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イベリス

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第八十六話 恋愛のダメージその九

「あの人の文章は」
「そうでしょ」
「どの作品でも」
「夏目漱石や志賀直哉も読みやすいけれどね」
「太宰もですね」
「一旦読みはじめたら」
 そうすればというのだ。
「もうすらすらとね」
「読めますね」
「だから読むとね」
 そうすればというのだ。
「大事な教訓がすらすらとよ」
「頭に入るんですね」
「これが変な思想家で」
「吉本隆明とか」
「あいつは論外よ」
 先輩はこの思想家の名前は嫌そうな顔で否定した。
「もうね」
「何を書いてるかわからないっていいますね」
「それでテロやったカルト教団の教祖なんて褒めてたから」
「論外ですね」
「何書いてるかわからない文章読んで」
 先輩はさらに言った。
「それを何とか理解したつもりになって」
「つもりなんですね」
「そうした文章って実は言ってることはね」
 肝心のそれはというのだ。
「何でもないのよ」
「文章が難しいだけで」
「レベル的に昔の巨人は何故強かったかという問題についてね」
 戦後日本の病理の象徴でありまさにこの世の忌まわしい邪悪を集めたかの如きおぞましいことこの上内チームのことを例えに出した。
「どう答えるか」
「それ簡単ですよね」
「王さん長嶋さんがいた」
「それが答えですね」
「そこに至るまでとね」
「ちょっと書いたら行き着く答えですね」
「それも簡単に書いてね」 
 それでというのだ。
「辿り着く事柄をね」
「やけに難しい文章で書いて」
「何を書いてるかわからないレベルの」
 そこまでというのだ。
「これも適当に感じや横文字で造語造っていけば」
「書けるんですね」
「そこであちこち脱線もしたら」
 文章の途中でというのだ。
「完璧でしょ」
「難しい文章の完成ですね」
「ラノベでも小難しい言葉羅列してキャラクターに一気に喋らせたら」
 その様にすればというのだ。
「何か凄く見えるでしょ」
「それ漫画でもありますね」
 咲は実際にそうした文章を思い出して答えた。
「多分そのラノベの作者さんがです」
「原作者ね」
「そうした漫画読んだことありますけれど」
「何か凄く見えて読んで理解した自分凄いってね」
「ふと思ったことあります」
「それでそんな文章書いたこの人凄いってね」
「なりますね」
 咲はその通りだと答えた。
「実際に」
「それが吉本隆明なのよ」
 この思想家の実態だというのだ。 
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