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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第五章 トリスタニアの休日
  第六話 キス!?! キス?!? 

 
前書き
 え~五朗です。
 前から思っていたのですが、十八禁と十五禁の境って何処にあるんでしょうか?
 エッチシーンがあれば、まあほぼ確実に十八禁だと思いますけど、それじゃあそのシーンがなければ十八禁じゃない?
 でも、エッチシーンがなくてもエロい話しはありますよね?
 この『剣の丘に花は咲く』は直接的なエッチシーンがないけど結構過激な描写があるため十八禁じゃないけど十五禁にしていますが……その過激な描写ってどこまで十五禁なのかな? 
 
 ……なぜ私が急にこんな話しを長々と語り出した理由なんですが……
 
 それは本編を見てくれればわかると思います。



 なので本編をどうぞ……



 エロい……と思うよ?

 

 
 ルイズたちがお店に戻った時、そこに士郎の姿はなかった。掃除や料理の準備は全て出来ていたことから、お店を開けることに問題はなかったのだが、先程から降り始めた雨により店の中に客の姿はない。
 そんな中、客がいない店内でルイズとジェシカが向い合せで座って何やら話し込んでいた。

「シロウの馬鹿……どこに行ったのよ」
「ルイズは知らないの、シロウが何処に行ったか?」
「わからないわよ。わたしも知りたいくらいよ……」
「本当にどこに行ったのかなシロウ……まあ、お店の準備は全部終わってるし、料理の準備も出来てるけど……黙って出て行くなんてシロウらしくないっていうか」

 頬杖をついて天井を見上げるジェシカに、ルイズも同じように頬杖をついた姿で声を掛けた。

「まあ、黙ってというわけじゃないみたいだけど……」
「何っ?! 何か知ってるのルイズ!」

 ガタンッ! と音を立てながら立ち上がったジェシカが、机の上に身を乗り出しルイズに顔を近づける。
 目の前に迫るジェシカの顔に手を当てると、ルイズはゆっくりと押し返す。

「急な用事が出来たってよ……下手したら二、三日は戻れないかもしれないって部屋に置き手紙があったわ」
「もうっ! そんなものがあるなら先に教えてよ……家の父さんに殺されたんじゃないかと心配して損しちゃった」

 椅子にダラリと寄りかかりならが天井を仰ぐジェシカに、ルイズが不思議そうな顔を向ける。

「何でミ・マドモワゼルがシロウを殺すのよ?」
「だって、家の父さんめっちゃ怒ってたし」
「怒ってた? 何で?」

 首を大きく傾げるルイズに、苦笑いを向けるジェシカは周りを見渡した後、ルイズの耳に顔を近づけた。

「バレてるのよ」
「バレてる? 何が?」

 察しの悪いルイズに呆れながらも、ジェシカはもっと直接的な言葉を向けた。

「シロウとエッチしたのがバレてんのよ」
「なっ?! え、エッチって!! ちょ」

 叫ぼうとするルイズの口を慌てて塞ぐと、ジェシカはキスするかのように顔を近づけた。

「し――っ! 声が大きい! 家の父さんは寛容だけど、ちょっとやり過ぎたみたいなのよ……あんたも自覚あるでしょ」
「自覚って……まあ……少しは……あるけど」

 赤く膨れた頬を指先でつつきつつ、スカロンがいるだろう厨房に目を向けるジェシカにルイズは恨みまがしい目を向けた。
 
「あなたのせいでしょ、あなたがシロウを挑発するから」
「それはお互い様でしょ」

 同じように頬を染めたジェシカがルイズを見下ろすと、互いの視線の間に雷が走り、

「「でも、一番シロウが悪い」」

 声を揃えて文句を言うと、ふっと互いに笑みを浮かべた。
 くすくすと互いに笑みを交わしていると、雨が地面を叩く音に交じり、騒がしく辺りを駆け回る音や、兵士の怒号が聞こえてくる。
 
「何よもううるさいわね。そんなに騒ぐなら店に来てチップを落としていってくれたらいいのに」
「……ちょっと行ってくる」
「ちょっとルイズ、濡れるわよ?」
「平気よ」

 ルイズは羽扉を開け外に出ると、雨を手傘で遮りながら目に入った兵士に近づくと呼び止めた。

「そこのあなた、こちらに来なさい」
「はあ!? なんだ小娘。このクソ忙しい時に! 邪魔だ! さっさと離れろ!」

 手を振りルイズを突き放そうとした兵士の前に、ルイズはアンリエッタのお墨付きの許可状を突きつけた。兵士の目に、否応なくルイズの突きつけた紙が入る。突きつけられる許可状を払いのけようとした兵士だが、その直前、女王のサインが目に入り、払いのけようとした手が凍りついた。ブルブルと震える手をゆっくりと下ろし、何度も目を擦りながら顔を近づける兵士。許可状とルイズの顔を何度も行き来させた兵士は、恐る恐るといった風にルイズを見下ろす。
 
「あ、あなた様は一体?」
「わたしは陛下の命で任務についている陛下の女官です。速やかにあなたが知ることを教えなさい」
「へ、へへへ陛下の女官っ?! しっ、失礼いたしましたぁッ!」

