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第六十五話 日本の夏の料理その七

「幕府が出来てから武芸指南役の四千石の人でね」
「普通のお侍さんじゃないんですね」
「もう生粋の武士のお家なんだよ」 
 彼女の家はというのだ。
「今だって道場持っておられるし」
「下町の人とは違いますか」
「江戸の頃は武家屋敷と長屋は分かれてたんだよ」
 完全にというのだ。
「江戸の町じゃね」
「あっ、大名屋敷とかと」
「住んでる場所も違ってたしね」
 同じ江戸の町でもというのだ、今の東京でも。
「それでね」
「松尾先輩とはですか」
「同じ代々住んでいてもね」
「永井先輩は町人さんですか」
「下町のね」
「それも葛飾ですね」
「本当に寅さんや両さんの世界だよ」 
 そうした場所で生まれ育ったというのだ。
「もう飾らないね」
「それで松尾先輩はですね」
「武士のお家の人だから」
「全く違いますね」
「生まれも育ちもね」 
 そのどれもがというのだ。
「ついでに言うと場所もね」
「東京と言ってもですか」
「広くはないけれど色々な場所があるんだよ」
 東京という街はというのだ、事実この街は面積自体は然程ないが人口が多いだけに地域ごとの特色が凄まじい。
「それでね、町人長屋とね」
「武家屋敷とはですか」
「全然場所も違って雰囲気もね」
「そうなんですね」
「だから同じ東京でも」
 この街で生まれ育っていてもというのだ。
「あたしや吉君とね」
「松尾先輩は違いますね」
「そうだよ、ただね」
「ただ?」
「あの人の女子力はかなりだよ」
 そうだというのだ。
「実はね」
「そうなんですか」
「お料理お洗濯お掃除ね」
「全部ですか」
「かなりのものだよ」
「そうですか」
「武士風でもね」
 それでもというのだ。
「凄いよ」
「そうした人ですか」
「あたし実は憧れてるしね」
 麻友は笑ってこも話した。
「しっかりした人だしね」
「いい人ですか」
「一見近寄りにくいけれど」
 そうした雰囲気の持ち主だがというのだ。
「けれどね」
「いい人なんですね」
「曲がったことはしないね」
「そこは江戸っ子ですね」
「いやいや、江戸っ子じゃなくてね」
「あの人は武士ですね」
「世が世ならお姫様だしね」
 麻友はこうも言った。
「あの人は」
「お姫様ですか」
「昔は将軍様やお大名様だけじゃなくてだよ」 
 彼等に留まらずというのだ。
「旗本さんもお殿様でね」
「お殿様の娘さんだからですか」
「お姫様だったんだよ」
「そうなりますか」
「領地もあったじゃない」
「何千石とか言うからには」
「そうだよ、旗本さんのお家なら」
 その家の娘ならというのだ。 
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