機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第90話:新しい約束
・・・その夜。
俺はなのはの部屋に向かった。
事前に連絡しておいたのでブザーを鳴らすとスッとドアが開いて
髪を下ろしたなのはが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、ゲオルグくん」
「うん。悪いな、病み上がりなのにこんな遅くに」
「ううん、いいよ」
なのははそう言って俺を部屋に招き入れる。
「どうぞ、ゲオルグくん」
「さんきゅ」
俺はなのはが出してくれた椅子に腰を下ろして、ベッドに腰掛けた
なのはと向かい合う。
「それで、相談したいことって何なの?」
「うん。ヴィヴィオのことなんだけど・・・」
「ヴィヴィオの?どんな話?」
なのははこくんと首を傾げる。
「今さ、アイナさんにヴィヴィオを預かってもらってるだろ」
「うん」
「でな、ヴィヴィオがママやパパと一緒に居たいって言ってるらしいんだよ」
「そうなの?まあ、私もできれば一緒に居たいと思うけど・・・ねぇ」
なのははそう言って困ったような表情を浮かべる。
俺はなのはの言葉に頷くと、先を続ける。
「そうなんだよ。アースラじゃヴィヴィオと一緒に寝起きできるような
広い部屋は無いし、そもそも軍艦だから関係者以外は入れられないからな」
「だよねぇ。ま、それは隊舎も変わらなかったんだけど・・・」
「とはいえ、次元航行艦のセキュリティレベルは隊舎より高いだろ。
さすがにヴィヴィオを中に入れるのは無理なんだよ」
「そっか・・・。じゃあ、隊舎の再建が終わるまでは無理なんだね・・・」
なのははそう言うとさみしそうな表情を浮かべる。
「でも・・・やっぱり一緒に居てあげたいよ・・・」
「なのはならそう言うと思ってた。で、一応代案が無いわけじゃないんだ」
「そうなの!?」
俺の言葉に、なのはの表情がぱぁっと明るくなる。
「ただ、それにはなのはが納得というか同意してくれないといけないんだ」
「同意って・・・。ゲオルグくんの案ってどんな案なの?」
「実は俺、ここから車で30分くらいのところにマンションを借りてるんだよ」
「知ってるよ。ほんとはそこがゲオルグくんの自宅なんだよね」
「そ。まあ、ほとんど住んでないけどな」
俺はそう言って苦笑する。
「で、そのマンションがどうしたの?・・・まさか!」
俺の言いたいことに気づいたのか、なのはは大きく目を見開く。
「うん。よかったら新しい隊舎ができるまで3人で
そこに住まないかな・・・と」
俺はなのはに向かって頷きながらそう言う。
なのはは俺の言葉に俯きがちに迷うような表情を見せる。
「う・・・でも・・・」
「やっぱり、嫌・・・か?」
俺がそう言うと、なのははバッと顔を上げて勢いよく首を振る。
「ううん、そうじゃないの。そうじゃないんだけど・・・」
そう言うとなのはは再び俯いて考え込む。
俺はなのはがどう考えているのか判らず、再びなのはが口を開くのを待つ。
するとなのはは一人で顔を赤くしてなにやらぶつぶつと呟きはじめる。
さすがにこのままでは話が前に進まないと思い、なのはに声をかける。
「なのは」
「にゃひっ!?」
俺が声をかけると、なのはが愉快な声を上げて俺の方を見る。
「よかったら、なのはが何を考えてるか教えてくれないか?」
俺がそう言うと、なのははしばらく逡巡してからおずおずと口を開いた。
「あのね・・・わたしたちって、恋人どうしだけど・・・
まだ、その・・・将来については・・・ね?