 勢いよく頭を下げた兵士に近づくと、ルイズは兵士の頭をつかみあげると、無理矢理兵士の頭を持ち上げる。

「謝罪はいいから早く話しなさいっ!」
「は、ハッ! そ、それが」

 兵士はルイズの小声で状況を話し始めた。

「シャン・ド・マルス練兵場の視察後、陛下の姿が消えてしまったのです」
「え……」
  
 呆然と立ち尽くすルイズに対する兵士の説明はなおも続く。

「誰が、どのように陛下を攫ったのかは未だ不明です。馬車の中から、まるで煙のように消えてしまったそうです」
「……その時の警護は何処が?」
「新設の銃士隊と聞いております」
「そう……ところであなた馬を持ってる?」
「い、いえ……すみません」

 申し訳なさそうに頭を下げる兵士に一言礼を言ったルイズは、一旦お店に戻ると、暇そうに机にのしかかっているジェシカに用事が出来たと伝え、呼び止めるジェシカの声を振り切り、ルイズは雨の中を駆け出していった。

「全くもう……こんな時にシロウは何処に行っているのよっ!」



 



 高級住宅街の一角。その中でもことさら巨大な屋敷から出てくる人影が一つ。馬を連れた男から馬を受け取った影は、馬に背負われた鞍嚢からローブを取り出すと頭から被る。さらに中から新型の火打石式の銃を取り出すと懐に収め、屋敷から離れだした。雨に打たれ暫らく馬を引いていると、後ろを向き、闇に薄ぼんやりと浮かび上がる巨大な屋敷を見上げ、

「……っぁはは……間違いない……必ず殺してやる、必ずだ……だが、まずは……」

 歪んだ笑みを浮かべ歩き出す。
 空を仰ぎ歪んだ笑みを洗い流すと、影は顔を振り馬にまたがった。

「……行くか」

 気持ちを切り替えるように小さく呟き、馬の腹を蹴ろう足を振り上げた瞬間。

「待って! 待って!」
「何だ?」

 背後から大声を上げ駆け寄ってくる少女がいた。雨の中を走っていたことから、キャミソールは泥と雨で汚れ、ピタリと身体に張り付いている。手に靴を持って駆け寄ってくる少女は、確実にこちらに向かって近付いてきていた。今から大事を控える影にとっては、厄介事に巻き込まれるのは宜しくない。影は背後の迫りつつある少女を無視し、再度馬を走らせようと足を上げるが、

「待ちなさいッ!! そこのあんたよあんたッ! っこの! 待ってって言ってんでしょぉぉぉぉおおおオオオッ!!!」
「っく! クソっ、いきなり何をするっ?!」

 後頭部に鈍痛が走り、頭を抱えながら後ろを振り向くと、膝に手をあて息を荒げる少女がいた。少女の手には、先程見た時に持っていた靴がない。視線を下に向けると、予想通り馬の後ろ足の辺りに靴が落ちていた。どうやらこの少女が自分を止めるため投げつけたのだろう。
 影は未だ呼吸が戻らないのか、息を荒げる少女を見下ろし、

「貴様っ! 一体何が目的で私を止めるっ!? 話し次第では、無事に済むとは思うな」 
「その馬を貸しなさいっ! 急ぎなのよ!」
「寝言は寝て言え」

 顔を戻し、駆け出そうとした影だが、馬の前に割り込んできた少女が手に持った羊皮紙を突き出してきた。

「あなたこそ寝言は寝て言いなさい。わたしは陛下の女官よ。この通り警察権を行使する権利を与えられているわ。さあ、さっさとその馬を下りてわたしに渡しなさいっ!」
「陛下の女官……まさかラ・ヴァリエール嬢で」
「? 何故わたしの名前を」

 手に持った羊皮紙を下ろし、訝しげな顔で少女が影を見上げる。
 
「時間がない。後ろに乗れ。事情は後で説明する」
「ちょ、ちょっと!」
「ちっ! いいから乗れ!」

 戸惑い躊躇する少女――ラ・ヴァリエール――ルイズを影が馬の上から引き上げると、自分の後ろに乗せた。

「何? 何なのよ? 一体? ちょっ?!」
「口を開くなっ! 舌を噛むぞ!」

 ルイズが止める間もなく、影は馬を走らせた。
 唐突に馬が駆け出し、ルイズは慌てて影の背中にしがみつく。雨が上からではなく横に変化し、身体が激しく上下する。そんな穏やかとは正反対の馬上で、ルイズは必死に声を上げ、

「っあっ、んたっ、は誰なのっ! よっ!? いいか、げんっ! 教えっなさ、いっ!!」

 それに影は応えた。

「陛下の銃士隊隊長のアニエスだ」

 





 安宿の狭いベッドの上。
 アンリエッタが眠る横、士郎は汚れた窓の向こうに見える、日が落ち、雨が振る街を眺めていた。
 アンリエッタが眠りにつき暫らく経つと、そろそろ起こそうかと士郎が後ろを向くと、まるでタイミングを図ったかのようにパチリと目を開けたアンリエッタと視線が交わる。
 士郎と視線が合うと、ふっと緩んだ笑みがアンリエッタの顔に浮かんだ。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 後ろ手にゆっくりと仕草で起き上がったアンリエッタは、起き上がった勢いそのままに横に座る士郎に寄りかかった。アンリエッタの身体を背中で受け止めた士郎は、後ろを振り向くことなくアンリエッタに話しかける。

