機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第72話:聖王のゆりかご
翌日,はやてに呼び出された俺は艦長室に向かった。
途中,通路の交差点で出会いがしらに誰かとぶつかった。
女性の小さな悲鳴とともに衝撃を受けた俺は,痛みで床に屈みこんだ。
「ごめんなさい,大丈夫ですか・・・ってゲオルグくんじゃない」
声のする方を見上げると,なのはが心配そうな顔で俺を見ていた。
「大丈夫?傷が痛むの?」
「ちょっとね。でも大丈夫だよ。それよりごめんな,不注意で」
そう言うと,なのはは首を横に振った。
「ううん。私の方こそごめんね。立てる?」
なのははそう言って俺の方に手を差し出した。
俺はなのはの手を握ると,なのはの力を借りて立ち上がった。
「ありがとう,なのは」
「どういたしまして。ところでゲオルグくんはどこに行くところ?」
「艦長室だよ。はやてに呼び出されてね」
「そうなの?私もだよ。じゃあ一緒に行こうよ」
なのはの言葉に俺が頷くと,なのははにっこりとほほ笑んだ。
なのはと並んで艦長室に向かって歩いていると,なのはが話しかけてきた。
「ねえ,はやてちゃんの話って何かな?」
「さあね。たぶんこれからどうするかって話か,捜査に進展が
あったかじゃないか?」
「そうだね・・・。いい話だといいんだけど・・・」
なのははそう言うと,少し暗い顔になった。
「何暗い顔してんだよ。元気出していこうよ!」
俺はヴィヴィオのことを考えているのであろうなのはを元気づけようと,
殊更明るい口調でそう言うと,なのはの背中をポンと叩いた。
だが,なのはは弱々しい笑みを浮かべるだけだった。
艦長室に入ると,はやてやフェイトとともに予想外の人物がいた。
「あ,ゲオルグになのは。しばらくぶりだね」
「ユーノ?何でこんなところにいるんだ?」
俺がそう聞くと,ユーノは肩をすくめた。
「忘れたの?依頼されてた聖王関係の調査で興味深いものが見つかったから
教えてあげようと思ってわざわざ来たのに」
「そうなの!?ユーノくん!」
ユーノの言葉になのはが激しく反応した。
「なのは!ちょっと落ち着けよ。まずは座って話を聞こうよ」
俺がそう言ってなのはの肩を掴むと,なのはは弱々しく頷いた。
(なのは・・・ヴィヴィオのことで相当参ってるな・・・)
なのはの手を引いてソファーに座った俺は,はす向かいに座ったユーノの顔を
見つめた。
「で?どんな情報が見つかったんだよ。ユーノ」
俺がぶっきらぼうに聞くと,ユーノは真剣な顔に変わった。
「この前,調査を頼まれてから古代ベルカの兵器についての文献を
中心に調査したんだけど,その中で飛びぬけて危険な兵器についての
記述を見つけたんだ」
ユーノはそこで,一枚の図面をモニターに映し出した。
それは,乗り物のように見えたが,俺には何なのかは判別できなかった。
「これは何なん?」
「聖王のゆりかご,っていう古代ベルカ時代の戦艦だよ。
文献によれば当時でもかなり危険視されてたみたいだね。
この兵器は,このミッドの2つの月の魔力をエネルギーに転換して
発射する武装と船体を守るバリアを張る能力がある」
ユーノの言葉に俺たちは一言も発することができず,息をのんだ。
俺がモニターに映るゆりかごの映像を見ていると,はやてが口を開いた。
「確かにこんなもんをスカリエッティが動かしたら管理局は崩壊やな・・・
そやけど,これと聖王のクローンがどう関係すんねんな?」
はやてがユーノに向かってそう言うと,ユーノははやてに向かって頷いた。
「うん。実は,このゆりかごっていう兵器には玉座の間っていう部屋が
あるんだけど,そこにある玉座にベルカ王族の血を引く者が座らないと
稼働しないらしいんだよ」
「なるほど,それで聖王のクローンであるヴィヴィオが必要っちゅうわけか」
はやてが納得した様子でそう言うとユーノは頷いた。
「恐らくそういうことだね。ただ,ゆりかごの起動にはベルカ王族の血だけ
では不足なんだよ」
「どういうこと?」
ユーノの言葉にフェイトが首を傾げながら尋ねる。
「これも文献によればなんだけど,ベルカ王族に特有の能力を発現することが
ゆりかごの起動には必要みたいなんだよ」
「どんな能力なんや?」
はやての問いに対して,ユーノは首を振った。
「そこまでは書いてかなった。悪いね,これが精一杯だよ」
「ううん。めっちゃ助かったよ。ユーノくん,ありがとう」
「どういたしまして。役に立ててよかったよ」
ユーノはそう言って,にっこりとほほ笑んだ。
ユーノが帰ったあとの艦長室で俺達4人は,お茶をすすりながら
対策を話し合っていた。
「しかし,聖王のゆりかごか・・・。厄介なもんが出てきたな」
「でも,スカリエッティの狙いがこれと決まった訳じゃないんでしょ?」
フェイトの問いに対してはやては首を振る。
「そらそうやけど,これはありきで対策を考えとかんとあかんよ。
ユーノくんのくれた資料によれば,こいつを軌道に上げてしもうたら
私らには手も足も出ん。それこそ管理局の崩壊へ一直線や」
はやての言葉に全員が押し黙る。
「それにしても,この聖王のゆりかごってやつはどこにあるんだ?」
沈黙を破った俺の問いに対して,はやてが口を開いた。
「スカリエッティがこのミッドで暗躍しとる以上,ミッドのどこかっちゅうのは
間違い無いんとちゃう?それ以上は知りようがないわ」
「じゃあどう対策を取るんだ?場所も判らないんじゃどうしようもないだろ」
「さすがにここまで話が大きくなった以上,もう私らだけの手には負えんよ。
後見人の皆さんに話しをして,大規模な動員をかけるしかないわ」
はやてはそう言うと,大きなため息をつきながらソファーの背にもたれた。
「そっちは私の方でやっとくから,みんなにはこいつが実際に現れた時の
対策を考えといて欲しいんよ」
「対策って,実際現れたら中に乗り込んで動力源を破壊して,
ヴィヴィオを救出するしかないだろ。あとはどうやって乗り込むかだけど,
それこそ戦力次第だな。今はできるだけ戦力を整えるだけだよ」
俺がそう言うと,フェイトが頷いた。
「そうだね。それよりゆりかごを起動される前にスカリエッティを確保するのが
最優先課題だね」
フェイトの言葉にはやては頷いた。
「わかった。ほんなら私はできるだけ多くの部隊の協力が得られるように
後見人の皆さんを通じてお願いしてみるわ。
フェイトちゃんはこれまで通りスカリエッティの捜査に全力投入。
ゲオルグくんとなのはちゃんは突入作戦の立案。頼むで」
「「「了解」」」
はやての言葉に俺とフェイトとなのはは返事を返すと,
ソファーから立ちあがって艦長室を後にした。
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