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おっちょこちょいのかよちゃん

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275 やっと会えたのに

 
前書き
《前回》
 杯を捜索する三河口は本部のフローレンスとイマヌエルに相談するが、さりと同行する長山に協力を進められ、彼に杯の探知を依頼する。かよ子は自分達が藤木のいる所に着実に近づいてきているのかどうか不安で本部に連絡するが、接近には成功しているのは確かだが、三河口の所にレーニンおよび杉山が近づいてきているという事実も知る。そしてかよ子達とは別で藤木を探す笹山は遂に藤木を発見した!! 

 
 本部の管制室。まき子達は杖の所有者の動向を確認した。
「かよ子達、近づいてきてるわね」
「でも、その健ちゃん達の方に戦争主義の世界の人が来てるってのが気になるね」
「はい、もしかしたら三河口健さん達がレーニンかつ杉山さとし君とぶつかりました時、その場に山田かよ子ちゃん達が居合わせます可能性はゼロではありませんわね。それから藤木茂君の奪還にも影響しますかもしれません」
 フローレンスは更にもう一つ懸念していた。
(『あの子』もそろそろ山田かよ子ちゃん達と同じ目的地に着きますはずでしょう・・・)
 彼女は特別に藤木奪還に貢献できると見ている少女をこの世界に派遣させている。異能の能力(ちから)こそ持たないものの彼女こそが鍵になるとフローレンスは信じていた。

 長山は神通力の眼鏡で見続けた。しかし、杯がどこにあるのかどうしても眼鏡の透視能力をもってしても在処を確認する事はできなかった。今、長山達はさりが護符で出した飛行機で移動していた。
「長山君、杯がなかなか見つからないみたいね」
「は、はい・・・」
「従弟の方には私から言っとくわ」
 さりは通信機を出す。接続先は三河口だった。
「もしもし。こちら羽柴さり」
『はい、もしもし』
「今長山君の眼鏡で杯が何処にあるか確かめて貰ったけど、どうしても行方が掴めないみたいなの。ごめんね、役に立てなくて」
『いえ、大丈夫です。もしかしたら場所を悟られないように細工をされているんでしょう。なんならりえちゃんを攫った奴等を狙って拷問でも尋問でもしてやりますよ』
「もう、怖い事言っちゃって。頑張ってね」
『はい、失礼します』
 通信を終了させた。
「従弟さん、すげえ強気だな」
 尾藤はその強気に感心した。
「そうね、剣を取り返した程だからかしらね」

「え、お兄ちゃん達の所に杉山君達が!?」
 かよ子は驚かされた。戦争主義の世界の長が三河口の所に来ているとなると杉山も彼の元に接近している事になると直ぐに分かった。
『はい、おそらく杯を探しています彼らの行動を食い止めますか抹殺しますかもしれません』
「あいつ・・・!!」
 大野は親友に怒りが込み上がった。
「大野君・・・」
 ブー太郎は大野の気持ちがよく分かった。
(そうだよね、大野君。そりゃ、杉山君と喧嘩した上に戦争主義の世界の方に裏切ったから怒りたくなるよなブー・・・)
 ブー太郎は立ち上がった。
「オイラ、杉山君やそのレーニンって奴止めたいブー!」
「ブー太郎・・・」
 かよ子はブー太郎の勢いに圧倒された。
「そ、そうじゃ、止めなきゃその人が死んでしまうぞい!」
 友蔵も立ち上がった。
「まるちゃんのおじいさん・・・」
 かよ子は心を整理した。
「・・・、フローレンスさん、私、三河口のお兄ちゃんを助けに行くよ!」
『山田かよ子ちゃん・・・、分かりました。では、三河口健さん達への救援、お願い致します。しかし、寄り道であります事に留意してください』
「はい・・・」
『ただ三河口健さんのいます所とは目的地からそこまで逸れていませんので支障はあまりありませんと思いますが』
「はい、急ぎます!」
 かよ子はフローレンスから方角を教えて貰い、羽根を再び動かす。
 
