魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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魔法絶唱しないフォギアGX編
北上透の何気ない一日
前書き
どうも、黒井です。
今回は透をメインにしたお話。今まで伏せられていた、透の普段の学生としての生活の一部が明らかとなります。
夏休みも中頃が過ぎたある日、クリスは響や未来、そして彼女らの学友である弓美達と共に出掛ける事になっていた。勿論透も一緒に、だ。折角のお出かけへの誘い、断ると言う選択肢はない。
まぁ、女子ばかりの中に透と言う男一人の状況に対して、クリスにも思うところが無い訳では無いが彼なら万が一という事は無いだろう。そう信じている。
一足先に待ち合わせ場所で1人待っていると、未来を引っ張る様に響が駆け寄りその後ろには弓美と創世、詩織の3人が続いてきた。
「お待たせ~、クリスちゃん!」
「遅ぇぞッ!」
「って言っても、まだ待ち合わせまでは時間あるんだし、クリスが早かっただけだと思うよ?」
「う、うるせぇッ!?」
何気にこのお出かけを楽しみにしていたクリスは、集合時間の30分前には到着していた。そして今の時間は集合時間10分前、どう考えても文句を言われる筋合いはない時間である。未来の言う通り、ただクリスが来るのが早過ぎたと言うだけの話だ。
事実を指摘され、クリスは思わず顔を赤くしてそっぽを向く。その様子に弓美達も苦笑を浮かべずにはいられなかった。
「全く……絵に描いた様なツンデレと言うか……ホント、アニメみたい」
「そこがキネクリ先輩の可愛い所なんじゃない?」
「ですね。透さんが先輩をかわいがる理由も分かる気がします」
「うるせぇッ! 別に透は関係ねえだろッ!?」
透の事まで話題に上げられ動揺するクリス。そこで未来は、この場に透の姿がないことに気付き周囲を見渡した。
「そう言えば、透君は?」
「あ、そう言えば居ないね? 透君も今日は来る筈だったのに……」
「あぁ、透ならさっき落とし物見つけて交番届けに行ってるだけだ。すぐ戻って来るよ」
それならばここで少し待っていようと思った矢先、詩織が特に意識した訳でもなく後ろに一歩下がった。瞬間、彼女は背後に居た何者かに背中をぶつけてしまう。
「イテッ!?」
「あっ!? ごめんなさ――――」
気付かなかった事とは言え後ろに居た人物にぶつかってしまった事に詩織は即座に謝罪しようとした。だがその相手は彼女の謝罪を聞くよりも先にドスの利いた声で言葉を口にした。
「おいおいおい、イテェじゃねぇかよ?」
「何処見てんだコラ?」
「女だからって見逃してもらえると思ったら大間違いだぞ、お~ん?」
詩織の後ろに居たのは如何にも不良ですと言わんばかりに髪を染め、着崩した衣服の3人組だった。詩織がぶつかったのは金髪リーゼントに特攻服と呼ばれる服を着ている。この手の荒事には慣れているのか、睨む顔には凄味があり肝の据わった方である詩織も思わず言葉を詰まらせてしまう程であった。
「うわ、在り来たりな……」
「アニメじゃないんだから……」
「え~、ごめんなさい。不注意でした。だから……」
「謝って済む問題か?」
「何か誠意を見せてもらわねぇとなぁ?」
「例えばこの後俺らに付き合うとかよぉ?」
要はそれが目的か。女子だけで集まっている状況に、コイツ等は狙いを定め近付いて来たのだろう。
流石にこの状況を黙って見ている訳にもいかず、特に気が短い方のクリスは即座に文句を言おうと前に出て口を開こうとした。
しかし…………
「ったく、何だよ一体。いい加減に、げ……!?」
「? クリスちゃん?」
「どうしたのクリス? いきなり隠れたりして?」
男達に文句を言おうとした次の瞬間、クリスは彼らの姿に顔を顰めると素早く響と未来の後ろに隠れた。先程の勢いは何処へ行ったのやらと言った様子に、2人は顔を見合わせて首を傾げる。
素早く隠れたクリスではあるが、途中まで出ていた文句を3人組はしっかりと聞いていた。その文句に反応し、自分達に楯突こうとしたクリスの方に関心を寄せた3人はそちらへと標的を変えた。
「おぅおぅ、今いい加減にしろとか言いやがったか?」
「何処のどいつだ、んな生意気な事ほざくのは?」
「隠れてないで出て来いやッ!」
凄みながら迫る3人に未来が怯え、響が2人を守ろうと前に出る。その際にクリスの顔が男達の目に映った。
その瞬間、男達の表情が変わった。それまで彼女達を威嚇する様に凄んでいた顔から一転、驚愕に目を見開くと物凄い勢いで響達から距離を取り直立し腰を90度に曲げ頭を下げた。
「「「すいやせんでした姐さんッ!?」」」
「「「…………へ?」」」
「「あ、姐さん……?」」
不良達の態度の変わりように、弓美達は目が点になり響と未来は後ろで小さくなっているクリスを見た。
全員の視線が集中する中、クリスは居た堪れなくなり頭を抱えた。
