巻き起こり、絶えずこの世界を乱していたのである。
 日本国内に限れば、戦争の無い時代だったのかも知れない。だが、その島国を囲む大海を越えた先では――血で血を洗う凄惨な殺し合いが、果てしなく繰り返されていた。

 その戦火の波は時として、決して侵されてはならない領域にまで及んでいた。紛争や内戦に加担などしていない無辜の民ですら、否応なしに煉獄の炎に焼かれていたのである。

 ◆

 ――1974年9月某日。
 アジア大陸、某国森林部ツジム村。

 国境線付近に広がる森林地帯の最奥にある、小さな集落。
 争いとは無縁であったはずのその秘境は今、天を衝くほどの業火に飲まれた地獄絵図と化していた。深夜であるにも拘らず、猛炎に照らされたこの森の空は、真昼のように明るい。

 老若男女を問わず、殺し尽くされた村人達。彼らは例外なく黒ずんだ焼死体と化し、炎の海に飲まれた村の各所に放り捨てられている。
 その骸を無遠慮に踏み付け、周囲を荒らし回っている歩兵達は、「何か」を血眼で探しているようだった。

「おい、見つかったか!?」
「いえ……! 『奴ら』の死体が、どこにもありませんッ!」
「そんなはずがあるか……! 我が軍の砲撃から逃れたとでも言うのか!? 何としても見つけ出せッ!」

 彼らが探しているのは、死体。だが、それは村人のものではないのだろう。
 足元に転がる夥しい数の焼死体には目もくれず、彼らは「人であって人ではない」者達の遺体を探し続けていた。

「……!?」

 すると、自分達のものではない「生者」の気配に気付いた歩兵達が足を止め、一斉に銃口を炎の向こうへと向ける。

 陽炎を踏み越えるように現れた黒コートの男が、炎の熱など意に介さず歩兵達の前に歩み出て来た。
 精悍な顔付きを持つ筋骨逞しいその青年は、何人もの兵士達から突撃銃(アサルトライフル)――AK-47を向けられているのにも拘らず、全く怯んだ様子がない。

「い……居たぞ、奴だッ! やはり死んではいなかったというのか……!」
「貴様の仲間達はどこだ! 吐かねば撃つぞッ!」

 黒コートの青年を見つけた歩兵達の叫びに応じて集まった増援が、彼を一斉に包囲する。

 突撃銃で武装した彼らに対し、囲まれている青年の方は全くの丸腰。
 その光景だけで判断するならば、双方の戦力差は圧倒的なのだが――何故か数でも装備でも優っている兵士達の方が、「死」への覚悟に肩を震わせていた。

 まるで――自分達の方が、強力な兵器を向けられているかのように。

「……貴様らに一つ、『報告』しておくことがある」
「な、なにぃ……!?」

 そんな歩兵達を怜悧な眼差しで見渡した後、黒コートの青年は低くくぐもった声で小さく呟く。彼がただ口を開くだけで、歩兵達はびくりと後ずさっていた。
 その様子を見遣りながら、青年は言葉を紡ぐ。声色は静かなものであったが、その奥には深く煮詰まったような怒りと殺意が込められていた。

「このツジム村は反政府ゲリラの巣窟である。国家を脅かす反乱の芽を摘むべく、速やかに当該集落を殲滅されたし……それが貴様らの依頼だったが、その『前提』に誤りがあったようだ」
「誤り……!? ふん、このツジム村にゲリラなど居なかったということか!?」

 この国の国防軍である歩兵達は、自分達が雇った傭兵である青年の「報告」に怒号を上げる。「反政府ゲリラの撃滅」という依頼に応じてこのツジム村に来ていた青年によれば、そもそもゲリラなど1人も居なかったというのだ。

 だが、歩兵達はその報告内容を全く疑っていない。
 彼らは最初から、依頼そのものが「でっち上げ」であることを知っていたのだから。

「その通りだ。……やはり貴様ら、初めから承知の上で俺達を送り込んでいたのだな。先ほどの砲撃はさしずめ……俺達への報酬代わりというわけか?」

 このツジム村にゲリラなど居ない。であれば早急に村を離れねば、無辜の民間人達が本当に戦闘行為に巻き込まれてしまう。

 その懸念を胸に、青年とその「仲間達」が村を去った直後のことだったのだ。国防軍による砲撃と火炎放射が村を焼き、人々を焼き払ってしまったのは。
 そして急いで戻って来てみれば、この地獄絵図が広がっていたのである。この虐殺がゲリラの類ではなく国防軍の陰謀だったことは、正規兵達の存在が明らかにしている。

 銃口など意に介さぬまま、青年は焼け焦げた少女の遺体の前に膝を着き、その黒ずんだ頬を撫でている。村に現れた自分達を、何も知らぬまま笑顔で出迎えていた可憐な少女は今、無惨な消し炭と化していた。

「そこまで理解しているのであれば……我々の真意などいちいち訊くまでもなかろう。さぁ……楽に殺して欲しくば、さっさと仲間達の居場所を吐け! 羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)ッ!」

 「人ではない怪物の身」でありながら、人間と同じように死者を儚んでいる青年――羽柴柳司郎。
 そんな彼の「人間のような姿」に嫌悪感を露わにしながら、歩兵達を率いる隊長格の男が、柳司郎の後頭部に銃口を押し当てる。

 ――国籍はおろか、生身の身体すら持たない怪物の分際で、人間の振りなどするな。そう、言わんばかりに。

「うッ……!?」
「……人であることを捨てた今、その名で呼ばれるのは『肌』に合わん」

 だが、隊長格の男が引き金に指を掛けるよりも速く――柳司郎は背後を取られたまま、銃身を一瞬で掴み上げてしまった。

「俺の名は――羽々斬(ハバキリ)だ」

 そこから先は、「意趣返し」の蹂躙であった。
 
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