冥王来訪
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第二部 1978年
影の政府
奪還作戦 その6
前書き
戦闘描写が長いので、話のまとめは明日の夕方以降に切り分けます。
ベイルート市内のほうに向け、攻めかけるゼオライマーにむけて、轟音一発。
数百の兵が、ビルの屋上や、工場、貨物倉庫の上などに、一斉に姿を現す。
市内に拠点を置くPLOやその支援組織の戦闘員たちは、壮絶な銃砲火のあらしを浴びせる。
トラックの荷台に搭載されたZPU-4機関砲や、RPG-7を用いて、迫りくるゼオライマーの脅威を防ごうとする。
地上より打ち出される濃密な対空砲火と、音速ミサイルの攻撃。
ロケットや砲弾が、ゼオライマーの上へいちどに降りそそいできた。
もしこれが、高硬度爆撃機B52や最新鋭の戦術機F4ファントムであったならば撃ち落されていたであろう。
しかし、無敵のスーパーロボット、天のゼオライマーである。
その白い装甲板には、かすり傷一つつかなかった。
ゼオライマーは、その右腕を虚空に振り回し、次元連結砲を連射する。
その刹那、搭載された防御システムの警報が、けたたましく鳴り響く。
「無駄、無駄」
マサキは、哄笑を響かせながら、すばやく操作卓のボタンを連打する。
はるか後方のシリア上空から、出現したツポレフTu-95戦略爆撃機。
ツポレフTu-95に続いて、接近する戦術機の一群があった。
それはシリア空軍に軍事顧問団として派遣された、ソ連赤軍の戦術機部隊である。
先のシリア大統領とマサキたちの会談でシリア政府は、レバノンにおける日本政府の軍事行動を完全に黙認することで合意ができていた。
だが、米軍に関しては何の合意も取り決められていなかったことをよいことに、ソ連赤軍は思い切ったっ行動に出る。
核弾頭を搭載したKh-20空対艦巡航ミサイルや、雷装を積んだ爆撃機を、米艦隊に差し向けたのだ。
彼らを指揮する司令官は、電子情報支援機であるイリューシン20(イリューシン18の軍用モデル)の中から、号令をかける。
「ゼオライマーの事は無視して、米艦隊への攻撃に移れ!」
一方、そのころレバノン沖に展開する米海軍の艦隊に、動きがあった。
KGBに誘拐された美久とマサキを支援する目的で来ていた彼らは、突如としてベイルート洋上に出現したソ連赤軍の対応に苦慮していたのだ。
この沿岸に現れることのない新たな敵が襲い掛かってきたことは、米艦隊に混乱をもたらした。
「シリア領空から、こちらに直進してくる未確認の戦術機が出現しました」
「IFFの反応は!」
(IFF=敵味方識別装置)
「ございません!」
「こちらから呼びかけを行って、反応がなくば、その機体もろとも」
レーダー監視員が、声を張り上げる。
「二時の方向、高速で接近する飛翔物を、確認!」
「本艦までの距離は……」
「およそ20マイル」
(1国際マイル=1.609キロメートル)
「ソ連の雷撃隊か……」
ソ連戦術機隊の接近の一報を受け、戦艦アリゾナの艦橋内が騒然となる。
艦長は艦内電話の受話器をつかむと、落ち着いた声で命令を下す。
「全艦艇に告ぐ。これより対空戦闘に入る」
砲術長の声が艦橋に響き渡る。
「主砲、射撃用意!」
対地砲撃を行っていた三連装の主砲が、一斉に旋回し、艦の上方に砲身を向ける。
「レーダーに連動良し」
艦載されたロケットランチャーと誘導装置も、連動して射撃準備に入る。
「自動発射に切り替えた後、スパローミサイルとスタンダードミサイルをありったけくれてやれ!」
上空に向け、探照灯が煌々と照らされると、轟音とともに一斉に火を噴いた。
戦艦アリゾナやミサイル巡洋艦は、遠距離からの火力投射に重点を置いた軍艦である。
無論、対空機関砲やスパローミサイルを積載しているも、艦隊の防空能力は後のイージスシステムを搭載した駆逐艦に劣った。
防空装備のフリゲートや駆逐艦を随伴しなかったのは、BETA戦争の戦訓で、ほぼ空からの攻撃がなかったためである。
光線級の脅威は恐ろしかったが、戦艦の大火力の前に鎮圧できたので、時代を逆行するかのように大艦巨砲主義に各国の海軍はその武力を求めた。
戦術機は、BETAとの格闘戦が、主目的である。
航空機より軽量な装甲板と、新開発のロケットエンジンで、自在に空間を跳躍できるように特化した機体である。
基本的に、ロケットランチャーやミサイルのような重く高価な兵器は装備しなかった。
装備は外付けの発射機構を用いれば可能であるが、いざ装備すると機動力が落ち、被撃墜率が上がった。
ロケットランチャーやミサイルは、後方の砲兵や自走砲に依存することになった。
イリューシン20の機中にいるシリア派遣軍の指揮官は、戦術機隊を鼓舞する。
「突撃しろ、防空装備も甘い戦艦を連れた米艦隊なぞ、わが敵ではないぞ」
耳を聾する砲撃と、目をくらます大火力の閃光を目の当たりにした彼は、だんだんと平常心を失っていった。
無謀にも、大規模な航空攻撃での米艦隊への突撃を命じたのだ。
ダイヤモンドに比する硬度を持つBETAをも、一撃で粉砕する大火力の前に、軽量な戦術機は無力だった。
退避する間もなく、閃光の中に消えていった雷撃隊。
烈火と衝撃波にはねとばされた戦術機の装甲は、爆風と共に宙天の塵となっていた。
かくしてベイルート洋上では、シリア派遣ソ連軍と米艦隊の熾烈な戦闘が始まった。
一連の流れを見て居たマサキは、意識をそちらのほうに移す。
「ほう、露助のロボットどもが、群れを成して米艦隊に襲撃を仕掛けたのか……」
対空機関砲の弾が、雨の如く降り注いでくる。
「フハハハハ、死に急ぐとは……愚かなものよ」
流れ弾で、港湾にある石油精製施設に火がつくと、さしも広い市街地も、まもなく油鍋に火が落ちたような地獄となってしまった。
「この木原マサキ、逃げも隠れもせん。何処からでもかかって来い」
コンビナートから出る、炎は夜天に乱れ、爆音は鳴りやまず、濛々の煙は異臭をおびてきた。
マサキの駆る天のゼオライマーは、推進装置を全開にし、高度を一気に上げた。
ベイルート上空に出ると、市街を俯瞰しながら、次の手を考えた。
レーダーを見れば、西方の地中海の方面から接近する艦隊が確認できる。
また、北のシリア方面からも同様に艦艇数隻が南下中である。
レバノンから西方100キロほどに位置するキプロス沖にいるのは、米海軍第六艦隊。
南下中の部隊は、シリア・タルタスに海軍基地を持つソ連軍艦隊であろう。
ふとその時、マサキの心に邪悪な思惑が浮かぶ。
米ソ両国の大艦隊の目の前で、レバノンを消し飛ばす。
前代未聞の規模を誇る花火ショウをおこなって、天のゼオライマーの威力を全世界に見せつける。
それも悪くはない。
「ハハハハハ、この、天のゼオライマーの力さえあれば、この世は思いのままに支配できる」
彼は一人、コックピットの中でほくそ笑むのだった。
後書き
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