機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第69話:惰眠から覚めよ
夜になり,はやてが病室にやってきた。
「ゲオルグくん,目が覚めてよかったわ。気分はどないや?」
「最悪だよ。隊舎は守れず,ヴィヴィオも守れず,肝心な時に動けない」
「そこは,あんまり深刻に考えん方がええよ。
いろんな記録から検証してるけど,ゲオルグくんは最善を尽くしてくれたと
評価してるから」
「ありがと。でも,ヴィヴィオが泣き叫んでる顔が目に焼きついちゃってね」
「それは私は何もよう言わんよ。あんたら親子の問題やから」
「だな・・・。ところで,隊舎が無くなっちまったのはどうするんだ?」
俺がそう聞くと,はやてはにんまりと笑った。
「それについては解決済みや」
「どうやって?」
「廃艦になった次元航行艦を本部として使うことにしました」
「は?よくそんなの通ったな」
「そこは後見人の皆さんに感謝やね。私の力ではどうしようもなかったから」
「そっか。みんなは?元気にしてるか?」
「それなりやね。前線メンバーはゲオルグくんの負傷に少し動揺してるけど,
よくやってくれてるわ。フェイトちゃんも捜査に全力であたってくれてる。
ただ,ヴィータはちょっとな・・・」
はやてはそう言うと,少し俯いた。
「どうしたんだ?」
「怪我したゲオルグくんを最初に発見したんがヴィータやったんよ。
で,あの子はなのはちゃんの事故んときも同じような経験してるやろ?
それがかぶってるらしくてな・・・。元気がないねん」
「そうか・・・悪いことしたな」
そう言うとはやては慌てて手を振った。
「いやいや,別にゲオルグくんが悪いわけやないねんて。
ただ,巡り合わせが悪いというか・・・な」
「ありがと。そう言ってくれると助かるよ。
それで,これからどうするんだ?」
そう尋ねると,はやては渋い顔をした。
「ゲオルグくんなぁ,あんた死にかけたんやで。
そういうことは気にせんとしっかり休み」
「・・・嫌だね。幸い傷も軽いし,さっさと復帰するよ」
俺がそう言うと,はやては深いため息をついた。
「ゲオルグくんがそう言いだしたら聞かんのは知ってるけど,
今回ばっかりはあかんて。なのはちゃんの気持ちも少しはくんであげんと」
「わかってるよ。でもな・・・」
「全然判ってへんやん。判ってたらそこで”でも”はつかへんやろ。
・・・まあゲオルグくんの気持ちも判らんではないけど・・・」
「なら早めに復帰できるように計らってくれよ。頼む」
「・・・しゃあないな。歩けるようになったら事務作業には復帰してええよ。
そやけど,前線には絶対出たらあかん。情報収集もなし。
部隊運営の事務だけや。実戦でも後方での指揮だけ」
「判った。それで十分だよ。ありがとな,はやて」
「感謝なんていらんから,なのはちゃんに心配かけるようなことはせんといて」
「了解」
俺がそう言うと,はやては俺に背を向けて病室を出ようとした。
が,何かを思い出したようで振り返って戻ってきた。
「そうや。これを返しとこうと思ったんよ。」
そう言ってはやてが差しだしたのは,待機状態のレーベンだった。
「・・・ないないと思ってたら,はやてが持ってたのか」
レーベンを受け取りながらそう言うと,はやては肩をすくめた。
「どうせ今のゲオルグくんが持ってたって,何の役にも立てへんやん。
それに,戦闘記録の解析もせなあかんかったし」
「はいはい。あ,そう言えばザフィーラは?」
「ここに入院してるけど,まだ目が覚めてへんねん。
ゲオルグくんとは逆に,命の危険は無かってんけど,怪我が重うてな。
ま,動けるようになったら顔だけでも見たって」
「そうか・・・わかった。必ず会いに行く」
「うん,そうしたって。ほんなら帰るわ」
「おう」
はやてが病室を出ると,俺はレーベンに話しかけた。
「レーベン」
《なんですか?》
「悪かったな。情けない持ち主で」
《まったくです。私を生かすことなくやられるなんて,マスター失格ですよ》
「・・・そうだな」
《マスター,いつもの調子が出ませんか?》
「そんなつもりはないよ」
《いいえ。普段のマスターなら”じゃあレーベンはマスターを
守れなかったんだからデバイス失格だな”ぐらいのことは言いますから》
「・・・俺,そんなひどいこと言ってたんだな。悪い」
《マスター,私を失望させないでください。何をヘコんでるのか知りませんけど
数々の修羅場を自らの能力と頭脳で乗り切ってきたマスターはどこに
行ったんです?》
「俺はそんなに立派な人間じゃないよ」
《少なくとも,昨日までのマスターは今のマスターよりは立派でした》
「・・・それは自分を過大評価してたんだろ」
《どうやら,あなたは完全に腑抜けになったようですね》
「・・・なんだと?」
《そんなだからヴィヴィオも守れなかったんですよ》
「あ?黙って聞いてれば好きなことばっか言いやがって。
お前に何が判る。目の前で助けを求めてる娘を守れず,
むざむざ敵にさらわれて,ヘコむなっていう方が無理な話だろ」
《ヘコんでる暇があったら,自分に何ができるかしっかり考えなさい!
いいですか?ヴィヴィオは,あなたの娘は今敵に捕らわれてどのような
目にあわされているかも判らないんですよ。そんなときに父親のあなたが
ただベッドに横たわって何もせずにいてどうするんです。
満足に戦闘ができないなら他にやれることがないか考えないのですか?
娘をさらわれたかわいそうな父親っていう悲劇の主人公になりきるのは
結構ですが,それで何かが解決できますか?
さっき,はやてさんにさっさと復帰するとうそぶいてましたけど,
あれはただのポーズですか?そうじゃないでしょう》
「・・・言いたいことを言うね。でも,レーベンの言うとおりだな。
俺は,自分で自分をかわいそうな奴だと思って自己憐憫に浸ってた。
しかも,なのはに責任を全部押し付けて」
《ようやく目が覚めたようですね。おはようございます,マスター》
「まずは,さっさと動けるようにならないとな」
《ええ。まずはそこからです》
「そのためにはしっかり食って,しっかり寝ることだな」
《はい》
「じゃあお休み」
《はい,ゆっくりお休みください。今は》
「ああ。それとレーベン」
《なんでしょう》
「叱ってくれてありがとう」
《・・・どういたしまして》
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