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展覧会の絵

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第十五話 ユーディトその七

 そのうえで家を出た。その彼にだ。
 十字は後ろ、死角にいたまま囁き続ける。歩きながら囁く言葉は。
「駅に行けばね」
「駅に行けば?」
「駅から入ってすぐのホームに行くんだ」
「一番ホーム?」
「そう、そこに行くんだ」
「そこに雅がいるんだ」
「駅から入ってすぐの場所だからね」 
 今の雅は何処のホームを選ぶ余裕がないからだ。だから言えたのだった。
「それ故にね」
「一番ホームだね」
「そう、そこに向かうんだ」
 こう猛に、彼からは見えない場所から囁いていく。
「わかったね」
「わかったよ。それにしても」
「何かな」
「君の姿が見えないけれど君は」
「神の僕だよ」
「じゃあ天使なのかな」
「君にとってはそう思えるのかな」
 十字は今も死角にいる。猛から見て。
「そうなのかな」
「違うの?それは」
「恐れ多いことだけれど。君がそう思うのならね」
「君は天使なんだね」
「少なくとも君と彼女を救う存在だよ」
 天使ではないがだ。そうした存在だというのだ。
「そのことは間違いないよ」
「そうなんだ」
「その僕を信じてくれるかな」
「信じるも信じないも」
 猛は駅に向かって歩きながらだ。十字に話す。彼だとは気付かないまま。
「僕は。雅のあの姿を見てしまったよ」
「彼女のあの姿を」
「正直ね。今でも嘘だと思いたいよ」
 猛は俯いて、歩きながらだがそうなって答えた。
「雅があんな」
「そうだね。けれどね」
「事実だよね」
「それはその通りだよ。残念だけれどね」
「僕と雅ってね。ずっと一緒だったんだ」
「幼馴染みだよね」
「そうだよ。子供の頃はよく泣かされたよ」
 猛は暗い顔になってだ。十字、やはり彼からは見えない彼に答える。
「けれど。それでもね」
「彼女のことをどう思ってるのかな」
「正直に言っていいかな」
「言えない理由があるのかな」
「そう言われると」
 どうかとて。猛は一呼吸置いてからだ。
 そのうえで十字に対して答えたのだった。その答えの言葉は。
「好きだよ」
「そうなんだね」
「うん、ずっと一緒で。困った時も助けてくれてね」
「いい娘なんだね」
「凄くね。あんないい娘いないよ」
 雅とのことを思い出しながらだ。猛は彼女のことを語っていく。
「いつも僕のことを気にかけてくれるし」
「許婚だったね」
「そうだよ。親同士が決めたね、けれどね」
「そうしたことを抜いてもあの娘のことは」
「好きだよ。確かに雅は穢れたけれど」
 それでもだと。十字、姿は見せず正体も明かしていないがその彼と話しているうちにだ。猛もわかったのだ。自分の素直な、飾らない心を。 
 そしてその心をだ。今彼は言ってあらためて己の心に刻むのだった。
「そんなのは払えばいいからね」
「それは日本の思想だね」
「日本の。なんだ」
「そうした穢れを嫌うのは日本の思想だよ」
 所謂穢れ思想だ。それだというのだ。
「けれどそんなものはね」
「うん、払えばいいんだ」
「そう。あの娘は払えるよ」
 その穢れをだと。十字は猛に話した。 
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