機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第70話:剛毅さは無鉄砲の裏返し?
翌日,目を覚ました俺はベッドの上で身を起こした。
「まだ痛むか・・・」
昨日よりはましになったものの,まだ痛む体に顔を顰めると,
俺は,緩慢な動きで足を床につけた。
そのまま,徐々に足に体重をかけていきゆっくりとベッドから立ち上がる。
「なんだよ,立てるじゃん」
大量出血の影響なのか,少し頭がふらつくことと鈍い痛みがあることを
除けば,特段問題はないように感じた。
そのまま,ゆっくりと足を運び病室の窓に掛けられたカーテンを開けると,
朝日の光が目に差し込んできた。
「うげ・・・眩しっ・・・」
差し込む日の光に目を細め,窓の外の景色を眺めていると,
病室のドアを叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
ドアの方を振り返りそう言うと,ドアが開いてなのはが現れた。
「おはよう,ゲオルグくん・・・何やってるの!?ゲオルグくん!!」
なのはは,窓の側に立つ俺を見ると慌てて駆け寄ってきた。
「ん?景色を見てたんだよ」
「そうじゃなくて,まだ寝てないと!」
なのははそう言って,俺の体を支えようとする。
「大丈夫だよ。ちょっと痛みはあるけどちゃんと歩ける。
それより,なんでなのははこんなところにいるんだ?」
「なんでって・・・ゲオルグくんの様子を見に来たに決まってるじゃない」
なのはは心外そうな表情で俺を見上げてそう言った。
「そんな暇があるなら仕事しろよ・・・」
「それはちょっとひどいんじゃない?ゲオルグ」
声のした方を見ると,フェイトが立っていた。
「なのははゲオルグのことが本当に大切なんだよ。
ゲオルグが眠っている間,なのはがどれだけ取り乱してたか・・・」
「いいよフェイトちゃん。ゲオルグくんの言ってることはわかるから。
ごめんね,ゲオルグくん・・・」
なのははそう言って,病室を出ようとする。
「なのは,ちょっと待ってくれ」
俺はそう言うと,なのはに向かってゆっくりと歩いて近づくと,
俺の方を振り返ったなのはを抱きしめた。
「ゲオルグくん!?」
なのはが驚いた様子で俺を見上げる。俺はなのはの耳元に口を寄せた。
「冷たい言い方してごめんな。俺もなのはのことを大切に思ってる。
でも,今はもっと優先しなきゃいけないことがあるだろ?」
俺がそう囁くと,なのはは俺の胸に顔をうずめて頷いたあと俺を見上げた。
「判ってるよ。でも,ゲオルグくんのことを心配させてよ。
お仕事には支障がないようにはするから,ね?」
「俺はもう大丈夫だよ」
「それでも心配なんだよ」
「頑固な奴だな・・・」
「私が頑固なのはとっくに知ってたでしょ?」
「そうだな」
「ふふ・・・,じゃあ行くね」
俺がなのはの言葉に頷くと,なのはは病室を後にした。
「ゲオルグ,私がいるのを忘れてたでしょ」
フェイトが呆れたような表情でそう言った。
「いやいや,別に忘れてはいないよ。意識しないようにはしてたけど。
ところでフェイト,頼みがあるんだけど」
俺がそう言うと,フェイトの顔は少し真剣な表情へと変わった。
「何かな?」
「俺を6課に連れて行ってくれ」
「何言ってるの?ゲオルグ。そんなこと無理に決まってるでしょ」
フェイトの声に怒気が混じっているのがはっきりと感じられた。
「昨日の夜に歩けるようになったら復帰していいってはやてと話したよ。
だから,俺は復帰する。無理かどうかはフェイトが決めることじゃない」
俺がそう言うと,フェイトは首を横に振った。
「それでも,医者の診断を受けてからにして。
今,足手まといに来られても迷惑だから」
「判った。医者の許可をもらえばいいんだな」
そう尋ねると,フェイトは頷いた。
「うん。また明日の朝来るから・・・」
フェイトが帰った後,主治医が回診に来た。
俺は,ベッドに腰掛けて医師を出迎える。
「体を起こせるようになりましたか,回復は順調のようですね」
「先生,俺はもう歩くこともできます。できれば明日にでも
退院したいのですが・・・」
俺がそう言うと,医師は首を横に振った。
「それについては即答できかねますね。私個人の意見としては,
