魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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GX編
第145話:希望の日差し
前書き
どうも、黒井です。
ぼちぼちGX編も終わりが見え始めました。
ハンスを失い、シャトーも失った事に加えてグレムリンに誑かされ、自暴自棄になったキャロルの攻撃は凄まじいものであった。
後先考えず放たれた大出力の攻撃。目に映るもの全てを破壊せんばかりに放たれた攻撃は、当然颯人達にも向けられた。
「くっ、下がれッ!?」
迂闊に動く事すら危険と言う攻撃の嵐。颯人は咄嗟に分身であるウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴンの自分を前面に押し出し、障壁を展開させることでこの攻撃を凌ごうとした。
結果として本人と仲間達への被害は最小限に止める事が出来たが、引き換えにドラゴタイマーで出した分身達は障壁と運命を共にし消滅した。あれを自分でも受けていたらと思うとゾッとする。
「ヤバいなありゃ、完全にプッツンきてやがる」
「早く止めないとッ!?」
「だな、このままだとここ以外にも……」
颯人はあのキャロルを放っておけば本人が力の使い過ぎで参るまでの間に被害が広がるという事で止めようと考えていた。だが響の考えはそれとは少し違っていた。
「そうじゃなくて、このままだとキャロルちゃん自身が危ないですよッ!」
「んん?」
「そう言えば、錬金術師は魔力を生み出す為に自らの生命力を消費していると聞いたわ。キャロルのあの出力、ダウルダブラで増幅しているのだとしても、その消費速度は桁違いの筈……!」
響の言いたい事をマリアが補足してくれた。キャロルは想い出の焼却を行う事で強大な魔力を得ている。300年と言う月日の中で蓄えてきた想い出、それを一気に焼却する事で得られる魔力は増幅されている事もあって、なるほど確かに強力なのかもしれない。
だがそれは文字通り自らの命を燃やす諸刃の剣。あんな勢いで力を使い続けては、そう遠くない内に彼女自身の命が尽きる。響はそれを懸念しているのだ。
「もうキャロルちゃんには戦う理由が無い筈なんですッ! それなのに、こんな戦いで命を落とすなんて間違ってますよッ!」
敵である筈のキャロルを思っての響の言葉に、颯人は周囲の仲間達をぐるりと見渡す。彼女らの顔には、大なり小なり響と似たような決意が宿っていた。誰もが、これ以上のキャロルの暴走を止め戦いを止めさせようと言う顔をしていた。
それを見て颯人は小さく息を吐いた。
「……それもそうだな。”倒す”んじゃなく、”止める”……これで良いな?」
「はいッ!」
「無論ですッ!」
「ま、透もそのつもり満々みたいだしな」
「それでいきましょう」
「デース!」
「うん!」
誰もが決意を胸にキャロルとの戦いに臨もうとしていた時、タイミング良くウェル博士を本部に送り届けていたガルドが合流した。
「すまない、遅れた。どういう状況になってる?」
「とりあえず、キャロルを止めるって事で意見が一致したところだ。つー訳で奏、手ぇ出しな」
「ん?」
颯人は端的にガルドに状況を説明しつつ、奏の手を取りプリーズの指輪を彼女に嵌め魔力を分け与えた。それは彼女に、ウィザード型ギアを使わせる為の準備。このまま通常ギアで戦い続けるのは厳しいと考えての事であった。
「軽くお色直ししときな」
〈プリーズ、プリーズ〉
「あぁ、サンキュー。よし! そんじゃ、行くかッ!!」
受け取った魔力を糧に、奏が念じるとギアがそれに応え奏のガングニールをウィザード型ギアに変化させる。
響達はそれに続く様にイグナイトモジュールを起動させた。
「イグナイトモジュール、抜剣ッ!!」
【DAINSLEIF】
響がイグナイトを起動させると、他の装者達もそれに続いてイグナイトを起動。ギアを黒く染めた装者達が一斉にキャロルへの攻撃を開始した。
「おりゃぁぁぁぁっ!!」
真正面から響が拳で殴り掛かる。意図的な暴走状態によるブーストされたパワーでの一撃が、しかしキャロルには障壁で容易く防がれた。
その下方からはクリスと調によるガトリングと丸鋸による射撃が放たれる。雨霰と飛んでくる銃弾と丸鋸の弾幕を、キャロルはこれも障壁で防ぎ一発も寄せ付けない。
「今更イグナイトなどッ!!」
