リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第十八楽章「赤き血潮の印」
前書き
残酷な表現がありますので、
自己責任でお楽しみ下さいwww
(グランバニア王国:城前地区・東城壁大通り路地ビル内)
アイリーンSIDE
クズ宰相との会話が終わり、暫く待つ事になるだろうと思った陛下は、この部屋の奥に在る給湯室に勝手に入って、コーヒーを私の分も入れて戻ってきた。
このコーヒーやカップは、元々ここにあった物なんだろう。
「砂糖とミルクは持って来たから、自由に入れてね」
この部屋の給湯室にあった砂糖とミルクを、さも当然の如く自由に使って良いと言い放つ精神。
惚れない女って居る?
「結構コーヒー豆は良い物を使ってるみたい。粗挽きは好きじゃ無いから、結構細かくなるまで挽いたけど……構わなかったかな?」
「私は大丈夫です、そんなにコーヒーへの拘りは無いですから!」
わざわざコーヒー豆(袋入り)と挽き終えてある物を持ってきて説明してくれる細やかさ。
……とは言え、何杯飲むつもりだろうか?
不必要とも思えるくらいの挽き終えたコーヒー豆があるわ。
陛下と優雅にコーヒーを楽しんでいると、横たわった死屍累々(※死者0人)の中から、隠し持っていたポケットナイフで自分の結束バンドを切り、逃亡を謀るブラパンメンバーが!
まぁ逃げられるわけも無く、陛下の風だけのバギで吹き飛ばされ、壁に激突して壁紙を赤く汚すに終わる。
そして其奴に近付いて、持ってたポケットナイフを取り上げると、再度結束バンドを……とはせず、両足をスネの中央からあり得ない方向に折り、ベホマで回復させる。
流石に何度聞いても、あの骨の折れる音は好きになれない。
それを見てた他のブラパンメンバーは、自分達が振り回してた武器がそこら辺に落ちているが、自分の結束バンドを切って逃げだそうとはしなくなった。
バンドで拘束されてる方が、後の人生マシだものね。
そんな事をしていると部屋の出入り口から、
「お待たせ……って程、待たせてないけど持って来たよ、書類」
と言いながら現れたのはクズ宰相。休日という事で、ラフな格好をしているわ。
「つーか何だよこの部屋。散らかってるなぁ……壁紙も汚れてるし。刃物を剥き出しでそこら中に放置するなよ」
「ねぇ!」
クズ宰相の感想に『ねぇ!』の一言で同意する陛下。
ってか、この部屋の惨状は陛下が太刀回った結果ですからね!
そして私を見るなり、
「何でお前が居んの?」
って見下す様な視線で言ってくる。
ムカつくわねぇ、本当に!
「僕がね『こいつら苛めるのを見に来るかい』って聞いたら、付いてきたの(笑)」
「うっわ、マジかよ……性格悪!」
何だろう……性格が悪い事は自覚してるけど、此奴に言われると心底ムカつくわ。
「まぁいいか。そんくらいじゃないと、このオッサンの傍に居るのは地獄だからな」
確かに……
今この場に居るのがピエだったら、今頃胃潰瘍で倒れているわね。
「よし。サッサと契約を終わらせようぜ。こいつらの責任者は何奴?」
「え~と……あれぇ? みんな同じ顔に見えるから判らなくなっちゃった!」
う~ん……陛下のコレは、本気か嘘か判りづらい。
「あの……そっちの壁際で、頭が少し歪んでる男ですわ」
「あぁ……こいつかぁ!」
陛下先刻其奴の頭を歪ませて治したじゃないですか。
「こいつね……よっと!」
クズ宰相は私が指さした男の頭髪を掴み立たせると、今陛下が用意した椅子に座らせて机に付かせる。
そして持って来た封筒から書類を取り出し、目の前に並べ確認させる。
「う~ん……でもやっぱり、頭の歪みだけじゃぁ見分け付けにくいなぁ」
契約(一方的)に入る前に、陛下がブラパン連中の見分けが付かない事を気にし出した。
そうかしらねぇ? 私的には全然見分けは付くんだけども……
陛下ほどでは無いけど、クズ宰相くらいの顔が整った男も居るし。
「如何します、印でも付けますか?」
「印……? 良いねぇ!」
そう言って瞳を輝かせる陛下とクズ宰相。
椅子に座ってる男の頭をクズ宰相が押さえつけると、先刻回収したポケットナイフで男の額に何かの文字を刻む陛下!
確かに文字は刻まれるだろうけど、今日中に正しく治癒すれば消えてしまうのでは……なんて思ってた時期も私にはありました。
陛下は痛みで苦しむ男の額に文字を刻み終えると、先刻挽いたコーヒー豆を手にして傷口に塗り込んだ!