 笹山は藤木の姿を見て叫んだ。
「藤木君、ここにいたのね!」
 藤木は笹山の顔を見て驚いた。その前方で妲己と紂王が屋形の窓より顔を出した。
「何だ、あの小娘は?」
「どうやら茂坊やの事をご存知のようですね」
 紂王は馬車の一行を停止させるよう指示した。妲己は馬車から降りた。
「さ、笹山さん・・・」
「藤木君、あの子知ってる?」
 りえは呼んだ。
「あ、いや、その・・・」
(まずいな、りえちゃんに笹山さんの事知られたら怒られるかも・・・。そうなると僕から離れるんじゃないか・・・?)
 藤木は不安がよぎった。
「あの時、ごめんね、冷たくして!私、やっぱり藤木君がいなくて寂しかったの!皆も心配してるわよ!私がいるから元の世界に戻ろう!」
 笹山は藤木に訴えた。藤木は馬車から降りて笹山の前に立った。
「藤木、君・・・?」
 藤木は黙ったまま動かなかった。そして10秒ほど経つと・・・。
「帰ってくれ」
「・・・え?」
「僕はもう君を忘れるって決めたんだ。手紙にもそうあったろ?僕は『前の世界』になんて戻りたくいないんだ。戻ったってまた皆から卑怯者って呼ばれるだけだよ。それにこの世界はとても楽しいんだ。いつでもスケートができるし、笹山さんみたいに可愛い女の子もいっぱいいて僕を卑怯って言わないし、もう他に好きな子だってできたんだ!今更戻って来てなんて言われても嫌だよ・・・!!」
「そ、そんな・・・」
「僕はこの世界にいたいんだ!絶対に帰りたくないよ!」
「大丈夫よ!私がいるから・・・!」
「笹山さんがいて何をしてくれるってんだい?」
「う・・・?」
 その時、妲己が近づいて来た。
「そこの小娘、一体何の用だね?」
「あ、その・・・」
「坊や、この子を知っているのかね?」
「あ、いや、知りません・・・」
「え?そんな・・・、私は藤木君の友達です!」
「ほう、それで何しに?」
「藤木君を、連れ帰しに来たんです。フローレンスさんって人によってここに連れて来て貰いました。それからこちらの姚崇さんと張説さんに一緒に来て貰いました」
「・・・、この二名が?そうか。でも、この藤木茂様は帰りたがっていないようだが?」
「そうかもしれませんが・・・」
「僕は帰りたくありません!それに僕はこの子の事は忘れるようにしてるんです!」
「そうか、なら邪魔しない方がいいわね。お帰りになるか、それとも・・・」
 妲己は笹山を睨みつけた。
「ここで死ぬか、どっちがいいかしら?」
 妲己の姿が変化し始めた。
「危ない、笹山かず子、車に戻るのだ!」
 姚崇が促した。
「あ、うん・・・!!」
 笹山は車に戻った。代わりに姚崇と張説が前に出て妲己に応戦しようとした。妲己の九尾の狐の姿となった。
「だ、妲己さん・・・!?」
「坊や、そなたを守るぞ。皆の者!」
「はい!」
 多くの遊女が馬車から降りて来た。衛兵達も集結する。
「ええい!」
 姚崇と張説が牛頭馬頭を召喚させた。しかし、九尾の狐は火炎放射を浴びせる。
「姚崇さん、張説さん!!」
 しかし、牛頭馬頭は何とか防御に成功させた。藤木は馬車に戻る。
(笹山さん、ごめんよ、もう君とは会う訳にはいかないんだ・・・)
 遊女や衛兵も二人を纏めて葬ろうとした。
「お、お願い、やめて!」
 笹山はもう一度車から降りた。
「藤木君、お願い、攻撃を止めて!!」
 笹山の声は今の藤木には届かなかった。遊女達は光線を出したり、地面を爆発させる術を出して攻撃した。
「そんな防御、いつまで持つかしらね?」
 妲己達の攻撃は止まない。
「う、うおお・・・!!」
「さ、笹山かず子、そなたは逃げるのだ・・・!!」
「そ、そんな・・・!!」
 笹山は全力で訴えた。
「お願いですからやめてください!」
「無理だ。我々は争いを正義とする世界の者。敵対者は容赦なく叩き潰す。この二人は則天武后の側近であろう。ならば我々の世界の敵だ。この二人を静粛させたら次は小娘、お前を消す」
 妲己は笹山を睨みつけた。
「それとも今すぐ死ぬか?」
 遊女の一部が笹山の方向へ攻撃の支度をする。
「い、嫌、お願いです!やめてください!私達、帰りますから!」
 笹山は泣きながら命乞いした。
「敵対者とはどちらかが死ぬまで終わらん。帰りたければ私達を倒すのだな。皆の者、まずこの二人を殺れ!」
 遊女や衛兵が姚崇と張説を襲う。
「うが・・・、すま、ぬ、武則天様・・・!!」
 姚崇と張説は応戦するが、対処しきれない。
 その一方、馬車から藤木とりえはその様子を傍観していた。
「藤木君、あの子は誰?」
「前に好きだった子だよ。でも僕はもう忘れたんだ。今はもう知らない人だよ。僕はりえちゃんだけが好きなんだ。だからあの子を好きになる事はないよ」
「ええ、私も藤木君がいればいいわ」
 その一方、笹山は絶望に追いやられた。
(そ、そんな・・・。ここで死ぬなんて・・・、やっと藤木君と会えたのに・・・!!)
 しかし、笹山にはある物があった。フローレンスから託された藤木を救出させる為の鍵となる道具が。それはボールペンのような道具で藤木に戻って来て欲しいという願いを入れた物だった。
(そうだ、フローレンスさんから預かったこれを・・・!!) 
 笹山はボールペンを出した。
(お願い、藤木君・・・!!)
 道具の効果が発動された。緑色の光がその場で放たれた。
「これは・・・!?」
 笹山が、妲己が、紂王が、姚崇が、張説が、その場の衛兵や遊女達、そして藤木やりえがその光に気を取られた。 
 

 
後書き
次回は・・・
「解き放たれた効力」
 笹山が使用したボールペンのような道具から放たれた緑色の光は一体何を示すのか。そしてその際りえは眠ってしまい、ある夢を見る。そして藤木達が紂王の屋敷に着いた時、りえが起きるのだが・・・・!? 
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