機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第89話:高町1尉も退院
俺が初めて戦闘機人たちの収容されている隔離施設を訪れてから
1週間ほど経ち、なのはが退院する日がやってきた。
はやてになのはを迎えに行くよう”命令”された俺は、
朝からクラナガンの市内に向かって車を走らせていた。
向かう先は俺も2週間前まで入院していた病院である。
駐車場に車を停めた俺は、正面玄関をくぐりエレベーターで
なのはの病室があるフロアへとあがる。
朝の光が窓を通して差し込み、白い壁とも相まって明るい廊下を歩き
なのはの病室の前にたどりついた。
ドアをコンコンと2度ノックすると中からなのはの声で返事があり、
俺はドアを開けて病室の中へと入った。
「あれ、ゲオルグくん?どうしたの?」
退院のために荷物を整理していたなのはは俺の顔を見るなり
意外そうな顔でそう言う。
「今日退院だろ?荷物とかあるだろうし、足も必要だろうから迎えに来た」
「そうなんだ。ありがと・・・って、お仕事は?」
「これも仕事だよ。はやてからの命令だし」
「ふーん、ゲオルグくんにとって私を迎えに来るのは”お仕事”なんだ・・・
しかもはやてちゃんの命令で。ふーん、そうなんだ・・・」
なのははそう言うと肩を落として落ち込んだように目を落とす。。
「あー、いや。そういうわけではない・・・わけでもないんだけど・・・。
じゃなくて・・・」
俺はなのはの両肩をガシっと掴む。
「はやてに頼まれたのは間違いないけど、俺がなのはに会いたいと思ったから
引き受けたんだぞ」
そう言うと、俯いているなのはの肩が少し震えているようだった。
泣いてるのかと思った俺はなのはの顔を覗き込もうとした。
その時だった。
「・・・くくくっ・・・・あはははははは!」
急に顔を上げたなのはが声を上げて笑いだす。
その様子を見て俺はすべてを察した。
「なのは・・・からかったな・・・」
俺が低い声でそう言うとなのはは笑いすぎで出てきた涙を指で拭いながら
俺の顔を見る。
「くくくっ・・・、ごめんごめん。まさかゲオルグくんがこんな古典的な
手に引っ掛かると思わなくって・・・」
そう言うとまたなのはは声を上げて笑う。
「焦って損したよ。ったく・・・」
きっと仏頂面を浮かべているのであろう俺の顔をみながら
なのははひとしきり笑うと、柔らかな笑顔を浮かべる。
「でもね、さっきの言葉はちょっとグッときたの」
「ん?さっきの言葉って?」
そう言いながら俺は自分の発言を思い返す。
「”なのはに会いたいから引き受けた”って言ってくれたでしょ?
あれ、結構嬉しかったよ。ゲオルグくんが本当に私のことを
思ってくれてるんだって感じられたから・・・」
そう言ってなのはは少し頬を赤く染める。
「あ、そう?」
俺が普通の口調でそう言うと、なのはは不機嫌そうに頬を膨らませる。
「もう!せっかくいい雰囲気になりかけたのに・・・だいなしなの」
「別にいいだろ、なのはのことが大好きで愛してるのは本当なんだし」
「・・・っ!」
なのはは俺の言葉に反応してか顔を真っ赤にして俯く。
しばらくして、なのはは俺の制服の襟を掴むと自分の額を俺の胸に
軽く押し当てる。
「・・・ゲオルグくんのばか。そんなふうに言われたらますます
大好きになっちゃうよ」
俺はなのはの背中に腕をまわしてなのはの耳に口を寄せる。
「ならこれからもいくらでも言ってやるよ。”愛してるよ、なのは”って」
囁くようにそう言うと、なのはは顔を俺の胸にうずめる。
「・・・うん。私もゲオルグくんのこと、愛してる・・・」
「ありがと」
「うん」
「なあ」
「うん?」
「キスしませんか?」
そう言うとなのはは俺の胸にうずめていた顔を上げて俺の顔を見上げる。
「いいですよ」
無邪気な笑顔を浮かべながらそう言って、なのはは目を閉じる。
「それじゃ、遠慮なく・・・」
最後にそう言って俺はなのはに顔を寄せた。
・・・10分後。
「もう!ゲオルグくんが激しくするからお化粧くずれちゃったじゃない!」
「・・・なのはだって喜んでたくせに」
