機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第53話:強さって何でしょうね?
フォワード陣に対するAMFC発生装置を前提にした戦闘訓練を始める日が来た。
俺は起床してトレーニング服に着替えると,訓練スペースへと向かった。
訓練開始時間にはまだ時間があったが,フォワードの4人はすでに揃っていた。
俺が,近づいていくとティアナが俺に気づいて俺に声をかけてきた。
「あ,ゲオルグさん。おはようございます」
「おはよう,ティアナ。みんなもおはよう」
「「「おはようございます」」」
お互いに挨拶を交わすと,フォワード陣は軽く体を動かすのを再開した。
俺も,軽く体操や柔軟をすると,訓練スペース周囲のランニングを始めた。
1周して戻ってくると,フォワードの4人が合流してきた。
「ゲオルグさんがランニングなんて珍しいですね。どうしたんですか?」
「最近出撃もしてないし,今日は訓練に参加しないからさ,
体がなまらないように,走るだけでもやっておこうと思ってね」
スバルの問いに答えると,4人は感心したように頷いていた。
その後5周走ると,ちょうどなのはがやってきたこともあり,
ランニングは終了となった。
俺は息が上がってしまい,膝に手を突いてしまった。
一方,フォワード4人は平然な顔をしていた。
「だめだよ,ゲオルグくん。体がなまらないようにしないと」
なのははにやにや笑いながらそう言ってきたが,俺は息が上がっていて,
反論する元気も無かった。
「まあ,ゲオルグさんは副部隊長として忙しいんですし・・・」
「ティアナは優しいね。でも私は甘いと思うな」
ティアナは俺をフォローしてくれたが,むしろ心が折れそうになった。
しかも,なのはにばっさりとやられてしまっては・・・というわけだ。
数分たってようやく息が整った俺は,なのはの隣に立った。
「今日は,6課が新規導入する装備の導入訓練を行う」
俺がそう言うと,フォワード陣は互いに目を見合わせていた。
「新規導入する装備は,携帯用AMFC発生装置だ」
「AMFC・・・ってなんですか?」
スバルが首を傾げながら尋ねてきた。他の3人も首をひねっている。
「Anti-Magilink-Field-Canceler。つまり,AMFを打ち消す装置だな」
俺はそう言うと,AMFC発生装置の概要について説明した。
説明し終えると,ティアナが手を上げる。
「装置の仕様については解りましたが,私たちは装置そのものを
受領してませんけど」
「装置はまもなく予定数が完成し,前線メンバー全員に配備する予定だ。
今日の訓練では,擬似的に効果を体感し,各自の戦闘スタイルに合った
使用方法を模索してもらう」
俺がそう言うと,なのはが後に続いた。
「今日の訓練としては,個人での対ガジェット戦闘を想定してやるからね。
私と副部隊長はここでみんなの状況をモニターして必要だと思ったら
アドバイスするけど,基本的にはAMFCの有効な使用法について
自分で考えながらやるようにね」
「ガジェットの行動パターンは一定ですか?」
「言ってくれれば数とか行動パターンは私が変更するよ。
他に質問が無ければ始めようか」
なのはがそう言うと,フォワード陣は頷いて訓練スペースの中に散って行った。
・・・1時間後
訓練を終えたフォワード陣が俺となのはの前に戻ってきた。
「どう?感想は」
なのはが4人に向けてそう言うと,まずスバルが口火を切った。
「私はものすごく助かると思います。魔力消費もかなり抑えられますし」
「僕も同じですね。ガジェット戦はこれでかなり楽になりますよ」
「スバルとエリオは接近戦が主体だからな。装置の特性から考えても
お前ら2人には相性のいい装置だと思う」
俺がそう言うと2人は大きく頷いた。
「私は・・・使える場面と使えない場面にはっきり分かれますね。
射撃メインのときは丸っきり役に立たないですけど,接近戦の時は
かなり助かりますから」
「ティアナは使いどころを考えて使えばかなり有効だね。