「どうだ気分は?」
「……恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
「う……む……すまない」

 ガクリと首を落とす士郎の背中に、コツンと額を当てたアンリエッタが穏やかな声を漏らす。

「謝らないでください……ふふ……また、あなたに助けられてしいましたね」
「また?」
「あなたは……止めてくださいました。あの夜、流されるまま操られたウェールズさまに従っていたわたくしを……あなたは……止めてくださいました」
「……」
「……シロウさん……あの時……何故あなたはあんなことを言われたのですか……」
「あんなこと?」

 腕をゆっくりと伸ばし、士郎の身体に腕を回す。

「『女王の地位を捨て、誰かと共に生きたいと言うのなら、俺は別段止める気はない。場合によっては力になっても良いだろう』」
「それは……」
「一言一句覚えています……何故……あなたはあんなことを……」
「…………」
「……シロウさん」

 問い詰めるわけでもなく、ただ純粋に理由を聞くアンリエッタに無言で応えていた士郎だったが、

「……昔……とある王がいない国に一人の少女がいた」
「え」
「その国は、前任の王があまりにも強すぎたため、跡を継げるものがいなかったのだ」

 目を閉じると、昔を思い出すように語りだした。

「…………」
「そんな時、王がいない隙を狙い侵略者が現れた。王がおらず諸侯の纏まりに欠けたその国には、侵略者を退けるだけの力はなく。少女が住む国は次第に荒廃していった」

 腹に回された手に自身の手を重ねた士郎は、昔話しを続ける。

「……だから……その少女は……祖国を愛するその少女は……愛する祖国を守るために、抜いたものが王となるといわれる剣……岩に突き刺さった選定の剣を引き抜き……王となった」
「王に……王になったその少女は……どうなったのですか」

 腕に力を込め、更に士郎を強く抱きしめたアンリエッタは続きを促す。

「侵略者は強く、祖国を守るためには諸侯を纏め上げ導く必要があった…………だから少女は……自分を捨てた」
「す、てた?」
「愛する祖国と民を守るため……少女は成らなければならなかった……誰もが待ち望んだ『王』に……公明正大、戦えば常に勝利する王……『理想の王』に……そのため、少女は祖国に全てを捧げた……性別を隠し女を捨て……」
「全てを捧げ……『理想の王』に……その少女は……王になってどうなったのですか」

 大きく息を吸い、長く息を吐き。
 そして、
 
「諸侯を纏め上げ、常に前線で戦い侵略者を追い返すことに成功した王に、やがて騎士としての理想を、憧れを、願いを……到達点を見た騎士たちから『騎士王』と呼ばれるようになった」
「……『騎士王』」
「栄光に輝く王……その最後は……裏切りによるものだった」
「えっ……うら、ぎり……」

 アンリエッタの口から漏れた言葉は、雨音に交じり消えていき、士郎の耳を掠めただけだった。

「最も信頼していた部下の一人に裏切られた王は、裏切り者を許さずという周りの声を止めることが出来ず、国を割った争いが起きた。さらに、その混乱に乗じ甥に城を奪われてしまった王は、甥を倒すことは出来たが、その時受けた傷が元で最後を迎えることになった」
「……」

 背中が濡れる感触を感じるが、士郎は何も言わずただ淡々と昔話を続ける。

「……愛する祖国を守るため、己の全てを捧げ王になった少女は、甥の血に濡れる剣を手に、守るはずの祖国の民が騎士が倒れ伏し赤く染まる丘に立ち尽くしていると、心にある想いが湧き上がってきた」
「……それは……なんですか」

 問いかける声は、酷く冷めた平淡な声だった。

「……それは後悔だった……」
「……後悔」
「祖国を民を守るために王になったにもかかわらず……結局は国を守れなかったそんな自分が王になったことに対する後悔……自分よりももっと王に相応しいものがいたのではないか……そんな後悔を……」 

 しばし部屋に雨が屋根を叩く音だけが部屋に響き、次に雨音以外の音を立てたのは、

「その少女は……後悔を抱いたまま死んだのですか」

 硬い声を上げたアンリエッタだった。
 
「王になったことを後悔し、人として……女としての幸せを感じることもなく死んだのですか……」

 何かを恐るように、小さく震える声で士郎に尋ねるアンリエッタに、士郎はアンリエッタの手を一度強浮く握り締めた。

「いや……違う」
「違うの、ですか? でも、彼女はその後直ぐに亡くなってしまうのでしょう? それなのにどうして違うと……」

 士郎の返事が余りにも予想外過ぎ、戸惑うアンリエッタに、士郎はその理由を話し始めた。自分の口元に笑みが浮いていることに気付くことなく。

「夢をみたからだ」
「夢? それは一体……」
「後悔に染まった少女は、その後最後の眠りにつく直前、ある夢を見た」

 士郎の脳裏に、決して色褪せることのない少女との出会いが流れる。

「その夢の中で少女はある少年と出会うことになる。その少年は少女にとっては余りにも未熟であり、そして理解の出来ない存在だった。そんな少年と夢の世界で、彼女はとある目的のため、共に戦い、生活するようになった。時に喧嘩をすることもあったが、飛ぶように過ぎ去る日々の中、何時しか少年は少女に恋をし、少女もまた少年を憎からず思うようになった」
「恋を……したのですね」

