ウルトラアキレスが
暁嵐真と一体化した瞬間を契機に、地球の命運を賭けた戦いの日々が始まってから数ヶ月。
BURKの精鋭達と共に数多の強敵達を打ち破ってきた彼らの力量は、すでに一流のウルトラ戦士と呼べる域にまで到達していた。
――にも、拘らず。
「アキレスが、嵐真が、負けた……!?」
「こんな、馬鹿なッ……!」
バルタン星人のラスヴァーダを撃退して新年を迎えたこの日。ウルトラアキレスはシルバーブルーメ戦以来となる、「敗北」を喫したのである。
その瞬間を、制式戦闘機「BURKセイバー」の機内から目撃していた
弘原海隊長と
駒門琴乃隊員は、真紅の巨人が「凶刃」の前に斃れる光景に戦慄していた。
ウルトラアキレスを打倒した侵略者の名は、「奇怪宇宙人」の異名を取るツルク星人。その両手の刃は、アキレスの各部位を防護しているプロテクターすら穿つほどの切れ味を秘めていたのだ。
破壊された街の中央で倒れ伏したアキレスの巨体が、真紅に耀く光の粒子と化して霧散して行く。ダメージの蓄積により変身が維持出来なくなっているのだろう。
「隊長、すぐに嵐真を救出しなくては! あのまま放置していては、踏み潰されるのも時間の問題です!」
「……あぁ、分かってる! 駒門機、
八木機、
望月機の3機で陽動に掛かれ! その間に俺が下に降りて嵐真を助け出すッ!」
BURKセイバーでの援護射撃に徹していた弘原海と琴乃は、その光景をただ見ていることしか出来なかった。だが、ただ歯噛みしているだけでは何も変わらない。
「りょ、了解っ! 嵐真君、生きてるかなぁっ……!?」
「やめなさい八木、縁起でもないッ! あれくらいで彼が死ぬわけないじゃない、あれくらいでッ……!」
「狼狽えるな八木、望月! 今は嵐真を救うために我々が最善を尽くす時だッ! 各機、ミサイルで一気に仕掛けるぞッ!」
八木夢乃隊員、
望月珠子隊員、そして琴乃。彼女達3人の爆乳美女が駆る3機のBURKセイバーは、両翼下のミサイルを連射してツルク星人の注意を引き付けていた。
「対怪獣ミサイル、全弾発射ァッ!」
アキレスの敗北という事態は彼女達の肢体に極度の緊張を走らせ、その柔肌から濃厚なフェロモンが分泌されて行く。抜群のプロポーションを誇る彼女達の身体は、しとどに汗ばみ蠱惑的な匂いを振り撒いていた。
レーシングバイクのシート状の操縦席に下腹部を擦り付け、豊満な乳房をむにゅりと押し付けている彼女達は、安産型の巨尻をばるんっと後方に突き出していた。
白い柔肌に隙間なく張り付き、彼女達のボディラインをぴっちりと強調しているレオタード状の特殊戦闘服には、爆乳美女達の汗がじっとりと染み込んでいる。出撃前に指先で食い込みを直していた桃尻からも、輝かしい汗が飛び散っていた。
「この際効かなくたっていいから……ちょっとは私達のことも見なさいよねッ! BURK日本支部きっての、綺麗どころが揃ってるんだからぁあッ!」
そんな甘く芳醇な汗の香りがコクピット内を満たす中、焦燥を隠し切れない爆乳美女達は、操縦桿をギリッときつく握り締めていた。その1人である八木は軽口を叩きながらも、恐怖に抗おうと吠えている。
一人前のウルトラ戦士に成長したはずのアキレスでさえ敗れた相手に、BURKセイバーの装備が一体どこまで通用するというのか。そんな考えが、頭から離れないのだ。
「もう少しだけ耐えてくれ、駒門、八木、望月……! 待ってろよ、嵐真ッ……!」
一方。彼女達の奮闘に乗じて、近くの平地に移動していた弘原海機のBURKセイバーは、そのまま垂直に緊急着陸していた。そこから即座に飛び出して来た弘原海は、瓦礫が散乱している戦場の中心で倒れている嵐真を発見する。
「ちくしょう……! しっかりしろ嵐真、嵐真ァアッ!」
頭から大量の血を流し、白目を剥いて気絶している嵐真。その凄惨な姿に胸を痛めながらも、弘原海は必死に呼び掛け続けていた。
――この後、嵐真の救出を終えた日本支部のBURKセイバー隊は即座に退却。ツルク星人の侵攻を阻止出来なかった日本支部は、一つの小さな街を失うことになるのだった。
◇
それから数日後。意識を回復させた嵐真は何とか歩ける状態にまで持ち直していたのだが、彼の心は街を守り切れなかったことへの悔しさに激しく苛まれていた。
