ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
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SAO編 主人公:マルバ
四人で紡ぐ物語◆グリームアイズ
第二十九話 コーバッツ
前書き
全文書き換えました……疲れた……
書き換えますのお知らせはこの投稿と同時に削除するので、書き換えに至った経緯を知りたい方がいらっしゃいましたら私の“つぶやき”を御覧ください。“つぶやき”の方にお知らせの全文を載せておきます。
《リトルエネミーズ》は今日、マッピングと宝探しで第二十四層の迷宮区を訪れていた。
ここは最前線だけあってさすがに敵が強い。しかしいくら強いとは言っても《リトルエネミーズ》の敵ではない。
「シリカちゃーんっ、そっちの奴お願いっ!」
「分かりました! ミズキさん、マルバさんのサポートをお願いします!」
「分かった! マルバ、スイッチ!」
四人の連携は固く、この層最強の『デモニッシュ・サーバント』が複数同時ポップしても全く危なげなく敵をどんどん狩っていた。
背後からの奇襲を受けたため完全にいつものペースとはいかなくなり、仕方なく一人一体と戦う形になってしまったが、そんな中でも皆仲間のことを気にかけ、声を掛けあいながら戦闘を続ける。
やがて四体が三体になり、二体になった頃にはいつもの調子で戦えるようになり、そこから先は一方的な戦いだった。最後の一体が砕け散り、四人は安堵の溜息と共に武器をしまう。
「ふぅ……ああ、驚いた」
「全くだ。いってぇ誰だよ、四体も引き連れて逃げてくる野郎は」
「安全地帯に走って行きましたよ。大丈夫か確認しに行きますか?」
「二人だけだったよね。アイテムとか足りなくなって困ってたら分けてあげなきゃ……」
そう、マルバたちは全力で逃げてくる二人のプレイヤーを追いかけてきた四体もの『デモニッシュ・サーバント』から攻撃を受けたのだった。凄まじい速さだった上ため逃げてきたプレイヤーが誰なのかは分からなかったが、軽装だったところを見ると宝探し専門のトレジャーハンターなのかもしれない。
ともかく彼らの安全を確認しに安全地帯に向かった《リトルエネミーズ》は、逃走者たちの顔を見て驚きの声を上げた。
「えっ、キリト!?」
「や、やぁ、ミズキ」
「やぁ、じゃねぇよ! なんでMPKまがいのことするんだよ、お前のレベルと武器なら全く問題なく狩れる相手だろうが!」
「いやー、『デモニッシュ・サーバント』から逃げてきたわけじゃないんだよね……。ボス部屋開いたらさ、中にいたボスが襲いかかってきて……」
「はぁ? ボスはボス部屋から出ないんだから部屋から出るだけでいいだろうが」
「そうなんだけどさ、あまりにもおっそろしい形相してたもんだから、つい……おっかなくて……」
「尻尾巻いて逃げてきたのか?」
「はい……」
「ぷっ……っはははははは!!」
「な、お前、そんな笑わなくてもいいだろ!」
「いや、かの有名な“黒の剣士”がボスが怖くて逃げ帰ってくるとか……っ、あははははははは!!」
ミズキは予想だにしなかった答えに思わず吹き出し、たっぷり二分以上笑い続けた。ミズキが使い物にならなくなったため、マルバとシリカが代わりにキリトの同伴者に声をかける。
「あのー、大丈夫でしたか? ……って、アスナさんじゃないですか。お久しぶりです」
「マルバくん、シリカちゃん、久しぶり」
「アスナもボスが怖くて逃げてきたの?」
「うん……不本意ながら、ね。私、アンデット苦手なのよ」
「うへぇ、アンデット系のモンスターなんだ……」
「あれ、マルバくんも苦手?」
「うん、あんまり得意じゃないかな」
「あんまりーじゃなくてぜんぜんーですよね。この前ミズキさんがおもしろがって怪談したとき、マルバさんとアイリアさんだけ隅で震えてたじゃないですか。ちょっとかわいかったな」
「う……シリカ、あんまりバラさないでよ」
「へぇ~、意外な共通点だね。マルバ君ってそういうの平気そうなのに」
「人を見た目で判断するもんじゃないよ。……見た目といえば、そのボスってどんな見た目だったの?」
「悪魔よ、悪魔」
「珍しいですね。アンデットのボスは初めてじゃないですか?」
「いや、第四十三層のボスはアンデットだった。その時は怖くて攻略休んだけど」
「マルバ君も休んだんだ。私も休んだよ。あの層、アンデットだらけで近寄れなかったから」
「面白そうじゃねぇか。偵察行こうぜ」
いきなりミズキが会話に割り込んできて、マルバたちはびっくりして固まってしまった。ミズキはそのまま続ける。