 アンリエッタが士郎の背中から顔を離し、士郎の後頭部を見上げポツリと呟いた。
 士郎の話しは続く。

「そんな時、少女にある男が取引を持ち出した。取引の内容は少年を殺せば、お前の望みを叶えてやるというものだった」
 
 アンリエッタが息を呑む音が狭い部屋に響く。

「愛する祖国と民を守るため、少女の望みは祖国を護れなかった自分よりも王に相応しい者が王になること。男の言葉に従い、少年を殺そうとした少女だったが、最後に男の言葉を拒絶し、少年を選んだ」
「その人は、国よりも愛する人を選んだのですか?」
「さあ……その理由の本当のところは本人に聞くしかわからないだろう……ただ、その時彼女は少年を選んだのだ。そして、最後の戦いが終わり、少女の夢が覚める時が来た……」
「……覚めてしまうのですね」
「…………俺が彼女の最後は後悔を抱き死んだと言わない理由はな……彼女が夢から覚める直前……浮かべた顔が……とても幸せそうだったからだ」
「……幸せ、そう」

 士郎の背中に抱きつくアンリエッタには見えなかったが、士郎の顔にも、幸せそうな笑顔が浮かんでいた。

「ああ、とても綺麗な……綺麗な笑みだった……だから、彼女の最後は後悔で満ちたものではないと……そう思う」
「……そう、ですか」

 ほっと息をアンリエッタがつくのが聞こえた士郎は、優しく腹に回された腕を外すと、身体を回し、アンリエッタと向き合いになる。目尻に涙が浮かぶアンリエッタに微笑むと、アンリエッタも同じように赤く染めた顔に微笑みを浮かべた。

「アン……少年が少女と出会った時、少女の王としての話しは既に終わっていた。終わってしまった、もう既に起きてしまっていた。だが、君はまだ始まったばかりだ。変えていくことが出来る。だからこそ、望んでではなく、必要に駆られて王になった君が、どうしても逃げたいと望むのならば、俺はその力になろう」
「王が居なくなれば……国が滅びます」

 顔を俯かせ呟くアンリエッタの頭に手を乗せ撫ではじめる。ゆっくり優しく。そして丁寧に。

「今まで大丈夫だったんだろ。それに、代わりの王が立つ間ぐらいは、俺が何とかしてみせる」
「無理ですよ」

 首を振るうアンリエッタに合わせ、頭に置いた手を動かす。

「無理じゃない……俺を信じろ」
「…………無理です……でも、どうしても信じて欲しいのでしたら、一つだけお願いがあります」

 ぼんやりとした顔で士郎を見上げるアンリエッタだったが、その瞳には切実な光が宿っていた。
 
「お願い?」
「もし、わたくしが何か愚かな行いをしそうになったら、また止めていただけませんか? あなたの剣でこのわたくしの身を切り裂いてでも」
「…………」

 胸に手を当てるアンリエッタを見た士郎は、一度ベッドから下りると、アンリエッタの前に跪くとしっかりとアンリエッタの目を見て誓った。

「誓おう。俺の全てを持ってして、必ずあなたを守ることを」
「守るって……そんな、わたくしは……」

 突然目の前で跪いた士郎を驚いた顔で見下ろしていたアンリエッタが、直ぐに正気に戻ると、士郎を起こそうと手を伸ばした瞬間、

 ドンドンドンッ!! という音と共に扉が激しく揺れ始めた。どうやらドアの向こうに人がいるようだ。士郎が腰をあげようとしたところで、ドアの向こうにいる人物が声を張り上げた。

「開けろ! 開けんか! 王軍の巡邏の者だ! 逃亡中の犯罪者を追っている! 部屋の中を確認させてもらう! さっさとドアを開けんか!」  

 士郎は後ろを振り向くと、頬を膨らませてドアを見るアンリエッタに声を掛けた。

「どうする、そこの窓から逃げるか? ってどうしたんだそんなに頬を膨らませて」
「……いえ、どうもしません。濡れるものなんです。ここは黙ってやり過ごしましょう」
「やり過ごそうというが……無理だと思うぞ」

 士郎の言葉通りに、ドアを叩く音は次第に激しくなり、とうとうドアノブが回り始めた。しかし、鍵は掛かっているので開けることは出来ない。ドアの向こうの兵士は、それでも諦めることなくノブを回す勢いを更に強くする。
 ドアが激しく揺れだし、今にもドアが壊れてしまいそうな様子に、アンリエッタはベッドから下りると士郎に向き直った。

