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冥王来訪

作者:雄渾
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第二部 1978年
影の政府
  三界に家無し その3

 
前書き
 F4ファントムも好きなので、ファントムも手入れさせました。 

 
 マサキは戦術機の図面を目の前にして思い悩んでいた。
彼が、元の世界で図面を書いて作った八卦ロボは全高50メートル、総トン数500トンの大型機体である。
航空母艦での運用や輸送トレーラーでの戦地運搬など考えてもいなかった。
 一応、超大型輸送機、双鳳凰という双胴体型のジェットエンジン航空機を作ったが、それも2機だけであった。
天のゼオライマーや、その試験機である月のローズ・セラヴィーは、背面の推進装置で自力飛行が可能である。
 故に目的地まではそのまま飛んでいけばよいとしか考えなかった。
 
 自分が生前いた世界とよく似た歴史を持つ、この世界のロボット、戦術歩行戦闘機は航空機と宇宙空間の作業用パワードスーツを組み合わせたものである。
 故に推進装置はマサキが得意とした背面に付けるのではなく、腰部に申し訳程度の接続装置を付け、そこで方向制御するという、非常に技量の居る物だった。
 近衛軍での訓練期間中に、運転シミュレーターに触って見たのだが、安定性のあるゼオライマーと違って乗り心地も悪く、操作性も癖が強かった。
 戦闘機パイロット出身のユルゲンは、そんな海の物とも山の物とも分からない物を自在に操るとは……
エースパイロットであるばかりではなく、英語と露語を自在に操り、人を惹きつけるような(うれ)いを帯びた青い瞳の美丈夫。
 妹、アイリスディーナへの異常な執着心と、アルコール中毒を招きかねないほどの深酒に溺れる悪癖さえなければ、本当に理想的な男であろう。
 東ベルリン初訪問時の懇親会で『大してモテた事がない』と、謙遜していたが、それは恐らく彼の周囲にいる人物が並外れた容姿の持ち主が多く、余程の事がない限り、気後(きおく)れしてしまうためであろう。
 あの監視役として来ていたハイゼンベルクも、しっとりと濡れた細面(ほそおもて)の冴えた美貌の持ち主だった。
そんな人物でも衛士の教育を受けさせる準備をしていたというのだから、よほどであったのであろうか。
欧州でのBETA侵攻の恐怖は、嘗ての蒙古人襲来以上なのは間違いなかろう。

 そんな事を考えながら、F4ファントムの図面に朱を入れていた。
人型である以上、脚部に何か強力な推進装置が必要だ。
脚部の徹底的な改修をと、図面に朱を加える。
 飽きて来たので、一旦冷静になるために、ホープの箱を取り出し、紫煙を燻らせる。
冷めた紅茶で唇を濡らしながら、図面を見つめ直す。
 まるで、落第点を喰らった回答用紙の様に、図面は朱色に染まっていた。
 『書き直した方が早いのでは』
そう考えたマサキは、製図版に張られた図面を取ると四つ折りにして、送られてきた封筒の中に仕舞いこむ。
 新たにA0判の新用紙を取り出すと、タバコを咥えた侭、製図板に張り直した。

 製図版に烏口(からすぐち)を走らせながら、内臓コンピュータと操作システムについて考えた。
光線級の攻撃を防ぐために張り巡らされた重金属の雲の下を走り抜ける戦術機には、通信機能が強化されているとはいえ、電波航法システムに依存している。
 元の世界では、1978年に米軍は全地球衛星測位システム、俗にいうGPSが作られ始めていたが、この世界では人工衛星を用いた大気圏迎撃システムが構築され始めている。
 おそらくGPSに似たシステムがあるのだろうが、活用しない手はない。
そして、GPSによる電波航法と自らのセンサー類に基づく自立航法が簡単にできるようなシステムを組み込めたらと、夢想してみる。
 ただ、同様の事は戦術機の技術者でも考えている者がいるだろうから、それらにまかせるとして、簡易版の人工知能装置について考え始めた。
 人工知能は、パイロットが意識を失っても基地に帰還可能な自動操縦装置と、自動射撃補正は必要であろう。

