FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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天使の覚悟
前書き
WBCで野球熱が上がっている時に野球小説の投稿を中断するという謎行動
尻流「完全にタイミングを見誤ったね」
冷温「ホントそれ」
変態「ソフィアが打たれたところでやめないでよ!!」
遡ること少し前・・・レオンside
「氷神の・・・怒号!!」
通路いっぱいを使ってのブレス。この狭い通路であれば相手の逃げ道を無くすことなど造作もない。敵はこれを避けるスペースもなく、ただ飲み込まれるしかない。
「悪いが、お前に時間は使ってられない」
シェリアが起きてくる前にあいつを倒してこの依頼を終わらせる。そうしなければ格好がつかない。そう思っていた。
「なるほど、確かに話し通りの力だ」
「!!」
先を急ぎたかったが、煙が晴れて現れた敵は以前のシリルのような白い翼を生やし、こちらを見据えている。その身体には確かに傷を付けれているが、どれもかすり傷程度。ほとんど効果はなかったように見える。
「へぇ・・・なかなかやるじゃん」
「そっちこそ」
ニヤリとイヤらしい笑みを浮かべている相手に俺は苛立つ気持ちを抑えつつ攻撃に入る。しかし相手は俺の攻撃の合間を縫うように攻撃をしてくるため、地味にダメージが蓄積してしまう。
「くっ・・・このっ・・・」
なんとか攻撃を返してはいくもののクリーンヒットがない。その間にも相手は的確に急所を攻めた攻撃をしてくるため、どんどん動きが鈍くなっていくのがわかる。
「だったら・・・」
このままでは大勝負を前に身体が限界を迎えてしまう。そう悟った俺は拳に魔力を集中させ、逆転を狙う。
「必殺技じゃない当たり、まだ理解できていないようだね」
相手が何か言っているがそんなことはお構い無しに突撃する。こいつにはこれで十分。そう思い俺は拳を振り抜く。
「永久凍土!!」
完璧な右ストレートが彼の頬を捉えた。手応えはあったはず・・・しかし男はその勢いで身体が宙を舞ったかと思うと・・・
「残念だが、これでは勝てないね」
その身体が回っているエネルギーも利用して、俺の首元に蹴りを打ち入れる。
ビキッ
「ぐっ・・・くそ・・・」
致命傷になるような一打ではない。しかし、身体に力が入らず俺は動くことができない。しかもそれだけではない。突然口から血が溢れてきて、心臓が大きな音を立てているのがわかり、そこを抑える。
「なんで・・・俺が・・・」
傷はつけてはいるが相手は明らかにダメージを受けていない。それなのに俺は完璧なカウンターを受け、立っていることもできなくなりその場に膝をつく。
「考えもなくただがむしゃら。期待していただけに、残念だ」
動くことができない俺を見下ろす天使。その目はまるで蔑むような、冷酷な目をしていた。
シリルside
「レオン!!」
その場で膝をついて動かないレオンへと駆け寄る。天使はそんな俺たちに気が付いているようだが、危害を加えてこようとはしてこない。そのため、俺とシェリアは何事もなくレオンに辿り着くことができた。
「くっ・・・二人とも来たのか」
「ウェンディたちも来てるよ」
「レオン・・・大丈夫?」
俺たちに気が付いた彼は苦虫を噛み潰したような表情で一瞬だけ視線をこちらへ向けたかと思うと、すぐに立ち上がり相手へ意識を戻す。
「邪魔しないでくれ、こいつも・・・さっきの奴も俺が仕留める」
「またそんなこと言って・・・」
やられて元に戻るかと期待していたけどそんなことはなかった。むしろさっきよりも酷くなっている気がする。主にケガがだけど。
「レオン・・・」
心配そうな表情ではあるものの、彼を止めようとはしないシェリア。さっきの大丈夫はなんだったのだろう、もしかしてレオンなら大丈夫ってこと?でもそれじゃあさっきの何も変わらない。
「ん~」
天使に意識を向けたまま、頭は懸命にこの状況をどう打破するか考える。せっかくグラシアンさんが一人倒してくれたんだ・・・どうせならこのチャンスは生かしたい。
「でもなぁ・・・」
