カンピオーネ!5人”の”神殺し
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第一部
プロローグ3
甘粕冬馬は、忍者である。
本人は忍者という呼ばれ方はあまり好きではないらしく、隠密とか呼ばれることを好むのだが、それは今どうでもいい。問題なのは、彼が自分の上司である沙耶宮馨に土下座していることである。
彼の上司である馨は、現在高校三年生の十八歳。つまり、冬馬よりもよっぽど年下の女性なのだが、彼はそんなこと全く気にしていなかった。彼には、年下の女の子に土下座してでも成し遂げなければならない事があった。
それは・・・
「もう限界なんです。本当に、これ以上は身が持ちません!」
「いや・・・でも君以上に信頼出来る人材って殆どいないんだよね・・・。君に今辞められると本当に困るんだけど・・・;;」
何時も飄々としている馨だが、流石の彼女も彼の必死に懇願に額に汗を垂らしている。それは、彼の様子から、本気で頼み込んできているというのが分かるからであり・・・同時に、彼女自身も今回の任務は流石に酷だったかと感じているからである。
「・・・そんなに鈴蘭王たちは・・・ヤバイかい?」
「((((;゚Д゚))))((((;゚Д゚))))」
その質問の答えは、彼の様子が物語っていた。先祖代々忍びとしてこの国の為に身を粉にして働いてきたのが彼の家計だ。その末裔である彼も、幼少時からそれは厳しい修行を積んでおり、特に隠密に関しては間違いなく世界でもトップクラスの実力を持っているのだ。
忍びとしての心構えも実力も十分備わっている彼がここまで恐れる対象・・・噂で聞いてはいたものの、これは予想以上の難敵だったかと頭を抱える馨。
「本当・・・厄介な問題を起こしてくれたものだよ。神殿教団・・・。」
彼女は、一年前に起こったある事件を思い出し始めた。
事の始まりは、一年前のある日、東京のあるビルでテロがあったことからだ。
一般人も相当数巻き添えにしたこの事件は、事もあろうに神殿教会という一魔術結社が引き起こしたものだったのである。その組織は、それまでも、とある一人の少女を巡って何度も諍いを起こしており、いくら発言力がある強力な魔術結社といえども流石にやりすぎだと日本に注意をされた直後のことであった。
表と裏を問わず、多数の人間、魔人が死んだこの事件には、流石の日本政府も怒り狂った。各国の魔術結社に依頼して、神殿教会を潰そうと目論んだのだが・・・時すでに遅し。唯の人間には太刀打ち出来ない状況にまで追い込まれてしまった。
彼らにとって誤算だったのは、神殿教会のトップである『預言者』と呼ばれる人物が、実は人間でも魔人でもなく、神だったことだろう。そもそも、人間社会に害しか齎さない神々が、自分で魔術結社を作ってそれを隠れ蓑にするなど、一体誰が考えつくだろう?しかも、その『預言者』は元聖四天の一人であり、かの有名な『ラプラスの悪魔』とも同一のまつろわぬ神だったため、未来も過去も知ることが出来るため、彼女の正体がバレる可能性がある優秀な巫女などを優先して殺していたのだから、誰にも知られることはなかった。
彼女の目的は、世界を自分の都合のいいように改変すること。邪魔をされないように時間稼ぎとして、各地のカンピオーネたちの下へも刺客を差し向けており、最早誰にも世界の変革は阻止出来ないかのように思われた。
だが、そこに現れたのは自らを『アウター』と呼ぶ魔人集団と、神殿教会にかねてから狙われていた『聖魔王鈴蘭の一味』だった。
何故、彼女を聖魔王と呼んだのかは、分からない。ソレが分かる者たちは既にこの世界にはいないのだから。この世界の常識で言えば、カンピオーネこそが『魔王』であり、確かに恐ろしい程の力を有してはいたが、カンピオーネではない鈴蘭は『魔王』と呼ばれる存在では無かったハズなのだ。関係者たちは、度々『魔王制』などという制度を口にだしていたようだが、それがどういう制度なのか、今となっては誰にも分からない。
兎に角、何かに期待されていた彼女は、仲間と共に、『預言者マリーチ』の野望を阻止しようと動いたのだが・・・もうお分かりであろう。その時、カンピオーネが生まれてしまったのだ。四人も。同時に。しかも全員日本所属の。
世界の危機が去ったと思ったら、今度は一変して日本の危機である。まつろわぬ神は、自身に因縁のある神や、カンピオーネに戦いを挑みに来る事が多い。つまり、カンピオーネが多ければ多いほど、日本に神が襲来する可能性が高くなるのだ。それはつまり、災害にも等しい神とカンピオーネの戦いが、日常化するということである。
オマケに、鈴蘭がカンピオーネになったとき、一体どういう奇跡を起こしたのか・・・その日から一年以内に死亡した全ての人間・魔人・神が復活したのだからさぁ大変。流石に焦った日本政府は、この問題の全てを元凶である神殿教会(今は神殿教団と名を改めているが)に押し付けた。彼女らが引き起こす問題の後始末から、彼女らのパシリまで全てである。もう意味が分からない。
「本当に、厄介なことをしてくれたよね。」
しかも、そもそもの元凶である『預言者マリーチ』は、長谷部翔希に殺された時のショックで記憶を失っていて、唯の少女のような状態になってしまった。・・・まぁ、あそこまでタチの悪い神に記憶を取り戻されて、また何か問題を引き起こされても困るので、それはそれでいいのだが、流石に記憶が無くなったからと言って、何のお咎めも無しにさようならという訳にもいかない。
そこで白羽の矢が立ったのが、現在のトップである甲斐律子なのだが・・・日に日にやつれて行く彼女を見ると、同じ女として同情を禁じえない馨であった。元トップの尻拭いをさせられているだけの、唯のスケープゴートなのだから。
「もう、私は無理なんです。流石にキツすぎるんです。あそこは魔境です。常人なら、一日も居れば狂ってしまいます!」
馨が考え込んでいる間も必死に土下座を続けていた甘粕が、遂に泣き出した。
「あぁ・・・君がこうまでなるとは・・・・・・。こりゃもう無理か。」
流石に、自身の配下で一番信頼出来る人間が泣き出したのを見て、鈴蘭たちの調査は諦める馨。
甘粕には、彼女たちの意識調査と権能の調査などを頼んでいたのだ。やはり、同じ国に四人もカンピオーネがいると、皆が混乱する。一体誰につけばいいのかが分からないからだ。情報では、四人とも関係は良好のようだが、それも何時まで続くのかは分からない。安心を得るためにも、この調査は重要だったのだが・・・。
「しょうがない。じゃぁ、草薙王の調査を頼むよ・・・。」
「有難う御座いますぅ!!」
つい先日生まれた五人目のカンピオーネ。その調査という、普通で考えれば自殺行為な命令にも、喜んでいるあたり、どれだけ鈴蘭たちの元にいるのが苦痛だったのかがわかるだろう。
「行ってきます!」
「はぁ・・・。」
先程までの情けない姿は何処へやら、瞬時に気配を消した部下の姿を見て、溜息を吐く馨であった。
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