イベリス
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第九十五話 恋人のカードその三
「慎重に生きてこられましたね」
「そうですか、私は」
咲は今度は実感のない返事だった。
「慎重にですか」
「はい、愚者の正なら向こう見ずですが」
速水は自分が感じたカードの意味を話した。
「私が感じたのはその逆なので」
「慎重ですか」
「そうです、小山さんは慎重ですね」
「そうですか」
「過去もいいです、そして未来は」
六枚目はというと。
恋人の逆だった、そのカードを見てまた言う速水だった。
「これはよくないですね」
「恋人の逆は」
「失恋ですね、率直に申し上げて」
「失恋ですか」
「それが待っているかと」
こう咲に話した。
「これは」
「そうなんですか」
「何があってもです」
咲を励ます様にして言うのだった。
「気を落とされず」
「そうしてですか」
「頑張って下さい」
「失恋については」
「そうして下さい」
こう言うのだった。
「くれぐれも」
「そうします」
咲は言われるままに頷いて応えた。
「それしかないなら」
「はい、それでは」
速水も応えた、そうしてだった。
次は七枚目だった、今度は。
吊るし人の逆だった、速水はそのカードについてはこう言った。
「不安定ですね、ですが希望も見られてますね」
「そのカードはどうも」
咲は吊るし人のカード自体について言及した。
「難しいですよね」
「そうですね、非常に」
速水も否定しなかった。
「解釈が」
「そうですよね」
「ですが」
それでもとだ、速水は咲に話した。
「悪いカードかといいますと」
「違いますね」
「正しでもそうであって」
「逆でもですね」
「悪い意味ではないです、ただわからないという」
そうしたというのだ。
「まだ何も決まっていない、それでいて縛られもしている」
「そうした状況ですか」
「そう見えます」
速水にはというのだ。
「まあ学生の頃、思春期はです」
「こうした状況ですか」
「人は常に成長するものですが」
それでもとだ、速水は咲に話した。
「やはり若い頃はです」
「特にですか」
「成長する頃なので」
「学生時代、思春期は」
「そうしたものなので」
「吊るし人みたいに不安な状況でもあるんですね」
「そうです、そして小山さんは特にです」
咲を髪の毛で隠れていない右目で見つつ話した。
「そうした状況ですね」
「吊るし人みたいな」
「それも逆の、だからです」
「このカードが出たんですね」
「そうです、悪い状況ではないので」
決してというのだ。
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