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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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ドローゲーム

 ボーデヴィッヒさんとの戦闘の後、私たち3人は保健室に来ていました。
 何でってそれは……

「痛たたたたた! あんたもう少し優しくできないの!?」

「代表候補生でしょう? 少しは我慢してくださいませ」

「あんただって痛いでしょうが!」

「痛っ! 何なさいますの! この!」

「痛いって言ってんでしょうが!」

 横のベッドでは鈴さんとセシリアさんが互いに手当てしあっています。この突っつきあいを手当てと言うべきなのか置いておきましょう。
 保健室の先生は不在だったので勝手に使わせてもらっています。私もそうですがお二人とも代表候補生なので道具さえあれば簡易治療くらいならできるんです。
 代表候補生は将来国家の代表を担う可能性のある人物。生身の時でさえあらゆる状況に対応できるように、訓練で技術を身に着けさせられます。特に未だに不明な部分の多いISは、いつどんな不具合が出るかも分かりません。
 ですからISが使えない状況になっても自分で自分を守れるように訓練を受けています。

 鈴さんは左肩に、セシリアさんは背中に打撲を負っています。私は左足と腰の部分に大きな打撲を負っていて、今は自分で出来ないところを包帯やシップで治療しあっているところです。

「はい、終わりましたわよ」

「はあ、じゃあ今度は私があんたにやる番ね!」

 鈴さんが仕返しとばかりに手をワキワキと動かしています。絶対何か変なことするでしょうその手つきは……

「カルラさんお願い致しますわ!」

 流石にあの鈴さんからは逃げますよね。私も逃げたいです。

「分かりました。鈴さん、薬取ってください」

「ぐぬぬ、しょうがないわね」

 鈴さんが悔しそうに呻いていますがこれ以上付き合っていると時間がまた掛かってしまいますのでちゃちゃっとやりましょう。
 セシリアさんが上半身だけ裸になって私に背中を向ける。とりあえず塗り薬を塗って……

「ひゃ!」

「あ、痛かったですか? すいません」

「い、いえ。ちょっとくすぐったかっただけですわ」

「そうですか。では続けますね」

 うーん、それにしても綺麗な肌です。真っ白でモデルみたい……ってセシリアさんは実際モデルも兼ねてるんでしたね。
 代表候補生は国の代表という意味合いもあってモデルやアイドル的なことをやってる人が多いです。なので噂ではIS適正が高くてもビジュアルで選ばれなかった人もいるとかいないとかそんな噂もあります。あくまで噂ですけど。

 薬を塗り終えてシップを貼って、と。

「はい、終わりです」

「では最後はカルラさんですわね」

「腰ってまた面倒なところよね。座るときとかめちゃきついじゃない」

「まあ仕方ないですよ。さっさと終わらせましょう」

 腰なので一回脱がないといけないんですよね。面倒ですけど放っておくと痛いだけで中々直りませんし。
 スカートを下ろして下着も……

 プシュ!


 扉が開きました。

「3人とも! 大丈……ぶ……か?」

 一夏さんがいます。多分アリーナの話を聞いて文字通り飛んできたんでしょう。
 その気持ちは大変嬉しいです。嬉しいんですけど………現状を説明しましょうか?

 セシリアさんは制服を羽織っただけでまだ前を止めておらず白い肌と豊満な谷間が制服の間から見えています。
 鈴さんは左腕の調子を確かめるために腕を上げていて下着の線が見えています。
 そして私は……

 私は……スカートを下ろして下着に手をかけている状態な訳で………わけ……で…………

「き……」

「き?」

「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

「ぎゃあああああああああああああああああああ!」


ドカッ!バキッ!グシャ!グチャ!コキャ!メキ!ベリ!チーン……


 叫び声とさまざまな音が保健室に響き渡ったのは言うまでもありません。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぉりふぁえずしゃんにんちょもふしでふぉかった(とりあえず3人とも無事でよかった)」

「何が無事よ、馬鹿!」

「ぼふ……!」

 顔面お化けになった一夏さんに鈴さんが枕を投げつけました。

「せせせせせせ、責任とって頂きますからね!」

「むぼ……!」

 セシリアさんが誰が置いていったのか分からないお見舞いのリンゴを投げつけました。

「無かったことに!」

「うお! タンマタンマ! それは止めてくれ!」

「ちょ! それは流石に不味いわ!」

「そうですわ! 殺してしまっては責任は取ってもらえませんわよ!」

 私が果物ナイフを投げようとしたら何故か鈴さんとセシリアさんに止められました。
 何でですか! 私にも何か投げさせてください! この恥辱を晴らさせてください!

