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第七十二話 海軍の記憶その四

「鴎外さんって」
「何か若くして出世して小説家や翻訳家として凄くて」
 その実績だけを見てというのだ。
「文学女子の人が目きらきらさせてチートよとかね」
「じゃああんた脚気調べなさいってね」
「なるわよね」
「家庭のこともね」
「あと舞姫もね」
「充分過ぎる程酷いから」
 一華もこう言った。
「もうね」
「論外レベルでね」
「酷いのよね」
「鴎外さんってね」
「というか鴎外さんを目きらきらさせてチートって言ったら」
 理虹の目は冷めていた。
「もう鴎外さんのことをね」
「何も知らないわね」
「舞姫のこと調べて」
「医者としてもね」
「調べてなくて」
「知らなくて」
 それでというのだ。
「言ってるわね」
「どう見てもね」
「うちの文芸部なんか」
 一華はそれこそと言った。
「もうこんなことはね」
「常識としてね」
「知ってるからね」
「舞姫のことも」
「お家のこともね」
「お子さん達の名前にしても」
「特に脚気のことは」
 何よりもというのだ。
「知ってるからね」
「爵位にこだわったことといいね」
「そんなの知らないでね」
「目きらきらさせてチートよチートとか」
「勉強しなおしたら?」
「最初からね」
「そうなるわよね」
 まさにというのだ。
「何見てるのよ」
「鴎外さんのことをね」
「東大医学部出身とかね」
 今で言うその学部出身であった。
「ドイツ留学でコッホさんから細菌学学んで」
「留学先でも凄いって言われて」
「若くして出世して」
「最後は陸軍軍医総監で」
「小説家としても翻訳家としても凄くても」
「実績はそうでね」
「人間としてはもう最悪だったってね」
 彼の筆を見つつ言うのだった。
「もう文学女子失格でしょ」
「芥川や太宰凄くてイケメンで終わり位駄目よね」
「うちの文芸部芥川や太宰にも詳しいしね」
「ちゃんと勉強して」
「それでね」
「というか海軍の資料館で陸軍の人の資料あるってね」
 留奈は彼が陸軍の軍医であったことから話した、尚そこでは森鴎外ではなく本名の森林太郎であった。
「面白いわよね」
「そうね、思えばね」
 一華もそれはと返した。
「そうよね」
「どうもね」
「それはそれでね」
「面白いだよね」
「他は海軍のものばかりでも」
「鴎外さんもあるってね」
「これは面白いわね」
 彼の筆を見てこうも話した、そうした話を最初にして資料館の中を巡っていくが留奈はある海軍士官の軍服を見て言った。
「回天ねえ」
「それ開発した人が実際に来てたのよね」
「開発した人が真っ先に乗り込んで」
「実際に特攻するとか」
「何度観ても怖いわね」
「戦慄感じるわね」 
 一華は留奈にその軍服そしてそのコーナーにある回天の資料を見て言った。 
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