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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第167話

 
前書き
風邪の次はインフルエンザ。
あまり病気に縁のない私が、短い間隔で身体を壊してしまいました。
皆さん、本当に気をつけてください。
 

 
「ねぇ、どうしてそんなに不機嫌になっているのよ。」

制理は自分より前を歩く麻生に話しかける。
彼女の言葉を聞かず、足を止める気配もない。
追加注文した鍋がきても、一向に帰ってこない麻生を心配して、制理は探しに行った。
すぐに見つける事ができたのだが、麻生は険しい表情をして拳を強く握りしめていた。
声をかけて戻ろうにも全くついて来ないので、手を引っ張って無理矢理すき焼き屋さんに戻った。
すき焼き屋に戻っても麻生は、何かを考えているのかすき焼きには一切手をつけないでいた。
険しい表情と、話しかけずらい雰囲気を出している麻生を察知したクラスメイト達も、話しかける事はしなかった。
追加注文を食べ終え、満足したクラスメイト全員はその場で解散になった。
何人かは麻生の突然の変化に心配していた。
私が何とかしておく、と言って勝手にどこかへ行く麻生の後ろについて行く。
他の人から見れば、わざわざ家も違うし、帰る道も違う。
ましてや、明日になれば元に戻っているかもしれないのに、制理がどうしてあそこまで麻生の事を気にかけるのか皆疑問に思ったが、深く追求するほど疑問に思わなかった。
彼らは知らないが、制理と麻生は一緒の家に住んでいる。
あのままの麻生だと、少し気まずい。
何より、制理自身もどうしていきなり麻生があそこまで変化したのか気になっていた。
桔梗が首を長くして待っているであろう、マンションに向かって歩いて帰っているのだが、どうして不機嫌になっているのか聞いても麻生は答えない。
さっきから制理の方を一度も見ようともしない。
完全に無視されている事に、少しだけ苛立った制理は少しだけ早く歩き、前を歩いている麻生の手を掴む。

「ん?」

あからさまに迷惑そうな顔をしながら振り返る。
少々強引だが、麻生を振り向かせる事ができた。

「さっきから何度も言っているでしょうが。
 どうしてそこまで不機嫌なのよ?」

「お前には関係ない。」

それで話を終えたつもりだったのだろう。
しかし、それで納得する訳もなく。

「そんな雑な説明で納得すると思う?」

「納得してくれないと帰れない。」

「それじゃあ、私が納得するように説明しなさい。」

どうやら、きちっと説明しないと梃子でも動かないようだ。
力ずくでも、最悪能力を使えば簡単に帰れるのだが、それを制理にする事は絶対にない。
すると、必然的にあの猫との話を説明しないといけない訳で。
そう思うと少しだけため息を吐いた。

(出来る限り、制理にはこちら側に来て欲しくない。)

あのティンダロスの猟犬を見てしまった時点で、既にこちら側に片足は突っ込んでいる。
なら、それ以上は踏み込む必要はない。
愛穂が退院してから、全てを話すと約束したが、本当に全部話すつもりはない。
なので、適当にはぐらかしながら。
でも、言いたい事はちゃんという事にした。

「お前は自分の人生が決められていたらどうする?」

「はぁ?」

あまりに突拍子もない質問に制理は眉をひそめる。
それでも、麻生の眼は冗談を言っているような目ではなかったので、真剣に考える。

「笑う事も泣く事も怒る事も、作家が本を書くように、予め決められていたとしたらどうする?」

「・・・・・・・・もしかして、そんなくだらない事で悩んでいたの?」

「はっ?」

割と本気で悩んでいた事を、制理はくだらない事と言い捨てた。
あまりの予想外過ぎる発言に、唖然としてしまう。

「恭介の言うとおり、人生とか私の考えだとか、そういう事が全部決められているとしましょう。
 決められていたとしても、その生き方を選んだのは自分の意思なんでしょう。
 操り人形の様に、自分の意思ではないのなら、そりゃあ納得いかない。
 でも、自分が決めた道ならそれを信じて進むわ。
 それが誰かに決められたレールの上だったとしてもね。
 私自身が決めた道だから。」

制理の言葉を聞いて、少しだけ呆気にとられてしまった。

「つっても、一寸先は闇。
 誰も先の事なんてわからないモノよ。
 だから、深く考える必要なんてないでしょ。」

さっきまでの言葉が台無しになるような事を言う。
呆気にとられていた麻生だが、その言葉を聞いて。

「ぷっ!・・・・・あはははははははは!!!!」

いきなり噴き出したかと思うと、大声で笑い始めた。
不機嫌になったり大声で笑い出したり、気がどうかしたのかと、制理は心配になってきた。
落ち着くまで笑った麻生は未だに笑みを浮かべながら言う。