「いや……まあ何にしても、3人ともたいした怪我がじゃなくてよかったよ。箒が知らせに来てくれた時は本当に驚いたんだからな」

 復活早いですね。これなら果物ナイフくらいわけないのでは?

 っと、流石に引かれてしまいますから置きましょう。
 果物ナイフを置くと鈴さんが振り返るように呟きました。

「それにしてもまさかあいつ一人にここまでやられるとは……一対一なら完敗ね」

「ですわね。私の射撃も全て見切られていましたし…もっと精進しなくては」

「左目の眼帯を外さずにあの強さですからね。距離感の問題もありますし……最初から両目で来ていたら私たち3人は全員危なかったかもしれません」

 そう、ボーデヴィッヒさんはそれほどまでに強いです。
 あの人の強さなら眼帯さえなければ私たちを文字通り潰せたはず。それをしなかったのはただ単に外すまでもなかったのか、それともそれ以外の理由があったのか。どちらにしろ私はまだまだ力不足なようです。これではいざという時に大事なものを守れませんね。

「ん? あいつの左目って見えないんじゃないのか?」

「いえ、データでは両眼見えるらしいですよ。訓練の一環じゃないんですか?」

 一夏さんの疑問は真っ当ですけどね。候補生のデータベースには両眼の視力で載っていましたから本当は見えるのでしょう。
 昔の人は片目にすることでバランス感覚とかを養ったらしいですしそういうことなのではないでしょうか?

「飲み物買ってきたよ」

 そんなことを考えていると飲み物を買いに出ていたデュノアさんが戻ってきました。

「鈴さんはウーロン茶、セシリアさんは紅茶、カルラさんはオレンジジュースね。はい、どうぞ」

「はぁ、ありがと」

「ありがとう、いただきますわ」

「ありがとうございます」

 何で私の好きな飲み物がオレンジジュースって知ってるんでしょうか? 謎です。あ、そういえば一夏さんと同じ部屋なら知ってても不思議じゃないか。
 そういえば箒さんがいませんね。
 恐らく借りたISの整備でしょうけど。

 チビチビとオレンジジュースを飲んでいると……


ドドドドドドドドドド


 な、何やらものすごい音が廊下から……

「な、なんだこの音!?」

 一夏さんにも聞こえるということは私の気のせいじゃないみたいですね。他の人も廊下に目を向けてますし。
 なんというか前にテレビで見たヌーの大群とかの足音に似ています。
 あ、保健室の前で止まりましたね。
 と思った瞬間……


ドカーン!!


 保健室のドアが吹き飛びましたよ!?
 なんですかこれ火薬でも仕掛けてたんですか!!? テレビ以外でこんなの初めて見ましたよ!

「織斑君!」

「デュノア君!」

 クラスメイトの皆さんを筆頭に文字通り保健室に雪崩れ込むように皆さんが入ってきて一瞬で保健室が埋まりました。この保健室ベッドが5つもある大きなとこなんですけど……
 あ、のほほんさんもいますね。ベッドで跳ねてはいけませんよ。埃が立つ上にスプリングが弱くなりますから。

「な、なんだなんだ!?」

「ど、どうしたのみんな。と、とりあえず落ち着いて」

 流石のデュノアさんも顔が青くなってますね。でも対応はすごいソフトです。

「「「「「これ!」」」」」

 一夏さんが渡されたのは、えと……学内の緊急告知文書?

