FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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β天国
前書き
もしかしたらこの100年クエスト中にシリルvsレオンかソフィアがワンチャンやれるかもしれないと希望を抱き始めた件について
「ドラゴンを眺めながら喰う飯は最高じゃのぅ」
「これから我々に喰われるとも知らずに」
「かわいい寝顔っちゃ」
ドラシール左手の街にて眠っているアルドロンを見ながらそう話しているのは先日、エルミナの街にてシリルたちに完敗を喫した魔導士ギルドディアボロスの三人。彼女たちは今自分たちがいるこの場所についての話をしばらくしていたが、すぐに別の話題へと切り替える。
「それにしてもなんつー偶然じゃ。まさかワシら以外にもオーブを壊そうとして連中がいるとは」
「放っておいてもオーブは全て壊れるかもしれんな」
「ネバルとレイスは取り越し苦労っちゃ」
彼らの目的と白魔導士の目的が合致していることもあり彼らは余裕綽々といった様子。しかし、ここでスカリオンの持つ通信用魔水晶に一通の連絡が入る。
「はい。・・・いや!!それは・・・」
その連絡を受けた途端彼の顔が青ざめていくのがわかる。他の二人はその理由がわからずにいると、スカリオンは急に立ち上がった。
「我らもすぐに動かねばならなくなった」
「どうしたっちゃ」
「キリン様が来られるらしい」
「「!?」」
その名前を聞いた途端、二人も驚愕し立ち上がる。その際倒れた椅子の音で周囲の人々は驚いていたが、彼らはそれを気にする余裕はなかった。
「どういうことっちゃ!!」
「ワシらだけじゃ力不足と言いたいのか!?」
興奮状態にある二人を宥めているスカリオンだったが、彼も心中穏やかではないのだろう、通信用魔水晶を握る手に力が入る。
「わからん。ただ、『王の魂が呼んでいる』と言っていた」
「王の・・・」
「魂?」
何のことかわからずキョトンとしている二人。しかし彼らはよほど慌てているのか、すぐに準備を済ませるとオーブを破壊するためにその場から走り出すのだった。
シリルside
目の前にいる悲しげな表情を浮かべている青年。その彼の自己紹介を聞いてあることに気が付いた。
「霊竜・・・ってことはディアボロスの・・・」
俺の言葉に彼は静かに頷く。ディアボロスはドラゴンを食べることによってその力を手に入れたということだったけど、この人もそのうちの一人ってことか。
「その通りだよ。そして君は僕に喰われてしまう。でもこれだけは言わせてほしい、見つけてくれてありがとう」
「何言ってるんですか?」
幾度となく繰り返される感謝の言葉に首をかしげる。てかこの人俺のことを食べるって言ってるのか?ドラゴンだけじゃなく滅竜魔導士も食べる対象に入るってこと?
「ん?待てよ・・・」
それを聞いてあることを思い出す。この間のエルミナの街であったディアボロスのメンバーは彼とは違う者が三人。しかも彼らはあの後逃げてしまっていたことを考えると、今回ここにも来ている可能性がある。
そして彼らはドラゴンだけじゃなく俺たちのような滅竜魔導士もターゲットなのだとしたら、ウェンディも危険なんじゃないだろうか。
「こりゃあまずはこいつから倒さないといけないのか?」
ウェンディの他にもさっきボコボコにしたガジルさんやナツさん、ラクサスさんも滅竜魔導士だ。彼らもターゲットになりうるのだとしたら、こいつはここで叩いておくに限る。
スッ
そんな俺の思考を察知したのか、青年は手をあげると白い炎が迫ってくる。それを下がりながら回避するが、軌道も操れるようで追いかけるように向かってきたことにより被弾してしまう。
「炎系の魔法か!?」
「違うよ。これは人魂・・・死人たちの魂が泣いている」
「じゃあ投げつけないでください!!」
自分の魂を攻撃なんかに使われたらそりゃあ泣いてしまう。そしてそれがわかっていながら攻撃してくるのはもはや悪質以外の何者でもない。
「でも、この人ならワンパンできそう」
ひ弱そうな男性を前にそんなことを考えた俺は拳を握り突進する。彼はそれを避けることすらしなかったが、なぜか俺の拳は彼を捉えることができなかった。
「え?」
いや、捉えられなかったのではない。彼の身体に直撃しているはずの拳がすり抜けているのだ。何度も攻撃を試みるもののどれも当たらずダメージが与えられない。
「くっ・・・」
どれだけやっても攻撃が当たらないのでは意味がない。そう思って手を止めると彼のアッパーパンチが顎へと突き刺さる。
「なっ・・・」
それにより体勢が崩れた俺に向かって肘打ちを放ってくる青年。堪らず反撃に出ようとするが、何度やっても俺の攻撃は当たらない。
「なんで俺の攻撃は当たらないのに・・・」
何をやっても通じないのにこちらはダメージを受けてしまう。これではやられるのも時間の問題と思っていたところ、思わぬ助けがやってきた。
「シリル~!!」
俺を追いかけてきてくれたのであろうセシリー。彼女の手を借りれば意外といい勝負になるかも?