「し、しかたありませんわね……シ、シロウ」
「ちょっと待て、一体何をしているアン」

 しかたないと言いながらシャツのボタンを取り外し始めたアンリエッタに、士郎が冷静にツッコミを入れると、アンリエッタは士郎を見上げ、ニッコリと笑い。

「んっ」
「んむっ?!」

 つま先立ちになり、自分の唇を士郎のそれに唐突に押し付けたのだ。目を見開き固まる士郎の首に手を回すと、さらに体重を士郎に掛けながら、自分のそれを押し付ける。
 思わず後ろに下がる士郎だが、ベッドに足を取られアンリエッタ共々ベッドの上に倒れ込んだ。硬いベッドに倒れると、それなりの衝撃が士郎たちの身に襲い掛かってきたが、アンリエッタは構うことなく、衝撃で開いた士郎の口内に自身の舌を忍び込ませた。

「んぅっんんっふぁ」
「ふむぶっ、ぐぐアンっリっぐぬ」

 ぐちゅくちと二人の唇が重なり合った隙間から、粘ついた唾液の音が響く。
 士郎の上に馬乗りになったアンリエッタは、士郎の口の中を、侵入させた舌で一心不乱で舐めまわす。
 ぴたりと合わさった口からは息が出来ず、二人は必死に鼻で息をする。それでも足りない分は、互いの唾液と合わせ、燃えるほど熱くなった互いのと息を交換することで補っていた。

「むっ、むんぁっう」
「っ?!」

 首に絡ませていた腕を外すと、アンリエッタは代わりに士郎の頭をガチリと固定する。そしてぐぐっとさらに自分の顔を持ち上げ、士郎の奥深くまで舌を潜り込ませ、さらに流れる自身の唾液を送り込む。
 流石にこれ以上はやばいと士郎がアンリエッタを押し返そうとしたが、

「神妙にしろっ! この……何をやっているのだ」
「うおぉ……やべぇ、エロ過ぎ」

 ドアを破壊しながら二人組の兵士が飛び込んできたことから、押し返そうとしとする直前で止めることになった。しかしアンリエッタは兵士たちに構うことなく、さらに激しく士郎の唇に吸い付き始める。
 兵士たちは部屋に入った瞬間、ベッドの上で激しく唇を吸い合っている二人を見つけ、ドアの前で呆然と立ち尽くした。だが、そのうちの一人、年嵩の兵士が頭を振り気を取り直すと、声を張り上げながらずかずかと士郎たちに近付いていく。

「何をやっている何をっ! こっちを向けこの色情魔どもがっ! この大変な時に一体何を」

 近付いてくる兵士に、士郎は焦るが、上に股がるアンリエッタは気付かないのか、興奮に瞳孔が開いた目で士郎を見つめながら、必死に頬を窄ませ士郎の唾液をすすり始めていた。
 ずじゅ、じゅずずと、下品に思える音が響く中、兵士は顔を顰めながらも、士郎たちに近付いてくる。
 このままでは見つかると判断した士郎は、決意を固めるように一度目を閉じ……。

「……やるしかないか」
「ぷぁっ」

 ズルリと舌を引き抜かせながらアンリエッタを引き剥がした士郎は、狭いベッドの上で器用に回ると、先程とは逆、士郎がアンリエッタを押し倒す形になった。
 
「ぁぅ……?」
「先に謝っておく……すまない」
 
 ぼんやりとした目で士郎を見上げるアンリエッタに、小さく謝った士郎は、アンリエッタが呼吸する際口を開いた瞬間を狙い口を付けた。

「んふ? っっつあっぁっ、ぅっんっあぁあっ……っ!!」
「ふっ」

 口を閉じきる直前、素早く舌を割り込ませた士郎は、先程とは逆にアンリエッタの口内を士郎が舐め回し始めた。
 だが、アンリエッタのただ勢いに任せた拙いものではなく、士郎の舌の動きはそう……洗練されていた。
 
「っ! っ?! っぅ!?!」
「…………」

 士郎はアンリエッタの口内に無事侵入すると、まずはアンリエッタの白い歯を、自身の舌で一本一本磨き始めた。次に舌を葉の付け根に向かって移動させると、歯茎を同じように磨くようになで始め。さらには歯と歯茎の間も隙間なく舐めましてくる感覚に、痺れるような感触と共に下腹部に痛みを感じる程の熱を感じた始めたアンリエッタ。鼻での息では呼吸が追いつかず、アンリエッタが思わず口を大きく開くと、タイミングを図ったように士郎は舌を滑り込ませた。

「っぐ! っぁうんぅっ!!!」 
「……ん」

 ぐちゅりと泡立った唾液を合わさった口の端から垂れ流しながら、舌を突き入れた士郎は、がしりとアンリエッタの頭を固定すると、上顎を一気に舐め上げた。

「ひぅっ!」

 身体に電気を流されたようにビクリと身体を痙攣させるアンリエッタの身体を自分の身体とベッドで押さえ込むと、怯えるように逃げるアンリエッタの舌を追いかけ始めた。
 泡立つ白い唾液が二人の合わさった唇から漏れ出し、隙間から粘ついたぐちぐちという音を響かせながら、士郎はアンリエッタの舌を追いかける。しかし、狭い口内の中、更には経験の浅いアンリエッタでは百戦錬磨の歴戦の戦士である士郎からは逃れることは出来ず、遂には絡め取られてしまう。

