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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第74話:ゲオルグとシュミット3佐


協議を終えて,俺以外の3人が立ち上がった時,俺はヴィータを呼びとめた。
シグナムとなのはが部屋を出ると,ヴィータが口を開いた。

「何だよ,ゲオルグ」

ヴィータはどこか不機嫌そうに俺を見ながらそう言った。

「この前の戦闘でさ,倒れてた俺を見つけてくれたのはヴィータ
 だったんだってな」

俺がそう言うと,ヴィータは苦々しげに俯いた。
ヴィータが何も言わないので,俺は話を続けることにする。

「ごめんな。迷惑かけちまったみたいで」

俺の言葉にヴィータはハッと顔を上げる。

「んなことねーよ!むしろゲオルグに怪我をさせちまうなんて,
 あたしの方があやまらないといけねーと思ってる」

「ヴィータはよくやってくれたよ。シグナムとの2人だけで,あれだけの
 ガジェットの攻勢を支えてくれたんだからな」
 
俺がそう言うと,ヴィータは首を振った。

「それでもあたしは・・・」

俺はヴィータの言葉を遮った。

「なあヴィータ。あの時俺が刺されることになっちまったのは
 俺自身に原因があると考えてる。ヴィヴィオを拉致されそうになって
 冷静さと慎重さを欠いたまま敵の前に飛び出したんだからな。
 怪我は言ってしまえば自業自得なんだよ」

ヴィータは俺を見る。

「そうかもしれねー。でも,あたしはあの時からなのはを守るって決めた。
 なのに,今度はゲオルグを守れなかった。だから,あたしは自分が許せねー」

「そっか。でも,自分が怪我をしたことでヴィータが気に病んでるのを見るのは
 俺はちょっと辛いかな。俺も局員として,魔導師として,納得して戦いに
 参加してるんだ。もちろんいざという時の覚悟はできてる。
 だからこそ,戦いの中で起きたことはすべて自己責任だと思ってる。
 ヴィータだって,自分が傷ついたときに俺がヴィータを守れなかったって
 ヘコんでたら,ちょっと辛いだろ?」

俺がそう言うと,ヴィータは少し考え込んでいた。
しばらくして,顔を上げたヴィータは晴れやかな顔をしていた。

「わかった!もう,グジグジ気にするのはやめにするよ。
 そんなのはあたしらしくねーからな」

「おう。やっぱりヴィータは元気じゃないとな」

ヴィータはソファーから立ちあがって部屋から出ようとした。
ドアの前まで来てヴィータは立ち止まった。

「・・・ありがとな。ゲオルグ」

「・・・それは俺のセリフだよ」

俺がヴィータの背中に向かってそう言うと,ヴィータは部屋から出て行った。



夜になり,俺はなのはの部屋の前に来ていた。
ブザーを鳴らすと中からなのはの声が聞こえた。
部屋に入ると,デスクで端末に向かっているなのはがいた。

「ゲオルグくん?どうしたの?」

「ちょっと,話をしないか?」

「いいけど・・・ちょっと待ってね」

なのははそう言うと,部屋に備え付けられている冷蔵庫からスポーツドリンクを
取りだすと,グラスについで俺に手渡した。

「ごめんね。こんなものしかなくて・・・」

俺は近くにあった椅子に腰かけ,なのはの言葉に首を振ると,
なのはの顔をじっと見つめた。
どう話そうか,しばらくそうして考えていると,なのはが目をそらした。

「どうしたの?ゲオルグくん。そんなに見られるとちょっと恥ずかしいよ」

そう言ったなのはの顔は心なしか赤く染まっているように見えた。

「悪い・・・どう話したらいいかなって考えてたんだよ」

「そうなんだ。何の話なの?」

「昼間に俺の部屋でシグナムやヴィータと集まって話を
 したときの話なんだけどさ・・・」

俺がそう言うと,なのはの表情がわずかに曇った。

「突入部隊に私が入るか?って話だよね・・・。どうしてもダメ?」

「正直言って,自分でもわかんないんだよ。
 個人としての俺はなのはに行ってもらいたいんだけどね。
 副部隊長としての俺はそれはダメだって言ってる」
 
「副部隊長としてのゲオルグくんはどうして私が玉座の間に突入するのが
 ダメだと思うの?」

「昼間も言ったろ?なのははヴィヴィオに対して特別な感情を持ってるから,
 冷静に作戦を遂行することが難しいと思ってるんだよ」

「そっか。そうかもしれないね・・・」

なのははそう言うとさみしそうに俯いた。

「どうしても行きたいっていうなのはの気持ちは判る。
 俺だって,身体がまともだったら,自分が突入することを選んでる」
 
「だったら!」

なのはが顔を上げて,俺に食ってかかろうとするのを手で制すると,
俺は天井を見上げた。

「笑ってくれていいんだけどさ,ゆりかごの中が実際どんな風になってるか
 なんて実際突っ込んでみないと判んないだろ?
 そう思ったら,なのはが帰ってこないんじゃないかって,怖くなった」