思わずタメ息が出そうになる。確かにレオンは強い。でも、今の彼はその力を過信しすぎている。そしてシェリアもそれに任せきりになっており、如何せん行動しようとしてくれない。
「あ・・・そっか」
この二人をどうにかしないとせっかくのチャンスが水の泡になると思い作戦を考えていた。すると、頭の中に一つの案が浮ぶ。迷っている暇はない、すぐに実行に移す。
「レオン!!」
「何?」
不機嫌そうな声でこちらに視線を向けるレオン。隙だらけの状態にも関わらず、相手は攻撃してくる気配がない。
(まぁ、天使は俺たちを殺せないらしいしね)
これまでのことから彼らの言っていることは本当だろう。それをほぼ確信していたからこんな戦いの最中でも彼に声をかけることができる。
「こいつは俺がやる。レオンとシェリアは昼間の奴をやって」
「はぁ?お前ふざーーー」
「ハンデには!!」
俺の提案にレオンが納得しないのも折り込み済み。彼の反論に重ねるように俺は大声を張り上げる。それにより彼は口を閉ざすと、今度は静かに口を開く。
「ハンデにはちょうどいいでしょ?俺的にもレオン的にも」
今、目の前にいる天使はレオンの攻撃を受けて傷ついている。かすり傷程度ではあるが、万全な状態ではないはず。
そしてこの先にいる王を名乗るバリーザヴィッチは無傷のはず。対してレオンはボロボロ。彼が今、自分の力に自信を持っているなら、この意味がわかるはず。
「・・・なるほど、わかったよ」
俺の言いたいことを理解した様子のレオンは渋々ながらそれを了承する。先を行こうとこちらに背を向けた彼に気付かれないように、シェリアに視線を向け、アイコンタクトを取る。それに気が付いた彼女は頷くと、天使の横をすり抜けるために走り出す。
「・・・」
本来なら邪魔をするところなのだろうが、案の定彼らを妨害することはしない天使。彼は二人の足音が聞こえなくなったことを確認すると、こちらへと視線を向ける。
「まさか私にこれだけの大役が回ってくるとは・・・ありがたいな」
こいつらの狙いは俺を連れ帰ること。ならばレオンたちが先に行こうが関係ないはず。俺さえ捉えれば彼らの目的は果たされるのだから。
「一応聞いておこう、我々と来るつもりは?」
「ありません」
俺の返事は彼も分かりきっていたようで静かに頷く。すると彼は翼を大きく広げたかと思うと、瞬く間に俺の目の前へと現れる。
「早ッ!?」
あまりの早さに回避することはできない。防御の姿勢を取るものの、それでも庇いきれないほどの攻撃を仕掛けてきた。
「マジか?なんだこいつ」
前の依頼の相手もそうだったけど、パワーもスピードも俺たちとは桁が違う。反応するのでやっとだ。
「ウィバリー様は加減をされていたが、もうその必要はなくなった。殺しさえしなければ、如何なる傷がついていてもいいと許可が出たからな」
それを聞いた瞬間血の気が引いていくのがわかった。さっき戦った奴は本気じゃないことは薄々勘づいていたが、今はその制約がないらしい。となると少し・・・いや、かなり厳しい展開になるかもしれない。
「これは・・・どうしたもんかなぁ」
背中からも額からも冷や汗が流れ出る。そんな俺の不安な心を見抜いたのか、天使は間髪入れずに次の攻撃を仕掛けてきた。
第三者side
勢い良く開かれる扉。その勢いのまま部屋に入ったレオンとシェリアを待ち構えているのは天使の姿へとなっているウィバリーだった。
「今度は最初なら本気ってわけか」
「本気?何を勘違いしているんだい?」
ボロボロではあるが戦う意志は失っていないようで目がギラギラとしているレオン。そんな彼に対し、ウィバリーは首をすくめる。
「私が本気を出すことはないよ、君たち相手ではね」
「その言葉・・・」
右腕に冷気を纏わせ飛び込む。持ち前のスピードを生かした彼はいまだに動きを見せないウィバリーにそれを叩き付ける。
「すぐに取り消させてやる!!」
身体が大きく成長した彼のそれは間違いなく以前よりも増していた。これまでの敵であれば難なく仕留めることができていたであろう一撃。しかしそれを彼は完全に見切り、掴み取るように受け止めた。
「なっ・・・」
渾身の一撃を受け止められたことに驚きを隠せない。ウィバリーはそんな彼を投げ飛ばし、レオンは空中でバランスを整えながら着地する。