「ちょうどよかった!!こいつ倒すの手伝って!!」
「??こいつって~?」
俺の隣にやってきたセシリーに、目の前にいる敵を指さしながら伝えるが彼女は困ったように首をかしげるだけ。
「だから!!こいつを倒すの手伝ってって言ってるの!!」
「え~?誰のこと言ってるの~?」
ふざけているのか周りを見回しているセシリー。その様子に苛立ちを感じ、彼女の頭を掴んで男の前に突き出す。
「ほら!!目の前にいるこいつ!!」
いつまでもふざけている時間もないため強引ではあるがそのような行動に出ると、彼女は不思議そうな顔でこちらを向いた。
「シリル~?目の前になんて誰もいないんだけど~?」
「は?」
彼女のいつものおふざけなのかと思っていたが、彼女の顔は嘘を言っているようには見えない。困惑しながら男に視線を向けると、彼は寂しそうな表情でその疑問へ答えた。
「僕の声が聞こえ、僕の姿が見えるものは少ない。だから見つけてくれてありがとう。僕は幽霊なんだ」
その言葉を聞いてようやく理解できた。この人の悲壮感や不思議な言い回しは誰にも認知されない中で俺が彼を認知することができたから。あのありがとうは本当に心からの言葉だったのだろう。
「幽霊ってことは・・・もう死んでるんですか?」
「そうだよ」
「シリル~?誰と話してるの~?」
どうやらこの会話の内容もセシリーには聞こえていないようで青ざめている。独り言を言っているようにしか彼女からは見えていないだろうから、そのリアクションは正しいんだろう。
「なんで俺にしか見えないんですか?」
「滅竜魔導士には見えるみたいだね。だから僕はディアボロスにいるんだ」
ディアボロスはドラゴンイーターのみで構成されているギルド。つまり全員が滅竜魔導士であるため、彼のことを認知できるのか?
「幽霊でもお腹が空くんですか?」
「減らないよ。僕は力が欲しくて竜を食す」
ディアボロス全員に言えることだけど、彼らはその力が欲しいがためにドラゴンを倒し、食べようとしている。その気持ちもわからなくはないけど、それでも俺たちも対象に入っているのなら話は別だ。
「幽霊なら俺が成仏させてあげます」
「それはできないよ。僕の命を奪った男を見つけるまではね。その時までに僕は・・・」
彼は腕を振り上げ何かを放つ体勢に入ります。
「強くならなければならない」
その手を一度下ろし、再び振り上げると地面から巨大な白い炎が沸き上がり飲み飲まれる。
「うわあああ!!」
「何~!?地面から白い炎が~!?」
「炎ではなく魂・・・だが君には僕の声は聞こえない」
悲しげな声でそう告げる彼に反撃しようとするが、さっきまでの魔法とは違う。抜け出そうとしても炎はどんどん燃え上がっていき、身動きが取れない。
「魂が・・・泣いている」
彼がそう言って手を握り締める大爆発が起きる。俺の意識はそこで途絶えた。
第三者side
目の前で倒れている少年を見て困惑している焦げ茶色の猫。彼女はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、すぐに自身がやらなければいけない行動に移る。
「どこ~!?シリルを倒した人は~!?」
「見えないし聞こえないよ、君には」
周囲の建物に潜んでいるのかと見回すが人の気配すらない。レイスの言葉も彼女には届いていないため、ただただ恐怖と不安が彼女を襲っていた。
