機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第66話:隊舎襲撃、そして・・・
隊舎を襲う強烈な揺れの中で,俺は状況を把握しようと必死だった。
悲鳴に包まれる発令所で俺は声を張り上げる。
「各所被害報告を!索敵・通信の回復はまだか!?」
矢継ぎ早に報告が上がってくる。
「レーダー回復しません!」
「通信回線は依然として回復せず!」
「屋上ヘリポートと格納庫の一部が損壊。他は被害なし!」
「了解!総員戦闘配備。発令所要員を除く非戦闘員は退避。
シャーリー,AMFC出力全開で展開」
「了解!」
指示を出すと,即座に館内へ放送が流れる。
俺はシャマルに念話を飛ばす。
[シャマル,状況は?]
[今屋上に上がったところよ。隊舎の被害は予想以上に大きいわね]
[了解。レーダーは恐らくダメだ。索敵を頼む]
[了解,通信もダメね。できればゲオルグくんにはこっちに来てほしいわ]
[判った。状況が落ち着いたらそっちに向かう]
続いてザフィーラへも念話で話しかける。
[ザフィーラ,状況はどうだ?]
[ヴィヴィオを連れて退避を開始した]
[了解。頼むぞ]
[任せろ]
その時,交替部隊の分隊長2人がやってきた。
「副部隊長!我々の配置は!?」
「ちょっと待て!」
俺は被害状況を示すモニターを確認する。
「A分隊は23番ブロック,B分隊は13番ブロックだ。
非戦闘員の退避を掩護しろ。ガジェットとの戦闘になるかもしれんが
隊舎内はAMFCを展開してあるから,何とか対処できるはずだ。
くれぐれも無理はするな。隊舎は放棄するから退避の掩護に専念しろ。
通信は使えんから,報告は念話で」
「「了解!」」
2人が発令所を出たところで,俺は室内に声を張り上げる。
「発令所要員は全員退避。隊舎は放棄する。退避の指揮はロウラン准尉に。
携帯用の通信機を持って退避しろ」
発令所の全員が返事をしたのを確認すると,隣に立つグリフィスに話しかける。
「グリフィス。他の隊と合流し次第地上本部のはやてと連絡を取れ。
向こうもてんやわんやだろうから応援はいい。
俺と副隊長2人のリミットリリースの許可を取り付けてくれ」
「わかりました。お気をつけて」
「お前もな!」
俺はそう言って発令所を出た。
シャマルのいる屋上に向かって走りながらシグナムとヴィータに念話を飛ばす。
[シグナム,ヴィータ,今どこだ?]
[私もヴィータも隊舎の上空だ]
[シャマルから敵の位置を聞いて対処してくれ]
[了解]
階段を駆け上がりながら,更にシンクレアにも呼び掛ける。
[シンクレア,今どこだ?]
[玄関前です。ガジェットと交戦中]
[了解。一人でやれそうか?]
[問題ないです。キツくなったら後退します]
[それでいい。聞いてのとおり隊舎は放棄だ。無理はするんじゃないぞ]
[了解]
目の前のドアを開け,屋上に飛び出すとひどい有様だった。
屋上ヘリポートのあたりは完全に崩壊し,下の階に瓦礫が散乱している。
俺は,シャマルを見つけると駆け寄った。
「シャマル。遅くなった」
「いいえ。状況は最悪よ」
俺はシャマルの開いたディスプレイを見て,唖然とした。
「飛行型ガジェット100以上に,ガジェット3型20以上,
ガジェット1型50以上だと・・・。全部実体か?
前みたいにフェイクも交じってるんじゃ・・・」
俺がそう言うと,シャマルは首を振る。
「もしそうだとしても,肉眼ですら区別できないのだから,
実体と変わらないわ」
「シグナムとヴィータは?」
「今は飛行型の方に対処してもらってる」
「そうか・・・他には?」
「沖合に戦闘機人らしき反応か感じられたのだけど,今は探知範囲外ね。
他にはないわ・・・待って!」
シャマルはディスプレイに目を走らせる。
「戦闘機人2体とアンノウン1体の反応ね。隊舎の山側に突然出現したわ」
「どこだ?」
俺が聞くと,シャマルがディスプレイを指さす。
そこは,寮と隊舎をつなぐ通路の山側にある草地だった。
「なんでこんなところに・・・」
その時,ザフィーラから念話が来た。
[ゲオルグ!聞こえるか!?]
[聞こえてる。どうした?]
[すまん。敵に囲まれた,援護を頼む。位置は連絡通路の山側の草地だ・・・]
そこでザフィーラからの念話は切れてしまった。
「・・・しまった!」
俺は悔しさのあまり唇をかみしめる。
「どうしたの?」
「さっき出現した敵の狙いはヴィヴィオだ!」
「え!?」
「行ってくる!」
俺はそう言うと,ザフィーラのいるであろう方向に向かって駆け出した。
隊舎の端まで来ると,下の様子を覗う。
人型になったザフィーラが倒れている近くで,茶髪の戦闘機人らしき女が
金色の何かを抱えているのが見えた。
俺は隊舎から飛び降りると,茶髪の女の目の前に着地した。
「あらぁん?」
俺は女の方を見た。
前の戦闘でなのはとフェイトが一戦交えた眼鏡の戦闘機人だった。
腕の中には泣きじゃくるヴィヴィオを抱えている。
「その子を渡してもらおうか」
俺がそう言うと,声で俺だと気付いたのかヴィヴィオがパパと叫び始める。
ヴィヴィオの声を聞き,レーベンを握る手に自然と力がこもる。
「そう言われてぇ,おとなしく渡すと思うのかしらぁん」
「そうかよ・・・」
俺がそう言って,レーベンを構えた瞬間だった。
ざくっ・・・という音が聞こえた。
どうも腹部に違和感を感じた。
そっと自分の腹部に目を遣ると,刃のようなものが俺の腹から突き出していた。
足を伝った血液が地面を赤く濡らしていく。
「パパっ!」
目を上げると,戦闘機人の腕の中に居るヴィヴィオが目を見開いて
狂ったように叫んでいた。
「ヴィヴィオ・・・」
俺はそう言って左手をヴィヴィオの方へ伸ばす。
「ルーお嬢様ぁ,ご助力ありがとうございますぅ。
ではへ・い・か,参りましょうかぁ」
戦闘機人がそう言うと,俺を貫いていた刃が抜かれた。
とたんに傷口からは血が溢れてくる。
足に力が入らなくなった俺は膝から崩れ落ちた。
そのまま地面に倒れ伏し,俺の意識はそこで終わった。
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