「そうだな。
 深く考える方が馬鹿だったな。」

そう言って、近づくと優しく抱きしめた。

「ふあっ!?
 ほ、本当にいきなりどうしたのよ!?」

いきなり好きな男の子に抱き締められたらそりゃあパニックになる。
そんな制理を気にせずに麻生は言う。

「ありがとう。
 本当にお前は俺の救世主だよ。」

それだけ言い終えると、制理から離れる。
離れたら離れたで名残惜しいと感じてしまう辺り、制理も乙女だろう。
さっきまでの険悪な雰囲気はどこかへ行き、いつもの麻生に戻っていた。

「さぁ、帰るか。
 あまり遅くなると桔梗がうるさいからな。」

今度は先へ行こうとはせず、制理の隣に移動して並んで歩くようにする。
それが何だか照れくさく感じた制理は、せめて赤くなった顔を見られないように顔を逸らす。
ふと、麻生が言った言葉が気になったので聞いてみる。

「さっき、私の事を救世主って言ったわよね。」

歩きながら麻生に聞く。

「あれってどういう意味?
 そんな大層な言葉で言われるようなことした?」

「ああ、それはな」

珍しく麻生が答えようとした時だった。

「だから、ドアを勝手に開けたら車を出せないでしょう?」

「なんだとこらー、それは全日本半ドア連合に対する挑戦かちくしょうー。」

「はいはい。
 そのナントカ連合のメンバーはあなた一人しかいないんですよね。
 聞き飽きましたからさっさと座席に戻ってください。」
 
「何をー。
 そう言われた以上は意地でも戻れねーなー、へっへっー。」

行き先の道にタクシーが停まっていた。
ちかちかと黄色いウィンカーが瞬いていて、後部ドアは開きっ放しで、何故かそこから大学生ぐらいの女性が上半身だけ、でろっとはみ出ている。
ぐべちゃー、と路面に突っ伏した女性は、運転手らしき中年男性と口論になっていた。
結構大きな声だったので、運転手と女性客の全く噛み合わない会話は二人に届いている。
何故か、女性の声に聞き覚えがあった麻生だが幻聴だろうと割り切る。

「何あれ?
 運転手に迷惑よね。」

「その通りだな。
 道を変えるか?」

何となく嫌な予感がした麻生は、そう提案する。
あの女性は会話を楽しんでいるのではなく、とにかく構ってもらうのが楽しい人間だ。
あんなのに絡まれれば、それこそ朝になって酔いが覚めるまで延々とトラブルに巻き込まれ続けるに決まっている。
それも聞き覚えのある声だったら尚更だ。
目をつけられる前に、さっさと退散するに限る。

「別に私は構わ」

と、制理が同意しようとした時だった。

「んー?」

酔っぱらいの首がにょとっとこっちを向いた。
相変わらず下半身はタクシーの中に、上半身は地面にへばりついたままだ。
眼が合った、と麻生は直感した。

「あーあーあーっ!
 アンタは確か麻生くんだ麻生くん!!」

「何で俺の名前を知っているんだよ。」

疑問に思って酔っぱらいを見て見ると、それは大覇星祭の時に出会った女性、御坂美鈴だった。
あのビリビリ中学生、美琴の母親である。

「何で、あいつの母親が此処にいるんだよ。」

「ちきゅーの重力って偉大よね。」

「人の話を完全に無視ですかそうですか。」

「なんつーか、美鈴さんはもーう何もいりまっせーん。
 このまま寝ますおやすみーむぎゃ。」

「会話のキャッチボールすら成立していないな。」

疲れたようなため息を吐きながらそう言う。
本当に寝たかのような寝息が聞こえたので、このまま無視して帰ろうと思った。
が、パチッといきなり美鈴の両目が開いた。

「あっ、いけね。
 ストレッチしてないし乳液も塗っていないじゃん!
 ちくしょー努力を怠るとすーぐ肌に返ってくんのか。
 どーせ私は一時の母ですよーっ!!
 うぶっ吐きそう!?」

「し、知り合い?」

酔っぱらいのテンションに圧倒されながら、制理は麻生に聞く。
既に疲れたような表情になっている麻生は再びため息を吐いて言う。

「大覇星祭でな。
 俺の知り合いの親だよ。」

「ふ~ん。
 んで、何でその人がここに?」

「俺が聞きたい。」

タクシー運転手は『た、助かったーっ!やっと酔っぱらいの保護者が出てきたのか!!』という目でこちらを見てきた。
まぁ、こんなはた迷惑な酔っぱらいを相手にすれば、誰だってそうなる。
美鈴はターゲットを運転手から麻生に移す。
タクシー後部座席に下半身を突っ込み、上半身だけ路上にはみ出てる格好から。