「っうああっ?!」

 思わず悲鳴が漏れてしまう。
 それほどの力がアンリエッタの身体を襲ったものにはあった。
 士郎はアンリエッタの舌を捕まえると、器用に持ち上げ、敏感に過ぎる舌の裏側に自身の舌を滑り込ませ……一気に舐め上げた。
 瞬間、アンリエッタの視界は暗転し、直後目が焼かれるかのような光が何度も瞬く。同時に下腹部に燃え盛る炎が、まるで噴火する火山のように吹き出すのを感じながら意識が消え掛かりそうになるが、

「んぅ……」

 だらりと垂れ下がった舌を絡ませ、自身の口の中に引き込んだ士郎がそれを咥えこみ、一気に吸い込まれることで意識を覚醒させられた。

「ふんんっ?!」

 じゅちゅずずっ! という唾液を啜る音と共に感じる、まるで脳髄を吸い込まれるような暴力的な感覚に、沈み込み始めた意識さえ引き上げられたアンリエッタは、完全に士郎になされるがままだ。
 全身の力が抜けたのを確認した士郎は、口づけを続けながら、短いスカートをはくアンリエッタの足を器用に自身の足で押し広げ始めた。
 足を押し広げられながら、濡れてひんやりとする感触がする下腹部に熱く硬い身体が押し付けられているのを、アンリエッタは霞掛かる思考の中感じていたが、抵抗するわけでもなく、逆に自身から足を広げ迎え入れると、逃がさないとばかりに割り込んできた身体に足を絡ませた。
 
「んっんく、ん、ん、んぉっ! あ、ぅあぁ、はぁ、ぁ」
「……ん……っ」

 それだけでなく、アンリエッタは士郎の首に腕を回すと、自分から士郎に絡みついてきた。
 口を大きく開き、流れてくる士郎の唾液を喉を鳴らし飲み込み、吸われる自身の舌を必死に動かし士郎の舌と絡めだす。腰も同じように足に力を込め引き込むと同時に、自身から腰を押し付け、円を描くように回し始める。
 既にアンリエッタの身体は全身から漏れ出した自身の体液により濡れそぼっていた。窮屈な胸にピタリと張り付いた服には、硬く屹立する二つのものがハッキリと浮き出ており。それを少しでも快楽を獲たいというように、アンリエッタは厚く硬い士郎の胸に擦りつけだす。
 
「んあ、ぁあう、うぁ……んんっ!」

 二人の身体はピタリと合わさり、まるで一つの生き物のようだ。たまにビクリと痙攣を起こすアンリエッタを、士郎は頭から腰に移動させた腕に力を込めたことで押しとどめる。するとお返しとばかりにアンリエッタは士郎の首に回した腕と、腰に絡ませた足に力を込め身体を押し付けながら更に深くキスを返す。

 狭い部屋の一室に、粘ついた音とむせ返るほどの男女の香りが満ちる。
 士郎たちに向かって歩く兵士だったが、急に激しくなった二人の行為に思わず足が止まった。そんな更にエスカレートする二人に行為を眺めるうち、士郎の後ろにいる兵士とドアの前に立つ兵士の腰が次第に曲がっていく。
 
「っぐ、こ、この……くそおおおっ! この変態どもっ! 悔しくなんかないからな! 悔しくなんか……悔しくなんかないからなああぁぁぁぁァァッ!!」
「ぴ、ピエエええええぇぇルっ?!」

 腰を曲げた姿でひょこひょこと逃げ出す兵士を追いかけるように、ドアの前に立っていた兵士が駆け出す。
 ドップラー効果を残しながら消えていく兵士を後ろ目で確認した士郎は、自分の口の中を蹂躙するアンリエッタの舌を優しく噛んで止めると、ゆっくりと顔を引き離した。
 士郎の口の中からアンリエッタの舌がズルリと抜け落ちると、それと共に大量の泡立った唾液がアンリエッタの顔に垂れ落ちる。
 アンリエッタは焦点の合わない目で口元に落ちた大量の自身と士郎の唾液で混ざったモノを見下ろすと、手でそれをすくい上げると、舌を伸ばしべろりと舐め上げた。
 
「お、おい」

 その様子を士郎が唖然とした表情で見下ろしていると、妖艶としかいいようのない笑みを士郎に向けたアンリエッタはググッと士郎に顔を近づけ口を押し付けた。
 咄嗟な動きで避けることの出来なかった士郎の口の中に、アンリエッタは自身の口の中に含んだモノを流し込んだ。目を白黒する士郎の口に更に自分の舌を入れたアンリエッタは、舌で流し込んだものをかき混ぜると、ずずじゅと口を窄め吸い出す。

「あ、アン?」

 口の端から残りを流しながら士郎が見つめる中、アンリエッタは口元を手で抑えながらゴクリとそれを飲み込む。
 ぺろりと濡れて光る赤い舌で口の周りを舐めると、目を細め笑い。

「ご馳走でした」

 小さく頭を下げた。
 
「お、お前……」
「これでお互い様ですね」
「お互い様って……」

 そう言ってもう一度士郎の唇に軽くキスをしたアンリエッタは、士郎の口の端にある残りを舌で舐めとると、固まる士郎を置いてベッドから抜け出した。
 ベッドを後ろにうんっと一度背を伸ばしたアンリエッタは、汚れた窓に顔を向け、雨が止んでいることを見ると、未だ石になっている士郎を横目で見やると、

