機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第63話:公開意見陳述会前日
公開意見陳述会を翌日に控えたこの日,俺は地上本部組の中で
先行するはやて・なのは・フェイトを見送りに,屋上のヘリポートに来ていた。
「私らは他の部隊との調整やら何やらで先行するけど,
みんなは予定通り,明日の朝には地上本部に来てな」
はやてがフォワードの4人とギンガに向かってそう言うと,
5人は引き締まった顔で返事を返していた。
「ゲオルグくん,シグナム,ヴィータ。隊舎の守りは任せたからな。頼むで」
「了解」
「お任せください,主はやて」
「こっちはあたし達に任せとけ」
俺達3人がそう言うと,はやては満足そうに頷いてヘリに乗り込んだ。
「ゲオルグくん・・・ヴィヴィオのことお願いね」
スターズの2人と話し終えたなのはが不安そうな顔で俺に話しかけてきた。
「なんつー顔してんだよ。なのはがそんな顔してたら,あいつらは余計
不安になるだろ」
俺はなのはの頬を軽くつねりながらそう言ったが,相変わらずなのはは
不安そうな顔をしていた。
「でも,やっぱり心配だよ・・・」
「ま,その気持ちは判るけど,これだけの備えを整えたんだから大丈夫だよ。
なのはは心おきなく地上本部の警備についてくれ。な?」
俺がそう言うと,なのはは少し吹っ切れたのか笑顔を見せた。
「うん,わかった。じゃあ気をつけてね」
「ありがと。なのはこそ気をつけてな」
「うん,じゃあね」
なのははそう言うと,ライトニングの2人と話し終えたフェイトと共に
ヘリに乗り込んだ。
離陸したヘリが見えなくなるまで見送ると,俺はヘリポートにいる面々の方へ
向き直った。
「じゃあ,地上本部組は明朝の出発まで待機な。十分休息して英気を養うこと。
居残り組は明日の最終確認をするから後で会議室に来てくれ」
俺の言葉に全員が頷き屋上を後にする。
一人屋上に残った俺はもう一度ヘリの飛び去った方向を一瞥すると,
大きくひとつ息を吐いて,屋上を後にした。
定刻の5分前に会議室に入ると,目の前に座っているヴィータの背中が見えた。
俺がヴィータの肩を叩くと,ヴィータはビクっと肩を震わせて振り返った。
「なんだよ,驚かすんじゃねーよ」
「悪い。ところで今いいか?」
そう尋ねると,ヴィータは頷いた。
「悪いな。なのはと別々の配置にしちゃって。
ヴィータはなのはの側にいたかったんだろ?」
俺がそう言うと,ヴィータは少し考え込むような仕草を見せた後で,
ゆっくりと話し始めた。
「うーん。確かにあたしはスターズの副隊長だから,なのはとあいつらが
地上本部に行くなら当然あたしもそっちだと思ってたけどな・・・」
ヴィータの言葉に俺は首を振る。
「そうじゃなくて,ヴィータはなのはを守るために側にいたかったんだろ?」
「なっ・・・」
ヴィータは俺に反論しようとするが,うまく言葉が出てこなかったらしく,
やがて,大きくため息をついた。
「まーな。でも,仕事なんだから隊舎の防衛だってしっかりやるよ
ヴィヴィオもいるからな」
「そうか。頼むよ」
「おう!」
しばらくして,メンバーが揃ったところで席に着くと,
俺は一度咳払いをしてから話し始めた。
一通り状況説明を終えたところで,俺は今日の会議の本題に入ることにした。
「ま,状況としてはさっき話した通りなんだが,ここからは隊舎への
襲撃があった場合の対処方法と分担について決めておきたい。
まず俺の案を話しておこう」
俺はそう言うと,隊舎の平面図をスクリーンに映して説明を始めた。
俺の案は,
①隊舎への攻撃があった時点で,非戦闘員の退避を開始する。
②シグナム・ヴィータは敵戦力の迎撃に当たる。
③索敵・管制はシャマル,指揮は副部隊長に一元化する。
④交替部隊は隊舎内部で非戦闘員の退避を援護する。
