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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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女子と噂

 結局一夏さんはボーデヴィッヒさんのことを話してくれる様子はありませんでした。
 まあ本人が嫌な内容を無理に聞くのはよくありませんし、これはまた別の機会に一夏さんのタイミング次第と言うことで。

 そういえば先ほど箒さん宛に荷物が届いていたので受け取ったらなんと……日本刀でした。
 法治国家の日本……すいません、IS学園は違うんでしたね。というより私の趣味も似たようなものですし箒さんをどうこう言う資格ないです。
          
 今はアリーナから戻ってきて夕飯前、部屋で休憩しています。
 箒さんは届いた荷物を解いてその日本刀を確認している所です。
 ああ、どうしてもそちらが気になってしまいます。

「ふむ、カルラは刀に興味があるのか?」

 流石にその視線に気づいたのか箒さんが話しかけてくれました。
 で、でも……

「は、はあ。人並みに、ですけど」

「人並み……か」

 そこで飾り棚の銃を見ないでくださいよ! そうですよ刀にも興味ありますよ悪かったですね!

「では持ってみるか?」

「え? い、いいんですか!?」

「うむ」

 箒さんが差し出してきた日本刀を受け取る。
 長めの黒ごしらえの鞘に鞘越しにも分かる細い刀身。そしてこの重さ。これが真剣の日本刀……

「お、おい! ちょっと待て!」

「へ?」

 柄に手を掛けたとき箒さんに慌てて止められました。
 ぬ、抜いてはいけなかったでしょうか?

「刀を抜くときはそれなりの作法があるのだ」

「そうなんですか?」

「うむ、教えるからその通りやってくれ。あと日本刀と言うのは非常にデリケートなものだからな。抜いたらなるべく話さないでくれ」

「は、はい」

 そこからは箒さんに正しい日本刀の鑑賞の仕方を教えてもらいました。
 日本刀の抜き方から、その見方、仕舞う方法、人への渡し方。
 
 一通り教えてもらった後に私が一人でやってみる。

 えっと、まずハンカチを銜えて……銜えるものはハンカチじゃなくてもいいそうですが、とりあえず唾が飛ばないように出来ればいいらしいです。
 そして刀の刃の側を上にしてお腹の辺りで少し抜く……よし。
 で、刃の反対側に鞘の中で滑らすように、一気に!

 シャ!

「ふあ……」

 あ、危なかった……あまりにスムーズに抜けたから銜えたハンカチ落とすところでした……
 
 で、ここからは刀身を自分に垂直に立てて……下から上に見ていく……と。

(綺麗……)

 部屋の明かりに照らされて映し出されたそれはその一言が勿体無いほどの魅力を感じます。
 反りの入った刀には一切の無駄はなく、あまり波打たない刃紋は美術的な観点からではなく実戦を重視した型であるのにも関わらず本体をより美しく見せているように思えてくる。

(すごいなあ……いいなあ……)

 銃器とはまた違う魅力に心が躍るのを止められません!
 たっぷり10分は眺めていたと思う。

 えっと仕舞う時は鞘の入り口に切っ先を乗せて…刃のないほうを滑らすようにゆっくりと納める。

カ……チン

 ふう……

「満足いったか?」

「あ、はい。ありがとうございました」

 ベッドの上で正座して待ってくれていた箒さんに刀を返す。

「その刀って名前はあるんですか?」

「うむ、名は緋宵(あけよい)明動陽(あかるぎょう)という名匠の晩年の作だ」

「緋宵……いい名前ですね」

 『あかるぎょう』さんかあ。後で調べておこうかな。

「さて、そろそろ夕食の時間だ。行くとしよう」

「あ、私少し調べ物があるので先に行ってて貰ってもいいですか?」

「む、そうか。では向こうでな」

「はい」

 そう言って箒さんは部屋を出て行きまし……ってどうして緋宵を持っていくんですか!?

 まあ、いっか。いくら箒さんでも真剣は一夏さんにしか向けないと思うし。それはそれで問題だと思うけど一夏さんなら死なないと思うし。

 そう思って机の上の端末を起動させる。


「えっと、あかる、ぎょう…っと……あ……」

 しまった。どういう漢字書くのか聞いてなかった。
 あ、でも緋宵は分かってるんだから一緒に検索すれば……

 出ました出ました。

 どうやら緋宵自体は江戸時代初期の作品みたいですね。

以下、文章より
 安土桃山から江戸前期に女剣士を伴侶としたことからこれまでの刀作りを捨てて『女のための刀』作りに生涯を掛けた刀匠。
 『柔よく剛を制す』を発端とした考えは当時では珍しく、その考えはやはり妻の存在が大きく影響したと思われる。
 