「大丈夫?レオン」
「全然!!問題ないよ」
余裕を見せたいのだろうか笑顔で答えるレオン。しかし、すぐにその表情が元の真剣なものに戻ったのを見て、シェリアは拳を握る。
「レオン、あたしもーーー」
「大丈夫!!すぐにケリつけるから待ってて!!」
加勢しようとしたシェリアだったがレオンはそれを手で制止し、一人で突撃する。二人いるにも関わらず一人で攻めてくる彼を見て、ウィバリーは笑みが止まらなかった。
「君たち二人が協力しても無意味なのに、一人じゃお話にならないよ」
レオンの蹴りを交わしつつカウンターで上段蹴りを打ち込む。それにより体勢が崩れたものの、青年はそのまま頬を膨らませブレスを放つ。
「氷神の怒号!!」
「!!」
これはさすがに対処しきれずあっという間に飲み込まれるウィバリー。しかし彼はすぐに腕を振るいそれをなぎ払った。
「力はある、能力もある、しかしそれだけ。君には知恵がない」
「そんなのいらないよ、俺の力があれば」
力の差があることはレオン自身も感じ始めていた。しかし、それでもなおも挑もうと一歩踏み出した瞬間、彼の足元から槍が飛び出してくる。
「ぐっ!!」
「ほら、さっきから何も学習できてないじゃないか」
彼は突然のそれに反応することすら許されず、腹部を貫かれた。
シリルside
頭部へと飛んでくる蹴り。俺はそれを回避するために姿勢を低くした。しかし、天使が放ってきたのは蹴りではなかった。
「ほっ」
「ぐっ!?」
姿勢を屈めたところにアッパーパンチ。想定外の上に俺自身がその攻撃に向かっていく形になってしまったため、モロにそれを顎で受けてしまい身体がよろける。
「ほいっと」
完全に姿勢が崩れた状態で天使は右手を振るうと突風が襲ってきたのがわかる。そのせいでただでさえもふらついていた身体は耐えることができなくなり、後方へと飛ばされる形で転倒する。
「風・・・風か」
ここまで天使たちは魔法を使っているような素振りはなかった。しかしここに来て相手は風を使ってきたことを考えると、こいつは風系統の魔法を使う。
「なら・・・対処法はある」
左腕に力を入れると黒い模様が浮かび上がってくるのがわかる。風と空気はほぼ系統としては一緒!!つまり滅悪魔法を解放すれば、それに対抗する手段になり得るはず。
「ほぉ、悪魔を滅する力も持っているのか」
どうやらこの魔法のことは情報を持っていなかったらしく心底驚いたような声を出している。でも、わかっていてももう対応はできないはず。
「行くぞ!!竜魔の咆哮!!」
風と水を合わせた攻撃。一直線に向かっていくそれを天使は読みきっていたらしく難なく回避する。
「竜魔の・・・」
「!!」
しかしそれは予想の範囲内。如何なる回避方法を取ろうともこの狭い通路では動きは限られる。つまり初動さえ分かればそこに回り込むことは可能!!
「砕牙!!」
「くっ!!」
これは相手は想定していなかったようで腕でガードするのがやっと。しかしそのガードに使った腕を握り締めた天使はこちらの顔面目掛けて拳を振り下ろしてきた。
「マジかよ!?」
相手の腕から飛び散った鮮血が目に入り回避行動に移れない。おまけに攻撃後の無防備な状態になっていたこともあり拳を頭部に受けた俺は地面へと叩き落とされる。
「痛みを感じないのか?」
「君を連れて帰れるのなら、多少の犠牲は仕方ない。例えこの腕を切り落とされても、我々は役目を全うするよ」
ダメージ自体は入っているようで天使は負傷した左腕を抑えている。その表情は冷静さを装ってはいるが、痛みを堪えているようにも映った。
「くっ・・・」
揺れる頭を振って無理矢理に視界を戻すと身体を起こして距離を取る。それに彼も気が付いていたようではあるが、痛みのせいで反応が遅れたのか難なく一時退避することができた。
(やっぱりダメージを与えることはできる。でも、相手の方が能力は上・・・このままだと・・・やられる!!)
嫌な思考が頭を過りそれを振り払うため頭を振る。まだ負けると決まったわけじゃない。何か突破口があるはず。
「竜魔の・・・」
相手は負傷した腕を抑えたまま動こうとしない。しばしの膠着状態の後、先に動き出してみることにした。相手が格上なら、迎え撃つより仕掛けた方が可能性はある!!