「それでは、そろそろ行きましょうか」
「……何処にだ」

 のろのろと顔を上げる士郎に振り返ると、アンリエッタは手のひらで口元を隠しながら目を細める。

「ちょっとそこまで……狐狩りに」

 






 雨の勢いが弱まる頃には、ルイズへの説明は終わっていた。
 ルイズは雨が止んだ空を見上げながら、横にいるアニエスに声を掛ける。

「ねずみ捕りねぇ……で、そのねずみっていうのが、あそこにいるの?」
 



 アニエスから説明されたのは、王国の穀倉を荒らし、さらには主人の喉笛を咬み切ろうとするねずみを捕まえるとのことだけ。その後、ルイズと共にアニエスはリッシュモンの屋敷の傍に隠れ息を潜めていると、屋敷の中から年若い小姓が出て来た。その小姓をルイズを馬の後ろに乗せ追いかけ辿りついた先は、夜を明々と照らす歓楽街に辿りつく。馬を降りたアニエスは、顔を赤くしながら辺りを見回すルイズの手を引き、さらに奥まった路地へと消える小姓の後ろを追いかけ出す。
 そして辿りついた先にあったのは、どこにでもある酒場と宿が合わさった一件の店。
 アニエスと共にルイズが宿に入ると、二階へと続く階段を上がる小姓の後ろ姿を見付けた。マントを引っ張りながら二階を指差すと、アニエスは一つ頷き一階の酒場にいる酔っ払いを掻き分けだす。無事階段の踊り場に辿りついたアニエスは、小姓が入っていったドアを確認すると、ルイズに被せていたマントを脱がしだした。

「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」
「いいから脱げ。脱いだら酒場の女のように私にしなだれかかるんだ」
「な、なによそれ」
「カモフラージュだ。いいからしろ」

 抵抗するルイズから力ずくでマントを引き剥がすと、ルイズを引き寄せる。

「このままでいろ」

 文句を言おうとしたルイズだったが、女とは思えない短髪と凛々しい顔立ちを持つアニエスを見上げ、小さく溜め息を吐いて気を取り直すと、大人しくアニエスにくっついていると、

「ちっ」

 追いかけていた小姓がドアから出て来た。小姓はこちらにはまだ気づいていない。アニエスは舌打ちを一つすると、しなだれかかるルイズの肩を掴み壁に押し付けると共にルイズの唇を奪った。
 突然のことで抵抗も出来ず唇を奪われたルイズだったが、直ぐに暴れだしアニエスの手から逃れようとするが、鍛えられた手から逃れることは出来ない。鼻息も荒く目を動かしアニエスの顔を見ると、アニエスはルイズではなく後ろの小姓を見ている。勝手に人にキスをしながら無視をするアニエスに対し、瞬間的に血が昇ったルイズは、アニエスの頭を逃げられないようにガチリと固定すると、急に頭を掴まれたことに驚き口が僅かに開いた隙を逃さず、自身の舌を滑り込ませた。

「ふむぐっ?!」

 まさか逆襲されるとは夢にも思っていなかったのだろう。驚愕に目を見開くアニエスの口に自身の口を更に押し付けると、小さな舌でアニエスの口内への蹂躙を開始した。

「っぐぐ?! ふむぶ?? にゅぶっ?!?」
「……んむ……ん……んく……んん……」

 逆にルイズを引き離そうとしだすアニエスだったが、早くもアニエスの舌を捕まえたルイズの舌が敏感な舌の裏側を舐め回し、更には器用に絡めると一気に吸い上げるなどしたことにより、一気に腰が抜け力が抜けた結果。

「ふむっ……んっ?! にゅるぅっ??!!」
「ん……んん……ぁ……んんん……っ」

 遂には女の子座りで床に座り込むアニエスの頭を掴んだルイズが、無理矢理顔を上に向かせアニエスの口を吸い続けることになった。完全に攻守が逆転しても、ルイズは手を緩めない。さらにルイズの行いは過激になっていく。
 アニエスの顎を上げると、ルイズは僅かに口を開き自分の唾液を流し込み始めたのだ。  
 
「ぐびゅっ?! っんごっ! んぅくっんぅく……っぶぅ??!」
「んぁ……ぁぁ……ぅぁ……んんぅ……」

 強制的にルイズの唾液を飲ませれるアニエスは、必死に抵抗をしようとするが、その度に的確に口の中の敏感な箇所を刺激され、突き放す力さえ出なくなる。

「……ぁ………ぁ……ぅ……」

 目から光がなくなり、アニエスがうわ言のように声を漏らすような状態になるのを確認したルイズは、そこでやっとアニエスを離し、どぽりと音を立てながらアニエスの口の中から舌を引き抜いた。
 壁に倒れこみ、ずるずると床を滑るアニエスを横目で見ながら口元を拭ったルイズは、静まり返った一階の酒場を見下ろすと、こちらを凝視する男達を見下ろし、

「何? 文句あるの」

 まるで氷のような鋭利で冷たい声を掛けると、一斉に男達は背を向けた。背を向ける彼らの腰が微妙に曲がっているのにルイズは気づいていたが、今はそれを気にしている場合ではない。再度ぎこちなくも喧騒が戻りつつある一階の中に、部屋から出て来た小姓が店から出るのを確認したルイズは、座り込むアニエスの肩を揺らし始めた。