だから・・・まだ、一緒に住むっていうのは・・・どうかなって思うの」
なのははところどころで詰まりながらもそう言った。
なのはの言葉を受けて俺は考え込む。
(将来か・・・俺はなのはと・・・)
俺がじっと考え込んでいるとなのはが不安そうな顔で俺の顔を覗き込む。
「ゲオルグ・・・くん?」
なのはのその顔を見て俺の心は決まった。
「なのは」
俺はなのはの名前を呼ぶとその両手を握る。
「さっきは新しい隊舎ができるまでって言ったけど、
できれば俺は、ずっとなのはやヴィヴィオと一緒に居たい」
「ゲオルグくん・・・それって・・・」
なのはは驚いた表情で俺の顔を見る。
「うん。もし俺なんかでよかったら・・・」
俺はじっとなのはの目を見つめてそう言った。
「ゲオルグ・・・くん。私・・・」
なのはがうるんだ目で俺を見る。
「私、ゲオルグくんとだったら・・・。
ううん、ゲオルグくんとじゃないと・・・」
「ありがと、なのは。でも、きちんとしたプロポーズはまた今度に
させてくれないか?
その前にいくつかやっておきたいことがあるから。
なのはを待たせちゃうことになって悪いんだけど・・・」
俺がそう言うとなのははふるふると首を振る。
「いいよ、ゲオルグくん。私ならいくらでも待つから」
「ありがと。でも、そんなに待たせるつもりはないから」
「うん」
なのはは柔らかな笑顔で頷いた。
「で、本題に戻るんだけどさ、どうする?」
「3人で一緒に住むって話だよね・・・」
なのははそう言うと目を伏せて少しの間考え込む。
そしてすぐに目を上げるとなのはは笑顔を浮かべて口を開く。
「えっと、とりあえず隊舎の再建が終わるまで・・・ってことなら」
「そっか。なら、明日の朝にはやてに話しておかないとな」
「はやてちゃんに・・・って、なんで?」
そう言ってなのはは首を傾げる。
「あのなあ。はやては6課の部隊長だろ?住む場所を変えるなら
報告しなきゃいけないだろ」
「あ、そっか」
なのはは俺に言われてそこに思い至ったようで、ぽんと手を叩く。
「それに引っ越しの日取りも決めないとな」
「そうだね」
「ま、それも含めて明日はやてと相談するか」
「引っ越しの日取りもはやてちゃんと相談するの?」
「休暇の日程調整をしないといけないだろ」
「あ、そっか」
「さっきから”あ、そっか”ばっかりだな」
俺がそう言うとなのははバツが悪そうに苦笑する。
「にゃはは・・・そうだね」
「もうちょっとしっかりしてくださいね。高町1尉」
俺が少し茶化すように言うと、なのはは頬をぷくっとふくらませる。
「むぅ、わたしはしっかりしてるもん」
「どこがだよ・・・っと」
そう言ってなのはのぷっくりと膨らんだ頬を指でつつこうと
ベッドに腰掛けているなのはに向かって身体をのばす。
が、なのははそうさせじと身体を後ろに反らせる。
そして俺はなのはを追いかけて身体をさらに前に伸ばす。
その時だった。
俺の座っていた椅子がバランスを崩してなのはの方に向かって倒れる。
「あ・・・」
椅子が倒れるに従って俺の身体もなのはの方に向かって倒れて行く。
みるみる近づいてくるなのはの顔が驚きに満たされる。
俺はなのはとの激突を予感し思わず目を閉じる。
「きゃっ!」
どさっという音とともに俺はベッドに手をついた。
恐る恐る目を開けると、目の前には目を丸くして俺の顔を見る
なのはの顔があった。
「ゲオルグ・・・くん」
「なのは・・・」
そう言ったきり俺となのはは無言で見つめ合う。
「わ、悪い・・・怪我してないか?」
「ううん・・・大丈夫・・・」
そう言ってなのはは俺の顔を見つめる。
「なあ、なのは・・・」
「ん?」
「いつかの続き・・・したいのですが・・・」
俺が恐る恐る尋ねると、なのはの顔が一気に赤くなる。
「へっ!?」
なのはのひっくり返った声が部屋の中に響く。
しばしの沈黙のあと、なのははスッと俺から目をそらした。
「・・・いいよ」
「え・・・?」
俺はなのはの答えが意外で、情けない声を上げてしまう。
「2回も・・・言わせないで・・・」
そう言うとなのはは真っ赤な顔をさらに赤くして目を伏せる。
「ホントにいいんだな」
確認するように尋ねると、なのはは小さく頷いた。
「優しくするから・・・」
そう言って、俺はなのはに顔を寄せた。
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