展覧会の絵
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第十八話 我が子を喰らうサトゥルヌスその二
「絶対にね」
「じゃああの次は、ってのは誰のことかしら」
「わからない。ただ」
「ただ、なのね」
「気になることではあるね」
「ええ。何か最近ね」
雪子の顔が曇った。そのうえで言ったのだった。
「面白くないわね」
「そうだね。何についてもね」
「あの娘、春香には逃げられたみたいね」
「彼氏の方にもだね」
「ええ、何度もそれとなく誘いかけてるけれど」
雪子の顔がまた変わった。今度は忌々しげなものに。
「駄目よ。全く乗ってこないわ」
「じゃあ諦めようか」
「その方がいいわね。まあ充分楽しんだから」
「次の相手を選べばいいね」
「そうするわ。そうしたカップル探しておくから」
「頼むよ。じゃあ今から僕がお風呂に入るよ」
そうするというのだった。一郎は淡々としていた。
「少し待っていてくれるかな」
「わかってるわ。今日は何処でするの?」
雪子はその兄に問うた。
「ここ?それとも」
「ベッドがいいかな」
一郎は微笑んでそこだと述べた。
「そう思うけれど」
「わかったわ。じゃあこれ飲んだらね」
「ベッドで待っていてくれるね」
「そうするわ。楽しみにしておくから」
「それにしても相手が減ったね」
一郎は自分の問いに答えた妹にこうも言った。
「雪子にとっても」
「四人も叔父様もいなくなったからね」
「そうだね。暫く相手は僕だけだけれど」
「それでもいいわ。どうしても我慢できなくなったら」
「その時はどうするのかな」
「適当に相手を引っ掛けるわ」
そうするというのだ。
「それで楽しむから」
「行きずりの相手だね」
「そうよ。その相手を見つけてね」
そうして楽しむというのだ。肉の宴を。
「そうするから」
「わかったよ。じゃあ僕もね」
「相手を見つけるのね」
「誰かいるだろうね」
「いるでしょうね。お兄ちゃんのその顔だったら」
端整なマスクだ。知的な美貌がそこにある。仮面は人の素顔を隠す。
「女の子なら誰でも寄って来るわよ」
「だからね。誰か見つけるよ」
「あの娘のことは忘れるのね」
春香のこともだ。雪子は問うた。
「そうするのね」
「もうね。残念だけれどね」
「諦めがいいのね」
「機会があればだけれどね」
「やれやれね。あそこで絆が強まるなんてね」
雪子は何故そうなったのか知らない。全てをある者が見ていてそれで動いているということもだ。春香は腕に傷を負ったが心の傷が癒えたことを。
「じゃあ機会がなければね」
「その時は仕方ないよ」
「早く相手が見つかるといいわね」
「うん。けれど今は」
「お兄ちゃんのお部屋のベッドにいるから」
雪子は述べた。
「待っていてね」
「うん。シャワーを浴びてすぐに行くよ」
一郎はこう言ってそのうえで席を立った。そうして。
そのまま風呂場に向かう。廊下を歩くのは彼だけだった。だが。
その後ろから白い影が迫った。そのうえで。
彼の首筋の後ろを手刀で叩き気絶させた。そして何処かへと連れ去った。
雪子はベッドで待っていたがその夜兄は来なかった。家の何処を探してもいなかった。彼がいた場所は。
暗く冷たいコンクリートの部屋だ。その中で両手両脚を手首足首から大の字で縛られていた。しかもだった。
彼は全裸にされていた。その姿で仰向けにされていた。その彼に声が語り掛けてきた。
「起きたかな」
「ここは一体」
「裁きの代行を下す場所だよ」
そうだというのだ。
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