「どうせキリトとアスナが初めてボス部屋見つけたんだろ? これだけ人数がいれば十分偵察くらいできるぜ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「なんだ、怖いから降りるとか言うなよ」
「言わないよ、確かに怖いけどさ! いや、そうじゃなくて、この人数じゃちょっと足りないんじゃない?」
ミズキは無言で安全地帯の入り口の一つを指さした。ちょうど小規模のギルドが入ってきたのだ。アイリアが目をこらしてどのギルドなのか確かめる。
「……《風林火山》ね。知り合いだし、偵察をするなら頼めると思うけど……ホントに行くの?」
「あったりまえじゃねぇか。そんなに怖いのかよ」
「怖いよ、悪魔だよ? お兄ちゃんだって怖いでしょ?」
「うん、できれば行きたくない」
「ほら、お兄ちゃんもこう言ってることだし、やめようよ」
「そういうわけにはいかねぇよ。俺達がここで偵察せずに帰ったら攻略がまた遅れちまう。ほら、行くぞ」
「はぁ……仕方ない、アイリア、行こう」
「嫌だけどしょうがないかぁ……」
肩を落としたマルバとアイリアに苦笑するシリカ。《風林火山》と合流し、全員で簡単な作戦を立てることになった。
十分後。
「よし、それじゃ作戦はこれでいいよな?」
「ああ。盾は俺に任せろ。《風林火山》がサポートしてくれれば、ヤバそうな攻撃は俺が耐える」
ミズキは一瞬でストレージから分厚い本のようなアイテムを取り出し、それに記録しながら答えた。マルバはその早業に目を見張った。おそらくクイックチェンジを使ったのだろうが、なぜそんな記録用アイテムひとつにクイックチェンジのスロットを一つ割り当てているのだろう?
わずかに疑問に思ったマルバだが、先に作戦の方を優先することにして、自分の分担を確認する。
「それじゃ、僕とシリカ、キリト、アスナが遊撃だね。ボスの背後に回ると脱出が大変になるから、それだけは気をつけよう」
「了解。それじゃ、各自武器の確認を……」
「キリト君、《軍》よ!」
アスナがキリトの言葉を遮った。皆が急いで入り口の方を見る。ミズキは急いで分厚い書籍アイテムをストレージに収納した。
果たしてそれは《軍》だった。一人の男が指示を叫ぶと、全員が心身ともに――ここにおいては心と身体は同じものかもしれないが――消耗しきったように地面に崩れ落ちる。
指示を叫んだ男がこちらにやってきた。重々しく口を開く。
「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」
なんと、《軍》という俗称はいつの間に正式名称になったのだろう。その上、『中佐』と来た。
「マルバ、《リトルエネミーズ》所属」
「キリト、ソロだ」
とりあえず前にいた二人が短く名乗り返す。コーバッツと名乗ったプレイヤーは大仰に頷くと、二人に尋ねた。
「そうか。君らはもうこの先も攻略しているのか?」
「ああ、ボス部屋の前までマッピングしてある」
「うむ。ではそのマップデータを提供して貰おう」
それが当然だ、といった表情で言い放った男に一番驚いたのはマルバたちだった。
「て、提供ってアンタ……自分がなに言ってるのか分かってんのかよ!?」
食って掛かったミズキに男は平然と宣言した。
「我々は君ら一般プレイヤーの解放のために戦っている! 諸君が協力するのは当然の義務である!」
あきれて言葉も言えないとはまさにこの事だった。全員が抗議しようと口を開き、そのままの態勢で固まった。反論点が多すぎて言葉が出てこないのだ。
そんな中、アイリアが何かに気づいたように言葉を発した。
「あれ、どっかで会ったことありますよね?」
「む? そうか? 私は覚えがないが」
「いいえ、確かにどこかで会ってますよ。その口調聞いたことあるもん。どこだったかな、はじまりの街あたりだった気が……」
「始まりの街……? あ、貴様ら、まさか!!」
「あー!! あの時の小佐だ! 昇進したんですか!?」
「そんなことはどうでもいい! あの時のオレンジの仲間か!!」
コーバッツの口から『オレンジ』という言葉が出てきて初めて、マルバはコーバッツへの既視感の正体を悟った。
圏外村パニでシリカがアイリアのHPを減らしたため、一時的にオレンジプレイヤーになってしまったことがあった。一旦カーソルがオレンジになると、信用回復クエストを受けなければグリーンカーソルに戻ることはできない。信用回復クエストを受けられるのは唯一始まりの街、それも転移門付近のクエストボードだけ。他の街は入った途端警備のNPCプレイヤーに拘束され牢屋に送られるからだ。そういうわけで始まりの街を訪れたシリカは、たまたま任務から帰る途中だったコーバッツの部隊に出くわし、囲まれ、殺されたくなかったらアイテムと武器を置いて牢屋まで来いと言われたため返り討ちにしたのだった。
