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おっちょこちょいのかよちゃん

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274 杯は探知できず

 
前書き
《前回》
 杉山は己が戦争主義の世界の人間達の側に付く事に決めた動機を改めて考え直し、親友の大野の事も思い出す。藤木は己の唯一の取り柄であるアイススケートをりえに見せるべく、雪山の中にある氷河にてその技術を披露する。りえを虜にさせる事に成功した藤木はりえと手を繋いで共に滑るという最高の事ができて嬉しく思うのだった。そして昼食を終えたかよ子達は藤木を探すべく再び出発する!! 

 
 戦争主義の世界の領土にて東部を徘徊する三人組がいた。一人は小学三年生の女子・冬田美鈴。もう一人は神奈川県の高校生・湘木克也。そしてあと一人は静岡県の高校生(生まれは神奈川県だが)、三河口健。
(はて、杯はりえちゃんが囚われた場所にあるのか・・・?それとも、誰かに狙われるとまずいと見て別の場所に・・・)
 三河口は己の見聞の能力(ちから)をもってしてもどうしても杯の場所を特定できなかった。
「大野君達、どうしてるかしらあ・・・?」
 冬田はまた好きな男子の事を考えていた。
「知るかよ。なあ、冬田」
「え?」
「君はたしかりえちゃんが攫われた時に戦った相手を見ている筈だ。どんな奴だった?」
「え、ええと・・・」
 冬田は記憶を辿る。
「たしか、杉山君と・・・」
(杉山君?つまり、レーニンと身体を同体化した後か)
「それから狐に変化する女の人もいたわ」
「狐・・・?」
玉藻前(たまものまえ)みたいな九尾の狐か・・・?)
 三河口はそう予想した。狐と聞くと狸のように人を惑わすか、妖怪の九尾の狐しか推測の域を出ない。
(そういや、その狐は東の方角へ向かった・・・。つまり、杯を探すにしてもりえちゃんを取り返すにしてもその女を捕まえて吐かせるにしてもかよちゃん達が進む方向と同じだと思われる・・・、か)
 三河口は通信機を取り出して連絡を取り始めた。
「こちら三河口健。フローレンス、イマヌエル、聞こえるか?」
『はい、こちらフローレンスです。如何なされましたか?』
「こちらは湘木克也に冬田美鈴と共に杯の捜索に当たっているが、本部(そっち)では察知できませんか?」
『はい、それが杯の場所を特定できませんのです。おそらく敵によって攪乱の術を使用されていますと思われます』
「悟られないように気配を消しているって事か・・・。分かった。他に察知できるような道具を持っている人は?俺の見聞の能力(ちから)でも全く役に立たずで」
『こちらイマヌエル。それなら君の友人である北勢田竜汰君の知り合いで長山治君に頼んでみるといい。彼は今本部守備班で君の従姉である羽柴さり君と行動を共にしているよ。彼は神通力の眼鏡を所持しており、遠くの物を見る事ができる筈だ』
「ああ、確認してみる。ありがとう」
『あ、三河口健君、お待ちになってください。貴方の叔母上が話したがっていますよ』
「叔母さんが?」
 三河口は自分の叔母と連絡を試みる。
『もしもし、健ちゃん』
「はい、何でしょう?」
『その杯っての探してるんね?』
「はい、まだゆりちゃん達とは合流できていませんが・・・」
『そうなんね。でも焦っちゃいかんよ。健ちゃんなら取り返せるはずよ。剣だってそうだったでしょ?』
「はい・・・」
『だからきっと大丈夫よ。頑張るんよ』
 叔母は通信を終了させた。
(長山君、か・・・。確か北勢田の知り合いの少年だったな・・・)
 三河口は別の人物に通信を試みた。
『はい、こちら長山治』
「こちら杯の奪還に動いている三河口だ。長山治君・・・、だったね」
『はい』
「確か君は神通力の眼鏡で遠くの物を見通す事ができるはずだったね」
『あ、はい』
「安藤りえちゃんが持っていた杯を知っているかい?どこにあるのか情報が掴めないんだ。それで君に探知を頼みたいのだが・・・」
『あ、うん、やってみるよ』
「ごめんね、藤木君の捜索も頼まれているというのに」
『いや、気にしないでください』
 通信を終了させた。
「三河口、杯の捜索を頼んだのか?」
 湘木が聞いた。
「ああ、俺の見聞の能力(ちから)だけでは無理だ。そこで北勢田の知り合いの小学生に援護を頼んだんだ」
「見つかるといいんだがな・・・」
「それでも見つけられなかったら途方に暮れるだけだが、もし吉報があればゆりちゃん達にも連絡するよ」
「ああ」

