ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第三十四話 舞い降りた漆黒と決着
「ねぇ、どうしてそんなに強いの?」
―――あれはいつのころだっただろうか・・・
「いきなりだな」
―――一度だけ問うたことがあった。
「だって気になったんだもん。で、どうして?」
―――彼の強さに秘密を。
「う~ん・・・強いて言えば、我武者羅に頑張ってきたからじゃないか?」
―――どのようにしてそこまで至ったのかを。
「言ってる意味は分かるけど・・・普通に考えてそんなに強くなれるの?」
―――だけど、彼は
「さぁ?」
―――困ったように笑うだけだった。
◆
深紅に光る長剣をどこか遠い心で眺めながら、ルナは走馬灯を見ていた。今でこそ彼と恋人という立場にいるが、それでも一剣士として彼の強さに憧れている。しかし、どんなに頑張っても彼に追いつけることはなく、その背中さえ見ることはできない。
わたしは、あなたのように強くはなれないよ・・・ソレイユ・・・
「さようなら・・・ソレイユ・・・」
涙まじりの笑顔でルナはここにいない生きてるかもわからない最愛の人に別れを告げた―――――はずだった。
「勝手に死んでもらっちゃ困るんだがな・・・」
―――――はたしてそれは、夢か現か幻か。
その言葉と共に舞い降りたのは、闇を超越した漆黒の衣と昏き闇夜を照らすが如く輝く一筋の剣閃。
甲高い音を響かせて命を刈り取る魔剣を止めたのは、この剣の世界において誰からも頂点と称され、認められた【最強】の剣士――――
剣の頂に立つ者―――≪剣聖≫ソレイユ。
別れを告げられたはずの者が、一剣士として憧れを抱かれていた存在が、力なく崩れ落ちそうになっている体を支えながら、命を散らす魔刃から自らのかけがえのない存在を護っていた。
◆
時間は少しさかのぼり、第一層 はじまりの街
未だ多くのプレイヤーたちが止まり続けている場所にソレイユ、ベガ、シリウスの三人は歩いていた。その表情から見て取れるのは極度の疲労だった。
オシリスたちを撃破したあとに待っていたのは、かつて攻略組を苦しめたフロアボスたちだった。しかし、ソードアート・オンラインのなかで規格外の強さを誇る彼らをその程度で倒せるのなら、アポカリプスや三界の獣神に会う前にこの世を去っている。
「あのエンカウント率は、ありえないでしょう・・・」
フロアボスの大群を難なくとは言わないが倒したソレイユたちが帰路についたとき、それは起こった。ジェネシアスのMobのエンカウント率が異常なほど高かったのだ。それをすべて打ち倒していたため、ここに帰ってくるのが昼過ぎとなってしまったのだ。まぁ、それを疲れただけですませられる彼らを人と呼んでいいのかは迷うところであるが・・・。
「・・・それは悪趣味な製作者に言ってくれ」
「お前が倒したんだからもういないだろ・・・」
ベガがぼやき、ソレイユがそれに反応し、シリウスがそれにツッコむ。そのやり取りを不毛だと感じたのか、三人は話題を転換することにした。
「それより、この後どうするよ?」
「「帰って寝る!」」
「だろうな。おれもルナが恋しいからな、さっさと帰ることにするわ・・・」
方針が決まれば後は行動するのみ。三人はさっさと帰ろうと転移門に足を進める。その時、ソレイユにメールが届いた。
「うん?誰からだ・・・って、アルゴ?疲れてっから報告は明日にしたいんだけどなぁ」
歩きながら、ぼやきながらメールの確認をするソレイユ。全文を読み終えたところ、彼の表情は今までの疲労が嘘のようだった。
「わりぃ、シリウス、ベガ。急用ができたから先に行くわ」
そういって、ソレイユは転移門の方へ走り去っていく。それを特に何かを気にする様子もなく見ていた二人はソレイユの急変について語り合っていた。
「ルナちゃんがらみかな?」
「多分な。あいつがあんなふうになるのはそれしか思い浮かばないだろ?」
「そうだよね・・・・・・あのソレイユが夢中になる人か・・・会ってみたいなぁ」
「そうだな」
◆
第七十五層 コルニア転移門広場