「それは・・・そうだけど・・・。でもあんなに激しくすること無いと思うの。
ほら、こんなとこに口紅ついちゃってる!」
そう言ってなのははウェットティシュで俺の首筋を拭く。
「あれ?とれないよ・・・」
「それ・・・キスマークじゃないのか?確かその辺に吸いついてたろ」
「うそ・・・どうしよ・・・」
なのははそう言って右往左往しはじめる。
「別に気にしなくっていいよ。訊かれたら虫に刺されたって言えばいいし」
「うぅ・・・でも・・・」
「気にするから恥ずかしいんだよ。そもそもついてるのはなのはじゃなくて
俺なんだから、なんでなのはが恥ずかしがる必要があるんだよ」
「うぅ・・・そうなんだけど・・・」
相変わらずなのはは顔を赤くして煮え切らない。
さすがに少しイライラしてくる。
「もう荷物はまとまってるんだよな」
そう訊くとなのははバッと顔を上げて俺の方を見る。
「え・・・、うん」
なのはは驚きながらも頷きながら返事を返してくる。
「退院の手続きはもう終わってるんだよな」
「うん・・・」
「よし、じゃあ行くぞ」
俺は左手になのはの荷物を持ち、右手でなのはの手を引くと、
病室のドアを開けて通路に出る。
「え?あ!ちょっと!」
後ろからなのはの抗議の声が聞こえてくるが、ここは無視だ。
そのままなのはの手を引いてエレベータに向かう。
エレベータホールについてボタンを押したところでなのはが
強引に俺の手を振り切った。
「もうっ!ちょっと強引すぎるよっ!」
そう言ってなのはは俺の顔を軽く睨む。
「だって、あのままだったらいつまでたっても出られなかったろ。
なのはが悶えてるせいで・・・」
俺がそう言うと多少ひるんだのか、なのはの表情が少し弱気なものに変わる。
「そ、そうかもしれないけど。でも、お化粧直したりしたかったのに・・・」
その時ポーンと音が鳴って1基のエレベータのドアが開く。
「ほら、行くぞ」
「うん・・・」
誰も乗っていないエレベータになのはと並んで乗り込むと
俺は1階のボタンを押す。
ドアが閉まって2人だけの空間が出来上がった瞬間に、俺は
隣に立つなのはに話しかける。
「あとひとつ言っとくけどな」
「え?」
急に声をかけられて驚いたのかなのはが俺の方をパッと見上げる。
が、俺は前を向いたまま話を続ける。
「なのはは化粧なんかしなくても十分美人だからな」
「へ?」
ちらっと見るとなのはがぽかんと口を開けて俺の顔を見上げていた。
「美人・・・って、・・・ありがとっ!」
そう言ってなのはは荷物を持っていない方の俺の腕にしがみつく。
「言っとくけど、すぐエレベータのドアが開くぞ」
「いいよ・・・だって、ゲオルグくんは私の恋人だもん」
「そうでしたっけ?」
「何?私の唇をあんなに激しく奪っておいて、シラを切るつもりなの?」
そう言うとなのははスッと目を細めて俺の腕にしがみつく力を少し強める。
「イテテ・・・ほんのささやかな冗談だよ」
「そういう冗談はやめてほしいの」
「心得ました」
俺がそう返すとなのははニコっと笑う。
「なら結構」
その時、エレベータが1階に到着しドアが開く。
「行こっ!」
そう言うなのはに引っ張られるようにして、俺となのはは腕を組んだまま
エレベータを降りると駐車場の俺の車に向かって歩き出した。
・・・1時間後
「おかえり!なのはちゃん」
「退院おめでとう。なのは!」
「ありがとう!はやてちゃん、フェイトちゃん」
俺の目の前には、手を取り合ってなのはの退院を喜び合う3人の姿がある。
俺の車でアースラに戻った俺となのははすぐに艦長室に向かった。
で、今目の前のような状況になったわけだが・・・。
(俺・・・ひょっとして蚊帳の外ってやつですか?)
除け者にされたような気がしてちょっとさびしい感じがする。
だが、弾けんばかりの笑顔を見せるなのは達を見ていると、
俺もなんだか心が暖かいもので満たされていく。
(ま、いっか・・・)
俺は3人を邪魔しないようにそっと艦長室を出た。
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