「な、なになに? えっとぉ『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締切は……』」

「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」

 一夏さんが私たちにも聞こえるように音読してくれました。締切読む前に引っ手繰られましたけど。

「「「「織斑君! 私と組んで!」」」」

「「「「デュノア君! 私と組んで!」」」」

 数少ない男性と組もうと皆さん必死です。そうか、だからここにいる人たち皆一年生なんですね。

 しかし……うわあ……これは怖いですね。周囲から伸びる手、手、手。前に映画でこんな光景見たことありますよ。

「えっと……」

 一夏さんすごい困ってますしデュノアさんも一夏さんと女性の皆さんを交互に見て一夏さんの二倍くらい焦っているように見えます。

「悪い! 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 一夏さんの言葉にその場に沈黙が流れます。
 まあでもそれが一番いい選択肢だと私も思います。誰か女性なら非難されますが二人だけの男性なら誰からも否定されないでしょう。

「まあ、そういうことなら……」

「他の女子と組まれるよりは………」

「織×デュノきた! これでカツル!!」

「今から原稿書き換えないと!」

 とりあえず皆さん納得してくれたようで保健室から出ていきました。原稿ってなんの原稿なんですかね? そして何に勝つんでしょう?

「ふぅ……」

「あ、あの、一夏……ありが」

「一夏っ!」

「一夏さんっ」

 一難去ってまた一難。今の内容にセシリアさんと鈴さんが文字通り食らいつきました。

「あ、あたしと組みなさいよ! 幼馴染みでしょうが!」

「いえ、クラスメイトとしてここは私と!」

「な、何!?」

「何バカなこと言ってるんですか二人とも」

 ため息をつきながら言った私の言葉に全員の視線がこちらに向きました。でもここははっきり言っておかないと。

「そもそも一夏さんは女性が選べないからデュノアさんを選んだんですよ? ここで二人を選んだらデュノアさんどうするんですか?」

「う、そ、それは……」

「で、ですがカルラさん……」

「それに……」

 二人に近づいて耳元で囁く。

「箒さんの居ないところでまたそんなことしたら文字通り殺されますよ?」

「う……」

「そ、それは……」

 二人ともその一言で冷や汗をかいています。恐らくですけどISを使用しないで一番強いのは箒さんでしょう。
 下手をすればあの真剣を持ち出して追い掛け回されかねない。
 実際に体育の授業の組手で箒さんに勝てる人は今のところいないですからね。ボーデヴィッヒさんはどうかは知りませんが……

「それに他の皆さんもああ言った手前一夏さんが非難されます。ここは一つ貸しを付けるくらいの気持ちで……」

「そう……それも……そうね」

「そうですわね。ここは器の広いところを見せませんと……」

「というわけで一夏さんは予定通りデュノアさんと組んであげて下さい」

「お、おお……なんか悪いな二人とも。この埋め合わせはいつかするから」

「貸し一つね」

「私もそれで構いませんわ」

 一夏さんは苦笑いしてますね。この二人に貸しを作ることがどれほど怖いことか……私は想像したくもないです。

「なら私たちどうする? 一夏とデュノアがペアってつまり専用機持ちが二人相手ってことよね? それってずるくない?」

 鈴さんの言うことももっともですけど……

「まあいい機会じゃないですか」

「それとも鈴さんはお二人相手では勝つ自信がありませんの?」

「何よ、そういうセシリアだって自信ないんじゃないの? 何せあんたの『ブルー・ティアーズ』の武装じゃあ一夏の単一仕様能力の前では唯の動く的だもんねえ」

 鈴さんの言葉は正に的を射たもの。
 『ブルー・ティアーズ』はBT兵器の研究ということで開発された機体ですから実弾兵器が誘導弾しかないそうです。誘導弾では『白式』の機動にはついていけません。なので必然的に『零落白夜』を使用されるとセシリアさんの射撃全般が通じなくなり、格闘戦で劣るセシリアさんに一夏さんに勝つ術はほとんどないということになります。

「な、なんですって!?」

「何よ! 本当のことじゃない!」

「鈴さんの『甲龍』だって一夏さんに負けたではありませんか!」

「ま、負けてないわよ! 持ち越しよ!」

「あらぁ、どうでしょうね? あの状況で一夏さんに懐に入られた時点で鈴さんの負けは確定していたようなものだと思いますけど?」

「なんですってぇ!」

「何ですの!?」

「「ぐぬぬぬぬぬぬ!」」

 また的確に相手の弱点を言い抜いています。この二人にもう少し素直なところがあれば……
 はあ、仲いいんだか悪いんだか……

「二人で組めばいいじゃないですか」

「「え?」」

 二人の顔が「何言ってるの?」とこちらを向きますけど……それ以外にありますか?