蒼い光と共に現れたのは、第一層の転移門を使用したソレイユ。七十五層に着くなり誰かを探すようにキョロキョロとあたりを見回している。
「やっと来たカ。待ちわびたゾ」
目的の人物の方から声をかけてきたため探す手間が省けたソレイユは、その人物に駆け寄り、いつもより忙しい口調で口を開いた。
「悪い、走りながら話していいか?」
それを首肯することで了承したのは≪鼠のアルゴ≫。二人は七十五層の迷宮区に向かって走り出した。走りながら二人は持っている情報を交換し合う。
「ソー君が生きているということハ、無事ジェネシアスをクリアできたんだナ?」
「ああ。いくつか確証が得られたものもあった」
「ほウ。ぜひ聞かせてほしいものだナ!」
「ああ、もちろん。まず、おれが前に言った仮説を覚えているか?」
「ヒースクリフが茅場晶彦かもしれないというあれカ?」
「そう、それだ。それの裏が取れた。ヒースクリフは茅場晶彦だ」
「それ事実なラ、これから大変なことになるナ・・・!」
「これからがあれば、な・・・」
「どういう意味ダ?」
「さぁな」
「・・・ソー君らしい答えだナ。それより、なんでこんな急いでいるんダ?」
「まぁ、いやな予感がするとしか言いようがないな」
「また、ルーちゃん関係カ?」
「・・・・・・」
「オネーサンの初めてを奪っといてルーちゃんにゾッコンとハ・・・ソー君も罪作りだナ!」
「・・・ものすごい誤解のある言い方だな、おい・・・。寝ぼけてキスしただけだろ・・・」
「オネーサンとの熱い夜を忘れたのカ?」
「蒸し暑い夏の夜に、おれの抱き癖が発動しただけだろ・・・」
「オネーサンのことは遊びだったのカ!」
「ああ、遊びでした」
「・・・オネーサンの渾身のボケをあっさりとかわすとハ、さすがソー君だナ!」
「渾身のボケ、ね・・・ホントか、それ?」
「・・・・・・」
そこで会話が途切れたところで走っていこうとする先にMobを発見し、回避する間もなくエンカウントしてしまう。
「ったく、めんどい・・・」
そう呟くと、隣を走っていたアルゴの首根っこをつかみ自分の背中へと放り投げる。いきなりのことに驚いたアルゴだが、何とかソレイユのコートをつかみ背中に引っ付く。
「しっかりつかまってろよ!」
その言葉と共にソレイユの姿は消えた。残されたのはMobがポリゴン片となった時に鳴る破裂音だけだった。
◆
「ばかな・・・」
そう言葉を漏らしたのはソードスキルを止められたヒースクリフこと茅場晶彦だった。意外すぎる人物の登場に驚いたのか、彼が生きているとは思っていなかったのか、どっちにしろ驚愕しているのが手に取るように分かった。
「(へぇ~、驚くとこんな顔するんだ・・・)」
などと場違いかつ不謹慎なことを心の中で呟くソレイユ。不意にソレイユの名前を呼ぶものがいた。
「ソレ、イユ・・・?」
意識せずに名前を呼んだのはルナであった。まるでソレイユという存在を確かめるように呼ばれた本人は鍔迫り合っているにもかかわらず、穏やかな声色でルナの呼びかけに答えた。
「ああ、おれだ」
ソレイユの存在が確かめられたせいか、その穏やかな声色につられてか、ルナの瞳から涙が零れ落ちる。必死に我慢しようとしているが、なかなか意味をなさない。しまいには、ソレイユの胸にすがりつき嗚咽を漏らしながら泣いている。それに一瞬だけ見やると、長剣を受け止めていた長刀に力を込め強く弾いた。予想以上の力がこもっていたせいかヒースクリフは数歩後ずさる。そして、改めてソレイユに向きなおった。
「まさか、君が現れるとは予想外だったよ」
「だろうな。それより、久しぶりと言うべきなのかな、ヒースクリフ団長?それとも、初めましてというべきなのかな、茅場晶彦?」
「オシリス・・・高嶺恭介から聞いたのかい?」
ヒースクリフの正体を知っているソレイユに推測を立てる茅場晶彦だがソレイユの返事はイエスではなかった。
「半分正解で半分はずれ。おれがあんたを怪しいと思ったのは
―――――(オシリスに語った推測を)説明中―――――
という訳だ」
「・・・驚くべき洞察力だな。それより、どうするのかね?」