 その当人が至った最終結論は二つであり、一つは
 『決して受けることなく剣戟を流し、また己が身に密着して放つ必殺の閃き』
 この特徴は刀身を通常の太刀よりも短く、小太刀よりも長くしたもので、刀身自体も非常に細く薄いものである。受け太刀などは出来ないがその特性上非常に軽く、普通の刀を振るうよりも早く、鎧などの隙間に滑り込むようにして相手を攻撃できるものだった。

 そして二つ目、『相手よりも早く抜き放ち、その一太刀を持って必殺とする最速の瞬き』。
 この特徴は、刀身が細く長くされたもので、鞘もそれに見合う長いものだが、最も大きな特徴は小太刀などよりも素早く抜けることにある。抜刀術を意識したそれは江戸時代の平穏の時代に作られたこともあり、鎧を切ることを前提とせず、頑丈さよりも切れ味を徹底追求した結果である。

 鞘の滑り、使い手の円運動、踏み込みの力などを全て計算され尽くしたその作りは当時、女でなくても引く手数多であったが、当人はあくまでも『女のための刀』を作り続けたという。

 以上


「『決して受けることなく剣戟を流し、また己が身に密着して放つ必殺の閃き』、『相手よりも早く抜き放ち、その一太刀を持って必殺とする最速の瞬き』かあ……いいなあ、かっこいいなあ」

 うーん、箒さんの『緋宵』は多分後者のほうかな。あの長さだと密着してって言うのも変だし、多分普通に抜くときは関係ないけど箒さんみたいな慣れてる人が使うと素早く抜けるんだ。

 でも良かったな、日本刀…私も一本くらい欲し……


トントントン


 その音で半分くらいトリップしていた意識を元に戻されました。
 扉を叩く音……この叩き方はどうやらいつもの方々ではないようですね。

 覗き穴から外を見るとそこには黄色い耳が……

「カルカルー、起きてるー? 起きてないなら返事してー」

 この間延びした声とあだ名ってやっぱり……

「寝ていては返事できないでしょう?」

 ドアを開けて呆れながらのほほんさんに答える。もう、この人は本当に……

「えへへー、こういうと皆突っ込んでくれるんだー。優しいよねー」

 いつものダボダボのパジャマにずり落ちてきた耳付ナイトキャップを直しながらのほほんさんがそう言いました。それはいいんですけどその耳の部分今動きましたよね。どうやって動かしてるのかすごい気になるんですよね……
 どうでもいいですけどのほほんさんの制服は改造制服で袖だけ異様に長くしてあります。あれ不便じゃないんでしょうか?

 しかし、のほほんさんですか? なんの用でしょう?

「で、何の御用ですか?」

「そうそうカルカルー、ビッグニュースビッグニュースー!」

「はいはい。それでその内容は?」

「あのね、学年別トーナメントで優勝した人はオリムーと付き合えるんだってぇー!」

 ……………………………………………………

 はい?

「あの、それってどういう……」

「うんとね、実は……」

「あー! まだこんなところにいる!」

 廊下の角から急に声が聞こえました。声のほうに顔を向けるとクラスメイトの相川清香さんがのほほんさんに向けて指を突きつけています。
 あの……状況がさっぱり飲み込めないんですけど

「あんた遅すぎるの! さっさと行くわよ!」

「ほえー、でもでもー」

「いいから来る! 今日中に全体に広めるわよ!」

 そう言うと相川さんはのほほんさんの首根っこを掴んで走り出しました。その様は飼い主と飼い猫そのまま……って!

「あ……ちょ、ちょっと!?」

「ごめんカルラ! 今急いでるから!」

「じゃねー、カルカルー」

 さ、流石ハンドボール部。鍛え方が半端ではありませんね。人一人を抱えながらものすごいスピードで廊下の曲がり角に消えていきました。

 でもなんですかそれ。

『学年別トーナメントで優勝した人はオリムーと付き合えるんだってぇー!』

 先ほどののほほんさんの言葉が頭の中で再生されます。

「はあ……」

 ため息しか出ませんよもう……


――――――――――――――――――――――――――――――


 次の日の朝、一年生の全クラスがこの話題で持ちきりになったのは言うまでもなく、一夏さんがこの話題を知らないのもまた、言うまでもないでしょう。

 そしてそれを聞いて生まれる修羅が2人………隣のクラス、二組から響き渡る奇声が一つ……

 平穏って……なんなんでしょうね…… 
 

 
後書き
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