響やクリスらの攻撃を意にも介していない様子のキャロルであったが、それでも煩わしいのか腕を振るいながら伸ばした糸で響を切り裂きながら引き剥がし、クリス達には砲撃をお見舞いした。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「立花ッ!」
空中に吹き飛ばされた響を、翼がキャッチしながら近くのまだ形を保っているビルの屋上に着地する。響は全身切り裂かれはしたが、ギアの防御力のお陰でそこまで深い傷は負っていない。あちこちに切り傷がある程度だ。
「私は大丈夫です。でも、クリスちゃんと調ちゃんがッ!?」
「あちらは大丈夫だ」
翼が視線を向けた先では、キャロルからの砲撃をアーマードメイジとなった透とケイオスタイルのキャスターとなったガルドが共に障壁で防いでいるのが見えた。方や純粋に防御力を上げた姿、もう片方は魔法の威力を底上げした姿の魔法使いになった2人の防御は、キャロルの容赦の無い砲撃をも受け止める事に成功していた。
自分の砲撃を2人掛りとは言え受け止められている事が面白くないキャロルは更に砲撃の出力を上げようとした。だがそれよりも先に、隙を晒したキャロルの左右からマリアと切歌が飛び掛かった。
「ハァァァァァッ!!」
[SERE†NADE]
「ヤァァァァッ!!」
[対鎌・螺Pぅn痛ェる]
「フンッ!」
視覚外からの奇襲攻撃、しかしキャロルはそれを一瞥もせずに対応した。
必殺の意思を持って放たれた2人の一撃は、2人の意図に反してあと一歩でキャロルに届くかと言うところで止められる。何時の間にか周囲に張り巡らされていた極細の糸が蜘蛛の糸の様に巻き付き2人の動きを押さえつけていたのだ。
「くぅっ!? この糸……!?」
「何時の間に張られてたデスかッ!?」
キャロルとの戦いで兎に角厄介なのはこの糸だ。純粋な攻撃力は勿論、こうして気付けば周囲に張り巡らされ絡め取られる。響や奏もこれに苦戦を強いられ、一撃与える事すら困難であった。
だが何よりも恐ろしいのはその強度だろう。今のマリアと切歌はただのギアではなく、イグナイトにより強化されたギア。それをこうして受け止めるのは容易ではない筈。だがキャロルはそれを一瞥すらせずに熟しているのだ。今のキャロルの攻撃がどれほど強烈かをこれ以上ない程物語っていた。
だがこの時、攻撃を受け止められた事で苦い顔をしているマリア達と同様、キャロルもやや苦い顔をしていた。キャロルの考えではマリア達を受け止めた時点で、糸により2人を切り裂いている予定だったのだ。
だがイグナイトにより強化されたシンフォギアは、予想以上の強度を見せ2人の攻撃を受け止めるだけに留まってしまった。これはキャロルにとって面倒な想定外だった。
「だが、蜘蛛の巣に掛かった蝶を蹂躙するなど容易い事ッ!」
「させると思うかッ!」
「ハァッ!」
糸を更に強化して動きを止めた2人を細切れにしようとするキャロルであったが、それより早くに颯人と奏が武器に魔法の炎を纏わせマリア達を拘束している糸を切り裂いた。それだけに留まらず、2人はそのままキャロルに武器を叩きつけようとした。
「らぁっ!」
「フンッ!」
片手はガルド達への砲撃に使って塞がっている。張り巡らせていた糸はたった今纏めて切り裂いた。自由に動かせる腕は片方のみ。この状態で別方向から攻撃を同時に放たれれば、キャロルに一撃を加える事は可能な筈であった。
その予想は正しく、キャロルはより威力が高いだろう奏の槍を手で受け止め、颯人の一撃をその身で受けた。障壁を張る猶予も無かったのか、キャロルは胴を燃える剣により切り裂かれる。ダウルダブラのファウストローブで身を守っているとは言え、それは確かなダメージとなる筈であった。
だが全てを失い、目に映るものを破壊する為だけに戦うキャロルにとって最早自身の体が受けたダメージなどどうでもいい事であった。
「……それで?」
「ん、な……!?」
キャロルは全く堪えた様子も見せず、たった今自身の体を切り裂いた相手である颯人を睨み付けた。受け止められるのではと思っていたが、切られて尚顔色一つ変えずこちらを睨んでくることは想定外だったのか颯人の動きが束の間止まる。
その隙にキャロルは掴んだ奏を振り回して颯人に叩き付けそのまま放り投げた。
「がっ?!」
「奏、ぐぉっ!?」
「死ね……!」
ビルに叩き付けられ、動きを止めた颯人と奏に突撃し糸を束ねてドリルの様にして2人を串刺しにしようとした。ビルに叩き付けられめり込んだ事と、叩き付けられたダメージそのもので2人は未だ動けずにいる絶体絶命の窮地。