「おのれ、あの時の恨み……」
「あれはあたしの言い分を聞かずにいきなり取り囲んだあなたたちも悪かったと思うんですけど!?」
「やかましい! オレンジ風情が分かったような口を利くな!」
「ちょっとはあたしの話も聞いてくださいよ、今はグリーンじゃないですか!」
「うるさい! オレンジの話しなぞ聞く価値はない!」
いきなりシリカの目前にデュエルの申請画面が現れた。
「あの時の恨み、今ここで……!」
「ああもう、どうしたら話を聞いて貰えるんですか!」
「私に勝ったら話でもなんでも聞いてやろう! 最も、お前に私が倒せるとは思えないけどな!」
「言いましたね? それじゃあ受けて立ちます!」
「『半減決着モード』を選びたまえ、全力で叩き潰してやる!」
画面には『初撃決着モード』と『半減決着モード』の二つの選択肢が表示されている。シリカは迷わず『初撃決着モード』をタップし、そのデュエルを受けた。
「貴様、何故『半減決着モード』を選ばなかった?」
「初撃の方があたしに都合がいいからですよ」
「なんだと……?」
コーバッツが一瞬戸惑う。二人の間の空間に浮かぶカウントダウンが0を示し、その表示が消えると共に……
シリカの右手から閃光が迸ると、それは突進技を発動してシリカに襲いかかる最中のコーバッツの肩に突き刺さった。この世界最速のソードスキルの一つ、『アーク』である。クリティカルヒットの証である、赤い火花が散った。
コーバッツは自分の肩に深々と突き刺さった短剣を凝視し、あり得ない、とつぶやいた。耐え切れず、地面に膝を付く。
「投剣相手に突進技は致命的ですよ、コーバッツさん。避けられないじゃないですか。……それじゃ、わたしの話、聞いてくれますね?」
「くそ……、好きにしろッ」
「それじゃ、話します。ええと、あの時わたしは信用回復クエストを受けに始まりの街に来てたんですよ。あそこじゃないと受けられないので」
「だからどうした! 貴様何が言いたい!?」
「あたしは仲間を説得する時に、ええと、訳あってHPを減らしちゃったんですよ。それでオレンジカーソルになっちゃっただけで、別に犯罪をしたとかそんなんじゃないんです」
「なん……だと……」
「つまり、わたしが言いたいのは、わたしは犯罪者じゃないってことです。オレンジカーソルだからって犯罪者だって決めつけないで欲しいです。大変だったんですから」
「大変だった……?」
「ええ、大変でしたよ。せっかく受けてた信用回復クエストがキャンセルされちゃって最初からやり直さなきゃいけませんでしたし。あれ、受けてる間に他のプレイヤーにダメージ与えるとキャンセルされちゃうんですよ」
「なんて……ことだ……ッ! 私は、ただ、一般プレイヤーのために……よかれと思ってッ!」
「なんていうか、まあ、終わったことなのでわたしはもうそんなに気にしてないです。もう邪魔しないでくださいよ?」
コーバッツはふらふらと立ち上がった。その手に、キリトが一枚の羊皮紙を押し付ける。
「ほら、マップデータだ」
「……協力、感謝する」
「まあ、なんだ。あんまり落ち込むなよ。よかれと思ってしたことが裏目に出るなんてよくあることだからさ。本当に一般プレイヤーのためを思うんなら、次のボス戦にでも参加してくれよ。盾持ちの人数足りなくて困ってるんだ」
「ボス……戦……。そうか、ボス戦か。情報、感謝する。では」
コーバッツは再びその目に光を取り戻した。何かいいことを思いついたようだ。彼はそのまま部下を引き連れると安全地帯を出て行く。
キリトがその後ろ姿に呼びかけた。
「ボスを見つけても、戦わない方がいいぜ。あれは一パーティーでなんとかなる代物じゃないからな」
コーバッツは振り返らずに応えた。
「それは、私が判断する」
後書き
なんとシリカたちはコーバッツと面識があったんです。そしてシリカさん強すぎっす。
裏設定。
シリカがコーバッツに使用した技は『アーク』という投剣スキルでした。
『アーク』はその名の通りものすごく速い技です。強烈なライトエフェクトがその残像を残すことから閃光のように見えますが、その反面妙な特性を持つため攻撃力は低くとどまります。
その特性とは、距離と威力が反比例すること。ゼロ距離で放てば両手剣スキルに迫るほどの恐ろしい威力を持ちますが、20メートルも離れればほとんどダメージを与えられません。投剣スキルのアドバンテージが全くなくなるため、非常に使い手を選ぶスキルですね。
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