「さぁ、頂こう。水の魂を」
シリルの魂をその手に入れたレイスはそう呟く。その声も聞こえていないセシリーは少年へと涙ながらに駆け寄った。
「シリル~!!起きてよ~!!どうしちゃったの~!?」
「彼はもう・・・死んだんだ」
泣き叫ぶ猫を前に寂しげな声のままレイスは呟くと、そのまま少年の魂を喰らうためにそれを口へと運んだ。
シリルside
「んん・・・」
ゆっくりと目を開くと空が真っ先に目に入る。外で眠ってしまっていたのかと思い身体を起こすと、見たことがない光景に困惑する。
「どこ?ここ」
見たことがない建物が乱立するその場所に頭が混乱していると、自身の足場もおかしいことに気が付く。あまりにもフカフカしていたためそちらを見ると、まるで雲のような形状をした地面になっており、ジャンプすると飛び跳ねることができるほどの弾力を持っていた。
「うわ・・・気持ちいい・・・」
寝転びながらその感触に埋もれながら再び目を閉じようとしたところで、俺が何をしていたのかを思い出し飛び起きる。
「そうだ!!あいつは!?」
先ほど戦っていたはずの青年のことを思い出して周囲を見回す。そこには彼の姿はなかったが、すぐ近くに見覚えのある小さな少女が立っており、固まった。
「久しぶりね、シリル」
長い髪とお団子状のそれが結われた俺と同じくらいの背丈の少女。彼女を見た瞬間、俺は目から溢れて来るものを抑えることができなかった。
「お母さん・・・」
アルバレスとの戦いでティオスに殺された皆さんを蘇らせるために自らの肉体を捨てたお母さん。もう二度と会うことができないと思っていた人物が目の前に現れたことで涙腺が崩壊してしまった。
「相変わらず泣き虫だな、シリル」
その後ろから聞き覚えのある声がしてそちらへと顔を向ける。ただ、そこにいたのは見覚えのない人物。
「誰ですか?」
「あぁ、この姿は知らないんだよね」
そう言った彼の姿が巨大化していく。俺を踏み潰せるのではないかというほど巨大化した彼の姿を見て、ますます涙が流れてきた。
「ヴァッサボーネ・・・」
俺に魔法を教え、俺を守るためにドラゴンの肉体を得たヴァッサボーネ。そんな彼を見て俺はいてもたってもいられず、お母さんに飛び付いた。
「うわああん!!会いたかったぁ!!」
二人とも最後はほとんど話すこともできずにお別れしてしまったため寂しい想いでいっぱいだった。特にヴァッサボーネは意識を失っていた時に助けに来てくれたのに、俺自身が彼のことを消してしまったのだから。
「ふふっ、初めてお母さんらしいことができたわね」
「いや、それはごめんて」
そんな俺を優しい瞳で見ながら頭を撫でてくれるお母さん。そんな彼女にヴァッサボーネは申し訳なさそうな表情をしていたが。
「あれ?」
そこで俺はあることに気が付き、お母さんから離れる。そんな俺にキョトンとした表情を見せるお母さんだけど、これは非常に大切なことなので確認しなければならない。
「二人ってそういえば死んだよね?」
「うん、そうね」
「つまり・・・」
今目の前にいる二人は命を落としている。そんな人と同じ空間にいる理由は一つしかない。
「俺・・・死んじゃったの?」
あの幽霊からの攻撃を受けた後の記憶がない。もしかしたらあれが致命的な一撃になってしまっていて、俺は命を落としてここにいるということなのか?
