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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第61話:部隊長vs副部隊長


模擬戦の後,朝食を食べた俺はグリフィスと副部隊長室にこもって,
先日行った避難訓練の結果を確認していた。

「7分30秒か・・・ずいぶん早くなったな」

「ええ。最初が12分ですから約35%早くなったことになりますね」

5月に行った最初の訓練以降,何度か避難訓練をやっていたが,
当初は既存設備の変更をせずに退避経路の見直しだけで対応していたので
なかなか,退避完了までの時間短縮はできていなかった。
最近になってようやく,非常口増設と一部通路の拡幅工事が完了し,
一気に時間短縮が実現した。

「これ以上は難しそうか?」

俺がそう尋ねると,グリフィスは腕組みをして考え込んだ。

「難しいですね・・・映像を見る限り整然と流れてますし,
 各隊からの意見書も・・・特にないですね」

グリフィスは手もとの端末を弄りながらそう言った。

「となるとこれが限界か・・・あとは,戦闘部隊の仕事だな」

「いかに7分30秒を稼ぎ出すか・・・ですか?」

グリフィスの問いに対して俺は頷いた。

「これまでの実績から考えて,対ガジェット戦であれば7分30秒って数字は
 楽ではないけど,可能な数字じゃないかな。別にその場を死守しなきゃ
 ならんってわけじゃないから」

「ですが,例えば長距離からの砲撃とか爆撃みたいに最初の一撃で
 隊舎が大きく損壊した場合は退避時間も延びますよ」
 
グリフィスはそう言うと,不安そうな顔をした。

「前の戦闘でヘリが狙撃されたようなことがここでも起きると?」

「ええ」

俺は少し考え込んだあと,グリフィスの顔を見た。

「確かにその可能性は大いにあるけどな,一部の通路が使えなくなったという
 想定での訓練はやってるし,その時に必要な時間も解ってるだろ。
 それ以上の被害が出たらどっちにしろお手上げなんだから,
 今から考えたって同じだよ。そう思わないか?」

「・・・そうですね。今は,この計画に沿っていかに整然と退避を完了するかに
 全力を尽くすことにしましょうか」

少しすっきりしたような顔で言うグリフィスに対して俺は笑顔で頷いた。



・・・夜。
はやてに呼び出された俺は,部隊長室に入った。

「なんだよ。もう寝たいんだけど」

俺がそう言うと,はやては悪びれる様子も無く笑った。

「なんや,ゲオルグくんはお子様やなあ」

「はやての人使いが荒いのが悪い」

「それはゲオルグくんが仕事がデキるのが悪い」

あんまりなはやての言い草に俺は深いため息をついた。

「・・・で?本題は?」

「あら?ホンマに疲れてるみたいやね。ほんならさっさと話をしよっか」

そう言うと,はやては机に両肘をつき少し身を乗り出した。

「もうすぐ,地上本部の公開意見陳述会やろ。
 機動6課としても警備に参加するつもりなんやけど,
 戦力配置について相談しときたいんよ」
 
「うーん。戦力配置か・・・隊舎と地上本部って意味だよな?」

そう尋ねるとはやては頷いた。

「地上本部に戦力を出す以上はそれなりの戦力は出さんとあかん。
 そやけど,隊舎にヴィヴィオを残す以上スカリエッティがそっちに
 手を出す可能性は軽視できひんやろ。ちょっと悩んでしもうて・・・」
 
