機動6課副部隊長の憂鬱な日々
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第16話:シュミット式鬼ごっこ
6課が設立されてからそろそろ3週間になる。
いい加減,どのメンバーも新しい環境に順応してきて,
通常業務もかなりスムーズに進むようになってきた。
まぁ,もともと優秀なスタッフがそろっているわけだから
当然といえば当然とも思うが。
いずれにせよ,副部隊長として部隊の運営を預かる身としては,
誠に喜ばしいことだ。
夜間当直明けの俺が,外の空気を吸おうと外に出ると,
フォワードメンバーが朝の訓練に励んでいるのが見えた。
今日は,対ガジェット戦を想定した訓練のようで,
なのはが訓練スペースの手前でモニターを見つめているのが見えた。
俺は,気配を消してそっとなのはの背後に迫ると,
右手の人差し指でなのはの背中を上から下になぞった。
「っひゃうっ!」
なのはが愉快な声を上げながら振り返ったので,俺は右手を上げて挨拶をした。
「おはよ,なのは」
なのはは俺だと気づくと呆れたような表情をしてみせた。
「もう,それセクハラっていわれても文句言えないよ。ゲオルグくん」
「ん?大丈夫。なのは以外にはしないから」
俺が手をひらひらと振りながらそう言うと,なのはは頬をふくらませた。
「なんだか,ゲオルグくんって私を女の子と思ってないよね。相変わらず」
なのはが不満げにそう言うので俺はちょっとからかうことにした。
俺はなのはの肩に手を回し,口をなのはの耳元に寄せた。
「てことは,なのはは俺に女として扱って欲しいわけ?」
俺がちょっと甘い声でそう囁くと,なのはは驚いたのか
声を上げて身をよじった。
気がつくと,なのはが俺の腕の中にすっぽりと収まっていた。
・・・まるで抱き合う恋人どうしのように。
俺が少し目線を下げると,なのはが真っ赤な顔で俺を上目遣いに見ていた。
(うわ。なのはってこんなに可愛かったっけ・・・って可愛いってなんだよ俺。
これはなのはだぞなのは。管理局の白い悪魔なんだよ。魔砲使いなんだよ。
そうだこんなときは落ち着いて目を閉じて深呼吸・・・っと,大丈夫!)
俺がもう一度目を開けると,やっぱりなのはが真っ赤な顔をして,
少し潤んだ瞳で上目遣いに俺を見ていた。
(あー,なんか目がウルウルしてるよ。綺麗だなぁ・・・。ってだから
これはなのはなんだよ!しっかりしろよ,俺!)
俺たちがそうして固まっていると,どこからともなく声が聞こえてきた。
「・・・さーん。なのはさん。訓練メニュー終わりま・し・・た・・・」
俺となのはは抱き合った(ような格好の)まま揃って声のした方を見た。
そこには,揃いも揃って口をポカンと開けたスバル達フォワード4人が
立っていた。
俺となのははもう一度お互いを見つめ合うと,慌ててお互いを突き飛ばした。
「ちちち違うんだよ!こここれは,ゲオルグくんが
私をからかっただけなの!だから事故なんだよ事故!ね?ゲオルグくん」
「えーと,うん。そうそう。からかっただけだぞ!」
俺はそう言った。否,そう言うしかなかった。
「ほら,ね?だからだからえーっと・・・」
そこでなのはは,フォワード達に手を合わせた。
「・・・このことみんなには言わないで。お願い・・・」
「「「「はいっ!!!」」」」
フォワード達はブンブンと首を縦に振った。
《さすがはマスターですね。ラッキースケベ属性は健在ですか》
「「レーベンは黙ってろ!(黙ってて!)」」
俺となのはの声は揃って朝の空気の中に吸い込まれていった。
「うん,まだもう少し時間はあるね。
せっかくだからちょっとゲオルグくんにも教導を手伝ってもらおうかな?」
なのはは,自分を立て直すためなのか,顔をパンと叩くとそう言った。
「は?俺,夜間当直明けだぞ」
《自業自得ですよ。マスター》
「そうそう,レーベンの言うとおりだよ」
(はぁ,しゃーないな・・・)
俺はため息をつくと,覚悟を決めた。
「で,何をやればいいですか?高町教導官」
「ん?普通に4対1で模擬戦かなぁと思ってたけど」
「は?そんなのつまんねぇよ。あ!なのはちょっと耳貸せ」
「え?また何か変なことしないよね」
「するか!いいから耳貸せ」
俺はなのはに思いついたアイデアを話すと,なのははいい笑顔で頷いた。
「面白そうだね!それ」
「だろ?じゃあお前ら,これからやることを説明するぞ」
俺はフォワードたちが整列している方に向き直った。
「本日午前最後の訓練は,鬼ごっこだ!」
俺がそう言うと,4人は訳がわからないという顔をしていた。
「ルールは簡単。俺は訓練スペースの中を逃げ回るから,お前ら4人のうち
誰か一人でも俺を捕まえるか俺に攻撃を当てられたら終了。
ただし,ガジェットを10機出すからガジェットの攻撃を受けたら即失格。
あとは,何箇所か設置型のバインドも仕掛けるからそれに引っかかっても
即失格。俺は全く攻撃しない。制限時間は20分。どうだ,簡単だろ?」
俺がそう言うと,4人は互いに顔を見合わせてから俺に向かって頷いて見せた。
「よし,じゃあ俺は先に行ってるから,5分後にスタートな。」