「おっふ、おっふ、
 た、立てない・・・」

どうやら起き上がろうとしているようだが、どうにもその動きは無駄が多いというか、水族館にいるオットセイみたいな仕草にしか見えない。
近づきたくないが、知り合いの親、しかもあのビリビリ中学生の親となれば、後々美琴に連絡していちゃもんをつけられる可能性もある。
軽くため息を吐きながら、傍に寄った所で、美鈴が思い切り抱き着いた。

「おっしゃーっ!!
 年下の坊やげっとーっ!!」

「やっぱり放っておけば良かったァァァァァ!!!」

むぎゅー、ぐらいなら胸も高鳴るが(麻生なら高鳴らないかもしれないが)、どうも美鈴は普段から運動を欠かさない人物らしく、抱き着く力も強かった。

「こーんな時間にぶらぶらしちゃってぇ、美琴ちゃんはどうしたのよー?
 そっちのは彼女さん?
 美琴ちゃんが泣いちゃうわよー?ぶはー。」

「酒臭い!
 ええい、離れろ!!」

「あれぇ?
 酒臭くて目がとろんとしているお母さんはセクシィじゃありません?」

「どこにセクシィ要素があるのか教えて欲しいな!
 制理、何とか引きはがすの手伝ってくれ。」

本気を出せば引き剥がせるのだが、酔っぱらいに本気で力を使うのもそれはそれで面倒。
なので、他の人の力を頼る事にしたのだが。

「ふ~ん・・・美琴ちゃんね。」

今度は制理の方が不機嫌そうな視線を向けていた。
何だか雲行きが怪しくなっているのを麻生は気がついた。

「そういやー、そっちの子って誰だっけ?
 自己紹介プリーズ。」

「別に教える必要ないでしょう。
 恭介とじゃれてたら。」

そう言って、制理は明らかに怒っている雰囲気を出しながら、この場から離れて行った。
これは美鈴も予想してなかったらしく、あらら、と呟いていた。
だが、ターゲットは逃がさない。」

「ねーねぇー。
 断崖大学のデータベースセンターってどこだっけぇ?」

「あ?」

「あれよぉ、ほらAIとか演算ソフトとかー、プログラム関連の電子情報群を集めている観覧保管施設の事よおー。」

「説明しなくても分かる。
 確か・・・」

「そうだ、電話番号とアドレス交換しよう?」

「テメェ、三秒前の自分の言葉を思い出せ。」

「どうせ美琴ちゃんとも交換してんでしょー。
 こっちも仲間に入れなさいよー。
 んでね、私のアドレスはあー。」

つらつらとアルファベットや数字を並べていく美鈴。
最初は携帯を出さずに、頭で覚えているから後で登録すると言ったが、美鈴は目の前で登録しろさもないとこのまま離さないぞ、とあまり洒落にならない事を言い出したので、諦めて登録する。
かくして美琴が汗と涙の機種変大作戦によって得た成果を、この母親はものの三分でゲットしてしまった。

「はいはーい。
 君の番号は『友達』のカテゴリに登録しとくからねぇ。」

「本当に疲れた。
 制理もどっかに行ったしな。」

大きくため息を吐いて、いつまでくっついている美鈴を強引に引き剥がす。

「何で美鈴さんがここにいるんだ?
 許可なく学園都市に入ってくる事はできないはずだぞ。」

「へいへーい。
 美鈴さんは大学生であるからして、レポートを提出しないと駄目なのです。
 だけどそのための資料が学園都市にしかねーとかいう話だから、わざわざここへやってくるしかなかったのですー。」

「まぁ、俺にはどうでも良いけど。
 さっさとその断崖大学へ行って来い。」

麻生は呆れるように言いながら、こっそりと逃げようとする運転手を睨んで逃がさないようにする。

「ついでに美琴ちゃんの顔でも見てやろうかと思ったのによー、なーんか常盤台中学の女子寮はチェックが厳しいから駄目だってさ。
 親なめんなよー。」

「酔っぱらいを治してから出直せ。
 ほら、タクシーに乗り込め。
 あんたも手伝え。」

バタバタと暴れる美鈴を運転手と麻生の二人で無理矢理、後部座席に押し込む。

「ちょっと、こら!
 話はまだ終わってねっすよーっ!!」

「続きはまた今度だ。
 ちゃんとアルコールを抜いた状態でだけど。」

「ちくしょう、子供にあしらわれた―っ!!」

ぐだぐだの美鈴だが、麻生がしっしっ、と手で払うとタクシー運転手は『ホントにこいつ金払うんだろな』という顔でしぶしぶ車を発進させた。
ぶーんと遠ざかっていく排気音を聞きながら、麻生は疲れたような息を吐く。

「さて、ともかくマンションに戻るか。」

今の時間だと、スーパーも閉まっている。
余っている材料とかあるだろうか、制理はなぜ怒ったのか、を考えながらマンションに向かって帰るのだった。 
 

 
後書き
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