そこに響と翼が割って入り、拳と刀でキャロルの攻撃を受け止め2人を守った。
「奏、颯人さん!」
「キャロルちゃん、もう止めようッ! こんな戦いに意味なんてないよッ!?」
「意味など知った事かッ!! もう何もかもが、どうでもいいんだッ!!」
標的を響と翼に変えたのか、キャロルはそのまま2人と戦いながら場所を移動する。そこにマリアも参戦し、クリスが援護、透が窮地に陥りそうな者を守り、ガルドは切歌、調と共にキャロルの攪乱を行おうとしている。
装者7人に魔法使い3人、計10対1と言う状況でありながら、キャロルは一歩も退く様子を見せない。それどころか時間が経てば経つ程攻撃の激しさが増していた。まるで蠟燭の炎が消える前に激しく燃え上がるかのようだ。
その例えは強ち間違っていないだろう。自暴自棄になったキャロルは、後先考えずに想い出の焼却を行い力を振るいまくっている。そんな力の使い方をしていれば、あっと言う間に想い出を燃やし尽くし命を失う。
或いはキャロルはそれを狙っているのかもしれない。生きる希望を失い、この場で命を燃やし尽くしあの世へと旅立ったハンスや父の元へ行こうとしているのだ。
このままでは本当にキャロルの命が危ないと響は焦りを顔に滲ませていた。
その一方で、颯人と奏は何とか体勢を立て直しキャロルの様子を眺めた。
「ヤバいな、さっきよりも攻撃が激しくなってやがる」
「想い出をガンガン燃やしてるって事だろうな。加えて歌いまくってフォニックゲインも高めてやがる」
「ますますヤバいじゃないかッ!? 悠長にしてられねぇッ!!」
「……いや、これはある意味で好機かもしれない」
「はっ?」
どういう意味なのかと奏が颯人に問おうとしたが、彼は1人何度も頷くだけで何も答えようとしない。どうやら頭の中で何やら作戦を練っているようだ。
「うん……うん……よし、これなら……」
「何考えてるんだ?」
「ん? あぁ……何、この状況を打開してキャロルを黙らせる手口だよ」
言いながら颯人は右手のドラゴタイマーに手を掛けもう一度タイマーをスタートさせようとした。
その様子を発令所から見ていたアルドが通信で慌てて止めようとしてきた。
『待ちなさい颯人ッ!? それ以上それを使うのは貴方の体に負担を掛けますッ!?』
「そんな事言ってる場合じゃないんでね。今は兎に角ガンガンに攻めないと」
『ですが、貴方の魔力が持ちませんよッ!』
「平気平気、何せ俺には奏が付いてる。奏の歌があれば、俺は何時でも全開なんだよ。つー訳で行くぞ、奏ッ!」
「へっ、あぁっ!!」
〈セットアップ! スタート!〉
アルドの制止も聞かず、颯人は再びドラゴタイマーをスタートさせ奏と共に戦いに参戦した。
錬金術の砲撃と糸による斬撃、時には束ねた糸のドリルによる攻撃すら織り交ぜて暴れ回るキャロルを相手に、装者達は苦戦している。
そこに颯爽と颯人が奏と共に参戦した。
「フッ!」
「ッ!? 明星 颯人ッ! 貴様は、貴様だけは……!?」
「颯人にばかり構ってんなよッ!」
「チィッ!?」
颯人の一撃を受け止めたキャロルが反撃しようとするが、奏がそこに割って入り反撃を中断させる。更に響に翼、マリアと言った接近戦を主に得意とする者が波状攻撃を仕掛け、キャロルをその場に釘付けにした。
その隙に颯人はタイマーを押して次々と分身を作り出した。
〈ウォータードラゴン!〉
〈ハリケーンドラゴン!〉
〈ランドドラゴン!〉
再び4人となった颯人の波状攻撃がキャロルに襲い掛かる。多彩な属性の魔法を織り交ぜた激しい攻撃はキャロルの攻撃の勢いを抑え、徐々にではあるが押し始めていた。
「ぐっ、くぅぅぅ……ッ!?」
次第に防御するだけで精一杯になって来たキャロルに対し、颯人は戦いながら言葉を投げ掛けた。
「どうしたどうした? さっきまでの威勢はどこ行った?」
「ッ!? うるさいッ!?」
「歌まで歌って、奏達の真似してこの程度かよ!」
「何だとッ!?」
「違うってのか? 態々フォニックゲインまで高めてこの程度なら、奏達の方がずっと強いぜ!」
まるで挑発するような颯人の物言いに、キャロルの顔が怒りで赤く染まり始める。彼がキャロルの相手をしてくれている間に体勢を整える余裕を得た響達は、明らかに挑発を始めた颯人に怪訝な顔をした。
「あのペテン師、キャロルの奴を挑発してどうするつもりだ?」
「奏、颯人さんは何か言ってなかった?」
「さてね、アタシも詳しい事は何も。ただ……」
「ただ?」
