リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第十五楽章「付加価値の高騰」
前書き
リュカ伝の世界では
1ゴールド=100円 です。
(グランバニア王国:城前地区・商店街)
アイリーンSIDE
卒業式制作は各グループが得意分野で活動する事が決まり、私は自分の時間を満喫できる様になった。
というのも、卒業式で披露する楽曲は、もう完全に憶えてしまい、むしろピエの方が練習真っ只中なのだ。
彼女との話し合いの結果、伴奏(ピアノ)はピエがする事となり、本業と平行して頑張っている。
私が伴奏(ピアノ)をやろうかと提案したが、2曲とも憶えたいから練習したいと言い、この分担になった。真面目だ。
さて……
自由時間が作れたので、課題とかをやれば良いのだけれど、毎週土曜日はとある日課が出来てしまった。
それは城前地区の商店街……グランバニア城下町の中央大通りから一本逸れた、城前地区の東に位置する中規模通りの商店街……にある花屋の前で行われている、プーサン社長の定期ライブを鑑賞する事だ。
以前は土日が本業がお休みとの事もあり、ストリートミュージシャンはやってなかったのだが、数週間前から突然始められたライブなのだ。
午前十時から開始し、お昼は近くのお店で済ませ、午後一時から再開する流れ……終わるのは気分次第で、午後三時から六時の間だ。
商店街を使う人や、ここで働いてる人の数人とは知り合いになり、皆楽しみに土曜日を待っている。
店先でもある花屋FMAPの女将さんに、何時も丁寧に使用許可を取り、了承されてから開始される。終了時にはその日稼いだおひねりで、残っている花を何輪か買い、お客(私達)の女性限定でプレゼントしてくれるのだ。
今日も時間になり陛下がギターを構え開始される。
毎回1曲目は、FMAPに敬意を表し『世界に一つだけの花』だ。
この曲はメロディーもさることながら歌詞が良い!
いやぁ~今日も土曜日が始まった気がしてきたわ。
本日2曲目は『シクラメンのかほり』という曲になり、初めて聴く楽曲に酔いしれていると、突然……
「おいコラ、誰に断ってここで商売してんだ! ああ゛ぁん!?」
と、ガラの悪そうな二人組が現れた。
まだ『シクラメンのかほり』を全部聞いて無いのに!!
「やっと来たか……」
ガラの悪そうな二人組から遠離る様に陛下に近寄った時、私以外には聞こえなかっただろう様な小声で陛下の呟きが聞こえた。まるで待ち望んでいた様だわ。
「ちゃんとFMAPや周辺の商店に許可は取ったよ(ヘラヘラ)」
「俺等にスジ通してねーだろコラ!」
あぁ……こいつらこの辺を縄張りにしてるギャング団だわ。陛下は全く動じてない……どころか、ヘラヘラして余裕そうにギターのストラップを首から外す。
「知らねーよ。事前に役所にも話は付けてあるぞ。お前等こそ部外者だろ……何者だよ?」
「ああ゛ぁん!? 俺等の事を知らねーのか!?」
「だから、そう言っただろうが馬鹿!(笑)」
「テメェ~……俺等『ブラッディー・パンサー』を馬鹿にしてんのか!?」
ブラッディー・パンサーっていえば、グランバニア城下町のほぼ全域で活動しているギャング団よ。
陛下に対し怒鳴り散らしてる背の低い(私くらい)男と、その直ぐ後ろでスカしている背の高い(陛下より少し高い)男が、自らの所属を明らかにしてドヤっている。
「ブ……ブラッ……!?」
陛下が驚きで震えながら呟く!
へ、陛下でも驚く連中なの!?
「ふん! 如何やら俺達の事が解ったみてーだな」
陛下の態度に満足してる小さい方が嬉しそうにニヤついている。
後ろの背の高いヤツも、腕を組んでクールそうに格好を付けている……ダサい。
「あははははっ……ブ、ブラッディー・パンサーだって! ダッセー!! 誰だよ命名者は? ダサさ爆発みんなのサクラ屋だよ!!(大笑)」
違った……驚き震えているのかと思ってたが、笑いを堪えていただけだったわ。ってか“サクラ屋”って何?