「だ~か~ら~、その姐さんってのは止めろっつってんだろうがッ!?」
「何を仰いやす姐さんッ!」
「兄貴の女である姐さんに無礼を働いたなんて一生の不覚ッ!?」
「今日は兄貴は一緒じゃないんで?」
クリスの言葉も無視して男達は尚も頭を下げ続けている。その異様な光景に響達が唖然としていると、交番から透が戻ってきた。
「あ、透君ッ!」
「「「ッ!」」」
響の声に不良達が一斉に顔を上げた。対する透はと言うと、何時も通りにこやかな顔で手を振るとクリスの傍へと近付く。
そこで彼も不良達の姿に気付き、一瞬意外そうな顔をするも直ぐに何時もの笑みを浮かべ彼らにも手を振った。すると3人は土下座する勢いでその場に膝をつき、クリスに向けた時以上の敬意を示した。
「「「お疲れさまです兄貴ッ!! 先程は姐さんに対して大変失礼を――――」」」
クリス達に絡んでしまった事への非を認め謝罪する3人に、透は何があったのかとクリスに視線を向ける。端的に言ってもカオスなこの状況に、クリスはただ乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。
***
その後、何とか透が不良3人を宥めすかして帰ってもらう事に成功した訳だが、この時点でもう精神的に疲労困憊となっていたクリス。彼女をこのまま引っ張っていく訳にもいかないので、休憩も兼ねて近くの喫茶店に入りそこで響達は詳しい事情を聞きだした。
「えっと、クリス? さっきのアレ何?」
「カミトオ先輩が何であんな不良に慕われてるんです?」
「何かあったんですか?」
口々に疑問を口にした未来達に、クリスは盛大に溜め息を吐き口を開いた。
「あ~……透がリディアンの近くの高校に通ってるのは知ってるか?」
「うん、知ってるよ」
S.O.N.G.の一員である透には本当であればリディアンに通ってほしかったのだが、あそこは飽く迄女子高であり男子である透を入れる訳にはいかない。これがラノベの世界であれば、超々特例で共学化の為のなんちゃらと称して捩じ込む事も出来たのだろうが、そんな甘い話がある訳もなく透は無難にリディアンから近い所にある共学の高校へと通っている。
そこはリディアンと違い、良くも悪くも普通の高校。つまり、一定数の不良も存在するようなところであった。
そんな所へ急遽転入した透は、当然の様に色々な意味で目立った。喉を傷付けられ喋れない上に、その痛々しい傷跡を見せないようにと制服の上から首にスカーフを巻く独特のスタイルは転入生という事も相まって注目の的となっていたのだ。
そうなると当然良からぬ輩が絡む事もある。目立つ者を放っておけない、他人に対し平然と悪意を向けられるような生徒達から、透は虐めに等しい扱いを受ける事もあった。
しかし相手は透である。菩薩の生まれ変わりかと言う程善意の塊と言っても過言ではない彼は、同時にウィズですら舌を巻くほど超合金のメンタルを持っていた。生半可な虐めで今更心を傷付けられる事も無く、平然と受け流し続けていた。
これで透が少しでも何か堪えている様子を見せたのなら、やり返してこない事に相手は更に調子に乗っていただろう。だが繰り返すが、相手はあの透である。サンドバッグとかそう言うレベルではなく、鉄壁の城壁を殴るかのような感覚に透への悪意が無意味であると感じ、その多くは彼に関わるのを止めた。
そして虐めが一段落すれば、そこからは普通の学生生活が待っていた。前述の通り透は善意の塊なので、裏表のない厚意に男女問わず次第に慕われるようになっていった。或いは虐めに晒されても全くぶれないその姿勢に感銘を受けた者も居るのだろう。
そんな中で、透がクリスと付き合っている事が知られるようになる。それを聞きつけたのは言うまでも無く先程の3人であり、彼らはこれを利用して透を揺すろうと考えた。もしかすると透と付き合っているクリスに対して、いかがわしい事を考えたのかもしれない。
そこまで話を聞いて、響は慌てた様子を見せた。
「えぇっ!? ちょ、クリスちゃん大丈夫だったの!?」
「落ち着いて響。何かあったら弦十郎さん達も黙ってないでしょう?」
「あぁそうだ。何より、透がアタシを守ってくれるからな」
あっけらかんと口にするクリスに、傍で話を聞いていた弓美は口の中が甘くなるのを感じた。
「砂糖入れてないコーヒーが甘い……こんなのアニメの中だけの事だと思ってたのに」
「相変わらず仲いいねぇ、キネクリ先輩とカミトオ先輩は」
「羨ましいです」
3人の視線の先では、クリスの隣で彼女の事を温かい目で見ている透が居た。
「それでそれで? 何であんな事になったの?」
「あ~、それはだな…………」
透がクリスと付き合い、更には同居していることまで突き止めた3人組は彼の家に押しかけようとしたらしい。だがその前に、彼らはふとした不幸から他校の不良といざこざを起こしてしまった。
自分達よりも人数の多い不良に囲まれ袋叩きにされる3人。そこに偶然クリスと出掛けていた透が遭遇した。