まだ傷が完全に癒えていない彼の護衛として、共に住宅街の夜道を歩いている琴乃は、そんな彼の沈痛な横顔を神妙に見遣っている。BURK隊員として1人の大人として、嵐真とアキレスに重責を負わせていることへの罪悪感に、彼女も人知れず拳を震わせていた。
「くそッ……! 俺のせいで、俺のせいであの街がッ……!」
「……もうよせ、嵐真。幸い、住民の避難は完了していたのだ。お前とアキレスが身体を張って時間を稼いでいてくれたおかげで、多くの人命が救われた。……失ったものに気を取られるのは、そこまでにしておけ」
頭に巻いた包帯に手を当てながら、悔しさに顔を歪める嵐真。そんな彼の背にか細い手を添える琴乃は、歩むたびにLカップの爆乳をたぷんたぷんと弾ませている。冬場に合わせた厚着でも全く隠し切れない彼女の乳房は、セーターを内側からはち切れそうなほど押し上げていた。
「それに今は……奴に対抗するための格闘術を授けてくれる『教官役』を、ある達人に頼んでいるところだ。彼から技を教われば、きっとツルク星人にも対抗出来るはずだ」
「……ありがとうございます、琴乃さん。ところで、その達人って……どんな人なんですか?」
「あぁ、それはだな……んッ!?」
――すると、次の瞬間。夜の東京を照らす月の明かりを遮るように、人間大サイズの異星人が宙を舞って2人の前に現れた。
「あ、あいつはまさかッ……!」
両手に刃を持つその異星人は、姿形こそ全く違うが――先日の戦闘でアキレスを退けた巨人と、全く同じ殺気を纏っている。嵐真も琴乃も、遭遇した瞬間に本能で理解していた。
今目の前にいるこの異星人は、あの時のツルク星人なのだと。
「……! 嵐真、逃げろッ!」
即座に臨戦態勢に入った琴乃は、飛び掛かって来たツルク星人の両手首を掴んで斬撃を阻止する。その揉み合いの中で琴乃は嵐真を逃がそうと必死に叫ぶが、ツルク星人は容易く彼女の拘束から力技で脱出してしまう。
その弾みで琴乃が体勢を崩し、隙が生まれた瞬間。瞬時に立て直したツルク星人は琴乃に向けて両手の刃を激しく振るい、斬撃の嵐を浴びせる。
「うぁあぁッ……!?」
「琴乃さんッ!」
だが、この夜道に血飛沫が上がることはなかった。ツルク星人は敢えてすぐには殺そうとせず、彼女の衣服だけを切り裂いていたのだ。月明かりに照らされた扇情的な下着姿に、嵐真は思わず声を上げる。
安産型の巨尻を地面にぶつけた琴乃は、立ち上がろうにも足腰に力が入らないことに気付く。絶望的な力の差による恐怖には、歴戦の女傑ですら腰を抜かしていたのだ。
「あうッ……!?」
ツルク星人の戯れは、それだけでは終わらない。彼の刃は琴乃の肌を傷付けることなく、白い爆乳を覆っていたブラジャーだけを斬り飛ばしてしまう。
皿に落とされたプリンのように、琴乃の白く豊穣な乳房がどたぷんっと放り出されていた。「先端部」を辛うじて死守している
最後の砦まで露わにされ、琴乃の精神は羞恥と恐怖に翻弄される。
(や、やられる……! 今度こそッ……!)
極度の緊張に汗ばむ琴乃の白い肉体から、ブラジャーから解き放たれた特大の爆乳から、濃厚なフェロモンがむわりと匂い立つ。白い柔肌を伝う汗は、凹凸の激しい彼女のボディラインをなぞるように滴っていた。
頭から爪先に至るまでの全ての肌から汗が噴き出し、その汗の一滴一滴が琴乃の肉体を伝って行く。特にブラジャーから解放された二つの巨峰からは、その「内側」で熟成されていた女の芳香がむわっと立ち込めていた。
数多の困難を踏破して来た、白く肉感的な美脚からも。亜麻色の艶やかなロングヘアからも。汗がじっとりと染み込んだ赤いパンティからも、雄を誘う芳醇な匂いが滲み出ている。
それらの匂いは全て、琴乃の緊張と恐怖から生み出されたものだと、ツルク星人は理解していた。それ故に彼は琴乃を嘲笑うかのように、尻餅をついたまま動けない彼女に「とどめ」を刺そうとしている。
「死刑」を執行する刃を罪人に見せ付け、恐怖を煽る「見せ槍」。ツルク星人の腕部を形成しているその切っ先が、尻餅をついている琴乃の白い柔肌に向けられていた。
この刃が、これから貴様を貫くのだと言わんばかりに。
(嵐真、お前だけでもッ……!)