あなたはまだ退院すべきではありません」
「ですが・・・」
医師は,俺の言葉を手で制する。
「判っています。騎士はやてからもあなたが歩ける程度まで回復したら
退院を認めるよう頼まれていますので。
ですが,本当に回復しているか確認するために,検査を受けていただきます」
「わかりました。お願いします」
「では,時間になりましたらお呼びしますのでお待ちください」
医師が病室を出ていった後,俺は病室を出て廊下を歩いていた。
ある病室の前で足を止めると,静かにドアを開けた。
「ザフィーラ・・・」
俺はベッドに横たわるザフィーラを見た。
「・・・ゲオルグか。すまんが,体が動かせんのだ」
「いいから,無理するなって。それより悪かったな,援護が遅れて」
「いや,私がお前の来るまで持ちこたえられなかったのが悪いのだ。
お前が来るまで持ちこたえ,2人で敵に対すればこのような
結果にはならなかっただろう」
「確かにそうかもしれない。が,今更そんなことを言っても何一つ
問題は解決しないからな。ザフィーラも過ぎたことであまり気に病むより
早く体を治すことを考えたほうがいいよ」
「・・・感謝する」
ザフィーラは俺から顔をそむけると,小さな声でそう言った。
「感謝するのは俺の方さ。そんなになるまで必死にヴィヴィオを守ろうと
してくれてありがとう。じゃあ,俺は行くよ」
そう言って俺はザフィーラの病室を後にした。
自分の病室に戻った俺は,医師に呼び出され検査のために診察室へ向かった。
診察室のベッドに横たわった俺の身体の色々な部分を医師が触診していく。
医師の手が俺の腹に触れたところで,鈍い痛みが走った。
俺は極力平静を装おうとしたが,医師はしっかりと俺の顔を見ていた。
「・・・まだ,かなり痛むんですね?」
「そんなことはありません」
俺がそう言うと,医師は俺の腹に先ほどよりも少し強めに触れた。
痛みに俺は思わず息を漏らす。
「医者はだませませんよ・・・まったく,本来なら退院どころか
院内を歩き回るのも禁止したいくらいなんですがね・・・」
医師はそう言ってため息をつくと,俺の顔を見つめた。
「シュミットさん。ご自分の身体のことですから御承知とは思いますが,
本来ならあなたは歩けるような状態ではないはずです。
今も,一歩歩くごとに痛みが走るのでしょう?」
俺は医師の言葉に小さく頷いた。
「そのような状態で見た目だけは平然と歩いているあなたの精神力には
敬意を表しますが,医師としては称賛する気になれません。決して」
医師の厳しい視線に俺はつい目をそらしてしまう。
「とはいえ,騎士はやてには歩けるようになったら退院を認めるように
とも言われてますからね。退院しても結構です」
医師の言葉に俺は安堵の息を漏らす。
が,医師はそんな俺を見て,大きなため息をついた。
「まったく・・・騎士はやての言うとおりですね・・・」
「はやては何と?」
「あなたは痛みがあろうが歩ける以上退院させろと言うはずだ。
それを無理に入院させ続けたところで,あなたは脱走してもおかしくない。
そんなことで迷惑をかけるわけにいかないので,身体の状況によらず,
曲がりなりにでも歩けるまで回復したら退院させてくれと」
「・・・お見通しか」
医師は俺の呟きに小さく頷くと,真剣な表情で俺を見た。
「と,いうわけですので,明日の朝に退院して結構です。
が,これだけは約束してください。
絶対に前線に出ないこと。無暗に歩きまわらないこと。
何か異常を感じたらすぐに医師に見せ,指示に従うこと。いいですね?」
医師の言葉に俺は大きく頷いた。
「前線に出たりしたら,長く後遺症に悩まされることも考えられますからね。
あと,機動6課に戻ったら,隊のシャマル医師にこれを見せてください」
医師はそう言って,1枚の封筒を俺に差し出した。
「これは?」
「あなたの身体の状態を記載してあります。
あと,痛み止め薬の処方指示も入れておきました。
私にできることはこれで全部です」
医師はそう言って俺に背を向けた。
「先生。ありがとうございます」
俺は医師に向かって深く頭を下げると,診察室を出た。
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