機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第54話:穏やかな午後
寮に着いて,なのはとフェイトの部屋に入ると,床に寝そべっている
ザフィーラのそばでヴィヴィオが積み木で遊んでいるのが見えた。
「ヴィヴィオ」
なのはが声をかけると,ヴィヴィオが俺達3人の方に向かって
駆けてきた。
「ママ!パパ!」
跪いているなのはにヴィヴィオが抱きついているのを横目に見ながら,
俺は,ザフィーラに念話を飛ばしていた。
[ザフィーラ。異状はないな?]
[ああ,見ての通り異状なしだ]
[いつも済まないな。退屈だろう]
[そうでもない。私としてはこのような穏やかな時間も悪くないと
思っているのでな]
[そうか。これからも頼むな]
[言われるまでもない]
俺がザフィーラとの念話を終えると,ちょうどお弁当を抱えたアイナさんが
部屋に入ってきた。
「あら。もう皆さんお揃いなんですね。それでは食べましょうか」
「いつもすいません。お手数をおかけしてしまって」
俺がそう言って頭を下げると,アイナさんは苦笑していた。
「いえいえ。もともと,そこまで忙しいお仕事でもありませんし,
お料理は好きですから,お気になさらないでください。
私の方が恐縮してしまいますから」
「ありがとうございます」
「ねえパパ・・・」
俺がアイナさんに改めてお礼を言っていると,ヴィヴィオが俺の方を見ていた。
「ん?どうした,ヴィヴィオ」
「あのね。ヴィヴィオお外で食べたい」
「外で?」
俺がそう聞き返すと,ヴィヴィオはこくんと頷いた。
窓の外に目を向けると,燦々と夏の日の光が差している。
「さすがに暑いよな?」
俺がなのはとフェイトに向かってそう言うと,なのはは苦笑していた。
「私たちもそう言ったんだけどね・・・」
俺は膝をつくと,ヴィヴィオの顔を見た。
「ヴィヴィオ。お外はちょっと暑すぎるから,今日はここで食べような」
「やーだー。ヴィヴィオはお外で食べたいの!」
腕を振りながら我儘を言うヴィヴィオに,俺は頬が緩みそうになるが,
怒った表情を作ると,ヴィヴィオに話しかけた。
「わがままはダメだぞ,ヴィヴィオ。今日はここで食べよう」
俺がそう言うと,ヴィヴィオは頬を膨らませた。
「・・・でも,お外で食べたいんだもん」
「今日は我慢な。そのかわり涼しくなったら,なのはママやフェイトママや
みんなでおでかけしてお外でお弁当食べよう」
「・・・ほんと?」
「うん。ほんと」
「やくそくだよ?」
「おう。約束だ」
「じゃあゆびきりげんまん」
ヴィヴィオはそう言って,右手の小指を差し出した。
「ゆびきりげんまん?」
俺が聞きなれない言葉に困惑していると,ヴィヴィオが首を傾げた。
「パパ,ゆびきりげんまん知らないの?」
「知らないな」
「じゃあ,ヴィヴィオが教えてあげる!」
ヴィヴィオはそう言って,にぱっと笑った。
「パパ,ヴィヴィオとおなじようにして」
ヴィヴィオは小指を立てた自分の右手を俺の方に突きだした。
「こうか?」
俺はヴィヴィオと同じく小指を立てた右手をヴィヴィオに向けて差し出した。
「うん。で・・・」
そう言いながらヴィヴィオは自分の小指を俺の小指に絡めた。
「じゃあ,ヴィヴィオがうたうから,”ゆびきった”っていったら
ゆびを離すんだよ」
「わかった」
俺がヴィヴィオに向かって頷くと,ヴィヴィオは俺と小指でつながっている
右手を振り出した。
「ゆーびきーりげんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます,
ゆびきった!」
ヴィヴィオに合わせて右手を振り,ヴィヴィオがゆびきったと言ったところで
俺はヴィヴィオの小指を離した。
「これでパパがヴィヴィオのやくそくをやぶったら,パパは針千本飲むんだよ」
「針を千本も飲むのか?痛そうだな・・・」
「痛いのやだったら,ヴィヴィオとのやくそくやぶっちゃダメだよ」
「わかった,約束は守るよ。一緒におでかけしような」
俺はそう言いながらヴィヴィオの頭を撫でる。
「うんっ!」
ヴィヴィオはそう言って満面の笑顔を俺に向けた。
「よかったね,ヴィヴィオ。じゃあお昼ご飯たべようか」
なのはがそう言うと,ヴィヴィオは大きく頷いて,テーブルの前に座った。
「ゲオルグはもうすっかりパパだね」
フェイトが俺に向かってそう言った。
「そうか?」
「うん。なのはがママでゲオルグがパパか・・・ぴったりだね」
「私がママで,ゲオルグくんがパパ・・・」
感慨深そうにフェイトが言うのを聞いていたのか,なのはがそう呟いていた。
「なのは,どうかしたのか?」
俺がそう聞くと,なのはは顔を赤くしてブンブンと首を横に振っていた。
「な,なんでもないよ!さ,時間もないし食べよ!」
「へいへい」
俺はそう言うと,昼飯が広げられているテーブルに向かった。
昼食後,副部隊長室に戻って仕事をしていると,またティアナがやって来た。
「ゲオルグさん。度々すいません」
「ティアナか,今度は何用だい?」
俺が椅子に体を預けてティアナに声をかけると,ティアナは姿勢を正した。
「朝は愚かな質問をして申し訳ありませんでした」
ティアナは固い表情でそう言うと,深く腰を折った。
「と言うからには,自分がどう考え違いをしたのか理解できたんだな?」
俺がそう尋ねると,ティアナは小さく頷いた。
「じゃあテストしてやるよ。自分が部隊長・隊長・副隊長と俺の6名
それぞれと1対1の戦闘になった場合,どのように対処するか
レポートにまとめて提出しろ。他の3人にもそう伝えてくれ。
期限は今週中だ」
「了解しました」
それから数日して,4通の分厚いレポートが俺のデスクに置かれていた。
2時間ほどの時間を費やして俺はそのレポートに目を通すと,なのはと
フェイトを呼び出した。
しばらくしてなのはとフェイトがやってきた。
なのはとフェイトは部屋に入るなり,俺の顔を見て怪訝な顔をした。
「どうしたのゲオルグくん?なんだか妙に嬉しそうだけど」
「そう見える?ま,座りなよ」
俺はそう言って,ソファセットの方を指した。
なのはとフェイトが向かい合って座ったので,俺はフェイトの隣に座ろうと
すると,フェイトが俺を押しだした。
「ゲオルグはあっち」
そう言って,フェイトはなのはの隣を指さした。
「・・・ゲオルグくんのいじわる」
そう言って,なのはは頬を膨らませる。
「・・・仕事とプライベートは分けようぜ・・・」
俺はそう言って,小さくため息をついた。
俺はなのはの隣に座ると,さっきまで目を通していたレポートを
テーブルの上に置いた。
「それぞれ自分の部下の分について目を通して,本人に返却してやって」
「いいけど,何の報告書?これ」
「俺からあいつらへの宿題の答案だよ。内容は読めばわかるから」
「了解。じゃあ預かるね」
そう言ってフェイトはなのはを伴って部屋を出た。
後に残された俺は,窓から見える夕暮れの景色を眺めた。
「あいつら,ずいぶん成長したなあ・・・」
俺は,自然とこぼれる笑みを抑えることができなかった。
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