「そっか・・・」

なのははそう言うと俯いた。よく見ると,少し肩がふるえているように見えた。

「なのは・・・」

次の瞬間,なのはは突然立ち上がると,俺の顔を平手で打ちつけた。
その勢いで,俺は椅子から転げ落ちてしまう。
床に転がった衝撃で傷のあたりに痛みを覚えた俺は,なんとか声を上げまいと
耐えながら,なのはの顔を見上げた。
なのはは怒りの形相で俺を見下ろしていた。

「なんで!?なんでゲオルグくんは私を信じてくれないの?
 私ってそんなに信用できない!?」

「なのは・・・」

「ゲオルグくんの言ってることはわかるよ。私だって,逆の立場だったら
 ものすごく心配するし,きっと行ってほしくないって思うもん」
 
なのはは長い髪を振り乱しながら叫び続ける。

「でもね。私はたぶんゲオルグくんを止めない。だって,ヴィヴィオは
 私たちの大切な子供だもん。私たちが助けに行かないといけないんだよ!
 あの時,病院でゲオルグくんは私にそう言ってくれたよね!?」
 
そう言って俺を見つめるなのはに向かって,俺は何も言えなかった。

「それにさ。ゲオルグくんは私が帰ってこないんじゃないかって怖くなったって
 言ったよね?じゃあ,帰ってこないのが私以外ならいいの?
 フェイトちゃんやはやてちゃん,それにシグナムさんやヴィータちゃんなら
 いいの!?そんなの絶対おかしいよ!」

なのはの言葉に俺は鈍器で頭を殴られたかのような強烈な衝撃を受けた。
俺は床に手をついて立ち上がると,肩で息をしているなのはの前に立った。

「なのは・・・」

俺がそう言うと,なのはは怒り冷めやらぬと言った様子で俺を見上げていた。

「そうだよな。俺やなのはが助けに行かなきゃいけないんだよな。
 ヴィヴィオは俺達の娘だもんな・・・」

俺の言葉になのはは少し表情を和らげる。

「それに,俺はなのはを失いたくないばっかりに,フェイトやはやてなら
 危険にさらしても構わないって思ってた。みんな大切な友達なのにな・・・」

「ゲオルグくん・・・」

「ぜんぶなのはの言うとおりだよ。ゴメンな,こんなバカな俺で・・・」

俺はそう言うと,目の前のなのはを抱きしめた。

「あと,ありがと。なのはが居てくれなかったら,俺はとんでもない間違いを
 するところだった。ほんとに,なのはがいてくれてよかったよ・・・」

俺の腕の中で,なのはは俺の顔を見上げる。

「ほんとだよ。ゲオルグくんのばか」

「だな・・・。俺にはなのはがいないとダメみたいだ」

「・・・ばか」

なのははそう言って俺の胸に顔をうずめた。
俺はそんななのはの背中をゆっくりとなでた。
しばらく,そうしているとなのはが急に顔を上げた。

「でもね,私もゲオルグくんと同じだったんだよ」

「どういうこと?」

「さっきね,ゲオルグくんが私が帰ってこないじゃないかって怖くなったって
 言った時ね,嬉しかったんだ。ゲオルグくんがそんなふうに思ってくれてる
 ことが・・・」

「そっか」

「うん。でもね,そんな風に思った自分がちょっと許せなくって,
 あんなふうにゲオルグくんを叩いちゃった。ごめんね・・・」

なのはの言葉に俺は首を振る。

「いいんだよ。おかげで目が覚めた」

「そっか。ありがと」

「俺の方こそだよ」

俺はそう言うと,なのはの肩を握って身体を離すと,真剣な表情を作って
なのはの顔を見つめた。

「明日,はやてに玉座の間への突入部隊はなのはに指揮させるって上申する。
 でも,約束してくれないか?」
 
「なにを?」

「絶対,ヴィヴィオと2人で無事に帰ってくるって約束してくれ。
 じゃないと,俺はなのはが出撃するのを認めない」
 
「ゲオルグくん・・・」

「なのはだけでも,ヴィヴィオだけでもだめなんだよ。
 俺には2人ともが必要なんだ。これからもずっと,なのはとヴィヴィオと
 一緒に生きて行きたいんだ。だから,約束してくれ」

「・・・うん。絶対,ヴィヴィオを連れて戻ってくるよ」

「絶対だぞ。もし,なのはが戻ってこなかったら,俺が連れ戻しに行くからな」

俺がそう言うと,なのはは小声で笑った。

「じゃあ,ゲオルグくんに無理させないように絶対帰ってこないとね」

なのははそう言うと,右手の小指を差し出した。
俺はヴィヴィオと一緒に出かける約束をしたときのことを思い出し,
自分の右手の小指をそれに絡める。

「約束だからな」

最後にそう言うと,なのはは綺麗な笑顔で俺に向かって頷いた。

 
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