 マサキ自身は八卦ロボの操作システムをBASIC言語で作った男である。
(BASIC言語は、1964年に米国で作られたパソコン用プログラミング言語)
戦術機のシステム改変で、裏口(バックドア)を仕込む事など造作もなかった。
 無人の戦術機に仕掛けた自動操縦のプログラムで、、ゼオライマーからの秘密指令で動く大型ロボットと変化する裏口(バックドア)を準備した。
 かつて自分をだまして殺した元の世界の日本政府の様に、この世界の日本政府も命を奪いかねない。
現にソ連からは複数回、命を狙われたのだ。
『備えあれば患いなし』との言葉通り、設計している戦術機の改良型システムには、仕掛けを入れよう。
ダイダロスが作った青銅の巨人タロスの様に、この自分とゼオライマーの危機の際は、敵を殲滅させるのも一興だ。
その様な事を考えつつ、射撃補正のシステムに関する簡単なメモを、書き加えながら、一人ほくそ笑んだ。



 結論から言えば、マサキのかき上げたF4ファントム、A10サンダーボルトの図面は全く別な機体になっていた。
機体の頭部、上半身の外装部品こそ、元の面影を残しているが、下半身はまったく別物だった。
 まず、機体を支える脚は2倍から2・5倍の太さになった。
脚部の背面部分は、新造の推進装置に置き換えられ、まるで放熱板を並べる様に付けた形になっていた。
腰部の噴出跳躍システムは外され、新造された草摺り型の推進装置を、腰回りを覆う様にして付け足した。
その姿は、まるで古代の武人をかたどった埴輪の様に見えた。

 背中の可動兵装システムと突撃砲のシステムは複雑であるし、特許関係もあるので、温存した。
ただ、意見としてブルパップ方式から従前型の自動小銃の形に変更する様、書き添えた。
 ブルパップ方式は、たしかにハイヴ攻略の閉所戦闘では、取り回しが楽で使いやすい。
ただ、再装填時の弾倉を取り替える為に行う動作の大きさは、場合によっては危険を伴う。
そして、全長が短くなっている分、照門と照星の間の距離は短くなり、狙いが定めにくくなる。
無論、戦術機に搭載されている補正機能で補うから問題は無かろうが、非常時の目視標準が出来ないのは、十分なデメリットではないのか。 
長銃身の方が、機関砲の冷却が十分に出来るし、装薬量を減らして銃身や銃本体の寿命が伸ばせられる。
 長銃身の機関砲を標準装備したほうが生還率が上がりそうだが、この世界の人間の考えることは良く判らない。
一応、ゼオライマー同様、最低限の格闘戦も可能なように、強力なフレームとモーターに換装した。
 人工筋肉や、間接思考制御という怪しげな技術に関しては、事情を詳しく知らないが、この存在が戦術機開発や操縦のデメリットになっていやしないだろうか。

 先に(たかむら)に渡した図面にかいた月のローズ・セラヴィーの必殺兵器、ジェイ・カイザー。
一撃で山を吹き飛ばすほど強力なエネルギー砲であるが、次元連結システムがなければ連射は出来ない。
鉄甲龍の同僚ルーランが改良したように、エネルギーチャージシステムにするにしても、何のエネルギーをチャージするかによって変わって来る。
使い捨ての衛星で落雷の衝撃をエネルギー変換するには、非常に効率が悪いし、費用も掛かり過ぎる。
 光線級のレーザーを吸収して、撃ち返すビーム砲も作れなくもないが、18メートルしかない戦術機にはもてあますであろう。
ちょうど、この世界の海軍の艦艇は、未だに大艦巨砲主義なので、艦載ビーム砲にするのも良いかもしれない。
 だが、葎が操縦するローズ・セラヴィーが繰り出してきたジェイ・カイザーで、散々な目に遭ったマサキは、其の案を一度書き起こしたものの、危険視した。
一度書き起こしては見たものの、考え直して、ゴミ箱に入れてしまった。
 篁にローズ・セラヴィーの図面は渡したから、解析されるだろうが、次元連結システムが無ければ連射出来ないガラクタ。
グレートゼオライマーに積めば、無敵の武器となると考え、一応改良案を書き起こすことにした。