十分にグリグリ塗り込んだ後で、透かさず「ベホイミ」と回復してあげる優しさ。
そして余分なコーヒー粉を男の服の端で拭うと、私に向かって聞いてくる。
「如何かなぁ?」
そこにはポケットナイフで刻み込んだとは思えないくらいの綺麗な文字で“下着泥棒”と書いてあるコーヒー・タトゥー。
「とても良いと思います。雑踏で見かけても判別できる確信があります」
「だよねぇ(笑)」
私は素直に感想を述べた。
男は何が書かれてるのか判らないから困惑した顔をしている。
だがクズ宰相が懐から可愛らしいデザインした二つ折りの手鏡を出し、男に状態を確認させる。
ってか何でそんなに可愛い手鏡を持ち歩いてんのよ……キモッ!
鏡で自分の顔を見せられた男は、
「な、何だよコレは!?」
とか言いながら喚いている。
知った事ではないが……
「ところで何で“下着泥棒”なんだよ?」
「え……お前こいつらの名前、知らないの?」
「ブラッディー・パンサーだろ」
「そうだよ。ダセェーよね」
「まぁ……そうだな。命名者のセンスを疑うね」
「うん。しかも略すとブラパンだぜ!」
「……っ! あぁ、ブラジャーとかパンティー絡みか!」
「そうそう、正式名称“女性用下着愛好家連盟会”だぜ!」
「そこまで飛躍させなくても……しかも盗んでるか否かは分かんねーし(笑)」
そう言いながらもニヤ付いた顔のクズ宰相。
でも、少しの説明で会話を成り立たせる事が出来るのは正直羨ましいわ。
「さぁ~て……そろそろ本題に入りますかねぇ」
一頻り楽しんだクズ宰相が男の髪を掴み机に並ばれた書類に視線を落とさせる。
遂に譲渡契約(強引)になるのね。
「ここに書かれてる内容を要約すると、今俺達がいる建物と土地の譲渡に関する契約書だ。お前がこの書類等にサインをすれば、今現在お前等が身に付けてる物以外は、このオッサンの所有になるって内容だ。サインしろ」
「ふ、ふざけんなよ……無料でお前等に渡せってのかよ!? ムシが良すぎねーか?」
「解ってねーなぁ……ここには明記されてないけど、料金は支払われるんだよ」
え、譲渡じゃないの?
「な、何で金額が明記されてねーんだよ!? い、幾らだよ!?」
「お前等の命に決まってんだろが!」
「そうだよ、記載できるワケねーだろ(笑)」
泣きそうな男の声に、冷徹な声で答える陛下……一人笑ってるのはクズ宰相。
「……………く、くそっ!」
この部屋の惨状(自身の状態を含む)を鑑みて諦めたのか、ガクッと項垂れて吐き捨てる男。
王家に目を付けられるくらい、ここ最近やりたい放題やってたんだから、そのツケが回ってきたと思って諦めなさいよ。
項垂れた事を了承と受け取り、陛下は男の高速バンドをポケットナイフで切り、両腕を解放してあげる。
それを見たクズ宰相は、胸ポケットに刺してあったペンを差し出しサインする箇所を指で指して指示する。
土地と建物……それ以外の契約書と控え、合計6枚にサインさせるとペンを奪い返し満足げな顔。
「おい、一応サインの隣に拇印を押しとけ」
陛下に言われ力無く右手親指を構え何かを待つ男。
多分、朱肉を待ってるのだろう。
「「……?」」
陛下とクズ宰相はお互い顔を見合って首を傾げる。
あれ……もしかして朱肉は無いの?
「お前……もしかしてだけども……朱肉……待ってる?」
「え? そ、そりゃぁ……拇印を押さなきゃならないし……」
陛下の問いかけに、か弱い声で答える男。
「贅沢なヤツだな」
本当に無いみたいだ……けど、何故だか書類等を男から遠ざける陛下。
それを見届けてからクズ宰相が勢いよく男の後頭部を掴み、そのまま机に顔面を打ち付ける!
少し顔面を机に押しつけた後、頭を元の位置に戻させ顔を観察。
痛さで歪んだ表情の鼻から、二筋の赤い液体が滴り落ちる。
「ほれ、朱肉代わりに赤い液体が出てきたから、それを使え」
痛さと怖さと情けなさで泣いている男は、クズ宰相に言われるがまま鼻血を自分の親指に付けて朱肉代わりにする。
全ての書類に鼻血拇印を押させると、控えの3枚を男に渡して、残りを再び封筒に戻すクズ宰相。
「あ、あの……俺達もう帰って良いっすか?」
もうこの場から逃げたいのだろう。
男は帰ろうと必死だ。
「まぁだダメェ~」
えぇ……まだ何かあるんですか陛下!?
アイリーンSIDE END
後書き
ウルポンが所持する可愛らしい手鏡については、
「グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン) 第64話:準備は入念に、実行は慎重に。」をご参照下さい。
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