もう自分は助からない。それを理解した上で琴乃は、恐怖に囚われながらも嵐真の命だけは助けねばと考えていた。しかし当の嵐真は敵わないと知りながらも、この場でアキレスアイを引き抜いて変身しようとしている。
このままではどちらも助からない。万事休すか。その結末を予想してしまった琴乃が、きゅっと瞼を閉じた――次の瞬間。
「たあぁあッ!」
「えっ……!?」
琴乃の柔肌を隠すように、何者かのコートがふわりと彼女の身体に被される。その温もりに思わず彼女が顔を上げた瞬間――突然現れた1人の少年が、ツルク星人の顔面に痛烈な飛び回し蹴りを放っていた。
予期せぬ奇襲に一瞬怯んだツルク星人は、乱入して来た謎の少年から始末しようと刃を振るう。だが少年は、ツルク星人が刃を振り抜く前に懐に飛び込み、渾身のボディブローを突き入れていた。
「す、凄い……! でも誰なんだ一体、ツルク星人をあんなに圧倒するなんて……!?」
その間に琴乃の側に駆け付けていた嵐真は、ツルク星人を相手に丸腰で圧倒している謎の少年の異様な強さに、生唾を飲んでいた。ブレザー姿であるところを見るに都内の高校生のようだが、どう見ても只者の動きではない。
「……そうか、来てくれたか……!」
一方。被せられたコートを握り締めている琴乃は、落ち着きを取り戻したように呟いている。彼女は、少年が何者であるかを知っているのだ。
あまりの手強さに分が悪いと判断したのか、ツルク星人は少年に背を向けて逃げ出して行く。その超人的な足の速さで、彼は瞬く間にこの夜道から姿を消してしまうのだった。
「……ふぅっ。危ないところでしたね、琴乃さん。それと……暁嵐真さん」
「あ、ありがとう、助かったよ……。でも、君は一体……!?」
「……流石、としか言いようがないな。丸腰であのツルク星人を撃退してしまうとは」
「えっ……琴乃さん、彼のこと知ってるんですか!?」
深追いは出来ないと判断したのか、ツルク星人の背を見送った少年は黒髪を靡かせ、嵐真達の方へと向き直る。嵐真が困惑している一方で、琴乃は懐かしい「旧友」との再会を果たしたかのように、微かに頬を緩めていた。
「オレは
風祭弓弦。あなたのことは琴乃さんから聞いていますよ、暁嵐真さん。それとも……ウルトラアキレスとお呼びした方がよろしいでしょうか」
「まさか、こんな形での紹介になるとはな。……彼がお前に技を教えてくれる『教官役』だ、嵐真」
「えぇっ……!? こ、この子がっ……!?」
少年の名は風祭弓弦。今は亡きBURK最優秀隊員
風祭勇武の息子にして、弱冠14歳で入隊試験に合格したこともあるエリート高校生。
そして――今から約1年前、ウルトラマンカイナと一体化して恐竜戦車の侵攻から地球を救った人物でもある。彼こそが、琴乃が言っていた格闘術の教官役なのだ。
静かに2人の前に歩み出た弓弦は、琴乃と頷き合うと嵐真の目を真っ直ぐに見つめる。17歳の少年とは思えないその眼付きに、嵐真は思わず息を呑んでいた。
「彼の父……風祭勇武は、BURKでその名を知らぬ者は居ないと言われている伝説の隊員であり、現代のBURK式軍隊格闘術を編み出した『開祖』でもあった。その息子である彼自身も、父が作った格闘術の真髄を完璧にマスターしている。私や弘原海隊長も格闘術の心得はあるのだが……達人などと呼べるほどの域ではなくてな。そこで、隊長が彼に声を掛けて下さったのだ」
「……あのツルク星人の脅威は、誰にとっても他人事じゃないんです。協力させてください、暁さん」
「……」
2人の言葉に嵐真は拳を震わせ、ただ俯いている。だが、それは恐れによるものではない。人々を守り抜ける力を欲していた彼にとっての「希望」が、ようやく現れたことへの昂り――武者震いによるものであった。
「……嵐真でいい。頼みたいのは俺の方だよ、弓弦君。今すぐにでも教えてくれ、君とお父さんで作り出した……格闘術をッ!」
◇
――それから、さらに数日後。