ソレイユの推測を聞いた茅場晶彦は再び驚愕するが、すぐにいつもの表情に戻り話を進めていく。言葉足らずに聞こえるが、当のソレイユには通じたようだ。
「男のタイマンに横槍を入れるつもりはねぇよ。ということで・・・ファイトだ、キリト君」
他人事のように言うソレイユにアスナやほかの攻略組のプレイヤーは驚き眼を瞠るが、そんなことはお構いなしに長刀を鞘に納めると、ヒースクリフに背を向け距離を取っていく。その途中にアスナの首根っこをつかみ引きずっていく。当然のごとく暴れるアスナだがそれにすらお構いなし。ちなみに、ルナは何とかソレイユに支えられながらなんとか歩いている。
「おっと、そうだ」
ふと何かを思い出し、引きずっていたアスナの首根っこから手を離し、ルナを優しく引き離した。(アスナの扱いが不憫だが、そこを気にするソレイユではない)
「ちょっと、キリト君と話してもいいか?」
「かまわないよ」
ヒースクリフの了承を得てソレイユはキリトものもとに歩いていく。状況を飲み込めていないキリトは近くまで来たソレイユの名を呆然と呟くしかできなかった。
「そ、ソレイユ・・・」
「キリト君・・・歯を食いしばれっ」
そんなキリトの胸ぐらをつかむと、キリトの頬にソレイユの拳が吸い込まれていった。幸いHPの全損は免れたものの、殴られた本人は目を白黒させているが、それはキリトだけでなく、このフロアにいる全員がソレイユの行動に目を丸くしている。
「結局お前は何もわかってねぇし、なにも進歩してねぇ」
「な、なにが・・・」
「はぁ・・・言わねぇとわかんねぇのかよ・・・いいか、この世界のことをお前一人だけで背負う必要なんてないんだよ」
ソレイユの言葉にキリトは目を瞠るがそんなのお構いなしに言葉を続ける。
「自分が何もかも背負えるとか、自分が何もかも終わらすとか考えてるんだろ・・・ふんっ、のぼせ上がるなよ、小僧。お前に守られなければいけないほど、俺たちは弱くはねぇよ・・・お前一人で背負えるほど世界は軽くねぇよ・・・」
「・・・だ、だけど、おれはビーターだ!デスゲームが始まった時、自分が生き残るためにほかの全員を見捨てたんだ!!それだけじゃない!!月夜の黒猫団のときだって、おれはっ!!」
「月夜の黒猫団のことはおれは関与しない。だがな、今のお前は一人じゃないだろ!」
「っ!?」
ハッとソレイユを見るキリト。キリトの表情を見て、ソレイユはふぅ、と満足そうに溜息を吐くとキリトの背中を押すために二言だけ言った。
「終わらして来い。次は現実で、だ」
「・・・ああ!」
ソレイユの言葉に大きく頷くとヒースクリフと相対する。にらみ合う双方。ソレイユがルナたちのところまで戻り、腰を下ろす。
それが合図になり、再び二本の剣閃が煌めく。
◆
「さすガ、ソー君だナ」
「・・・あれ?アルゴ、いつからいたの?」
突然登場したここにいないはずの人物にルナが驚くことなく今生じてる疑問を口にした。すでに涙は止まっており、いつも通りのルナに戻っていた。
「・・・・・・途中でソー君に振り落とされたんだ・・・」
「しっかりつかまってろって言ったろ?」
ジト目で睨むアルゴに詫びれた様子がないソレイユ。ルナの頭の上にはクエスチョンマークが漂っている。
ガギンッ、ギンッ、ギンッ
三人が雑談をしている中、甲高い音が立て続けに響き渡っている。最初同様にキリトの斬撃を防御し、カウンター気味に長剣を振るっていくヒースクリフだが、キリトの速度が徐々に増していきヒースクリフの対応が間に合わなくなってきている。それを見たソレイユは誰にも聞こえない声量でボソッと呟いた。
「そう、それでいいんだよ」
その呟きと共にエリュシデータの刃がヒースクリフの防御を抜けダメージを与えた。その一撃により、ヒースクリフのHPは全損。ポリゴン片となって消えていく。
この瞬間、二〇二四年十一月七日十四時五十五分をもって、ソードアート・オンラインはクリアされ、デスゲームが終了となった。
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