というものだ。
もちろん,ザフィーラはヴィヴィオの直掩として配置するのだが,
ヴィヴィオが聖王のクローンというのは幹部だけの知る極秘事項なので,
ザフィーラの配置については伏せている。
また,シンクレアも戦力として計算に入れているが,ツァイス3尉は
魔導師ではないという設定なので,これも伏せてある。
「というのが俺の案だ。なにか意見や質問は?」
そう言って室内を見回すと,一人の手が挙がった。交替部隊の分隊長だった。
「交替部隊の配置はどうなりますか?」
「交替部隊のうちオフシフトの分隊は当然寮で待機だな。
オンシフトの分隊も,隊舎の損傷がどうなるかわからん以上
実際の配備箇所は事前に決めておくことはできないから
分隊の待機室で待機だ。他には?」
室内を見回すと,特に質問は無いようだった。
「よし。では明日は何もないことを祈ろう!解散」
会議室を出た俺はヴィヴィオと昼食を食べるために寮に向かった。
「あ,ゲオルグさん。早いですね」
洗濯物の入ったかごを持ったアイナさんが通りかかり,俺に声をかけてきた。
「ええ。ちょうどよかった,アイナさん少しよろしいですか?」
「ええ,いいですけど」
アイナさんはそう言うと洗濯かごを床においてエプロンで手をぬぐい,
俺の方を見た。
「明日,機動6課が地上本部の公開意見陳述会の警備に参加するのは
ご存じですね?」
俺が尋ねると,アイナさんは黙って頷いた。
「その際,この隊舎にも敵の攻撃があるかも知れません。
アイナさんも避難訓練に参加されているので避難要領は把握されてると
思いますが・・・」
「ええ,把握してます」
「もし,明日敵の襲撃が現実のものとなった場合,ヴィヴィオに構わず
逃げてください」
俺がそう言うと,アイナさんは驚きで目を見開いた。
「え?ですが・・・」
「ヴィヴィオにはザフィーラを張りつかせます。万が一の場合には
ザフィーラがヴィヴィオを安全に連れ出してくれるはずです。
なので,アイナさんは逃げてください。あなたの命のためです」
「命・・・ですか・・・」
俺はアイナさんの呟きに対して軽く頷いた。
「判りました。そこまで言われるのであればそうします」
「御理解いただいてありがとうございます」
俺はそう言って,アイナさんに向かって頭を下げた。
「ところで,ヴィヴィオとお昼を食べに来たんですよね?
お部屋にお持ちしますから,先に行ってください」
アイナさんはそう言って俺に向かって笑いかけた。
なのはとフェイトの部屋に入ると,ベッドの上でうつぶせになり,
足をパタパタさせながら本を見ているヴィヴィオが目に入った。
俺はそっとヴィヴィオに近づくと,ヴィヴィオの脇腹をくすぐった。
ヴィヴィオは笑い声を上げながらベッドの上で身をよじる。
俺がくすぐるのをやめると,ヴィヴィオは俺の顔を見て頬を膨らませた。
「もう!いきなりくすぐるのはダメって言ったでしょ!」
「ヴィヴィオがだらしないことをしてるからだぞ。
本を見るなら座って見なさい」
「だって,ここだとママのにおいがして気持ちいいんだもん」
「それでもダメ。目が悪くなるぞ」
「目が悪くなるって?」
ヴィヴィオはそう言って首を傾げた。
「んー。そうだな。ヴィヴィオはここからザフィーラの顔が判るよな」
「うん。わかるよ」
「目が悪くなると,ザフィーラの顔かどうかわからなくなるんだ」
「そうなの?ヴィヴィオそれ困る」
「だろ?じゃあ,本を見るときは明るいところで座って見るんだぞ」
「うん。わかった!」
そこで,アイナさんが昼食を持って入って来た。
「よし,今日はママ達がお仕事で居ないから,3人でな」
「うん!」
ヴィヴィオはそう言って俺に笑いかけた。
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