東京湾に再出現したツルク星人は街一つを滅ぼしただけでは飽き足らず、今度は東京を蹂躙しようとしていた。
東京ゲートブリッジに迫るツルク星人の凶悪な面相に、人々は悲鳴を上げながら我先にと避難している。
『デュワッ!』
その侵攻を阻止せんと現れた真紅の巨人――ウルトラアキレスは、前回の戦いからは想像もつかない動きの冴えを見せ、ツルク星人の刃をかわしている。海に足を取られている状況でありながら、彼は上体の捻りだけで斬撃を回避していた。
『デュッ! ダッ、ダアァアッ!』
刃の軌道を見切り、刀身の腹に手刀を当てて斬撃をいなし、その隙を突いてチョップの乱打を繰り出す。そんな彼の戦い振りは、1年前の戦いで恐竜戦車を打ちのめしていたウルトラマンカイナを想起させるものであった。
ゲートブリッジの上から、その戦況を独り見守っている弓弦は――頼もしい「後輩」の成長に、微笑を浮かべている。
「……さすが、ウルトラアキレスに選ばれた人だな。オレの格闘術をほんの数日でほとんどマスターしてしまうなんて」
1年前の戦いでも、接近戦の技が未熟だった当時のカイナは、一体化を通じて弓弦の格闘術を会得したことによって飛躍的なパワーアップを遂げていた。
そして今度は、アキレスが依代としている嵐真が弓弦から格闘術を学んだことにより、ツルク星人にも負けない身のこなしを体得している。不思議な縁で繋がったものだと、弓弦はふっと笑っていた。
『デュッ……!』
だが、殺意を研ぎ澄ませたツルク星人の一閃が、アキレスの肩部を守っていたプロテクターを斬り飛ばしてしまう。
劇的なパワーアップを遂げたとは言え、付け焼き刃の特訓だったことに変わりはない。身に付けた技に肉体が追い付いていない今のアキレスでは、カイナほどには弓弦の技を引き出せてはいないのだ。
「伏せろアキレスッ!
神虎炸裂誘導弾、全門発射ァッ!」
――しかし、彼は独りで戦っているわけではない。カイナと弓弦の時がそうだったように、アキレスと嵐真にはBURKの仲間達が付いている。
それを証明するように、弘原海が率いる現役爆撃機「BURK
風龍」の編隊が東京湾の上空に飛来していた。中国支部製の爆撃機で編成された航空機の群れが、空を切ってこの東京湾に馳せ参じている。
そして、翼下のハードポイントに搭載されている高性能スペシウム弾頭「
神虎炸裂誘導弾」が、ツルク星人の頭上に降り注いで行く。その爆撃を咄嗟に防御しようとしたツルク星人は、アイデンティティでもある両腕を爆炎で吹き飛ばされてしまうのだった。
『デュアアァーッ!』
そうなれば、もはやツルク星人に勝ち目などない。爆炎を掻き分けて眼前に飛び込んだアキレスは、頭部のアキレスラッガーを引き抜き――これまでの返礼だと言わんばかりに、斬撃の嵐を見舞う。弓弦との特訓で会得した格闘術の動きが、その刃の軌道に顕れていた。
細切れになるまで徹底的に切り刻まれたツルク星人の身体は無数の肉片に変わり果て、そのまま東京湾の海中へと水葬されて行くのだった。
「ツルク星人、完全に沈黙! アキレスの、俺達の勝利ですッ!」
「よっ……しゃああッ!」
アキレスの完勝を見届けたBURK風龍の編隊は、賛辞を送るように何度か彼の頭上を旋回した後、基地に帰投するべく青空の彼方へと飛び去って行く。
『……デュワッ!』
そして、人々の歓声をその巨体で浴びていたアキレスも。橋の上から自分を見守っていた弓弦と頷き合った後、両手を広げて天の向こうへと飛び去って行くのだった。
「……見てるかな、カイナ。君のおかげで、オレも彼らも……前に進むことが出来たみたいだよ。ありがとうな……」
そんな真紅の巨人の背を見届けた弓弦は独り、橋の手すりに背を預けると。「後輩」の成長に頬を緩め、優しげに呟いている。
だが、彼はまだ知らない。カイナからアキレスへと繋がっているこの戦いのバトンが、まだ始まったばかりに過ぎないのだということを――。