「あの小姓、店を出たわよ。次はどうするの」

 ルイズの言葉に壁に手をつきながら立ち上がるアニエスだったが、その足は内股であり、ガクガクと激しく揺れている。
 口の周りにべたつくモノをのろのろとした仕草で拭き取ると、憮然とした表情で見上げてくるルイズを見た。

「お前は……そういう趣味を持っているのか」

 恐る恐ると恐怖に引きつった顔で聞いてくるアニエスにぷいと顔を逸らしたルイズは頬を膨らませた。

「別にそんなのはないわよ。……ただ、気付いたら覚えていたのよ」
「気付いたらって……どうしたらそんなことに……」
「そんなことどうでもいいでしょ。それよりどうするの? あの小姓を追いかけるの、それともあっちに行くの?」

 アニエスの言葉を無視すると、ルイズは小姓が出て来た部屋を指差す。
 何か言おうと口を開きかけたアニエスだったが、「そんなことで済ませられるものではないが」と小さく呟くも、ルイズが指差す部屋に向かって歩き始めた。

「部屋の方だが…………このドアを吹き飛ばせるか?」
「出来るわ」
「なら頼む」

 足音を立てないよう慎重に歩きドアの前に辿りついたアニエスは、ドアを指差しながら小声でルイズに聞く。ルイズも合わせるように小声で答え頷くと、太もものベルトに差していた杖を引き抜き、『エクスプローション』のルーンを一節口ずさむとドアへ向けて杖を振り下ろした。
 ドアが部屋に向かって吹き飛びと、同時にアニエスも部屋に飛び込む。慌ててルイズが部屋に入った時には、既にアニエスの仕事は終わっていた。

「随分と仕事が早いわね」

 ルイズが部屋の中に入ると、アニエスが商人のような身なりをしている男の手首に、腰につけた捕縛用の縄で縛り上げているところだった。アニエスはルイズに振り向くと、ベッドに突き刺さるドアの残骸を指差す。

「あれがこの男に当たったようでな。入った時には既に気絶していた」
「……そうなの」

 ルイズが頷くと、突然の爆発に驚いた客や店の従業員が集まり部屋を覗き込んできた。

「騒ぐな! 手配中のこそ泥を捕縛しただけだ! さっさと散れ!」

 威嚇するように大声を上げるアニエスに、とばっちりを恐れた客や従業員が直ぐに逃げ出した。
 それを確認したアニエスは、捕縛が完了した男から離れると、先程出て行った小姓がこの男に届けたのだろう手紙を見つけ、広げる。中を確認したアニエスは一つ頷くと、さらに部屋の机の中や倒れた男のポケットなどを探り出す。見付けた書類や手紙などを机に広げ一枚一枚確認したアニエスは、その内の一枚で目を止めると、倒れる男に向かって歩き出した。

「で、この男がねずみなの?」

 アニエスの背中に向けてルイズが声を掛けると、男の前で膝をつくアニエスが、顔を向けることなく応える。

「そうだ、ねずみの一匹で、アルビオン産のねずみだ。商人のふりをしてトリステインに潜み、情報をアルビオンに送っていたのだ」
「ふ~ん、つまり間諜っていうわけね。なら、捕まえたからこれで終わりなの?」
「いや、違う」

 ルイズと話しながらアニエスは男の頬を叩き、男を目覚めさせる。

「まだ親ねずみが残っている」

 自分の今の状況を素早く把握した男は、焦ることなく見下ろしてくるアニエスを見上げた。そんな男にアニエスは手に持った紙を突きつける。

「これを見ると、貴様たちは劇場で接触していたようだな? 先程貴様に届いた手紙には、『明日例の場所で』と書かれていたが、それはこの見取り図の劇場で間違いないな」

 アニエスが持つ紙には、建物の見取り図が描かれており、それには何箇所か印がつけられていた。
 男は何も答えず、ただじっと黙ってアニエスを睨みつけている。

「答えぬか……まあ、それもいいだろう」

 アニエスは男に凍りつくような冷笑を向けると、残ったもう一本の手で拳銃を男の額に突きつけた。

「三つ数えるうちに選べ。話すか死ぬか」

 ガチリとアニエスが撃鉄を起こし、男の額に汗が滲む。
 そんな男の様子にますます笑みを濃くしたアニエスは、横目でルイズを見やると、微かに震える声を男に掛けた。

「実は今、体調が優れなくてな……手が震えている……早めに決めてくれないと、数えきる前に撃ってしまいそうだ……」

 ふるふると銃を持つ手が震えているのに気付いた男に対し、さらにアニエスは言葉を続ける。

「……割と真剣に切羽詰っているんだが……どうする……」



 
 

 
後書き
 どうだったでしょうか?
 エロかったですか?
 それとも全然エロくなかったですか?
 実はこれちょっと実験的というか練習みたいなものも含んでいるんです。
 なので、ここはもうちょっとこうした方がいいんじゃない?(エロ的に)というものがあれば、出来れば積極的に指導して頂ければ……。

 それでは感想ご・し・て・きお待ちしております。
 
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