「翼撃!!」
ドラゴンの翼に見立てた水と風の魔力で突進。天使はそれを後方に下がり回避しようとする。
「逃がさない!!」
しかし後ろに逃げただけならまだこちらの方が分がいい。なぜなら地面を蹴り直しそのまま加速を付ければ、さっきよりも勢いが乗った攻撃が打ち出せるのだから。
「もらった!!」
これは決まったと思った。決して油断していたわけではない。ただ、これは回避できない上に急所に入れることができる。そう思っていた。しかしここで天使は予想外の行動に出た。
スッ
「!?」
攻撃が当たる直前、彼のその場にしゃがんだ。何かを仕掛けてくるわけではなくただしゃがみ姿勢を低くする。俺はその彼に脚が引っ掛かり転倒した。
「どわっ!!」
勢いがあったこともあり転倒する。しかも翼撃を放つために腕に魔力を纏わせていたことが災いし、右手が床にめり込んで抜けない。
「多少のケガは大目に見るとのことだったので、悪く思うなよ」
強烈な一撃が来ることは雰囲気でわかる。しかし今の俺は動くことができない。だが相手は風系統の魔法を使ってくるはず。それなら食えれば・・・
「!?」
そう思って顔を向けると、相手が腕に纏っているのはなんと炎。これに危機感を覚えた俺は空いていた左腕でガードするしかない。
バキッ
「っ~~~!!」
左腕から嫌な音がしたと同時に走る激痛に声が出ない。もしガードしてなければ完全に仕留められていたであろう一撃の威力に悶絶しながらうずくまる。
「ふぅ。時間はかかったが、無事に使命を果たせそうだ」
あまりの痛みに反撃はもちろん動くこともできない。その隙に俺を連れ去ろうと天使は腕を伸ばしてくる。
「天竜の咆哮!!」
「!!」
俺に身体を向けていたために後方への警戒がおざなりになっていた天使。そのため、遅れてきたウェンディの攻撃に気付かずモロに背中にブレスを受け、俺を飛び越えるように転がっていく。
「シリル!!大丈夫!?」
「なんとか・・・」
駆け寄ってきたウェンディがすぐに治癒の魔法をかけてくれたおかげで痛みが和らいでいく。完全に治せれば良かったのだが、相手もそう易々とチャンスは与えてくれないようですぐに立ち上がったため、それに向き直らざるを得ない。
「グラシアンさんは?」
「思ったよりケガが酷くて・・・ローグさんとミネルバさんがアジトに連れていってくれてるよ」
ダメージもそうだけど、明らかに様子もおかしくなってたグラシアンさん。二人が付いていてくれるなら大丈夫だとは思うけど、それでもやっぱり心配だ。
「今は人の心配してる余裕ないよ、シリル」
そんな俺の心を見透かしていたウェンディ。顔には出していなかったと思うけど、ずっと一緒にいるだけあってわずかな変化で心情を察してくれる。
「もちろん。手伝ってくれるよね?」
「うん!!そのために来たんだもん!!」
二人で天使へと向き合う。一人では無理でも二人なら・・・それも俺たちならきっと勝てる。そんな余裕が心に出てきた。
「・・・」
そんな俺たちを見て何かを考えている様子の天使。彼はしばし思考したかと思うと、その手をこちらへと差し出してくる。
「わかった、ならこうするのはどうだろう?」
俺たち二人を見て彼は何かを思いつき、それを提案するかどうかを悩んでいたらしい。しかし、おおよその問いは想像できる。
「メーテス様に交渉し、その子も天界に行けるようにしよう。だからーーー」
「「お断りします」」
俺が二人揃ってなら提案を飲むかもと考えていたようだけど、そんなことはあるはずがない。そしてそれはウェンディも理解してくれていたようで、声が合わさった。その回答を聞いて、彼は深い深い溜め息を付き、こちらを見据える。その目は先程よりもより鋭く、殺意が見えるようだった。
「あまりやりたくはないが、ここはリスクは背負うしかないか」
何かを覚悟した目。そこから魔力を高めていく彼の雰囲気の変わりように、俺もウェンディも目を見開いていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
あとこの章は2、3話でいけるかな?
そのあとはちょっと思い付いたことがあるのでそれをやってみたいと思います。
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