透は3人の窮地に不良達の中に飛び込み、彼らを救出した。と言っても暴力に訴えるようなことはしない。彼は他校の不良達の中に飛び込むと、筆談で彼らにもう止めるように訴えた。
当然それで不良達が引っ込む筈もなく、彼らは標的を透に変え3人組の代わりに寄ってたかって袋叩きにした。
多数の不良達から殴る蹴るの暴行を受ける透。しかし彼は過去に武装集団からクリスを守る為、その身を盾にしてきた経験がある。鍛えられた大人からの暴力、喉をナイフで切り裂かれた悪意に比べれば、ただ感情のままに拳を振るうだけの暴力なんてどうという事は無い。これまでに何度も死に掛けた経験と比べれば、不良達の暴力など子供のじゃれつきにも等しかった。
全く堪える事無く暴力を一身に受ける透の姿に、不良達の方が逆に恐れをなした。何しろ透は痣が出来血を流そうとも、両手を腰の後ろに組んだ状態で全く動こうとしないのだ。揺らがぬその姿勢に、得体の知れない何かを感じた不良達が恐れを抱くのも無理はない。
そうこうしていると、パトカーのサイレンが聞こえてきた。透が3人組を助けに入った時、クリスは彼が絶対に反撃しないだろう事を見越して警察を呼んでいたのだ。
近付いて来たパトカーに他校の不良達は透への恐れもあって一目散に逃げだした。後に残った透に、クリスは彼を心配して近付いた。
「大丈夫か、透!?」
一見すると傷だらけに見える透だったが、彼は全く平然とした様子でクリスに笑みを向ける。その姿にクリスは、やれやれと言った様子でハンカチを取り出し殴られて切れた箇所から滲み出る血を拭きとる。
「ったく、こんな奴らの為にまで……」
不良達がいざこざに巻き込まれるなどただの自業自得ではないかと思うクリスではあったが、透はそれに否と答えた。
「え? こいつ等、透の学校の生徒なのか?」
転入当初、この3人も透に対して絡んだ事があった。その時は見た目通り、暴力的でカツアゲの様な行為であったが、透はそれにも屈することなくそれどころか平然と受け流していた。
打っても響かない透に早々に興味を失くした3人はそれ以降彼の事を無視し、今回クリスとの事を知って再び彼にちょっかいを出す事にしたのだが透の方は彼らの事を覚えていた。そして、同じ学校に通う生徒だからと言う理由だけで彼らを助けに入ったのだ。
3人はその透の気高い精神に心を打たれた。不良である事に変わりは無いし、弱者に対して高圧的に出る事も辞さないが、そんな彼らにも誰かを敬う心はあったのだ。
「「「ありがとうございやす兄貴ッ!! このご恩は一生忘れませんッ!!」」」
こうしてこの3人は、透の舎弟の様な立場となり、校内では常に透を敬いクリスに対しても敬意を表するようになったのだった。
***
一通り話を終えて、また疲れがドッと来たのかクリスは大きく溜め息を吐いた。
一方響達は、クリスの話を興味深そうに聞いていた。
「へ~、そんな事があったんだ」
「透君らしいと言えば透君らしいね」
「って言うか、ホントにアニメみたいな展開ね」
「助けた不良に慕われるとはね」
「透さんナイスです!」
響達から関心を向けられる透だが、彼は今の話の何処がそんなに凄いのか今一分かっていない様子で首を傾げていた。彼にとっては、この程度別に特筆すべき程の事でも何でもない様子だった。
実際そうなのだろう。彼は既に一生分の悪意を受けた。それも偏にクリスを愛する為に。
強い心と大きな愛を持つ彼にとって、多少の悪意など気にするような事でもない。ただ何時も通り、他人を敬い、他人を愛する、何気ない日々の一日でしかなかったのだ。
相変わらずな透の様子に、クリスは呆れと同時に愛しさを感じた。こんな彼だからこそ、自分は彼を愛したのだと。
「よしっ! 十分休んだし、そろそろ行くぞ!」
クリスの声に、透たちは立ち上がりあちこちを遊び歩いた。クリスを始めとした6人の女子に囲まれながら、だが透の視界には常に愛するクリスが存在し続けた。
この日もまた、透にとっては何気ない、しかし掛け替えのない大切な一日として記憶に刻まれるのだった。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回登場した不良3人は、XVの暴走族3人を意識してます。あの3人、年齢が明言されていないので学生扱いして良いのか不明なのですが、高校の時点で髭の生えてるキャラクターも居ない訳では無いので本作では学生の不良として扱わせていただきました。
透はメンタルが超合金レベルに固いので、学生の虐め程度どうという事ありません。彼はイメージとして、フィジカルも強靭な野上良太郎を意識しているので、陰湿な虐めも暴力的な虐めもへっちゃらです。
次回はガルドをメインにした話の予定。彼とセレナの平穏で甘い一時を書けたらいいな……
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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