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生命の実

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第一章

                生命の実
 ヘブライに伝わる話である。
 ある町にカナンという非常に信仰心の強い男がいた、日々正しく生きていたがその彼も病を得てだった。
 これまた信仰心の強い息子のヘロデ、黒い癖のある髪の毛も生えだした髭も手にかけていない黒い強い光を放つ目で長身の彼に言った。
「わしが死んだら頼みがある」
「それは何かな」
「毎朝町の傍を流れる川に大きなパンを一個ずつ投げてくれるか」
 こう言うのだった。
「そうしてくれるか」
「それはどうしてだい?」
「昨夜夢に天使様が出て言われたのだ」
 カナン自身にというのだ。
「だからだ」
「そうすればいいんだね」
「そうだ」
 神の言う通りにというのだ。
「そうしてくれるか」
「それが神のお考えなら」
 息子は父に信仰心のまま答えた。
「僕もそうするよ」
「宜しくな、もう一つ言われた」
 カナンは床で枕元に座る息子にさらに言った。
「自分のものでないものは決して取るなとな」
「それは泥棒になるね」
「盗みの罪を犯すな」
 こう息子に言うのだった。
「その様にせよとな」
「天使様に言われたんだね」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「だからな」
「ではね」
「その様にな」
「していくよ」
「頼んだぞ」
 父は息子が頷いたのを見て満足してだった。
 世を去った、そしてヘロデは言われた通りにだった。
 毎朝町の傍の川に赴いて大きなパンを一個ずつ投げていった、それがどうしてするのかは神のお考えと考えしていった。
 そうしているとだった。
 ある朝川に石榴が流れているのを見た、それを思わず拾ってからだった。
 父の言葉を思い出した、自分のものでないなら取るなと。
 それで石榴が流れてきた川の上流を遡ってだった。
 三日三晩歩いて源流に辿り着いたがそこは果樹園であり柵に囲まれていて門があった。その門に長い髭を生やした老人がいたが。
 老人にだ、ヘロデは言った。 
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