「颯人がやる事に無駄な事なんてない。そこには必ず意味があるって事は確かだよ」
何処までも颯人を信頼した奏の言葉。それを証明する様に、状況は彼が望む方向へと動いた。
「上等だッ!! そこまで言うなら見せてやるッ!! この俺の、70億を凌駕する絶唱をッ!!」
キャロルのダウルダブラが放つ光が更に増し、眩い光に目が眩みそうになる。その瞬間颯人は後ろで控えていた奏達に声を掛けた。
「来たッ! 皆、備えろッ!!」
「備えるって何にッ!?」
「今シンフォギアに一番必要な物だよッ!」
〈ファイナルタイム!〉
「消え去れッ!!」
キャロルから今までとは比べ物にならないほどの威力の砲撃が放たれる。視界を埋め尽くすほどの砲撃は、最早回避も防御も許さないと言った様子だ。
それを前にして、4人の颯人が立ち塞がる。
「幕引きにはまだ早いんだよッ!」
〈ドラゴンフォーメーション!〉
再びタイマーのスイッチを押した瞬間、4人の颯人の魔力が上がる。キャロルからの砲撃に対し、颯人は4人で全力の障壁を張りそれを受け止めた。
〈〈〈〈ディフェンド、プリーズ〉〉〉〉
装者達の前に立ちはだかる颯人の障壁が、キャロルの砲撃とぶつかり合う。だがキャロルの砲撃はそれすらも飲み込むほどの規模で放たれ、颯人達のみならず奏達の姿さえも光の中に消えていった。
それでもキャロルは油断することなくたっぷり数秒ほど砲撃を放ち続けた。それこそ、その背後が完全に更地になるまで。
そして十分に砲撃を加え、もう消し炭も残っていないだろうと確信した頃にようやくキャロルは砲撃を止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ぐぅっ?!」
砲撃を止めたキャロルは疲労で荒く息をしつつ、突如襲ってきた虚脱感に苦しむ。今ので大分想い出を焼却してしまった。お陰で記憶が大分曖昧になりつつある。それでもまだ、彼女の中には父の姿とハンスとの生活が残っていた。
「パパ……ハンス……」
無意識の内に2人に呼びかけるキャロル。
その彼女の耳に、ありえない声が届いた。
「……待ってたぜ、コイツをよ」
「な~るほど、こういう事か。確かに今のアタシ達には必要だな」
「なっ!?」
颯人と奏の声が聞こえてきた事が信じられず、キャロルは煙の中を凝視した。その時、雲が晴れ、吹いてきた風が煙を消し去っていく。
煙が無くなった時、そこに居たのは7人の天使を思わせる白いシンフォギアを身に纏った装者達の姿。そう、エクスドライブを発動したシンフォギア装者が7人宙に浮いていた。
「なん、だと…………!?」
「サンキューな、フォニックゲインを高めてくれて。お陰で奏達が最高の力を発揮できるようになった」
これが颯人の狙いだった。イグナイトだけでキャロルに届かないのであれば、最早エクスドライブモードしかない。それをどうやって発動するかを考え、颯人はキャロルの歌でフォニックゲインが高まっている事に注目しそれを使う事を考えたのだ。
先程キャロルの砲撃に飲まれた時、颯人はキャロルの攻撃を耐えながら響にS2CAを使う事を提案した。それによりキャロルからのフォニックゲインを装者達に効率よく吸収させ、エクスドライブモードを起動させたのだ。
響1人であれば、それは困難を極めただろう。絶唱に匹敵するフォニックゲインを、響1人の体で受け止めるのだから。
だがマリアのアガートラームにはそれを更に調律する能力がある。その能力と合わせ、更に装者7人が力を合わせる事によりエクスドライブモードの起動まで到達した。
自分の世界を破壊する為の歌が、奇跡への鍵になってしまった事実にキャロルは呆然と太陽の光に照らされた装者達を見る。
「さぁ、ここからが…………」
〈オールドラゴン、プリーズ〉
更に颯人はダメ押しとばかりに、ドラゴタイマーの隠された機能を使用した。ファイナルタイムを迎えた状態でドラゴタイマーをハンドオーサーに翳す事で、4人に分離していた全ての魔力が一つに融合。その身に宿るドラゴンの力を完全に引き出した、魔法使いとして完成した姿となった。
「本当の幕引き、フィナーレって奴だ!」
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました!
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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