あと,射撃メインの時でも防御面では効果があるから,
そっちの使い方も考えておくようにね」
なのはがそう言うと,ティアナは頷いた。
「私は・・・使う場面がないです・・・」
「キャロはそうだろうな。ただキャロもティアナと同じで防御での
有効活用を考えてみてくれ」
「わかりました」
「じゃあ今朝の訓練は終了ね。午後はいつもの教導だからそのつもりで」
なのはがそう言うと,フォワード陣は隊舎に向かって歩いて行く。
「やっぱり接近戦以外での活用は難しいね」
「装置の特性上仕方ないよ。ただ,集団戦では別の使い方もあるけど」
俺がそう言うと,なのはが俺の顔を見た。
「どんなの?」
「複数のAMFCを干渉させるんだよ。射撃役と補助役を近接配置して
より遠くまでAMFCの有効範囲を広げれば,中距離ならそれなりの
効果が期待できるだろ?」
「なるほどね。それは試してみたいね」
「ま,それはまた今度だな」
「だね」
そうして,俺となのはも隊舎へと向かった。
朝食後,俺が副部隊長室で仕事をしていると,来客を告げるブザーが鳴った。
「どうぞ」
俺がそう言うと,ティアナが入ってきた。
「失礼します。ゲオルグさん,お忙しいところ申し訳ないんですけど
今いいですか?」
「何だ?」
「ちょっとお聞きしたことがあるんですけど・・・」
「ん?」
「あの・・・隊長たちの中で一番強いのって誰ですか?」
「はあ?」
俺はティアナの言っている意味がわからず,聞き返してしまった。
「ですから・・・隊長たちの中で一番強いのって誰ですか?」
「強いって・・・どういうことだ?」
「いえ,漠然と誰が一番強いのかなって・・・」
俺はティアナの言葉に深いため息をついた。
「あのなあ,ティアナ」
「はい」
「前に”敵を知り己を知れば百戦危うからず”って言葉を教えたろ?」
「はい」
「あの言葉の意味をもう一度よく考えてみな。そうしたら,
自分がどれだけバカな質問をしたか解るから」
「バカな質問・・・ですか?」
「そうだよ」
「・・・解りました。失礼します」
ティアナはそう言って,少し肩を落として部屋を出て行った。
昼になり,なのはとフェイトがやってきた。
「行こ。ゲオルグくん」
最近,俺はなのはやフェイトと同じようにヴィヴィオと昼食を
食べるようにしている。
「ん。もうそんな時間か・・・行こうか」
寮に向かって歩いている途中,なのはが話しかけてきた。
「そういえば,午前中にフォワードの誰かがゲオルグくんのところに
来なかった?」
「ん?ティアナが来たよ。何か隊長陣の中で誰が強いか?なんてことを
聞いてくるもんだから,”敵を知り己を知れば百戦危うからず”って
言葉の意味をもう一度考えろって言っといた」
「そうなんだ。私のところにもスバルが来て同じようなこと聞いてきたよ」
「ふーん。で?なのははスバルになんて言ったのさ」
「自分より強い相手に勝つには,自分が相手より強くなればいい。
って言葉があるから,その意味を考えてみれば答えは解ると思うよ。
って伝えたよ」
なのはの言葉を聞いて俺は少し腕組みをして考えると,合点がいった。
「じゃあ意味合いとしては俺とほとんど同じことを言ってるな」
「そうだね」
「ところでさ,例えばゲオルグが私やなのはと戦うことになったら,
どう戦うの?」
フェイトがそう尋ねてきたので,俺は少し考えてから話し始めた。
「2人に共通して言えるのは,空中戦を避けて地上戦に引きずり込むことかな。
あと,なのはとならどんな環境でも接近戦に持ち込めば俺の勝ち。
フェイトの場合はもう少し厄介だけど,室内での戦闘に引きずり込めば
勝機はあるかな」
俺がそう言うと,フェイトが苦笑していた。
「言うのは簡単だけど,なのはの場合は接近することがまず難しいよ」
「そこがなのはの厄介なとこなんだよ。動きを止めた瞬間にズドンで
終了だから」
フェイトと俺がそう言うと,なのはは不満そうに頬を膨らませていた。
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