「ううん。まだ死んでないみたいよ」
「まだ?」
「うん。かなり死に近い状況みたいだけど、ギリギリ死んでない・・・みたいな?」
お母さんは笑顔で答えてくれるけど、とてもそんな表情で答えていいような内容なじゃない気もする。
「まぁ、分かりやすくいうとここは天国でも地獄でもないんだ、シリル」
「??ヴァッサボーネは地獄行きでしょ?」
「よし、後で本気で引っ叩いてやる、この姿で」
少し冗談を言ったら怒り心頭の様子で俺を見下ろしてきたヴァッサボーネを見てお母さんの後ろに隠れる。お母さんの顔は見えなかったけど、ヴァッサボーネの顔が青ざめていたのを見るとなんか追求してはいけない気がしたのでここはスルーすることにした。
「今あなたと話している私たちは本物の私たちではないってことよ、シリル」
「??ますます意味がわからないだけど」
二人が何を言いたいのかわからず、うんうんと頭を揺らして思考する。それでも答えは出ずにいる俺を見て、二人は優しく教えてくれた。
「ここは死語の世界でもなければあの世でもない・・・シリル、お前が作り出した精神的天国・・・"β天国"とでも言っておこうか」
「何?それ」
「お前の無意識下に眠っている天国のイメージだよ。だからこの"β天国"は人の数だけ存在する。実際の俺たちの魂はこことは違うところにあるんだ」
「無意識下の天国・・・」
そう言われてみると、俺が考える天国と類似しているかもしれない。遠くに見える人たちは幸せそうで、何不自由なく暮らしているように見えるし、何よりこの空間が非常に心地よい。ただ、それは二人がいるからというのもあるんだろうけど。
「シリルは優しい子だから、きっとあなたの記憶にいる人はみんなここにいるんでしょうね」
背後から聞こえてきた懐かしい声にふりかえる。そこにはウェンディの育ての親であり、ヴァッサボーネと一緒に俺を育ててくれたグランディーネの姿があった。
「向こうにいる人たちもみんなあなたの中にいる人たちよ」
「お前は優しい子だ。だからここまで強くなれた。そうだろ?」
記憶にある懐かしい人たちが次々に視界に入り収まったはずの涙がまた吹き出してくる。そんな俺の涙を拭いながら、お母さんは抱き締めてくれた。
「さぁ、あなたはあなたのいるべきところに帰りなさい」
「でも・・・あの幽霊には攻撃が当たらないんだよ・・・それじゃあ勝つなんて・・・」
「何を言っている、シリル」
お母さんの胸の中で泣いている俺の頭を指先でポンポンと叩くヴァッサボーネ。そんな彼の方を見上げると、その表情は笑っていた。
「今はお前も幽霊みたいなもんじゃないか」
「!!」
それを聞いて驚いた後、すぐに笑ってしまった。二人はいつも困った時に助けてくれて、こうやってアドバイスをくれるんだ。
「本当だ、気づかなかった」
死にかけているおかげで逆に突破口が見えたことが面白くて仕方がない。俺は涙を拭うと、三人の顔を見る。
「元の世界に戻ったら、ここでの記憶は全て無くなる」
「無意識下の世界だから、それは仕方がないことよ」
「でも、忘れないで。あなたの心の中で、私たちは生き続けているわ」
せっかく涙が収まったのに、そんなことを言われたらまた堪えきれなくなってしまう。でも、俺は懸命にそれを抑えると、三人に頭を下げる。
「ありがとう、お母さん、ヴァッサボーネ、グランディーネ」
頭を上げ、そのまま彼らに背を向ける。すると意識がゆっくりと薄れていくのがわかった。
「俺はまだ生きていく!!」
「シリル~!!起きてよ~!!」
聞こえてくる仲間の声で目が覚める。その俺の背中に何かが当たる感触がしたため、すぐさまそこから退避し身体を返す。
「俺の魂を喰うんじゃねぇよ!!」
「なっ・・・」
その正体は先ほどの幽霊。その彼の顎に拳を叩き込むと、声をかけていた仲間の方へと視線を向ける。するとそこには白目を向いている俺を懸命に揺すっている彼女の姿があった。
「何これ!?俺がもう一人!?」
何がなんだかわからず大慌ての俺。しかしそれは俺だけではなかったようで・・・
「これは・・・思念体!?」
幽霊もこれに驚いており、そんなことを口走った。その単語が記憶にあった俺はすぐに行動に移る。
「思念体ってことは俺の意志で身体に戻れるはず!!いや!!でもその前に・・・」
天狼島でマスターの思念体と戦ったことがあったため、実態が無くても戦えることはわかっている。俺はイメージのままに自分の魂を肉体と同じ形へと直すと、拳に水を纏い幽霊へとパンチを放つ。
「お前を倒してやる!!」
「ぐはっ!!」
その攻撃は見事に彼の頬にヒットした。この姿はセシリーには見えていないことから完全な思念体とは言えないだろう。ただ、今回はそれが功を奏し、今まで攻撃を当てることができなかった幽霊に攻撃ができた。
「これならお前を倒せる!!絶対に!!」
なんだか懐かしい人たちが思念体になる方法を教えてくれた気がする。どこか寂しい気持ちもあるけど、俺は戦うためにここにいる。そんな気持ちがいつもよりも大きい。その気持ちが冷めないうちにと、俺は次の攻撃へと移るのだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルはきっとヨザイネやヴァッサボーネに会ったら号泣すると思ったので今回の話になりました。
なんならここをやるためにレイスとバトルことにしたまである←言い過ぎ
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