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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第65話:嵐の前の静けさ


《マスター,起床の時間です》

「・・・起きてる。ありがとう」

俺はベッドから身を起こすと,いつものように髭を剃り,顔を洗う。
クローゼットを開けて,3等陸佐としての制服に身を包む。
鏡を見て,階級章や徽章の類が正規の位置にあることを確認する。
身支度が整うと,部屋を出て隊舎に向かって歩く。

朝食を摂るべく食堂に向かい,新人の教導に参加する前の定番であった
朝食セットを注文し,受け取ると,空いたテーブルに座り,朝食を食べる。
半分程食べ終わったところで,シグナムが俺の向かいに座る。

「おはよう」

「ああ。おはよう」

シグナムからの挨拶に対し,返事を返すと再び朝食を食べ始める。

「ヴィータは?」

「先に行った」

「そうか」

俺はシグナムとの短い会話を終え席を立った。

「先に行くな」

「ああ」

食器を片づけ,食堂を出ると,通路を歩いて副部隊長室に向かう。
扉を開け,自席に座り端末でメールを確認し,急ぎの用がないことを
確認すると席を立ち,再び通路に出る。

しばらく歩き,発令所の扉の前まで来て一度深呼吸。
気分を落ち着けて,ドアを開けた。

「ゲオルグさん,おはようございます」

真っ先に声をかけてきたのはグリフィスだった。

「おはよう。当直からの引き継ぎは?」

「問題なしです」

「了解」

そんな受け答えをしながら俺は部隊長席に座った。

下の方を見ると,発令所メンバーは全員がすでに仕事を始めていた。
だが,普段とは違った固さが感じられた。

「おーい。ちょっといいかー」

俺が呼びかけると,全員が作業の手を止めて俺の方を見た。
全員の顔が強張っていた。

「お前ら顔が怖いよ。もっと,リラックスしようぜ」

俺がそう言うと下に居る連中はお互いに顔を見合わせた。

「そうは言っても,やっぱり緊張しちゃいますって」

アルトが全員の意見を代表するように言う。

「今から緊張してたんじゃ午前中いっぱいだって持たないぞ。
 しょうがないな。アルト,俺の部屋の例のキャビネットから
 お菓子出してきて。これから30分はお茶の時間だ」

「・・・いいんですか?」

「今日は俺がここの大将だから誰にも文句は言わせないよ」

「わかりました。すぐに取ってきます!ルキノ手伝って!」

「うん」

アルトとルキノが走って発令所を出る。
5分ほどして,お菓子をいっぱいに抱えた2人が戻ってきた。

(あいつら,全部持ってきたな・・・)

俺は心の中で舌打ちをし,2人に何か仕返しをしてやろうと決意した。



・・・30分後。
さっきまで盛大にお茶会が催されていたとは思えないほどきれいに片付いた
発令所で,全員がてきぱきと仕事をこなしていく。

「アルト。そろそろフォワード連中が出発する時間だよな」

「ええ。そうですね」

「見送ってくるから,その間ここはグリフィス,頼むぞ」

「了解です」

俺は立ち上がり,屋上へと向かった。
屋上には,すでにヘリが待機しており,副隊長2人とフォワード陣,
ギンガが話をしていた。
俺は邪魔をしないように,屋上へ上がってすぐのところで壁にもたれて
立っていた。
しばらくして,話が終わったのかフォワード陣がヘリに乗り込んでいく。
ヘリのドアが閉まり離陸していくと,シグナムとヴィータが俺の方に向かって
歩いてきた。

「おーっすゲオルグ」

「おはよう,ヴィータ」

「おめーも居たならあいつらと話をすればよかったじゃねーか」

「ん?今日の俺はあいつらの指揮官じゃないからな。
 それに,向こうに行けばなのはとフェイトも居るんだし,
 あいつらのケアぐらいは向こうでやってもらわないとな」

「ふーん。ま,ゲオルグがそれでいいなら,あたしは言うことねーけど」

ヴィータはそう言って屋上を後にした。

「本当によかったのか?」

シグナムが俺の顔を見て言う。

「いいんだよ。さっきもヴィータに言った通りさ」

「そうか。ならいいが・・・」

「それより,今日は頼むぜ」

「判っている。任せておけ」

「頼りにしてるからな」

「ああ」



その後,公開意見陳述会が開始されても特に動きはなく,午前中が過ぎた。
俺は,一旦寮に戻ってヴィヴィオやアイナさんと昼食を食べた後,
再び発令所に戻った。

「ここまで動きがないと,逆に拍子抜けしてしまいますね」

俺の隣に座ったグリフィスが公開意見陳述会の映像を見ながらそう言った。

「緩みすぎだよ,グリフィス。過度の緊張はまずいけど,
 緩むのはもっとよくないぞ」
 
俺がそう苦言を呈すと,グリフィスは姿勢を正した。

「すいません」

「いや,こういう状況で適度な緊張を維持するのって難しいんだよ。
 グリフィスは経験が浅いのによくやってる方さ」
 
「恐縮です・・・」

その時,レーダー画面を見ていたアルトが騒ぎ出した。

「あれ?おっかしいなあ・・・」

「どうした?アルト」

「あ,副部隊長。隊舎の沖合の方を民間機が飛んでたんですけど,
 レーダーから消えちゃって。たぶん,システムの誤作動なんで
 今,再起動してます」

「民間機の機影が消えた?高度低下とかの異常はあったのか?」

「いえ,ないです。突然消えました」

(システムの誤作動・・・たまにあったけど・・・)

その時,通信を担当しているルキノも騒ぎ始める。

「あれ?変だな。もう一回・・・やっぱりダメだ」

「ルキノはどうしたんだ?」

「地上本部との通信回線が切れちゃって。
 今,再接続しようとしてるんですけど,うまくいかないんですよ」

(通信まで・・・やっぱりおかしい・・・)

俺は立ち上がった。

「警戒態勢をレベル2に移行。戦闘要員はオフシフトも含め総員待機。
 レーダーと通信の回復を急げ」

俺はそう言うと,シャマルとザフィーラに念話で話しかける。

[シャマル,ザフィーラ,ちょっと様子が変だ。
シャマルは索敵を開始,ザフィーラは警戒を厳にしてくれ]

[わかったけど,何があったの?]

[レーダーと通信回線が落ちた。復旧を試みてるけどダメくさい。
今,警戒態勢をレベル2に引き上げた]

[了解。すぐに出るわね]

[ザフィーラも聞こえたな?]

[ああ,心得た]

その瞬間,隊舎を衝撃が襲った。

 
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