「予言をとるか,表面的な事実を取るか・・・だな」

俺はそう言うと,腕組みをして考え込んだ。

「地上本部の方は予言もあるけど政治的な側面もあるよ」

「というと?」

俺がそう尋ねると,はやては背もたれに体重を預けて俺の方を見据えた。

「警備に6課を割り込ますんにちょっと強引な手を使ったからね。
 それなりの戦力は派遣せんと格好がつかへんというか・・・」

「今後の立場が悪くなると・・・」

「ま,言ってしまえばそうやね」

「でも,格好をつけたために切り札を取られたんじゃ意味ないぞ」

俺がそう言うと,はやては苛立たしげに指で机を叩く。

「そやからこうやって相談してるんやんか」

「それは解るんだけどね・・・」

俺は天井を見上げて少し考えると,再びはやてに尋ねることにした。

「はやての構想は?」

「私・隊長・副隊長・フォワード陣とギンガ,あとリインは地上本部,
 残りは隊舎やね」

「というと,隊舎に残るのは俺とザフィーラとシャマル,
 あとはシンクレアか・・・」

「それと交替部隊やね」

「交替部隊はオフシフトだろ」

「それでも有事には使える戦力や」

「としても,フォワード陣なんかと比べると見劣りするんだよな」

「そら訓練も普通の地上部隊並みやからね。それでも当直もあるんやから
 頑張ってくれてる方やで」

「それは判ってる。俺が言ってるのは純粋な戦力計算の話」

「じゃあどうする?」

「せめて副隊長をどっちかこっちに・・・」

「却下」

「理由は?」

「シグナムとヴィータが居てへんかったら航空戦力がなくなるもん」

「は?なのはやフェイトは?」

「私と両隊長は会場内の要人警護」

「ちょっと待て!会場内ってデバイス持ち込み厳禁だろ?
 それで警護?笑わせんなよ!」

俺が少し言葉を荒げてそう言うとはやてが両方の眉を吊り上げて立ち上がった。

「何その言い方。私かていろんな事情を勘案して必死で考えてんねん。
 それをなんやの!?馬鹿にしてんのか?」
 
「俺は格好つけのためだけならわざわざ戦力を配置する必要なんて無いって
 言ってんだよ。そもそも両隊長が一番戦力になるんだから,それを
 戦場から遠いうえにデバイスも持てないようなところに配置してどうすんだ
 って言ってんの」

「そんなん解ってるわ!そやけど,要人警護かて今回の任務では重要な
 ファクターやで。オークション警備の時も同じような配置やったけど
 あんたは賛成したやんか。なんで今回はあかんのよ」

「あの時とは状況がまるっきり違うだろ。デバイスもない魔導師が
 戦力として役に立つわけないじゃねえか。
 お前はそんなことも判んねえのかよ!」
 
「主はやて」

俺は背後から聞こえてきた声に驚いて振り返った。
そこには,困惑した表情のシグナムが立っていた。

「勝手に入って申し訳ありません。ですが,声が外まで漏れていましたので」

シグナムがそう言うと,はやても少し頭が冷えたのか椅子に座りこんだ。

「ええよ別に・・・」

はやてはそう言うと,頬づえをついてそっぽを向いてしまった。

「ゲオルグ,状況を説明して欲しいのだが」

俺がシグナムに先ほどのやり取りについて簡単に説明すると,
シグナムは小さくため息をついた。

「どちらの言うことも判りますが,ここは一度中断しては?
 明日改めて,両隊長も交えて協議するのがよいかと思いますが」

シグナムがはやてにそう言うとはやては黙って頷いた。
シグナムはそれを確認すると,俺の手を引いて部隊長室を出た。

部隊長室から少し離れたところで,シグナムは俺の方を見た。

「ゲオルグ。戦術的にお前の言うことが正しいのは私も理解できる。
 が,主はやての立場も理解してはもらえないか。
 あの方は今部隊長として色々なものの板挟みになっていると思うのだ。
 だから・・・な」

「判ってる・・・いや,判ってるつもりだった・・・かな。
 俺もはやても寝不足でイラついてたからな。明日は冷静に話せると思う」

俺がそう言うとシグナムは安心したように少し笑顔を見せた。

「そうか」

シグナムは短くそう言うと俺に背を向けた。

「シグナム」

俺が呼び止めるとシグナムは俺の方を振り返った。

「止めてくれてありがとう。あとは・・・すまない」

「いや。これも烈火の将たる私の役目だ。気にするな」

そう言ってシグナムは通路の奥へと消えていった。

(ちくしょう。かっこいいじゃねえか・・・)

 
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