「ダッセー……ダッッッセー!! おいおい、略したら『ブラパン』じゃねーか! なになにぃ、ブラジャーとパンティーが大好きなのぉ? おい、どっちがブラジャー派でどっちがパンティー派だよ!? 見た目から、そっちの背が高い方がブラジャー派だろ? そしてお前はパンティー派ね!(爆笑)」
「な……ふ、ふざけんな! 俺達の事を馬鹿にすると痛い目にあわせるぞ!」
「あははははっ、もう手遅れ! 笑いすぎてお腹が痛い目にあっている!(爆笑+涙目)」
お腹を押さえ、くの字になってる陛下の姿を見て、私達もクスクスと笑いが沸き起こりだした。
「くっ……ふざけやがって!!」
無遠慮に爆笑される屈辱に耐えかねたパンティー派が、右手拳を握りしめ陛下へと襲いかかった!
「ぐはぁっ!!」
?????
あ、ありのまま……今、起こった事を話すわね。
あまりの出来事に理解が追い付かないが……陛下に襲いかかったパンティー派は、陛下に近付いた瞬間、ギターのネック部分を持った陛下の掬い上げる様な攻撃により3メートルほど浮き上がり、そして弧を描く様に4メートルほど後方へ吹き飛ばされた。
「あれ? 意外とこのギター、丈夫だなぁ」
ギターを縦にして丈夫な箇所でパンティー派を殴り上げた事もあり、ご愛用のギターはほぼ無傷で済んだ。陛下の呟きを聞きつつ、ホッと安心してると……今度はそのギターを両手で高々と掲げ上げ、先程吹き飛ばされながらも何とか起き上がろうとしてるパンティー派に向けて投げつけた!? 何で!!?
(バギンッ!)
「がはっぁぁ!」
強烈な音と共にパンティー派はギターのボディー部分を突き破る様に刺さり、ギターを首に巻く様にして気絶する。
一瞬……というより、数瞬間があったが、状況に思考が追い付いたブラジャー派が、
「な、何しやがる!?」
と、当然の恫喝をしてくる。
だがまた理解が追い付かなくなるのが、この後の陛下の台詞……
「こっちの台詞だ、馬鹿者ぉ!」
いいえ絶対に向こうの台詞ですわ陛下。
だって二撃目は無用でしたもの!
「僕のギターが壊れちゃっただろ!」
「え……? た、確かに……? い、いや……そ、それはお前が!」
ブラジャー派は混乱している。
一撃目は向こうが突然襲いかかってきたから、咄嗟に手持ちの武器で応戦した……ここまではいい。
明らかに二撃目は陛下の故意によってのギター攻撃。
ワザとギターを壊したのは陛下ですけどぉ?
「テ、テメェが投げつけたんだろ!」
「襲いかかってこられて、怖かったから反撃したにすぎん!」
「さ、最初の攻撃で戦意喪失してたじゃねーか!」
「そんなのそっちの言い分だ! 起き上がってまた襲いかかってきそうな様な気がしたから、先制の反撃をしただけだ!」
何だ“先制の反撃”って!?
新しいパワーワードに誰もが混乱を禁じ得ない。
でも、この連中は喧嘩を売る相手を間違えたわ。
「そんな事は如何でもいいんだよ。ギター弁償しろ!」
「如何でもよくねーだろが! ギターの方が如何でもいいわ!」
なるほど、陛下がこの連中を待っていたのは、ギターを新調する為なのね。
「うるさい。そのギターはなぁ、サラボナのハゲから値切り叩いて20Gで買った中古品なんだぞ!」
「激安じゃねーか、馬鹿野郎!」
安~い! 中古品だとしても、しっかり使用できてる品で20Gは安い!
「馬鹿はお前だ馬鹿野郎! そのギターにはなぁ、僕が使用し続けてきたって事で、付加価値が付いてるんだよ! だからギター代200G払え!」
値上がってるぅ(笑)
「さ、先刻は20Gって言ったじゃねーか!? なにサラッと10倍にしてんだ!」
「うるさい、付加価値が付いてると言っただろ! あぁ、あのギターとの思い出が蘇ってきた……よし、払え。付加価値と思い出補正込みの金額2000Gを!」
短時間で100倍になったー!(笑)
アイリーンSIDE END
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