「鈴さんは一夏さんに勝てる要素がありますし、セシリアさんの『ブルー・ティアーズ』ならボーデヴィッヒさんのAICの影響を受けないレーザー兵器があります。非常にバランスはいいと思いますけど?」

「それを言うなら私はカルラさんと組みたいですわね」

「それ、あたしがカルラより弱いってこと!?」

「あら? 私はそんなこと一言も言っていませんが、そういう自覚はあるみたいですわね?」

 再び言い合いを始める二人。
 あ、頭痛くなってきましたよ本当に……

「私は箒さんとペアを組みますよ。一夏さんが無理なら箒さん人見知りなところありますし案外組めないで抽選になっちゃうかもしれませんから」

「あー、まあそれがいいかもね」

「ですわね。箒さんは専用機も持っていませんし……」

 うんうんと二人とも納得しているようです。どうやら箒さんは専用機がないので勝率が低い→私と組む→私の勝率も下がる→優勝の可能性が低くなる→一夏さん強奪戦のライバルが減る! とこういうことなのでしょう。
 私も勝つのが目的じゃなく参加するのが目的なので勝率は問題ではないからそれでいいんです。箒さんには怒られそうですから本気でやりますけど。

「しかし、なんだってラウラとバトルする事になったんだ?」

 一夏さんのいきなり核心をついた質問に鈴さんとセシリアさんが急にどもります。

「え、い、いやそれは……」

「ま、まあ。なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」

「ふぅん? そうなのか?」

 だから何でそこで私に振るんですかねえ……
 やっぱりお二人とも箒さんと同じで今の時点で一夏さんへの好意は知られたくないようですね。

「私の性格は知ってますよね? お二人が馬鹿にされたからです」

「ああ、そか。なるほど」

 納得してくれましたね。鈴さんとセシリアさんもホッとしています。
 と、デュノアさんが私の近くまで来て囁いてきました。

「もしかして、一夏の悪口?」

「ええ、その通りですよ。よく分かりますね?」

「3人の反応を見てればね」

 そうやってクスリと笑う姿はやっぱり女性みたいです。
 でもその『好きなんだよね。分かるよー』って表情やめてくれませんか!? 私はあくまで友達として好きなだけなんですよ!?

「まあ何にせよ三人とも無事で良かった。じゃあ俺たちは部屋に戻るよ。後で食堂で会おうぜ」

「お大事にね」

 そう言って一夏さんとデュノアさんは保健室を出て行きました。何か厄介ごとだけ残された気がします……

 クイクイ

 ?

 なんでしょう、袖を何かに引っ張られているような……

「ねね、カルカルー」

「わ!?」

 の、のほほんさん!? 一体いつからベッドの下に!? 皆さんと一緒に出て行ったと思ってたのに!

「むー、そんなに驚くなんてひどいなー」

「す、すいません」

 でも驚くなって言う方が無理だと思いますけど……セシリアさんと鈴さんも声が出ないようですし。

「そ、それで何か御用ですか?」

「これこれー。さっきの緊急告知文書あげるー」

「へ?」

 のほほんさんの手……というよりダボダボの袖の上に先ほどの緊急告知文書が乗っています。これどうやってここに乗せたかの方が気になるんですけど。

「あ、ありがとうございます」

「う~うん。3人とも友達だからねー。じゃあ私は戻るからー」

 のほほんさんはそう言うとベッドの下から這い出そうとして


ガンッ!


「あう!」

ベッドに頭をぶつけました。

「あ、あんた大丈夫?」

「う、うん。慣れてるから平気~……」

 流石の鈴さんも心配しています。のほほんさんは涙目になりながら立ち上がると物凄い遅い速度で保健室の外へと歩いていき……


べチャ!


「ふぎゃ!」

 保健室のドアのレールに足を引っ掛けて転びました。そこでまたゆっくりと立ち上がるとこちらにダボダボの袖を振って再び歩いていき私たちの視界から消えました。

「彼女と組む人は災難ですわね」

「「確かに……」」

 セシリアさんの言葉に私と鈴さんは思わずそう答えていました。 
 

 
後書き
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