・・・15分後。
「お前らなぁ。せめて制限時間切れで終了まで頑張れよ」
俺とフォワード4人の鬼ごっこはスタート後10分で
フォワード全員が失格となり終了した。
スバルは,俺を夢中になって追いかけているところに,
ガジェット5機に囲まれ,スタート3分後に撃墜。
エリオは,俺が逃げる方にまっすぐ追いかけてきたところで,
正面からガジェットに攻撃され,逃げた先でバインドに捕まり
スタート5分後に失格。
ティアナは,隠れて俺を狙撃しようとしていたところ,
背後からガジェットに攻撃されスタート7分後に撃墜。
一番粘ったのはキャロだったが,ガジェット10機に逆に追い回され,
袋小路に追い詰められたところでスタート10分後に撃墜という結果だった。
『そんなこと言ったって・・・』
『攻撃をかわした先にバインドがあるなんて・・・』
『なんで私のいる場所がわかったのよ・・・』
『ガジェット10機を同時に相手になんて・・・』
「まだ時間あるから反省会やるぞー。全員スタート地点に集合」
『『『『・・・はい』』』』
フォワード4人の返事は元気が無かった。
俺がスタート地点に戻ると,なのはがニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。
「手加減なし?」
「アホか。すげー手加減してるよ。あいつらが素直すぎんの」
「にゃはは,ゲオルグくんは性格悪いからね」
「人聞きの悪いこと言うな」
俺となのはがそんな会話をしていると,一人また一人と
フォワード達が帰ってきた。
「よし,じゃあ反省会な。
まず,今回俺がとった戦術について説明するな。
基本的には,各人に連携した戦術をとらせずに各個撃破を狙った。
つまり,短絡的に俺を見たら俺についてきそうなスバルやエリオの前に
姿を見せたのは,スバル・エリオとティアナ・キャロを引き離すために
わざと自分を餌にしたわけだ。
さらに,お前らの今までの訓練での動き方の傾向から,設置型バインドの
設置位置を決めて,それに合わせてガジェットを操作してた。
ま,結果的にお前らはまんまとそれにはまった訳だ」
俺がそう言うと,フォワード陣はシュンとしてしまった。
「じゃあ,それぞれ自分の戦闘について反省の弁を述べてみ。
んじゃ,やられた順ってことでまずはスバル」
俺がスバルに振ると,スバルは首を横に振った。
「なんで自分がやられたのかもわかんないです。
ゲオルグさんを追いかけてたらなぜか囲まれてたって感じなんで・・・」
なのはの方をちらっと見ると,苦笑しながら俺にどうぞと合図をした。
「スバルは問題外だね。だから俺からは一言だけ。Bランク試験のときに
俺が言ったことを思い出そう。んじゃ次,エリオ」
エリオもスバルと同じで首を横に振った。
「僕もスバルさんと同じですね。ガジェットの攻撃をかわして着地したら
なぜかバインドにかかってました。何が悪かったのかもわかりません」
「うん。エリオもスバルと同じ。ただ,エリオの場合はもう一つ問題なのが,
行動パターンが一定になってるところ。
つまり,なぜかバインドにかかったんじゃなくて,俺が狙ったとおりに
罠にはまったってこと。だから,過去の訓練映像をなのはにもらって,
自分の動きをよーく見てみよう。ほい次,ティアナ」
ティアナは腕組みして考え込んでいるようだった。
「私は,スバルとエリオが突っ込んでいったんで,2人がゲオルグさんに
接触できれば,狙撃する自信があったからそれを隠れて待ってました。
でも2人がやられてしまったので,無理にでも当てに行くしかないと思って,
ゲオルグさんに狙いをつけてたら,ガジェットに背後に回られてて・・・」
「うん。ティアナの場合は近接戦闘のできる2人がアウトになった時点で
狙撃の選択は捨てるのが正解だったかな。でも当初の狙いは悪くないよ。
まぁ,ガジェットは俺が操作してたから,後ろに回り込まれたのは
しょうがないとしても・・・。
ちなみに,スバルとエリオを攻撃したガジェットの総数は把握してる?」
「えっと,スバルが5機でエリオが4機・・・あっ」
「そ,1機足りないよね。まあそこまで判ってればこの訓練の意味はあったし,
今の段階で言うことはないかな。あとは,自分で考えてみよう」
「はい,ありがとうございます」
「で,最後にキャロだけど・・・」
「私は・・・最初にガジェットに出くわして,逃げたらその先にも居て,
その繰り返しでした。もうどうしたらいいか判らなくなって・・・」
「まぁ,キャロは一人でよく3分持ちこたえたってとこかな。
もうちょっと,周りの地形とかも考えて,最悪逃げ切れるルートで
逃げるところまで考えられれば,あの状況では100点満点だよ。
じゃあ,なのはからは何かある?」
俺がなのはに話を振ると,首を横に振った。
「ゲオルグくんの言うとおりだと思うよ。ま,あえて言うなら,
ちょっと今の4人にはレベルの高い訓練だったかな。
私としては,この訓練をきっかけにみんながいろいろ考えて
くれるようになれば,今の時点では十分かな。
じゃあ,もういい時間だし,解散しよっか」
「「「「はい!」」」」
ページ上へ戻る