 東部の平和主義の世界と戦争主義の世界の境界近く。長山は藤木の捜索と合わせて奪われた異世界の杯の捜索に当たっていた。
「杯か・・・」
「長山君、私の従弟からの頼まれごとね」
 護符の所有者・羽柴さりが聞いた。彼女も従弟と長山の連絡内容を聞いていたのだった。
「はい、その人の見聞の能力(ちから)でも見つからないっていうので」
「そうね・・・」
 さりは自分の持つ護符で杯を吸い寄せられたらと思っていた。しかし、杯を上手く取り返せるような道具や能力をその場に出したり発動させる事はできなかった。
(この護符もできる事には限界があるのね・・・)
 以前、最上位の強さを持つ道具の一つである護符はテレーズの能力(ちから)で七つの神を操る能力を得て進化させる事に成功させたものの、神を扱う物は身体に相当な負担をかけてしまう弊害もある事もさりは知っていた。
(どうか、従弟かゆり姉達の力になれれば・・・)
 さりは姉や従弟の為に何かしてやりたいとも思ったが、己の本分は平和主義の世界を守護し、侵入者の迎撃である為、本来の目的から外れた行動をする訳にもいかなかった。せいぜい道具を持っていない従弟に鎖鉄球を護符で出して与えた事はしたのだが・・・。その時、通信が鳴った。
『こちら領土攻撃班、東部の一部の区域を奪還した!』
 東部の攻撃に当たっている領土攻撃班から連絡があった。
「よし、先に進むぞ」
 清正が促した。
「うん!」
 護符の所有者達は奪還された地域へ進んだ。

 氷雪の一帯から大勢の一行が出てきていた。
「藤木君のスケート姿、格好良かったわっ!」
 りえは先程藤木達と共に雪山の中にある氷河にてスケートをしており、藤木から滑り方を教わったり彼のオリンピック選手並みの技術に魅了されていたりしていた。スケートを満喫した二人は帰る事にしていた。
「ありがとう。えへへへ・・・」
 藤木は己の唯一の取り柄を見せる事ができて嬉しく更に照れていた。
「それにしてもとても寒かったから今日は鍋料理にしてもらおうかな」
「うんっ!」
 藤木の一行は紂王の屋敷へと戻っていく。

 ラ・ヴォワザンとモンテスパン公爵夫人を撃破し、法然に岡山の高校生三人組と別れた山田かよ子達藤木救出班は東側をひたすら進んでいた。夕方になり、かよ子は草原となっている地で羽根を降ろした。
「それにしても藤木のいる所はまだかなあ〜」
 まる子はやや退屈していた。
「そうじゃのう。儂も藤木君とまた会いたいのう」
 友蔵は藤木とそんなに親しい訳でもないのにそうぼやいた。
「そんなに不安なら本部に聞いてみるべきではないか?」
 石松は案じた。
「うん、聞いてみるよ」
 かよ子は通信機を出して本部へと繋いだ。
「こちら山田かよ子。今、私達は藤木君の所に近づいてるのかな?」
『はい、こちらフローレンス。かなり近づいていますよ。それにしましても長山治君などの情報によりますと確か攫われました安藤りえちゃんと一緒にいますと聞いていますが』
「あ、うん、そうみたい、ですね」
『でしたらもうすぐ近くです。但し相手も強敵ですので注意してくださいね。取り返しましたらご一報お願い致します。こちらで他の領土攻撃班や本部守備班にも援護を求めておきます』
「は、はい、ありがとうございます・・・」
『そういえば付近にも三河口健さんや冬田美鈴ちゃん、湘木克也さんもいますわね。ん・・・?』
「どうしたんですか?」
『戦争を正義とします世界の長も付近におります・・・!!』

 笹山かず子は昼夜自動運転の自動車を飛ばして東部を進んでいた。
(藤木君、ここにいるのかしら・・・?)
「大分進んでいるがきっと大丈夫だろう」
「しかし、禍々しさも感じるな」
 付き添いで訪れた武則天の側近が不安さも持ちながら目的地に近づいていると確信を持とうとした。
「ん、あれは・・・?」
 笹山はとある行列を確認した。馬車が続いて通ってゆく。笹山は自動車をその行列に近づけた。笹山はもしかしてと思いながら確認する。そして屋形の中にある姿が見えた。
「ふ、藤木君!!」
 笹山は車から叫んだ。 
 

 
後書き
次回は・・・
「やっと会えたのに」
 三河口の依頼で長山は神通力の眼鏡を使用して杯の在処の探知を試みているものの、成果が全く上げられないでいた。かよ子はフローレンスから戦争主義の世界の長と杉山が三河口の所に来ていると知り、驚かされる。そして笹山は遂に藤木と再会を果たすが、藤木の反応は・・・!? 
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