 その様な事を考えて、紫煙を燻らせていると、ドアを叩く音がして、顔を向け、
「誰だ」と返事をする。
「わたしです、せめてお食事でも」
美久の声で、現実に引き戻されたマサキは、左腕のセイコー5を見る。
すでに時刻は、9時前であった。
 タバコを咥えた侭、隣の部屋に行き、
「中華の出前(デリバリー)か」
「この間、白銀さんといった店がおいしいというので」
「俺がそんな事を言った覚えはないぞ」
「黙っていても、顔に書いてありましたから」
 美久はそう言って、マサキから顔を背けた。
「人形の癖に、随分大胆な事を言うじゃないか」
 マサキは立ち上がるなり、美久の背後に近寄ると、いきなり彼女の耳を舐める。
全身を粟立て、震える美久の背中から両手を胸の前に回す。
彼女の胸を、茶褐色の婦人兵用勤務服の上から、揉みしだきながら、
「貴様の事を、あまりに人間を真似て作りすぎたかな」と、耳元で囁いた。
彼女が顔を紅潮させ、体を震わす様を見ながら、マサキは不敵の笑みを浮かべた。


 マサキが、食後の茶を飲んでいると、美久は、
「ハイネマン博士の襲撃事件ですが、やはり東側の……」
と、訊ねて来たので、湯飲みを置くなり、
「フフフ、今日は気分が良い。特別に話してやろう」と不敵の笑みを浮かべ、
「ハイネマンの誘拐を企んだ連中。
そういう組織は、この米国に対して極度の敵愾心を持っていると言う事になる」
「それで」
「今一番考えられるのがソ連のGRUだ。枝葉の組織、つまり出先機関が米国内にある。
当然の事として……」
「なるほど……」
「そのGRUのソ連人が、米国内を駆けずり回ったり、伝令を使えば、色々と目立つ。
故に連絡員は、ほとんど米国人を雇う」
右手を、食指と中指にタバコを挟んだまま、振り上げ、
「どのような諜報機関でもそうだ。秘密連絡員(メッセンジャー)に工作対象国の国民を利用する。
だから連絡員を狙って殺せば済む訳ではない」

「敵はこの俺の事を熟知している。
鳴り物入りで、大統領とホワイトハウスで面会し、シークレットサービスやFBIの護衛が付いている。
そのことも、とっくに連中に露見している」

「だから、俺は派手に遊びながら、奴等の出方を待つ。
そうだ、今週末辺り、東ドイツにでも久しぶりに遊びに行くか。
そして、シュタージの奴等が支援したパレスチナ過激派のテロ情報を使って、強請(ゆす)るのも良かろう」
「どうして、その様な事をなさるのですか」
「奴等は、不安になって来る。自分達の連絡員が支持も無く勝手に動きやしないかとね」

「その結果、奴等は俺とお前を狙って来る。
本部からの催促もあって、じっとして居られなくなって、再び誘拐でもしよう」
マサキは、そう言葉を切り、タバコに火を点ける。
「だから、遊びながら待っているのさ。準備万端のゼオライマーを待機させてな。
無論、来た奴等には、地獄行きの特別切符を渡してやるつもりだがな」
 マサキの胸は、嫌がおうにも高鳴った。
仕留め損ねたGRUの組織と人員をこの世から抹殺する事、考えると、全身の血が滾った。 
 

 
後書き
 新造機作った方がいいのかなと悩んでます。

 
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