展覧会の絵
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最終話 幸せな絵その五
「頑張るからね。イタリア料理でね」
「やっぱりスパゲティだよな」
「その他のも作るから。サラダとかね」
「ああ、イタリア風サラダだよな」
「それも美味しいから。あと鶏肉をトマトとガーリックで煮て」
ここでもトマトだった。
「チーズやアボガドもたっぷり使うから」
「赤に白に緑かよ」
この配色から望はあるものを連想した。それは何かというと。
「完全にイタリアの国旗だよな」
「そうよ。イタリアの国旗はね」
「食い物の色なんだな」
「他の意味もあるけれど食べ物の色でもあるのよ」
イタリア国旗の面白いところの一つだ。その主なそれぞれ食材の色も国旗の色になっているのだ。赤と白、そして緑のこの三色は。
「面白いでしょ」
「そうだよな。面白いよな」
「じゃあそのイタリアの国旗をね」
「食わせてくれるんだな」
「私イタリア料理大得意だから任せて」
自分の弁当を食べながらだ。春香は望に話した。
「腕によりをかけるからね」
「じゃあ食わせてもらうな。それでな」
「それでって?」
「これからもな」
その日だけでなくだ。それからもだというのだ。
「頼むな。作ってくれよ」
「そんなの当然じゃない」
言うまでもないとだ。春香は答えた。
「今日もその日もこれからもね」
「ずっとなんだな」
「そう。ずっとよ」
恋人の顔だった。春香も。
「ずっと望の為にお料理作るからね」
「じゃあ俺はその春香の料理食うな」
勝負ではないがこう言い返した望だった。
「楽しみにしてるな。ずっと」
「ええ、ずっと楽しみにしててね」
春香も望も満面の笑顔だった。その笑顔で。
二人は未来の幸せも見ていた。過去を乗り越え現在がありそこから未来に向かっていた。
十字は彼等も見た。そうしてだった。
放課後美術部の部室に入った。そのうえで。
また絵を描く。そこに和典が来てその絵を見て彼に問うた。
「あれっ、今度の絵は」
「何かな」
「うん、いつもと違うね」
こう言ったのである。彼が今描く絵を見て。
「いつもの怖い感じの絵じゃなくて」
「明るいかな」
「いつもはさ」
そのいつもはだ。どうかというと。
「過去の名画だったじゃない」
「模写だね」
「まずそれじゃないからね」
確かに十字はこれまでは模写ばかりだった。名画ばかりでどれもあまりにも精巧に、忠実に再現しているがそれは決して彼のオリジナルではなかった。
「いつも君は模写ばかりだったし」
「そうだったね。けれどね」
「オリジナルの絵も描けたんだね」
「そうだよ。言わなかったけれどね」
だが、だ。描けることは描けるというのだ。
「描けるんだ」
「そうだったんだね。まずはそのことがね」
「目に入ったんだね」
「うん、君はオリジナルも描けるんだ」
「模写もするけれど」
十字は描きながら述べていく。顔は絵に向けている。
「こうしてね。オリジナルも描いているんだ」
「どういう基準でオリジナルを描くのかな」
「幸せな時、いや」
「いや?」
「神が描かせてくれることを許された時かな」
その時にだというのだ。
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